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北へ
黒い渦
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黒い渦は止まらない。
飛び込む者を飲み込もうと渦を巻き続け、そして一瞬の隙を見逃さず飲み込んでいった。
何人が渦の餌食になってしまったのか、引き摺り出されて治療を受けた人間は、まだ幸運だったのかも知れない。
渦に逆らう、白い閃光が血飛沫を巻き上げながら渦の中心を目指していた。
渦を巻き、塊と化すホブゴブリンの壁を一条の白光が突き破っていく。
白光が舞う、その姿をシルが目にすると自らも舞い始めた。
ふたつの演舞がホブゴブリンの四肢を斬り刻む。
ミルバの大剣は旋風の如き様を見せ、一振りでいくつもの首を跳ねた。
演舞をかいくぐり、旋風の隙をつく牙と爪。
皮膚にまた小さな穴が開き、擦過傷を作った。
ミルバもシルも体力の限界はとうに来ている。
どちらが倒れたら終わってしまう。
ふたりの意地がぶつかり合い、地面を踏みしめた。
互いの激しい息づかいが交じり合う。
!!
一瞬の間。
シルの膝から力が抜け、態勢を崩す。
限界が唐突にシルの膝を襲った。
しまった!
膝を折るシルへ群がり始めるホブゴブリンを必死に引き剥がす。
まとわりつく黒い塊を薙ぎ払っていくも、飲み込もうとする渦の壁が押し寄せて来た。
シルの顔は苦悶の表情を浮かべ、渦に抗う。
キノがその様を視界に掠め、シルの元へと飛び込んだ。
シルの周りを白光が舞う。
シルに群がるホブゴブリンを血祭りに上げていった。
「キノ。助かったわ⋯⋯」
「キルロが来るよ」
「あら、やっと王子の登場。それじゃ、みっともない所は見せられないわ」
今一度膝に力を入れ直し、自らを鼓舞した。
柔らかなシルの舞いと、鋭いキノの舞いが渦の中心で繰り広げられる。
その姿にミルバも滾る。振り抜く大剣の圧を上げていった。
渦の勢いが弱まった? ミルバとシルが感じる圧の低下。ここが勝負所と今一度集中を上げていく。
終わりの見えなかった戦いにわずかながらの光明を見出し、思考が前に向いた。
「やっとね」
シルの弓なりの双眸が笑みを湛え、呟いた。
クソ! クソ! クソ!
キルロの剣は闇雲に振られ、次々に首を跳ねていく。
怒りで思考を塗り潰した。
少しでも緩めば、リブロの豪快な笑顔が頭を過る。
振り払えと自身に言い聞かせ、ホブゴブリンの首を跳ねた。
壁のように立ちはだかる一面のホブゴブリンに臆する事を忘れ、奥へ奥へと進んで行った。
中心に向かっていた渦が、後方へと潮目を変える。
後方から襲うキルロ達を飲み込もうと蠢いた。
「あんのバカ!」
闇雲に突き進むキルロの姿にハルヲが毒づく。
今にも渦に飲み込まれそうな姿に危うさしか感じない。
弓を背中に回し、腰に携えた剣を握るとキルロに向かって渦へと飛び込んだ。
フェインが、カズナが、ハルヲの為に道を作って行く。
ハルヲの眼前の敵を亡き者へとしていった。
フェインとカズナにハルヲはひとつ頷き、前への推進力を上げていく。
ハルヲの力強い切っ先が、ホブゴブリンをふたつに割った。
キルロの我を忘れている姿が、ハルヲの焦燥感を煽る。
遠目ではエーシャの詠が派手に吹き飛ばし、ユラがしっかりと護衛に付いていた。
ゴリ押しするしか手はないのだが、無謀とは違う。
ドルチェナ達も渦の流れに逆らう。
飲み込まれるな。
飲み込め。
キルロの荒い息づかいが迫る、明らかに剣の勢いが落ちている。
ハルヲはキルロの横に飛び込むと、キルロの腿裏を思い切り蹴り飛ばした。
「いてっ! 何すんだ!」
「目を覚ませ! このバカ!」
剣を振り続け、罵り合った。
