226 / 263
北へ
黒い渦
しおりを挟む
黒い渦は止まらない。
飛び込む者を飲み込もうと渦を巻き続け、そして一瞬の隙を見逃さず飲み込んでいった。
何人が渦の餌食になってしまったのか、引き摺り出されて治療を受けた人間は、まだ幸運だったのかも知れない。
渦に逆らう、白い閃光が血飛沫を巻き上げながら渦の中心を目指していた。
渦を巻き、塊と化すホブゴブリンの壁を一条の白光が突き破っていく。
白光が舞う、その姿をシルが目にすると自らも舞い始めた。
ふたつの演舞がホブゴブリンの四肢を斬り刻む。
ミルバの大剣は旋風の如き様を見せ、一振りでいくつもの首を跳ねた。
演舞をかいくぐり、旋風の隙をつく牙と爪。
皮膚にまた小さな穴が開き、擦過傷を作った。
ミルバもシルも体力の限界はとうに来ている。
どちらが倒れたら終わってしまう。
ふたりの意地がぶつかり合い、地面を踏みしめた。
互いの激しい息づかいが交じり合う。
!!
一瞬の間。
シルの膝から力が抜け、態勢を崩す。
限界が唐突にシルの膝を襲った。
しまった!
膝を折るシルへ群がり始めるホブゴブリンを必死に引き剥がす。
まとわりつく黒い塊を薙ぎ払っていくも、飲み込もうとする渦の壁が押し寄せて来た。
シルの顔は苦悶の表情を浮かべ、渦に抗う。
キノがその様を視界に掠め、シルの元へと飛び込んだ。
シルの周りを白光が舞う。
シルに群がるホブゴブリンを血祭りに上げていった。
「キノ。助かったわ⋯⋯」
「キルロが来るよ」
「あら、やっと王子の登場。それじゃ、みっともない所は見せられないわ」
今一度膝に力を入れ直し、自らを鼓舞した。
柔らかなシルの舞いと、鋭いキノの舞いが渦の中心で繰り広げられる。
その姿にミルバも滾る。振り抜く大剣の圧を上げていった。
渦の勢いが弱まった? ミルバとシルが感じる圧の低下。ここが勝負所と今一度集中を上げていく。
終わりの見えなかった戦いにわずかながらの光明を見出し、思考が前に向いた。
「やっとね」
シルの弓なりの双眸が笑みを湛え、呟いた。
クソ! クソ! クソ!
キルロの剣は闇雲に振られ、次々に首を跳ねていく。
怒りで思考を塗り潰した。
少しでも緩めば、リブロの豪快な笑顔が頭を過る。
振り払えと自身に言い聞かせ、ホブゴブリンの首を跳ねた。
壁のように立ちはだかる一面のホブゴブリンに臆する事を忘れ、奥へ奥へと進んで行った。
中心に向かっていた渦が、後方へと潮目を変える。
後方から襲うキルロ達を飲み込もうと蠢いた。
「あんのバカ!」
闇雲に突き進むキルロの姿にハルヲが毒づく。
今にも渦に飲み込まれそうな姿に危うさしか感じない。
弓を背中に回し、腰に携えた剣を握るとキルロに向かって渦へと飛び込んだ。
フェインが、カズナが、ハルヲの為に道を作って行く。
ハルヲの眼前の敵を亡き者へとしていった。
フェインとカズナにハルヲはひとつ頷き、前への推進力を上げていく。
ハルヲの力強い切っ先が、ホブゴブリンをふたつに割った。
キルロの我を忘れている姿が、ハルヲの焦燥感を煽る。
遠目ではエーシャの詠が派手に吹き飛ばし、ユラがしっかりと護衛に付いていた。
ゴリ押しするしか手はないのだが、無謀とは違う。
ドルチェナ達も渦の流れに逆らう。
飲み込まれるな。
飲み込め。
キルロの荒い息づかいが迫る、明らかに剣の勢いが落ちている。
ハルヲはキルロの横に飛び込むと、キルロの腿裏を思い切り蹴り飛ばした。
「いてっ! 何すんだ!」
「目を覚ませ! このバカ!」
剣を振り続け、罵り合った。
怒りに塗り潰されていた思考をハルヲが上塗りをすると、落ちつきが生まれ、キルロは息を整える。
剣を振りながら辺りを見渡す。
