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鍛冶師と調教師ときどき勇者
対峙
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咆哮が鳴り止まない。
絶望を運ぶその声が体を震わせる。
多くの弓師と魔術師が絶望を前に無力感に包まれ跪き動きは止まっていく。
疲弊するパーティーは限界を越えた。
前衛のクラカンが膝をつき、獣人のタントは緩慢な足取りを見せる。
肩で息をし、前方を睨む。踏みとどまっていられるのも、時間の問題。
「アルフェン下がれ!」
治療を終えた、ミースが長髪をたなびかせ四つ足へ向かった。
逡巡するアルフェンに膝をつきながらも、クラカンが一喝する。
「早くせえ! 早々持たん!」
アルフェンは一瞬天を仰ぎ見、治療師、スヘルの元へと下がって行く。
その足取りは重く、急ぐ事は出来ない。
その姿を見つめるスヘルの顔もまた晴れなかった。
苦戦している姿を覗いているせいもあるが、それだけではない。
「アルフェンさん、後二回が限界です。後方に控える治療師達もほぼほぼ限界が来ています」
厳しい表情で告げ、そのまま光球を落としていった。
オッドアイに厳しさが増して行く。
打開する術が見つからない。
愚直に顔を上げ、向かって行く事しか出来ない自分の不甲斐なさ。
それでもやるしかない。
「スヘル、ありがとう。行くよ」
「⋯⋯気を付けて」
ありきたりの言葉しか、かける事が出来ない自分にスヘルは俯く。
アルフェンはいつもの柔和な笑顔をスヘルに見せると、すぐに厳しい顔で前を向き走り出す。
「ミース! 下がって! 代わるよ!」
愚直な勇者が絶望を跳ね返さんと、再び立ちはだかる。
西方で壁を奪った。
あやつらの余裕、奪われた所でって事か。
いとも簡単に明け渡す様に、何かあるのではと勘ぐってしまう。
「リグよ、このまま龍の頭を押さえちまえば無理して退治しなくていいんじゃねえのか?」
屈強な体躯の男が壁を動かす準備をしながら、疑問を投げかけた。
少しばかり離れているとはいえ、勇者の苦戦は伝わる。
そう考えるのは無理のない事かもしれない。
「ナワサよ、万が一ウチらが負けたらどうする? 龍が生き残っていたらヤツらのやりたい放題じゃろ。龍という奥の手を失えば、ヤツらの目論見は潰える。仮にヤツらが全滅して龍が生き残ったとする、こんな危ねえものを放置しといて安心出来るか? 頭を押さえるってのは、最低限の対処でしかない。どう転ぶか分かんねえ状況で放置するって選択はなしじゃ」
「めんどくせえー」
「ほれ、サッサと済まして、次行くぞ」
ナワサが顔をしかめながら作業に集中していく。
「壁の移動準備出来たら、ジュウサ頼むぞ! 他のやつは横腹から殴り行く! 準備せえ!」
『へーい』
リグの掛け声に、いつものやる気のない返事が返って来る。
リグのパーティーが前方へと駆け出した。
前線に陣取る敵兵の横腹から攻撃を仕掛ける。
最前線で仕事をこなしていただけの事はある。
ひとりひとりの練度が高い。
オットはアントワーヌのパーティーを睨み、感じていた。
セルバのパーティーに関して言えば人が少なく感じる。
というか、主要な面子がここにはいない?
この状況をもってしてなお、馬車で胡坐をかいているのか?
そこまで舐めているとは思えない、どこかに出払っていると考えるべき。
東方を睨めば、ミルバ達の苦戦も目に映る。
壁はあんなにあっさりと渡しておいて、最後は譲らないと使える人間を配置したって事か?
壁を失った所で痛くない。
いや、こちらが破壊はしないと踏んでの放置か。
龍さえいればどうにでもなると⋯⋯。
龍への依存度が高すぎる。
勇者ですら倒せないと高を括っているのか?
いや、倒せないと知っている?
だからこその依存度の高さ?
まさかね。
アントワーヌは馬車か?
まずはヤツを引きずり出す。
オットが剣を構え突っ込んで行く。
セルバ!
