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鍛冶師と調教師ときどき勇者
キノ
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初めて出会ったあの雨の日。
僕の目に映った、美しい精霊の姿。
そしてその衝撃。
探し求め、どれだけの時間を費やし、どれだけの距離を歩いたのか。
そんな事すら頭から消えてしまう程、その一瞬は神々しく見惚れてしまった。
物事は得てしてそのような物なのか、探し物がみつかる時は呆気ないもの。
隣に立ちすくむ薄汚れた男が放つ凛とした空気。
ああ、間違いない。
思わず頬が緩む。
精霊が寄り添う者。
しかし、白蛇とは。
通常、一角獣や、白狼、白虎なんて姿が一般的なのだけど⋯⋯。
「ふふっ! 君達は面白いね」
ミドラスで鍛冶屋を営んでいるという話は本当だった。
実家はヴィトリアで治療院を営んでいるはずなのに、なぜ彼はここで鍛冶屋を営んでいるのか?
彼の作った装備を弄びながら、どう誘導すべきか今一度考えた。
彼らを自分のパーティーへ加入させるべく伺ったが、何か違う。
ヴィトリアを飛び出し、彼は彼の思うように生きている。
そこが僕達と決定的に違う。
そこには意味があっての事に違いない。
彼はやりたいように動き、僕達はそれに助力する。
それがあるべき姿なのかも知れない。
「ごめんくださーい!」
現れるはずの蛇が今度は幼女になっていた。
寄り添う者の思う姿に形を変えるというが、蛇だったり、幼女だったり本当に面白い人だね。
でも、しっかりと寄り添い手を取り合っている。
彼は彼の道を進む。
僕達もしっかりと道を切り開かねば、真っ直ぐ進めるように道を作っていこう。
ハルヲの怪訝な表情がキルロに向いた。
キルロの話が進むにつれ、その顔から懐疑的な視線を強くしていった。
側で話を聞いていた、主要なメンバーも目を剥いて驚き、一向に信用しない者もいる。
「だから、言ったろう。嘘っぽい話だって」
「もう少しマシな嘘つきなさいよ。キノが精霊? 何言っているのよ」
「オレに言うなよ。聞いた話をそのまま伝えただけなんだから」
「ちょっとキノ、あなた精霊なの?」
「しらなーい」
キノは小首を傾げる。
ハルヲはそれ見た事かと肩をすくめて見せた。
周りの反応も大方そのような雰囲気で、ハルヲがみんなの心を代弁している。
そんな一同の反応にキルロが頭を抱えていると、勇者のふたりアステルスとアルフェン、そしてそのパーティーがその輪に加わった。
「おい、アルフェン。みんなに言ってやってくれ、オレが言っても誰も信用してくんねえー!」
「アハハ、そうなのかい。救済者様の言う事は本当だよ。信じてあげないと」
「また、そういう言い方するからみんな信用しないんだって」
アルフェンは微笑みを絶やさぬまま一同に顔を向ける。
「それは失礼。彼の言っている事は本当。僕のこの目は精霊を見出す為に受け継いだミシュロクロイン家のギフトなんだ。便宜上彼女と言うけど間違いなく精霊、白い種、光の種、白素で間違いないよ」
一同が信じられないという視線を見せる中、マッシュとオットの策士ふたりの表情は一線を画していた。
キノがいなければヤツらの狙いは完結しないのでは? とマッシュは眉をひそめる。
光の種を作る? キノを作る? とオットはキノを今一度見つめた。
「あのよ、あのよ、でなんなんだ? キノをどうすんだ?」
いつの間にか治療を終え、その大きな輪に加わっていたユラが、首を傾げる。
その姿にアステルスが口を開いた。
「精霊のあるべき場所に帰すんだ。そこが【最果て】、始まりの地」
「んん? そこがキノの家なのか?」
「家かどうかは分からないけど、まぁそんな感じなのかな」
「ふーん」
納得したのか、してないのか、ユラは微妙な返しを見せた。
帰す⋯⋯、作る⋯⋯⋯、オットはじっと逡巡する姿を見せる。
キノの代わりになるものを【最果て】に帰す?