ひとり渦に取り残されていた状況を、改めて確認し、冷静さを取り戻していった。
「悪い⋯⋯」
「ホントよ。あとできっちり説教するから、覚悟しておきなさい」
渦の圧がここに来て弱まった。
終わりが見えてくると、剣を握る手に再び力が沸いていく。
遠くで派手な火柱が立ち、吹き飛ぶホブゴブリンが散見出来た。
マッシュも派手にいったわね。
マッシュの火柱の逆方向でも、ホブゴブリンが宙を舞い千切れていく様が見えた。
風の刃? 【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】? いや、【ノクスニンファレギオ】は入口からの援護にあたっているはず、横から攻撃するなんて聞いていない。
新手? まぁいいわ、吹き飛ばしてくれるならそれに越した事はない。
こっちも負けてられないわね。
ハルヲの切っ先が、黒い渦の流れを断ち切っていった。
「あらあら、シルは相変わらずね」
頬に手を当て、渦の中心に視線を送る。
最北にたどりつき開口一番、【ノクスニンファレギオ】のリベルが溜め息をつきながら穏やかな口調で言葉を零す。
ただ、その穏やかな口調とは裏腹に、瞳は冷静にホブゴブリンの渦を睨む。
辺りを見渡し指先をゆっくり前へ向けた。
「魔術師、弓師、出番よ。ガンガン行きなさい」
叫ぶ事もなく告げると、魔術師達は極大の緑光を放つ。
その緑光が大きな風のうねりをいくつも作り、ホブゴブリンを舞い上げ、斬り刻み、渦を堰き止める。
四肢の千切れたホブゴブリンが断末魔を上げ、ぼたぼたと地面に落ちていった。
「じゃあ、次」
冷静なリベルの言葉に再び緑色の光が放たれた。
舞い上がるホブゴブリン、渦の一角が大きく抉れていく。
弓師の放つ矢の雨が、ホブゴブリンに降り注ぎ串刺しにしていく。
「あら、派手にやっている所もあるじゃない」
火柱が上がり、雷が走り、ホブゴブリンが舞い上がる様を遠目から確認する。
渦の外側が抉れていくと、渦の勢いは一気に低下していった。
斬り捨て、焼き払い、串刺しにしていく。
風は巻き上げ四肢をちぎる。
殴り、蹴り上げ、頭蓋骨を壊す。
形勢は一気に逆転した。
渦は堰き止められ、黒い壁はもろくも崩れた。
積み上がる無数のホブゴブリンの躯。
その傍らに散見する、飲み込まれてしまった人達が露わになった。
リベルの細い瞳が歪む。
ミルバが、シルが、その姿に再び怒りの火を灯した。
ハルヲが、フェインが、エーシャが顔をしかめる。
マッシュやユラ、カズナはその光景を睨んだ。
キルロは嘆き、ドルチェナ達は亡き者の姿をそこに重ねていく。
ドルチェナが最後の一匹に剣を突き刺した。
立っている者達が顔を見合わせていく。
そこに安堵はなかった、ただ終わったという感情だけが横たわる。
ホブゴブリンの躯が地面を覆いつくす中、キルロは中心となった傷だらけのミルバとシルに駆け寄った。
「ふたりとも大丈夫か?」
「当たり前だ」
「余裕よ」
ふたり揃って強がりを見せると、ガクンと膝を折った。
剣でかろうじて自らの体を支え、倒れまいと必死に耐える。
「エーシャ! 来てくれ。 無理するな、【癒光】」
キルロの光球がシルへと落ちていく、シルは目を閉じ甘んじてそれを受け入れた。
「久しぶりね、この感じ」
シルの笑みを湛える姿に、キルロも笑みを返した。
隣ではエーシャがミルバに光球を落とす。
ミルバは胡坐をかいてそれを受け入れていた。
「よし。お疲れさん。キノも大丈夫か? レグレクィエス(王の休養)で待ってなきゃダメじゃないか」
「でも、キノが来てくれなかったら危なかったわ。キノ、ありがとうね」
「うん」
キルロはシルに頷くキノの頭を、わしゃわしゃと雑に撫でた。