馬車からゆっくりと降りて行く姿を遠目で確認した。
どんなに離れていようと分かる、リベルが滾る。
それでも、努めて冷静を装いセルバまでの距離を測っていく。
目の前に立ちはだかる敵兵の壁さえ越えれば⋯⋯。
一瞬でもいい、道が欲しい。
リベルは、周りを見渡し、道を探す。
「エーシャ! フィン!」
走り回る隻眼のウィッチと団長のドワーフを呼び止め、耳打ちをした。
エーシャはニコリと笑顔を向け、フィンはやれやれと呆れ顔で頷く。
「ヌシ、道は作ってやる。届けよ」
「もちろん。イバン、リリ、コルーカ、一緒に来て」
「んじゃ、始めるよ」
リベルがエーシャに頷くと最高速で飛び込んで行った。
ヘッグが正面へ突っ込んで行く、傷をつけられない敵兵達が対処をあぐねている隙をつく。
「【雷光】」
エーシャが放つ雷が真っ直ぐ前方へ伸びて行く。
避けられぬ者は体を焦がし、その雷の威力に目を剥く者達が次々に横へと回避した。
雷が作り出した道。フィン達が盾を構え、その道へと飛び込む。
エーシャの作った道を塞ぐまいと盾を構え、リベル達がその道を駆け抜ける。
わずかな隙を突き、リベル達はセルバの眼前へ飛び込んだ。
その姿を一瞥し、セルバは感情の薄い顔をリベルに向ける。
探し求めていた者を眼前にリベルの口元には自然と笑みが零れていた。
「久しぶり。そして、さようならね。話す事は特にないわ」
リベルが言うか言わぬか、剣を引き抜きセルバへと切っ先を向けた。
リベルの切っ先を避け、後ろへと跳ねる。
少しだるそうな素振りで抜剣し、ゆっくりと剣を構えた。
大きく嘆息し、首を横に振る。
「君といい、シルといい、メイレルといい、優秀な妖精だというのに、こうも分からないものなのか?」
その言葉にリベルは少し首を傾げた。
「分かりたくもない」
静かに言うと、セルバにまた切っ先を向けていく。
振り向かずに漆黒の地を進む。
仲間を信じて、託した。
黙々と北を目指すキルロの達。
さらに濃くなる黒素が、嵐のように吹き荒ぶ。
視界は塞がれ、数Mi先を覗くのがやっと。
視界が捉えるのは、延々と続く黒素の嵐。その光景が息苦しさを呼んだ。
平坦だった道が、少しずつ険しさを増してくる。
切り立つ黒岩石が、行く手を遮るかのように立ちはだかった。
全てを拒むかのように切り立つ漆黒の岩場。
遅くなる歩みにもどかしさを感じながら進んで行く。
細い山道を進む、吹き荒れる黒素を隔てる物はない。
吹きさらしの道。下を拝む事すら出来ない程、黒素が覆い隠した。
いつ終わるのか分からない道程。
折れるなと前を向く。
狭かった山道が開けた。
視界が悪く、どれほどの広さがあるのかすら分からない。
「頂上? かな」
荒い息と一緒にキルロが言葉を吐き出した。
ハルヲが隣に立ち辺りを見渡す、怪訝な表情を浮かべ首を少し傾げる。
「どうかしら? 何かあるようには見えないわね」
「とりあえずもうちょい行くか」
「そうね」
「キノ、大丈夫か?」
「うん」
「クエイサーおいで。よし、大丈夫そうね」
ハルヲがサーベルタイガーの体を撫で、様子の確認をした。
疲労はあるが、逆に言えばそれだけだ。
まだ、大丈夫。
気を取り直して前を向く。
一同が一斉に何かの気配を感じた。
歓迎すべきものではないこの感じ。
頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響く。
黒素がこれだけ濃い所でのエンカウント。
どれだけ厄介なものが現れる?
隣に立つハルヲも同じ事を考えているのが分かった。
眉間に皺を寄せ、厳しい顔で前を睨む。
クエイサーに預けていた黒の剛弓を手にし、いつでも行ける準備をした。
キルロも抜剣し、構える。
ハルヲと視線を交わし、じりっと近づいて行った。
その気配が、黒素の嵐の先にぼんやりと浮かび上がっていく。
ふたりの拍動が一気に上がる。
さして大きくもない、人ほどの影が立っていた。
こちらに気づいているはずなのに微動だにしない影。
いつこちらに牙を剥くのか分からない緊張感。
「え⋯⋯?」
現れたのは思ってもいなかった者。キルロもハルヲも言葉を失った。
「アントワーヌ⋯⋯」
キルロから零した言葉にハルヲも目を剥いた。
なぜ、こんな所にいる? 向こうで指揮を取っているのではないのか?