怒りに塗り潰されていた思考をハルヲが上塗りをすると、落ちつきが生まれ、キルロは息を整える。
剣を振りながら辺りを見渡す。
ひとり渦に取り残されていた状況を、改めて確認し、冷静さを取り戻していった。
「悪い⋯⋯」
「ホントよ。あとできっちり説教するから、覚悟しておきなさい」
渦の圧がここに来て弱まった。
終わりが見えてくると、剣を握る手に再び力が沸いていく。
遠くで派手な火柱が立ち、吹き飛ぶホブゴブリンが散見出来た。
マッシュも派手にいったわね。
マッシュの火柱の逆方向でも、ホブゴブリンが宙を舞い千切れていく様が見えた。
風の刃? 【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】? いや、【ノクスニンファレギオ】は入口からの援護にあたっているはず、横から攻撃するなんて聞いていない。
新手? まぁいいわ、吹き飛ばしてくれるならそれに越した事はない。
こっちも負けてられないわね。
ハルヲの切っ先が、黒い渦の流れを断ち切っていった。
「あらあら、シルは相変わらずね」
頬に手を当て、渦の中心に視線を送る。
最北にたどりつき開口一番、【ノクスニンファレギオ】のリベルが溜め息をつきながら穏やかな口調で言葉を零す。
ただ、その穏やかな口調とは裏腹に、瞳は冷静にホブゴブリンの渦を睨む。
辺りを見渡し指先をゆっくり前へ向けた。
「魔術師、弓師、出番よ。ガンガン行きなさい」
叫ぶ事もなく告げると、魔術師達は極大の緑光を放つ。
その緑光が大きな風のうねりをいくつも作り、ホブゴブリンを舞い上げ、斬り刻み、渦を堰き止める。
四肢の千切れたホブゴブリンが断末魔を上げ、ぼたぼたと地面に落ちていった。
「じゃあ、次」
冷静なリベルの言葉に再び緑色の光が放たれた。
舞い上がるホブゴブリン、渦の一角が大きく抉れていく。
弓師の放つ矢の雨が、ホブゴブリンに降り注ぎ串刺しにしていく。
「あら、派手にやっている所もあるじゃない」
火柱が上がり、雷が走り、ホブゴブリンが舞い上がる様を遠目から確認する。
渦の外側が抉れていくと、渦の勢いは一気に低下していった。
斬り捨て、焼き払い、串刺しにしていく。
風は巻き上げ四肢をちぎる。
殴り、蹴り上げ、頭蓋骨を壊す。
形勢は一気に逆転した。
渦は堰き止められ、黒い壁はもろくも崩れた。
積み上がる無数のホブゴブリンの躯。
その傍らに散見する、飲み込まれてしまった人達が露わになった。
リベルの細い瞳が歪む。
ミルバが、シルが、その姿に再び怒りの火を灯した。
ハルヲが、フェインが、エーシャが顔をしかめる。
マッシュやユラ、カズナはその光景を睨んだ。
キルロは嘆き、ドルチェナ達は亡き者の姿をそこに重ねていく。
ドルチェナが最後の一匹に剣を突き刺した。
立っている者達が顔を見合わせていく。
そこに安堵はなかった、ただ終わったという感情だけが横たわる。
ホブゴブリンの躯が地面を覆いつくす中、キルロは中心となった傷だらけのミルバとシルに駆け寄った。
「ふたりとも大丈夫か?」
「当たり前だ」
「余裕よ」
ふたり揃って強がりを見せると、ガクンと膝を折った。
剣でかろうじて自らの体を支え、倒れまいと必死に耐える。
「エーシャ! 来てくれ。 無理するな、【癒光】」
キルロの光球がシルへと落ちていく、シルは目を閉じ甘んじてそれを受け入れた。
「久しぶりね、この感じ」
シルの笑みを湛える姿に、キルロも笑みを返した。
隣ではエーシャがミルバに光球を落とす。
ミルバは胡坐をかいてそれを受け入れていた。
「よし。お疲れさん。キノも大丈夫か? レグレクィエス(王の休養)で待ってなきゃダメじゃないか」
「でも、キノが来てくれなかったら危なかったわ。キノ、ありがとうね」
「うん」
キルロはシルに頷くキノの頭を、わしゃわしゃと雑に撫でた。
「とりあえず、先にレグレクィエス(王の休養)に戻って怪我人診てくるよ。エーシャも行けるか?」
「もう少し大丈夫だよ」
「よし。じゃあ、シルとミルバはまたあとで!」
キルロとエーシャがレグレクィエス(王の休養)へと駆け出した。
胡坐をかくミルバの隣で、シルも足を投げ出し、天を仰ぐ。
傷は癒えたが、立ち上がる余力はもう残っていなかった。
レグレクィエス(王の休養)の方へ視線を向けると、ユトもヤクラス達も地面へ、へたり込んでいる。
無事なら今はそれで充分だ。
ミルバもシルもその姿に溜め息を漏らした。
「あなたはもう少し、考えて行動しなさいよね。本当にいい迷惑だわ」
「全て片付いたではないか、今さらやいのやいの言うな」
「ああ、もういいわ。疲れた」
「確かに、疲れたな」
ふたりはしばらく黙って、修羅場と化していた戦場を見渡す。
ミルバが剣を支えに立ち上がると、シルもそれにならった。
「納得いかん」
「そうね。改めて許されないわね」
ふたりが横目に視線を交わし合った。
やり場のない苦い思いばかりがせり上がる。
動かぬ者達に心咎め、悔恨の思いが心を覆った。
「シル久しぶりね。ミルバもご無沙汰、いつ以来かしら?」
リベルが憂いのある顔を見せた。
想像していなかった惨状に沈痛の顔を浮かべている。
いつもの柔和な顔は消えてしまい、瞳は悲しみを映す。
「久しぶり。あなたの所も、今は大変でしょう」
シルがリベルのパーティーを見つめ憂いた。
「う~ん。そうね、確かに思ってもいなかった事態ね」
「それは、こっちもだぞ。まさかの展開ばかりだ」
「ミルバの所も、いきなりで大変そうね。でも、借りはきっちり返すつもりでしょう?」
『もちろん!』
ミルバとシルが揃って、力強く答えた。
飛び込む者を飲み込もうと渦を巻き続け、そして一瞬の隙を見逃さず飲み込んでいった。
何人が渦の餌食になってしまったのか、引き摺り出されて治療を受けた人間は、まだ幸運だったのかも知れない。
渦に逆らう、白い閃光が血飛沫を巻き上げながら渦の中心を目指していた。
渦を巻き、塊と化すホブゴブリンの壁を一条の白光が突き破っていく。
白光が舞う、その姿をシルが目にすると自らも舞い始めた。
ふたつの演舞がホブゴブリンの四肢を斬り刻む。
ミルバの大剣は旋風の如き様を見せ、一振りでいくつもの首を跳ねた。
演舞をかいくぐり、旋風の隙をつく牙と爪。
皮膚にまた小さな穴が開き、擦過傷を作った。
ミルバもシルも体力の限界はとうに来ている。
どちらが倒れたら終わってしまう。
ふたりの意地がぶつかり合い、地面を踏みしめた。
互いの激しい息づかいが交じり合う。
!!
一瞬の間。
シルの膝から力が抜け、態勢を崩す。
限界が唐突にシルの膝を襲った。
しまった!
膝を折るシルへ群がり始めるホブゴブリンを必死に引き剥がす。
まとわりつく黒い塊を薙ぎ払っていくも、飲み込もうとする渦の壁が押し寄せて来た。
シルの顔は苦悶の表情を浮かべ、渦に抗う。
キノがその様を視界に掠め、シルの元へと飛び込んだ。
シルの周りを白光が舞う。
シルに群がるホブゴブリンを血祭りに上げていった。
「キノ。助かったわ⋯⋯」
「キルロが来るよ」
「あら、やっと王子の登場。それじゃ、みっともない所は見せられないわ」
今一度膝に力を入れ直し、自らを鼓舞した。
柔らかなシルの舞いと、鋭いキノの舞いが渦の中心で繰り広げられる。
その姿にミルバも滾る。振り抜く大剣の圧を上げていった。
渦の勢いが弱まった? ミルバとシルが感じる圧の低下。ここが勝負所と今一度集中を上げていく。
終わりの見えなかった戦いにわずかながらの光明を見出し、思考が前に向いた。
「やっとね」
シルの弓なりの双眸が笑みを湛え、呟いた。
クソ! クソ! クソ!
キルロの剣は闇雲に振られ、次々に首を跳ねていく。
怒りで思考を塗り潰した。
少しでも緩めば、リブロの豪快な笑顔が頭を過る。
振り払えと自身に言い聞かせ、ホブゴブリンの首を跳ねた。
壁のように立ちはだかる一面のホブゴブリンに臆する事を忘れ、奥へ奥へと進んで行った。
中心に向かっていた渦が、後方へと潮目を変える。
後方から襲うキルロ達を飲み込もうと蠢いた。
「あんのバカ!」
闇雲に突き進むキルロの姿にハルヲが毒づく。
今にも渦に飲み込まれそうな姿に危うさしか感じない。
弓を背中に回し、腰に携えた剣を握るとキルロに向かって渦へと飛び込んだ。
フェインが、カズナが、ハルヲの為に道を作って行く。
ハルヲの眼前の敵を亡き者へとしていった。
フェインとカズナにハルヲはひとつ頷き、前への推進力を上げていく。
ハルヲの力強い切っ先が、ホブゴブリンをふたつに割った。
キルロの我を忘れている姿が、ハルヲの焦燥感を煽る。
遠目ではエーシャの詠が派手に吹き飛ばし、ユラがしっかりと護衛に付いていた。
ゴリ押しするしか手はないのだが、無謀とは違う。
ドルチェナ達も渦の流れに逆らう。
飲み込まれるな。
飲み込め。
キルロの荒い息づかいが迫る、明らかに剣の勢いが落ちている。
ハルヲはキルロの横に飛び込むと、キルロの腿裏を思い切り蹴り飛ばした。
「いてっ! 何すんだ!」
「目を覚ませ! このバカ!」
剣を振り続け、罵り合った。
怒りに塗り潰されていた思考をハルヲが上塗りをすると、落ちつきが生まれ、キルロは息を整える。
剣を振りながら辺りを見渡す。
ひとり渦に取り残されていた状況を、改めて確認し、冷静さを取り戻していった。
「悪い⋯⋯」
「ホントよ。あとできっちり説教するから、覚悟しておきなさい」
渦の圧がここに来て弱まった。
終わりが見えてくると、剣を握る手に再び力が沸いていく。
遠くで派手な火柱が立ち、吹き飛ぶホブゴブリンが散見出来た。
マッシュも派手にいったわね。
マッシュの火柱の逆方向でも、ホブゴブリンが宙を舞い千切れていく様が見えた。
風の刃? 【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】? いや、【ノクスニンファレギオ】は入口からの援護にあたっているはず、横から攻撃するなんて聞いていない。
新手? まぁいいわ、吹き飛ばしてくれるならそれに越した事はない。
こっちも負けてられないわね。
ハルヲの切っ先が、黒い渦の流れを断ち切っていった。
「あらあら、シルは相変わらずね」
頬に手を当て、渦の中心に視線を送る。
最北にたどりつき開口一番、【ノクスニンファレギオ】のリベルが溜め息をつきながら穏やかな口調で言葉を零す。
ただ、その穏やかな口調とは裏腹に、瞳は冷静にホブゴブリンの渦を睨む。
辺りを見渡し指先をゆっくり前へ向けた。
「魔術師、弓師、出番よ。ガンガン行きなさい」
叫ぶ事もなく告げると、魔術師達は極大の緑光を放つ。
その緑光が大きな風のうねりをいくつも作り、ホブゴブリンを舞い上げ、斬り刻み、渦を堰き止める。
四肢の千切れたホブゴブリンが断末魔を上げ、ぼたぼたと地面に落ちていった。
「じゃあ、次」
冷静なリベルの言葉に再び緑色の光が放たれた。
舞い上がるホブゴブリン、渦の一角が大きく抉れていく。
弓師の放つ矢の雨が、ホブゴブリンに降り注ぎ串刺しにしていく。
「あら、派手にやっている所もあるじゃない」
火柱が上がり、雷が走り、ホブゴブリンが舞い上がる様を遠目から確認する。
渦の外側が抉れていくと、渦の勢いは一気に低下していった。
斬り捨て、焼き払い、串刺しにしていく。
風は巻き上げ四肢をちぎる。
殴り、蹴り上げ、頭蓋骨を壊す。
形勢は一気に逆転した。
渦は堰き止められ、黒い壁はもろくも崩れた。
積み上がる無数のホブゴブリンの躯。
その傍らに散見する、飲み込まれてしまった人達が露わになった。
リベルの細い瞳が歪む。
ミルバが、シルが、その姿に再び怒りの火を灯した。
ハルヲが、フェインが、エーシャが顔をしかめる。
マッシュやユラ、カズナはその光景を睨んだ。
キルロは嘆き、ドルチェナ達は亡き者の姿をそこに重ねていく。
ドルチェナが最後の一匹に剣を突き刺した。
立っている者達が顔を見合わせていく。
そこに安堵はなかった、ただ終わったという感情だけが横たわる。
ホブゴブリンの躯が地面を覆いつくす中、キルロは中心となった傷だらけのミルバとシルに駆け寄った。
「ふたりとも大丈夫か?」
「当たり前だ」
「余裕よ」
ふたり揃って強がりを見せると、ガクンと膝を折った。
剣でかろうじて自らの体を支え、倒れまいと必死に耐える。
「エーシャ! 来てくれ。 無理するな、【癒光】」
キルロの光球がシルへと落ちていく、シルは目を閉じ甘んじてそれを受け入れた。
「久しぶりね、この感じ」
シルの笑みを湛える姿に、キルロも笑みを返した。
隣ではエーシャがミルバに光球を落とす。
ミルバは胡坐をかいてそれを受け入れていた。
「よし。お疲れさん。キノも大丈夫か? レグレクィエス(王の休養)で待ってなきゃダメじゃないか」
「でも、キノが来てくれなかったら危なかったわ。キノ、ありがとうね」
「うん」
キルロはシルに頷くキノの頭を、わしゃわしゃと雑に撫でた。
「とりあえず、先にレグレクィエス(王の休養)に戻って怪我人診てくるよ。エーシャも行けるか?」
「もう少し大丈夫だよ」
「よし。じゃあ、シルとミルバはまたあとで!」
キルロとエーシャがレグレクィエス(王の休養)へと駆け出した。
胡坐をかくミルバの隣で、シルも足を投げ出し、天を仰ぐ。
傷は癒えたが、立ち上がる余力はもう残っていなかった。
レグレクィエス(王の休養)の方へ視線を向けると、ユトもヤクラス達も地面へ、へたり込んでいる。
無事なら今はそれで充分だ。
ミルバもシルもその姿に溜め息を漏らした。
「あなたはもう少し、考えて行動しなさいよね。本当にいい迷惑だわ」
「全て片付いたではないか、今さらやいのやいの言うな」
「ああ、もういいわ。疲れた」
「確かに、疲れたな」
ふたりはしばらく黙って、修羅場と化していた戦場を見渡す。
ミルバが剣を支えに立ち上がると、シルもそれにならった。
「納得いかん」
「そうね。改めて許されないわね」
ふたりが横目に視線を交わし合った。
やり場のない苦い思いばかりがせり上がる。
動かぬ者達に心咎め、悔恨の思いが心を覆った。
「シル久しぶりね。ミルバもご無沙汰、いつ以来かしら?」
リベルが憂いのある顔を見せた。
想像していなかった惨状に沈痛の顔を浮かべている。
いつもの柔和な顔は消えてしまい、瞳は悲しみを映す。
「久しぶり。あなたの所も、今は大変でしょう」
シルがリベルのパーティーを見つめ憂いた。
「う~ん。そうね、確かに思ってもいなかった事態ね」
「それは、こっちもだぞ。まさかの展開ばかりだ」
「ミルバの所も、いきなりで大変そうね。でも、借りはきっちり返すつもりでしょう?」
『もちろん!』
ミルバとシルが揃って、力強く答えた。
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