「とりあえず、先にレグレクィエス(王の休養)に戻って怪我人診てくるよ。エーシャも行けるか?」
「もう少し大丈夫だよ」
「よし。じゃあ、シルとミルバはまたあとで!」
キルロとエーシャがレグレクィエス(王の休養)へと駆け出した。
胡坐をかくミルバの隣で、シルも足を投げ出し、天を仰ぐ。
傷は癒えたが、立ち上がる余力はもう残っていなかった。
レグレクィエス(王の休養)の方へ視線を向けると、ユトもヤクラス達も地面へ、へたり込んでいる。
無事なら今はそれで充分だ。
ミルバもシルもその姿に溜め息を漏らした。
「あなたはもう少し、考えて行動しなさいよね。本当にいい迷惑だわ」
「全て片付いたではないか、今さらやいのやいの言うな」
「ああ、もういいわ。疲れた」
「確かに、疲れたな」
ふたりはしばらく黙って、修羅場と化していた戦場を見渡す。
ミルバが剣を支えに立ち上がると、シルもそれにならった。
「納得いかん」
「そうね。改めて許されないわね」
ふたりが横目に視線を交わし合った。
やり場のない苦い思いばかりがせり上がる。
動かぬ者達に心咎め、悔恨の思いが心を覆った。
「シル久しぶりね。ミルバもご無沙汰、いつ以来かしら?」
リベルが憂いのある顔を見せた。
想像していなかった惨状に沈痛の顔を浮かべている。
いつもの柔和な顔は消えてしまい、瞳は悲しみを映す。
「久しぶり。あなたの所も、今は大変でしょう」
シルがリベルのパーティーを見つめ憂いた。
「う~ん。そうね、確かに思ってもいなかった事態ね」
「それは、こっちもだぞ。まさかの展開ばかりだ」
「ミルバの所も、いきなりで大変そうね。でも、借りはきっちり返すつもりでしょう?」
『もちろん!』
ミルバとシルが揃って、力強く答えた。
飛び込む者を飲み込もうと渦を巻き続け、そして一瞬の隙を見逃さず飲み込んでいった。
何人が渦の餌食になってしまったのか、引き摺り出されて治療を受けた人間は、まだ幸運だったのかも知れない。
渦に逆らう、白い閃光が血飛沫を巻き上げながら渦の中心を目指していた。
渦を巻き、塊と化すホブゴブリンの壁を一条の白光が突き破っていく。
白光が舞う、その姿をシルが目にすると自らも舞い始めた。
ふたつの演舞がホブゴブリンの四肢を斬り刻む。
ミルバの大剣は旋風の如き様を見せ、一振りでいくつもの首を跳ねた。
演舞をかいくぐり、旋風の隙をつく牙と爪。
皮膚にまた小さな穴が開き、擦過傷を作った。
ミルバもシルも体力の限界はとうに来ている。
どちらが倒れたら終わってしまう。
ふたりの意地がぶつかり合い、地面を踏みしめた。
互いの激しい息づかいが交じり合う。
!!
一瞬の間。
シルの膝から力が抜け、態勢を崩す。
限界が唐突にシルの膝を襲った。
しまった!
膝を折るシルへ群がり始めるホブゴブリンを必死に引き剥がす。
まとわりつく黒い塊を薙ぎ払っていくも、飲み込もうとする渦の壁が押し寄せて来た。
シルの顔は苦悶の表情を浮かべ、渦に抗う。
キノがその様を視界に掠め、シルの元へと飛び込んだ。
シルの周りを白光が舞う。
シルに群がるホブゴブリンを血祭りに上げていった。
「キノ。助かったわ⋯⋯」
「キルロが来るよ」
「あら、やっと王子の登場。それじゃ、みっともない所は見せられないわ」
今一度膝に力を入れ直し、自らを鼓舞した。
柔らかなシルの舞いと、鋭いキノの舞いが渦の中心で繰り広げられる。
その姿にミルバも滾る。振り抜く大剣の圧を上げていった。
渦の勢いが弱まった? ミルバとシルが感じる圧の低下。ここが勝負所と今一度集中を上げていく。
終わりの見えなかった戦いにわずかながらの光明を見出し、思考が前に向いた。
「やっとね」
シルの弓なりの双眸が笑みを湛え、呟いた。
クソ! クソ! クソ!