アントワーヌも厳しい顔でこちらを睨んでいた。
その表情は困惑しているようにも見える。
互いに予想していなかった展開に戸惑いを募らせた。
アントワーヌは大きく息を吐き出すと、ゆっくりとキルロ達へ歩み寄って行く。
絶望を運ぶその声が体を震わせる。
多くの弓師と魔術師が絶望を前に無力感に包まれ跪き動きは止まっていく。
疲弊するパーティーは限界を越えた。
前衛のクラカンが膝をつき、獣人のタントは緩慢な足取りを見せる。
肩で息をし、前方を睨む。踏みとどまっていられるのも、時間の問題。
「アルフェン下がれ!」
治療を終えた、ミースが長髪をたなびかせ四つ足へ向かった。
逡巡するアルフェンに膝をつきながらも、クラカンが一喝する。
「早くせえ! 早々持たん!」
アルフェンは一瞬天を仰ぎ見、治療師、スヘルの元へと下がって行く。
その足取りは重く、急ぐ事は出来ない。
その姿を見つめるスヘルの顔もまた晴れなかった。
苦戦している姿を覗いているせいもあるが、それだけではない。
「アルフェンさん、後二回が限界です。後方に控える治療師達もほぼほぼ限界が来ています」
厳しい表情で告げ、そのまま光球を落としていった。
オッドアイに厳しさが増して行く。
打開する術が見つからない。
愚直に顔を上げ、向かって行く事しか出来ない自分の不甲斐なさ。
それでもやるしかない。
「スヘル、ありがとう。行くよ」
「⋯⋯気を付けて」
ありきたりの言葉しか、かける事が出来ない自分にスヘルは俯く。
アルフェンはいつもの柔和な笑顔をスヘルに見せると、すぐに厳しい顔で前を向き走り出す。
「ミース! 下がって! 代わるよ!」
愚直な勇者が絶望を跳ね返さんと、再び立ちはだかる。
西方で壁を奪った。
あやつらの余裕、奪われた所でって事か。
いとも簡単に明け渡す様に、何かあるのではと勘ぐってしまう。
「リグよ、このまま龍の頭を押さえちまえば無理して退治しなくていいんじゃねえのか?」
屈強な体躯の男が壁を動かす準備をしながら、疑問を投げかけた。
少しばかり離れているとはいえ、勇者の苦戦は伝わる。
そう考えるのは無理のない事かもしれない。
「ナワサよ、万が一ウチらが負けたらどうする? 龍が生き残っていたらヤツらのやりたい放題じゃろ。龍という奥の手を失えば、ヤツらの目論見は潰える。仮にヤツらが全滅して龍が生き残ったとする、こんな危ねえものを放置しといて安心出来るか? 頭を押さえるってのは、最低限の対処でしかない。どう転ぶか分かんねえ状況で放置するって選択はなしじゃ」
「めんどくせえー」
「ほれ、サッサと済まして、次行くぞ」
ナワサが顔をしかめながら作業に集中していく。
「壁の移動準備出来たら、ジュウサ頼むぞ! 他のやつは横腹から殴り行く! 準備せえ!」
『へーい』
リグの掛け声に、いつものやる気のない返事が返って来る。
リグのパーティーが前方へと駆け出した。
前線に陣取る敵兵の横腹から攻撃を仕掛ける。
最前線で仕事をこなしていただけの事はある。
ひとりひとりの練度が高い。
オットはアントワーヌのパーティーを睨み、感じていた。
セルバのパーティーに関して言えば人が少なく感じる。
というか、主要な面子がここにはいない?
この状況をもってしてなお、馬車で胡坐をかいているのか?
そこまで舐めているとは思えない、どこかに出払っていると考えるべき。
東方を睨めば、ミルバ達の苦戦も目に映る。
壁はあんなにあっさりと渡しておいて、最後は譲らないと使える人間を配置したって事か?
壁を失った所で痛くない。
いや、こちらが破壊はしないと踏んでの放置か。
龍さえいればどうにでもなると⋯⋯。
龍への依存度が高すぎる。
勇者ですら倒せないと高を括っているのか?
いや、倒せないと知っている?
だからこその依存度の高さ?
まさかね。
アントワーヌは馬車か?
まずはヤツを引きずり出す。
オットが剣を構え突っ込んで行く。
セルバ!