オットはみんなが言いたい事を言い合っている中スッと手を上げた。一同の視線はオットに自然と向いていく。
「ちょっといいかな。ライーネ達とアッシモの置き土産を洗っていたんだけど、その中に光の種を作ろうとしていた形跡があったんだ。何か思い当たる節はあるかな?」
「それは中々興味深い」
「マッシュ、興味深いとは?」
「オットはまだ聞いていないか。ヤツらの狙いの目処がついた。違う可能性もあるが、まぁ、そんなもんだろうってな。アントワーヌは新たなる救済者になりたい、その為に一度この世界をリセットする。そしてアッシモが無になった世界の創造主として君臨し、その暁にセルバはエルフの国を立ち上げる。と、まぁ、こんな予想だ」
「救済者になるには光の種が必要⋯⋯、見つからないから作る。いやでもさ、作れるものなのかい?」
「さあな。こればっかしはアイツらしか分からん」
肩をすくめるマッシュに、オットはまた逡巡する。
ウォルコットやシルもふたりのやり取りに聞き入っていた。
キノを作る? モンスターじゃあるまいし。
キルロはその荒唐無稽とも思える考え方に腹立たしさを感じた。
「でも、進軍しているって事はそこにもきっと目処がついたのではないの? そうじゃなかったら、この世界をリセットしたら自分達も終わってしまうでしょう」
「まぁ、そうだろうな。準備万端整ったので、行こうかって所だろ」
ハルヲの言葉にウォルコットが同意すると一同も頷いた。
キルロがふいに顔を上げる、大きく息を吐き出し、いつもの調子で口を開く。
「まぁ、ごちゃごちゃ考えても仕方ない。要はキノを家に帰してやればオレ達の勝ちだ。ヤツラの野望もそこで終わり。どうやってキノを帰してやるか考える。そこにくっついてくるしがらみは後回しで良くねえ?」
「ハッハァー、おまえさんはたまにいい事言うな。確かにその通りだ。ドルチェナ、接触までの時間は?」
「ヤツラの歩みは慎重で恐ろしく遅い、一日は掛からんが半日は有にかかる」
「んじゃ、半日準備する時間があるって事だ。充分だろう、団長」
「これだけ優秀なやつらが揃っているんだ、問題ない。てかさ、たまにじゃなくて結構いい事言っているぞ」
「ん? そうか? まぁ、あまり細かい事を気にするなよ」
そう言って笑顔のマッシュがキルロの肩を叩いた。
顔をしかめるキルロに一同が笑顔になっていく。
「とりあえず、向こうの動きを精査しよう。ドルチェナ、オットやフィンなど聞いていない人間もいるからもう一度頼む」
キルロの言葉を受け、ドルチェナは北で見た物をもう一度伝えた。
オットやフィンの表情が一気に険しくなっていく。
絶望的な状況に希望を見出すべく、知恵を絞った。
ヤツらを出し抜く為にどう動く。
「【スミテマアルバレギオ】は【ルプスコナレギオ(狼の王冠)】が使った西のルートでヤツらの背に一気に回り込んじまうのはどうなんだ」
「それが多分、一番早くゴールにたどり着けそうではあるね⋯⋯」
オットとフィンが初めて聞く、アントワーヌの軍勢の大きさに天を仰いだ。
一筋縄ではいかぬ相手なのは分かってはいたが、龍が二頭とは。
「ドルチェナ、なんか些細な事でもいいんだけど、他に何かなかったかい?」
「些細⋯⋯⋯ないね。あ! シモーネが途中で焦げ臭いって言っていたなぁ」
「焦げ臭い? 何も燃えていないのにって事だよね」
「ああ」
シモーネだけが気が付いた、犬人の鼻は確かだ。
気にはなるね。
オットはまた深く逡巡していった。
「あんたは寂しいとかないの?」
「うん? ああ、キノか。そうだなぁ⋯⋯なくはないけど元々、帰さなきゃいけないって思っていたから、ちゃんと帰さなきゃって思いの方が強いかな。まさかこんな事になるとは思いもよらなかったけど」
そう言うとキルロはユラやフェインとじゃれ合っているキノの方を向いた。
ハルヲも同じようにキノに向く。
出会ってから間もない頃を思い出す。
クエイサー達と【吹き溜まり】に潜ったのが遠い昔のようだ。
「こんな事になるとは思わなかったってのは、全く同感ね。ウチのメンバーもみんな同じように思っているんじゃない」
「ユラあたりはどうかな? 分かっているんだか、分かってないんだか、さっぱりだ」
「全く、どこがどうなってこうなっているのだか⋯⋯」
ハルヲは嘆息まじりに言うと、キルロも同じように嘆息していく。
「全くもって同感。何にせよ、キノを帰してやろう。やる事はそれだけだ」
「そうね」
キルロが拳を突き出すとハルヲがコツと拳を突き合わせた。
僕の目に映った、美しい精霊の姿。
そしてその衝撃。
探し求め、どれだけの時間を費やし、どれだけの距離を歩いたのか。
そんな事すら頭から消えてしまう程、その一瞬は神々しく見惚れてしまった。
物事は得てしてそのような物なのか、探し物がみつかる時は呆気ないもの。
隣に立ちすくむ薄汚れた男が放つ凛とした空気。
ああ、間違いない。
思わず頬が緩む。
精霊が寄り添う者。
しかし、白蛇とは。
通常、一角獣や、白狼、白虎なんて姿が一般的なのだけど⋯⋯。
「ふふっ! 君達は面白いね」
ミドラスで鍛冶屋を営んでいるという話は本当だった。
実家はヴィトリアで治療院を営んでいるはずなのに、なぜ彼はここで鍛冶屋を営んでいるのか?
彼の作った装備を弄びながら、どう誘導すべきか今一度考えた。
彼らを自分のパーティーへ加入させるべく伺ったが、何か違う。
ヴィトリアを飛び出し、彼は彼の思うように生きている。
そこが僕達と決定的に違う。
そこには意味があっての事に違いない。
彼はやりたいように動き、僕達はそれに助力する。
それがあるべき姿なのかも知れない。
「ごめんくださーい!」
現れるはずの蛇が今度は幼女になっていた。
寄り添う者の思う姿に形を変えるというが、蛇だったり、幼女だったり本当に面白い人だね。
でも、しっかりと寄り添い手を取り合っている。
彼は彼の道を進む。
僕達もしっかりと道を切り開かねば、真っ直ぐ進めるように道を作っていこう。
ハルヲの怪訝な表情がキルロに向いた。
キルロの話が進むにつれ、その顔から懐疑的な視線を強くしていった。
側で話を聞いていた、主要なメンバーも目を剥いて驚き、一向に信用しない者もいる。
「だから、言ったろう。嘘っぽい話だって」
「もう少しマシな嘘つきなさいよ。キノが精霊? 何言っているのよ」
「オレに言うなよ。聞いた話をそのまま伝えただけなんだから」
「ちょっとキノ、あなた精霊なの?」
「しらなーい」
キノは小首を傾げる。
ハルヲはそれ見た事かと肩をすくめて見せた。
周りの反応も大方そのような雰囲気で、ハルヲがみんなの心を代弁している。
そんな一同の反応にキルロが頭を抱えていると、勇者のふたりアステルスとアルフェン、そしてそのパーティーがその輪に加わった。
「おい、アルフェン。みんなに言ってやってくれ、オレが言っても誰も信用してくんねえー!」
「アハハ、そうなのかい。救済者様の言う事は本当だよ。信じてあげないと」
「また、そういう言い方するからみんな信用しないんだって」
アルフェンは微笑みを絶やさぬまま一同に顔を向ける。
「それは失礼。彼の言っている事は本当。僕のこの目は精霊を見出す為に受け継いだミシュロクロイン家のギフトなんだ。便宜上彼女と言うけど間違いなく精霊、白い種、光の種、白素で間違いないよ」
一同が信じられないという視線を見せる中、マッシュとオットの策士ふたりの表情は一線を画していた。
キノがいなければヤツらの狙いは完結しないのでは? とマッシュは眉をひそめる。
光の種を作る? キノを作る? とオットはキノを今一度見つめた。
「あのよ、あのよ、でなんなんだ? キノをどうすんだ?」
いつの間にか治療を終え、その大きな輪に加わっていたユラが、首を傾げる。
その姿にアステルスが口を開いた。
「精霊のあるべき場所に帰すんだ。そこが【最果て】、始まりの地」
「んん? そこがキノの家なのか?」
「家かどうかは分からないけど、まぁそんな感じなのかな」
「ふーん」
納得したのか、してないのか、ユラは微妙な返しを見せた。
帰す⋯⋯、作る⋯⋯⋯、オットはじっと逡巡する姿を見せる。
キノの代わりになるものを【最果て】に帰す?
オットはみんなが言いたい事を言い合っている中スッと手を上げた。一同の視線はオットに自然と向いていく。
「ちょっといいかな。ライーネ達とアッシモの置き土産を洗っていたんだけど、その中に光の種を作ろうとしていた形跡があったんだ。何か思い当たる節はあるかな?」
「それは中々興味深い」
「マッシュ、興味深いとは?」
「オットはまだ聞いていないか。ヤツらの狙いの目処がついた。違う可能性もあるが、まぁ、そんなもんだろうってな。アントワーヌは新たなる救済者になりたい、その為に一度この世界をリセットする。そしてアッシモが無になった世界の創造主として君臨し、その暁にセルバはエルフの国を立ち上げる。と、まぁ、こんな予想だ」
「救済者になるには光の種が必要⋯⋯、見つからないから作る。いやでもさ、作れるものなのかい?」
「さあな。こればっかしはアイツらしか分からん」
肩をすくめるマッシュに、オットはまた逡巡する。
ウォルコットやシルもふたりのやり取りに聞き入っていた。
キノを作る? モンスターじゃあるまいし。
キルロはその荒唐無稽とも思える考え方に腹立たしさを感じた。
「でも、進軍しているって事はそこにもきっと目処がついたのではないの? そうじゃなかったら、この世界をリセットしたら自分達も終わってしまうでしょう」
「まぁ、そうだろうな。準備万端整ったので、行こうかって所だろ」
ハルヲの言葉にウォルコットが同意すると一同も頷いた。
キルロがふいに顔を上げる、大きく息を吐き出し、いつもの調子で口を開く。
「まぁ、ごちゃごちゃ考えても仕方ない。要はキノを家に帰してやればオレ達の勝ちだ。ヤツラの野望もそこで終わり。どうやってキノを帰してやるか考える。そこにくっついてくるしがらみは後回しで良くねえ?」
「ハッハァー、おまえさんはたまにいい事言うな。確かにその通りだ。ドルチェナ、接触までの時間は?」
「ヤツラの歩みは慎重で恐ろしく遅い、一日は掛からんが半日は有にかかる」
「んじゃ、半日準備する時間があるって事だ。充分だろう、団長」
「これだけ優秀なやつらが揃っているんだ、問題ない。てかさ、たまにじゃなくて結構いい事言っているぞ」
「ん? そうか? まぁ、あまり細かい事を気にするなよ」
そう言って笑顔のマッシュがキルロの肩を叩いた。
顔をしかめるキルロに一同が笑顔になっていく。
「とりあえず、向こうの動きを精査しよう。ドルチェナ、オットやフィンなど聞いていない人間もいるからもう一度頼む」
キルロの言葉を受け、ドルチェナは北で見た物をもう一度伝えた。
オットやフィンの表情が一気に険しくなっていく。
絶望的な状況に希望を見出すべく、知恵を絞った。
ヤツらを出し抜く為にどう動く。
「【スミテマアルバレギオ】は【ルプスコナレギオ(狼の王冠)】が使った西のルートでヤツらの背に一気に回り込んじまうのはどうなんだ」
「それが多分、一番早くゴールにたどり着けそうではあるね⋯⋯」
オットとフィンが初めて聞く、アントワーヌの軍勢の大きさに天を仰いだ。
一筋縄ではいかぬ相手なのは分かってはいたが、龍が二頭とは。
「ドルチェナ、なんか些細な事でもいいんだけど、他に何かなかったかい?」
「些細⋯⋯⋯ないね。あ! シモーネが途中で焦げ臭いって言っていたなぁ」
「焦げ臭い? 何も燃えていないのにって事だよね」
「ああ」
シモーネだけが気が付いた、犬人の鼻は確かだ。
気にはなるね。
オットはまた深く逡巡していった。
「あんたは寂しいとかないの?」
「うん? ああ、キノか。そうだなぁ⋯⋯なくはないけど元々、帰さなきゃいけないって思っていたから、ちゃんと帰さなきゃって思いの方が強いかな。まさかこんな事になるとは思いもよらなかったけど」
そう言うとキルロはユラやフェインとじゃれ合っているキノの方を向いた。
ハルヲも同じようにキノに向く。
出会ってから間もない頃を思い出す。
クエイサー達と【吹き溜まり】に潜ったのが遠い昔のようだ。
「こんな事になるとは思わなかったってのは、全く同感ね。ウチのメンバーもみんな同じように思っているんじゃない」
「ユラあたりはどうかな? 分かっているんだか、分かってないんだか、さっぱりだ」
「全く、どこがどうなってこうなっているのだか⋯⋯」
ハルヲは嘆息まじりに言うと、キルロも同じように嘆息していく。
「全くもって同感。何にせよ、キノを帰してやろう。やる事はそれだけだ」
「そうね」
キルロが拳を突き出すとハルヲがコツと拳を突き合わせた。
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