キルロの剣は闇雲に振られ、次々に首を跳ねていく。
怒りで思考を塗り潰した。
少しでも緩めば、リブロの豪快な笑顔が頭を過る。
振り払えと自身に言い聞かせ、ホブゴブリンの首を跳ねた。
壁のように立ちはだかる一面のホブゴブリンに臆する事を忘れ、奥へ奥へと進んで行った。
中心に向かっていた渦が、後方へと潮目を変える。
後方から襲うキルロ達を飲み込もうと蠢いた。
「あんのバカ!」
闇雲に突き進むキルロの姿にハルヲが毒づく。
今にも渦に飲み込まれそうな姿に危うさしか感じない。
弓を背中に回し、腰に携えた剣を握るとキルロに向かって渦へと飛び込んだ。
フェインが、カズナが、ハルヲの為に道を作って行く。
ハルヲの眼前の敵を亡き者へとしていった。
フェインとカズナにハルヲはひとつ頷き、前への推進力を上げていく。
ハルヲの力強い切っ先が、ホブゴブリンをふたつに割った。
キルロの我を忘れている姿が、ハルヲの焦燥感を煽る。
遠目ではエーシャの詠が派手に吹き飛ばし、ユラがしっかりと護衛に付いていた。
ゴリ押しするしか手はないのだが、無謀とは違う。
ドルチェナ達も渦の流れに逆らう。
飲み込まれるな。
飲み込め。
キルロの荒い息づかいが迫る、明らかに剣の勢いが落ちている。
ハルヲはキルロの横に飛び込むと、キルロの腿裏を思い切り蹴り飛ばした。
「いてっ! 何すんだ!」
「目を覚ませ! このバカ!」
剣を振り続け、罵り合った。
怒りに塗り潰されていた思考をハルヲが上塗りをすると、落ちつきが生まれ、キルロは息を整える。
剣を振りながら辺りを見渡す。
ひとり渦に取り残されていた状況を、改めて確認し、冷静さを取り戻していった。
「悪い⋯⋯」
「ホントよ。あとできっちり説教するから、覚悟しておきなさい」
渦の圧がここに来て弱まった。
終わりが見えてくると、剣を握る手に再び力が沸いていく。
遠くで派手な火柱が立ち、吹き飛ぶホブゴブリンが散見出来た。
マッシュも派手にいったわね。
マッシュの火柱の逆方向でも、ホブゴブリンが宙を舞い千切れていく様が見えた。
風の刃? 【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】? いや、【ノクスニンファレギオ】は入口からの援護にあたっているはず、横から攻撃するなんて聞いていない。
新手? まぁいいわ、吹き飛ばしてくれるならそれに越した事はない。
こっちも負けてられないわね。
ハルヲの切っ先が、黒い渦の流れを断ち切っていった。
「あらあら、シルは相変わらずね」
頬に手を当て、渦の中心に視線を送る。
最北にたどりつき開口一番、【ノクスニンファレギオ】のリベルが溜め息をつきながら穏やかな口調で言葉を零す。
ただ、その穏やかな口調とは裏腹に、瞳は冷静にホブゴブリンの渦を睨む。
辺りを見渡し指先をゆっくり前へ向けた。
「魔術師、弓師、出番よ。ガンガン行きなさい」
叫ぶ事もなく告げると、魔術師達は極大の緑光を放つ。
その緑光が大きな風のうねりをいくつも作り、ホブゴブリンを舞い上げ、斬り刻み、渦を堰き止める。
四肢の千切れたホブゴブリンが断末魔を上げ、ぼたぼたと地面に落ちていった。
「じゃあ、次」
冷静なリベルの言葉に再び緑色の光が放たれた。
舞い上がるホブゴブリン、渦の一角が大きく抉れていく。
弓師の放つ矢の雨が、ホブゴブリンに降り注ぎ串刺しにしていく。
「あら、派手にやっている所もあるじゃない」
火柱が上がり、雷が走り、ホブゴブリンが舞い上がる様を遠目から確認する。
渦の外側が抉れていくと、渦の勢いは一気に低下していった。