馬車からゆっくりと降りて行く姿を遠目で確認した。
どんなに離れていようと分かる、リベルが滾る。
それでも、努めて冷静を装いセルバまでの距離を測っていく。
目の前に立ちはだかる敵兵の壁さえ越えれば⋯⋯。
一瞬でもいい、道が欲しい。
リベルは、周りを見渡し、道を探す。
「エーシャ! フィン!」
走り回る隻眼のウィッチと団長のドワーフを呼び止め、耳打ちをした。
エーシャはニコリと笑顔を向け、フィンはやれやれと呆れ顔で頷く。
「ヌシ、道は作ってやる。届けよ」
「もちろん。イバン、リリ、コルーカ、一緒に来て」
「んじゃ、始めるよ」
リベルがエーシャに頷くと最高速で飛び込んで行った。
ヘッグが正面へ突っ込んで行く、傷をつけられない敵兵達が対処をあぐねている隙をつく。
「【雷光】」
エーシャが放つ雷が真っ直ぐ前方へ伸びて行く。
避けられぬ者は体を焦がし、その雷の威力に目を剥く者達が次々に横へと回避した。
雷が作り出した道。フィン達が盾を構え、その道へと飛び込む。
エーシャの作った道を塞ぐまいと盾を構え、リベル達がその道を駆け抜ける。
わずかな隙を突き、リベル達はセルバの眼前へ飛び込んだ。
その姿を一瞥し、セルバは感情の薄い顔をリベルに向ける。
探し求めていた者を眼前にリベルの口元には自然と笑みが零れていた。
「久しぶり。そして、さようならね。話す事は特にないわ」
リベルが言うか言わぬか、剣を引き抜きセルバへと切っ先を向けた。
リベルの切っ先を避け、後ろへと跳ねる。
少しだるそうな素振りで抜剣し、ゆっくりと剣を構えた。
大きく嘆息し、首を横に振る。
「君といい、シルといい、メイレルといい、優秀な妖精だというのに、こうも分からないものなのか?」
その言葉にリベルは少し首を傾げた。
「分かりたくもない」
静かに言うと、セルバにまた切っ先を向けていく。
振り向かずに漆黒の地を進む。
仲間を信じて、託した。
黙々と北を目指すキルロの達。
さらに濃くなる黒素が、嵐のように吹き荒ぶ。
視界は塞がれ、数Mi先を覗くのがやっと。
視界が捉えるのは、延々と続く黒素の嵐。その光景が息苦しさを呼んだ。
平坦だった道が、少しずつ険しさを増してくる。
切り立つ黒岩石が、行く手を遮るかのように立ちはだかった。
全てを拒むかのように切り立つ漆黒の岩場。
遅くなる歩みにもどかしさを感じながら進んで行く。
細い山道を進む、吹き荒れる黒素を隔てる物はない。
吹きさらしの道。下を拝む事すら出来ない程、黒素が覆い隠した。
いつ終わるのか分からない道程。
折れるなと前を向く。
狭かった山道が開けた。
視界が悪く、どれほどの広さがあるのかすら分からない。
「頂上? かな」
荒い息と一緒にキルロが言葉を吐き出した。
ハルヲが隣に立ち辺りを見渡す、怪訝な表情を浮かべ首を少し傾げる。
「どうかしら? 何かあるようには見えないわね」
「とりあえずもうちょい行くか」
「そうね」
「キノ、大丈夫か?」
「うん」
「クエイサーおいで。よし、大丈夫そうね」
ハルヲがサーベルタイガーの体を撫で、様子の確認をした。
疲労はあるが、逆に言えばそれだけだ。
まだ、大丈夫。
気を取り直して前を向く。
一同が一斉に何かの気配を感じた。
歓迎すべきものではないこの感じ。
頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響く。
黒素がこれだけ濃い所でのエンカウント。
どれだけ厄介なものが現れる?
隣に立つハルヲも同じ事を考えているのが分かった。
眉間に皺を寄せ、厳しい顔で前を睨む。
クエイサーに預けていた黒の剛弓を手にし、いつでも行ける準備をした。
キルロも抜剣し、構える。
ハルヲと視線を交わし、じりっと近づいて行った。
その気配が、黒素の嵐の先にぼんやりと浮かび上がっていく。
ふたりの拍動が一気に上がる。
さして大きくもない、人ほどの影が立っていた。
こちらに気づいているはずなのに微動だにしない影。
いつこちらに牙を剥くのか分からない緊張感。
「え⋯⋯?」
現れたのは思ってもいなかった者。キルロもハルヲも言葉を失った。
「アントワーヌ⋯⋯」
キルロから零した言葉にハルヲも目を剥いた。
なぜ、こんな所にいる? 向こうで指揮を取っているのではないのか?
アントワーヌも厳しい顔でこちらを睨んでいた。
その表情は困惑しているようにも見える。
互いに予想していなかった展開に戸惑いを募らせた。
アントワーヌは大きく息を吐き出すと、ゆっくりとキルロ達へ歩み寄って行く。
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