斬り捨て、焼き払い、串刺しにしていく。
風は巻き上げ四肢をちぎる。
殴り、蹴り上げ、頭蓋骨を壊す。
形勢は一気に逆転した。
渦は堰き止められ、黒い壁はもろくも崩れた。
積み上がる無数のホブゴブリンの躯。
その傍らに散見する、飲み込まれてしまった人達が露わになった。
リベルの細い瞳が歪む。
ミルバが、シルが、その姿に再び怒りの火を灯した。
ハルヲが、フェインが、エーシャが顔をしかめる。
マッシュやユラ、カズナはその光景を睨んだ。
キルロは嘆き、ドルチェナ達は亡き者の姿をそこに重ねていく。
ドルチェナが最後の一匹に剣を突き刺した。
立っている者達が顔を見合わせていく。
そこに安堵はなかった、ただ終わったという感情だけが横たわる。
ホブゴブリンの躯が地面を覆いつくす中、キルロは中心となった傷だらけのミルバとシルに駆け寄った。
「ふたりとも大丈夫か?」
「当たり前だ」
「余裕よ」
ふたり揃って強がりを見せると、ガクンと膝を折った。
剣でかろうじて自らの体を支え、倒れまいと必死に耐える。
「エーシャ! 来てくれ。 無理するな、【癒光】」
キルロの光球がシルへと落ちていく、シルは目を閉じ甘んじてそれを受け入れた。
「久しぶりね、この感じ」
シルの笑みを湛える姿に、キルロも笑みを返した。
隣ではエーシャがミルバに光球を落とす。
ミルバは胡坐をかいてそれを受け入れていた。
「よし。お疲れさん。キノも大丈夫か? レグレクィエス(王の休養)で待ってなきゃダメじゃないか」
「でも、キノが来てくれなかったら危なかったわ。キノ、ありがとうね」
「うん」
キルロはシルに頷くキノの頭を、わしゃわしゃと雑に撫でた。
「とりあえず、先にレグレクィエス(王の休養)に戻って怪我人診てくるよ。エーシャも行けるか?」
「もう少し大丈夫だよ」
「よし。じゃあ、シルとミルバはまたあとで!」
キルロとエーシャがレグレクィエス(王の休養)へと駆け出した。
胡坐をかくミルバの隣で、シルも足を投げ出し、天を仰ぐ。
傷は癒えたが、立ち上がる余力はもう残っていなかった。
レグレクィエス(王の休養)の方へ視線を向けると、ユトもヤクラス達も地面へ、へたり込んでいる。
無事なら今はそれで充分だ。
ミルバもシルもその姿に溜め息を漏らした。
「あなたはもう少し、考えて行動しなさいよね。本当にいい迷惑だわ」
「全て片付いたではないか、今さらやいのやいの言うな」
「ああ、もういいわ。疲れた」
「確かに、疲れたな」
ふたりはしばらく黙って、修羅場と化していた戦場を見渡す。
ミルバが剣を支えに立ち上がると、シルもそれにならった。
「納得いかん」
「そうね。改めて許されないわね」
ふたりが横目に視線を交わし合った。
やり場のない苦い思いばかりがせり上がる。
動かぬ者達に心咎め、悔恨の思いが心を覆った。
「シル久しぶりね。ミルバもご無沙汰、いつ以来かしら?」
リベルが憂いのある顔を見せた。
想像していなかった惨状に沈痛の顔を浮かべている。
いつもの柔和な顔は消えてしまい、瞳は悲しみを映す。
「久しぶり。あなたの所も、今は大変でしょう」
シルがリベルのパーティーを見つめ憂いた。
「う~ん。そうね、確かに思ってもいなかった事態ね」
「それは、こっちもだぞ。まさかの展開ばかりだ」
「ミルバの所も、いきなりで大変そうね。でも、借りはきっちり返すつもりでしょう?」
『もちろん!』
ミルバとシルが揃って、力強く答えた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる