222 / 263
北へ
塊と蹂躙
しおりを挟む
セルバとの交戦から丸二日が経とうとしていた。
セルバを追った猫人のピピと犬人のイサ。
「ごめん。北西の森で見失った」
それだけ伝え、すごすごと復旧作業に戻っていった。
軽傷者はほぼ復帰し、復旧作業は進む。
当面の問題は瓦礫となった資材の不足をどうするかだ。
最北のレグレクィエス(王の休養)を破棄し、南に少し下がったブレイヴコタン(勇者の村)まで前線を一時下げてみては、という話も出たがミルバが頑としてそれを拒否、ミルバのそれに反対する理由もない。
敵に背を向けないという強い意志を発信する為にも、ここを死守すると意志の統一を図った。
資材の補充にどこかが動くというのも、もちろん視野に入れたが、今この状況でここが手薄になるのはいただけない。
中央からの応援を素直に待つのが最善と一同の意見は一致した。
「お、ベヒーモスの皮は外套にしたのか」
ヤクラスがキルロの羽織る、黒の外套を触りながら笑顔を見せる。
「ヤクラスの所は違うのか? 他にやりようが思いつかなくて」
「オレらは鎧に練り込んだって感じかな」
「練り込む? そんな事出来たのか」
「まぁ、いろいろ試してみてね。加工する際に鉄の中に放り込んだ」
「それでもいけるのか」
「問題ない」
手を動かしながら他愛のない会話を続ける。
いつの間にか空気は弛緩していた。悲しみは依然として覆っているのだが、前へ進もうという意識が芽生えていた。
だが、その空気は一瞬で黒く塗り替わる。
「なんかくる! なんだ⋯⋯あれ? 地面が動いている!?」
見張りをする狼人が目を剥いた。
地面が黒く染まり始め、その奥にオークの巨体を散見する。
地面を黒く染めているのは見渡す限りのゴブリンの群れ、いや塊だ。
それもゴブリンの上位種、ホブゴブリン亜種だった。
「構えろ!」
キルロの叫びに呼応する、作業の手を止め一斉に武器を手にした。
「魔術師! 詠唱を始めろ!」
ミルバの声が響く、魔術師達が自らの手に光を収束していく。
悲しみが憤りへと変わって行く。
まるで地面が蠢くかのようにびっしりと埋め尽くすホブゴブリン。その異様な光景に多くの人間が険しい顔を見せた。
キルロ達【スミテマアルバレギオ】は冷静にその様子を見つめる。
何度目かのその光景、誰かが仕組んだという事は明白。
そして、仕組んだのが誰であるかも明白だった。
「シャロン! 怪我人を一か所に集めてくれ。キノ、怪我した人達を守ってくれよ」
キルロはキノの頭にポンと手を置くと、キノはシャロンの元へと駆け出した。
攻めて来るってのは、どういう了見だ? 兎人のテイムなら何かを守れという単純な指示だけなはず⋯⋯。
【果樹の森】もラミアも背後に守るべきものがあった。
コイツ(ホブゴブリン)らは何を守る? それとも齧ったのか。
「キルロ!」
逡巡しているキルロにハルヲの声。
シルやミルバ、【ルプスコナレギオ】の面々に【スミテマアルバレギオ】。
主要所が顔を集める、剣呑な表情でこの状況を精査していた。
うだうだと考え込んでいる時間はない、火力でゴリ押しするしかない。
「この襲撃の裏にはヤツらがいる。という事はこの襲撃も何かしらの意味があるのかもしれないが、今はそんな事考えている余裕はない。まずは殲滅する」
厳しい目つきで頷き合った。
そんな中、ミルバだけが小首を傾げる。
「なんでモンスターの襲撃の裏にヤツらがいるのだ?」
「詳しくはあとだ。ヤツらはモンスターをある程度、操れる術を持っている」
「あれだけの数を操っているのか? テイムか?」
「いや、違う。ここを襲撃するように仕向けていると考えればいい」
ミルバは納得仕切れていないようだ。
キルロは嘆息しながら続ける。
「ミルバ、やる事は一緒だ。殲滅するだけだ。だろ?」
「おお、確かにそうだ!」
単純明快、やる気を見せるミルバにキルロは苦笑いを向ける。
「お話はここまでだ。来るぞ!」
マッシュが入口を顎で指した。
地響きが聞こえる、わさわさと蠢く気配が遠くからでも伝わってくる。
ギチギチと気持ちの悪い哭き声が地表から湧き上がり、血走る目を真っ直ぐに向け、蹂躙せんと見渡す限りの黒い塊が襲って来ていた。
「遠めから叩けるだけ叩け! 魔術師!」
ミルバの掛け声に魔術師達が前に出た。
前方に手をかざすと、色とりどりの光を放つ。
放つ光は横一閃。
炎を巻き上げ、風が舞い、氷の刃が前線のホブゴブリンを次々に吹き飛ばしていった。
体は千切れ、首はもげ、宙を舞う。
無残な姿で転がるいくつもの躯を、一瞥する事なく踏みつけ、黒い進軍は続く。
レグレクィエス(王の休養)を蹂躙すべくその足を止める事はなかった。
「弓師! 出し惜しみするな! 放て!」
シルが弓を構え、叫んだ。
【ノクスニンファレギオ】の弓師を中心に弓を構えていく。
次々に放つ矢が確実にホブゴブリンの眉間を射抜いていった。
相当数屠っているはずのに、地表は依然黒く覆われたまま。
迫り来る見渡す限りの黒い塊。
小さくなっていかない、その姿にミルバとシルに焦燥が募っていく。
「どんだけいるのよ⋯⋯」
ぽつりと呟きながらシルは矢を放つ、終わりの見えない感じが表情を曇らせた。
「魔術師! 次!」
ミルバの掛け声に横一閃、いくつもの光がホブゴブリンを再び吹き飛ばしていく。
それでも迫り来る黒い塊は止められない。
シル達が矢を放つ横でミルバが大剣を構え、ユトも剣を握っていた。
「魔術師は援護に回れ、お前達! 暴れるぞ!」
「弓師も援護! ちょっと行ってくるんで、あとは宜しくね」
ミルバが大剣を振りかぶり、シルは弓を剣に持ち替えた。
飛び込むふたりのあとを追うように、武器を携えた者達が黒い塊へと飛び込んでいく。
ミルバの一振りでホブゴブリンの首が三つ四つと跳ねた。
シルの切っ先がホブゴブリンの眉間を貫く。
ユトが斬り刻み、ヤクラスが、ミアンが黒い群れへと飛び込み亡き者にしていった。
血溜まりを踏みしめ、血まみれになりながらも濁る瞳を向け、爪を立て、牙を剥く。
いくら斬り刻もうが、首が飛ぼうか怯む事はない。
頬に、腕に、爪を立てられ、首元に牙を剥いて来る。
足を踏みしめれば、血溜まりの血が跳ね足元を汚して行く。
獣のイヤな臭いと鉄の臭い。
『キシャアア』
ホブゴブリンが哭き声と共に飛び込んで来る。
避けるスペースなどは存在しない、ひたすらに剣を振った。
ミルバもシルも肩で息をする。
病み上がりに近いユトの顔から余裕はすでに消えている。
ヤクラス達も終わりの見えない戦場に、集中を切らさぬよう踏ん張りを見せていた。
ミルバを襲う爪をシルが斬り捨てる。
ヤクラスに剥く牙をミアンが首ごと跳ねていた。
肩で息するユトの隣では、ホブゴブリンの眉間に矢が突き刺さり崩れ落ちていく。
「ウッ」
「クソッ!」
飛び込んだ人間の呻きや嘆きが、哭き声に混じり耳を掠めていく。
何匹ものホブゴブリンに飛びつかれ、身動きが取れなくなると、助ける間もなく地面へと沈んでしまった。
一瞬の出来事に何も出来ない。
ミルバが、シルが、その光景に目を剥くと瞳の奥に憎悪の炎を燃やす。
それでも、地面へと沈む人間が後を絶たない。
黒い塊がまるでひとつの生き物のように人を飲み込んでいく。
「ひとりになるな! 距離を開けすぎるな! クソッ! 邪魔だ!」
ミルバが大剣を振りながら叫ぶ、飛び込んで行けない自分に腹を立て吠える。
体中から血が流れ、皮膚の上を汗と一緒に落ちて行く。
これがヤツらの仕組んだ事なら、ヤツらの手のひらで遊んでいるだけではないか。
ミルバの怒りが頂点に達する。
「オラアァアァァァ! どけっ!」
群がるホブゴブリンを薙ぎ払い、ひとり奥へと突っ込んで行く。
ミルバのその姿を視界に掠めたヤクラスが舌を打つ、まずい。
冷静さを欠いたミルバの姿に顔をしかめる。
「ミルバ! 行くな!」
ヤクラスの叫びにシルはミルバを一瞥する。
ヤクラスにひとつ頷いて見せると急いでミルバのあとを追った。
カズナの刃がホブゴブリンの首元を掻き切った。
塊からはぐれたのだろう、血走る目に生気はもうない。
【スミテマアルバレギオ】が大きく右方に展開していく。
【スミテマアルバレギオ】と【ルプスコナレギオ】は後ろに控えるオーク亜種を討ちに出ていた。
キルロのこの提案に難色を示す者はいない、ふたつのパーティーが大きく左右に展開し後方からこの黒い塊を挟み撃ちにする。まず落とすべきは後ろで守られているオーク亜種。
「団長、初めてを思い出すな」
マッシュが不敵な笑みを浮かべる。
「あん時は苦労したよ、大変だったよな」
「アハハハ、そういやそうだったな。どれだけ成長したか分かるな」
「成長してない可能性もありえる」
「ハハ、そりゃないわ。ちゃんと成長しているさ」
キルロの目に映るいくつものオークの巨躯。
オークの姿が大きくなるにつれ、鼓動も早くなっていく。
成長しているのかな? 実感はないが、マッシュの言葉を信じよう。
「シッ!」
カズナがオークの懐へ飛び込んだ。
「【電撃】」
エーシャが群がるホブゴブリンに照準を合わす。
ハルヲが剛弓を構え、ユラが杖を振るう。
フェインの拳が脇腹を抉り、マッシュの刃は喉元に穴を開けた。
まさに瞬殺。
キルロの眼前で巨躯は崩れ落ちた。
「出る幕なしかよ」
キルロの嘆きをよそに【スミテマアルバレギオ】は次へと照準を合わせていった。
セルバを追った猫人のピピと犬人のイサ。
「ごめん。北西の森で見失った」
それだけ伝え、すごすごと復旧作業に戻っていった。
軽傷者はほぼ復帰し、復旧作業は進む。
当面の問題は瓦礫となった資材の不足をどうするかだ。
最北のレグレクィエス(王の休養)を破棄し、南に少し下がったブレイヴコタン(勇者の村)まで前線を一時下げてみては、という話も出たがミルバが頑としてそれを拒否、ミルバのそれに反対する理由もない。
敵に背を向けないという強い意志を発信する為にも、ここを死守すると意志の統一を図った。
資材の補充にどこかが動くというのも、もちろん視野に入れたが、今この状況でここが手薄になるのはいただけない。
中央からの応援を素直に待つのが最善と一同の意見は一致した。
「お、ベヒーモスの皮は外套にしたのか」
ヤクラスがキルロの羽織る、黒の外套を触りながら笑顔を見せる。
「ヤクラスの所は違うのか? 他にやりようが思いつかなくて」
「オレらは鎧に練り込んだって感じかな」
「練り込む? そんな事出来たのか」
「まぁ、いろいろ試してみてね。加工する際に鉄の中に放り込んだ」
「それでもいけるのか」
「問題ない」
手を動かしながら他愛のない会話を続ける。
いつの間にか空気は弛緩していた。悲しみは依然として覆っているのだが、前へ進もうという意識が芽生えていた。
だが、その空気は一瞬で黒く塗り替わる。
「なんかくる! なんだ⋯⋯あれ? 地面が動いている!?」
見張りをする狼人が目を剥いた。
地面が黒く染まり始め、その奥にオークの巨体を散見する。
地面を黒く染めているのは見渡す限りのゴブリンの群れ、いや塊だ。
それもゴブリンの上位種、ホブゴブリン亜種だった。
「構えろ!」
キルロの叫びに呼応する、作業の手を止め一斉に武器を手にした。
「魔術師! 詠唱を始めろ!」
ミルバの声が響く、魔術師達が自らの手に光を収束していく。
悲しみが憤りへと変わって行く。
まるで地面が蠢くかのようにびっしりと埋め尽くすホブゴブリン。その異様な光景に多くの人間が険しい顔を見せた。
キルロ達【スミテマアルバレギオ】は冷静にその様子を見つめる。
何度目かのその光景、誰かが仕組んだという事は明白。
そして、仕組んだのが誰であるかも明白だった。
「シャロン! 怪我人を一か所に集めてくれ。キノ、怪我した人達を守ってくれよ」
キルロはキノの頭にポンと手を置くと、キノはシャロンの元へと駆け出した。
攻めて来るってのは、どういう了見だ? 兎人のテイムなら何かを守れという単純な指示だけなはず⋯⋯。
【果樹の森】もラミアも背後に守るべきものがあった。
コイツ(ホブゴブリン)らは何を守る? それとも齧ったのか。
「キルロ!」
逡巡しているキルロにハルヲの声。
シルやミルバ、【ルプスコナレギオ】の面々に【スミテマアルバレギオ】。
主要所が顔を集める、剣呑な表情でこの状況を精査していた。
うだうだと考え込んでいる時間はない、火力でゴリ押しするしかない。
「この襲撃の裏にはヤツらがいる。という事はこの襲撃も何かしらの意味があるのかもしれないが、今はそんな事考えている余裕はない。まずは殲滅する」
厳しい目つきで頷き合った。
そんな中、ミルバだけが小首を傾げる。
「なんでモンスターの襲撃の裏にヤツらがいるのだ?」
「詳しくはあとだ。ヤツらはモンスターをある程度、操れる術を持っている」
「あれだけの数を操っているのか? テイムか?」
「いや、違う。ここを襲撃するように仕向けていると考えればいい」
ミルバは納得仕切れていないようだ。
キルロは嘆息しながら続ける。
「ミルバ、やる事は一緒だ。殲滅するだけだ。だろ?」
「おお、確かにそうだ!」
単純明快、やる気を見せるミルバにキルロは苦笑いを向ける。
「お話はここまでだ。来るぞ!」
マッシュが入口を顎で指した。
地響きが聞こえる、わさわさと蠢く気配が遠くからでも伝わってくる。
ギチギチと気持ちの悪い哭き声が地表から湧き上がり、血走る目を真っ直ぐに向け、蹂躙せんと見渡す限りの黒い塊が襲って来ていた。
「遠めから叩けるだけ叩け! 魔術師!」
ミルバの掛け声に魔術師達が前に出た。
前方に手をかざすと、色とりどりの光を放つ。
放つ光は横一閃。
炎を巻き上げ、風が舞い、氷の刃が前線のホブゴブリンを次々に吹き飛ばしていった。
体は千切れ、首はもげ、宙を舞う。
無残な姿で転がるいくつもの躯を、一瞥する事なく踏みつけ、黒い進軍は続く。
レグレクィエス(王の休養)を蹂躙すべくその足を止める事はなかった。
「弓師! 出し惜しみするな! 放て!」
シルが弓を構え、叫んだ。
【ノクスニンファレギオ】の弓師を中心に弓を構えていく。
次々に放つ矢が確実にホブゴブリンの眉間を射抜いていった。
相当数屠っているはずのに、地表は依然黒く覆われたまま。
迫り来る見渡す限りの黒い塊。
小さくなっていかない、その姿にミルバとシルに焦燥が募っていく。
「どんだけいるのよ⋯⋯」
ぽつりと呟きながらシルは矢を放つ、終わりの見えない感じが表情を曇らせた。
「魔術師! 次!」
ミルバの掛け声に横一閃、いくつもの光がホブゴブリンを再び吹き飛ばしていく。
それでも迫り来る黒い塊は止められない。
シル達が矢を放つ横でミルバが大剣を構え、ユトも剣を握っていた。
「魔術師は援護に回れ、お前達! 暴れるぞ!」
「弓師も援護! ちょっと行ってくるんで、あとは宜しくね」
ミルバが大剣を振りかぶり、シルは弓を剣に持ち替えた。
飛び込むふたりのあとを追うように、武器を携えた者達が黒い塊へと飛び込んでいく。
ミルバの一振りでホブゴブリンの首が三つ四つと跳ねた。
シルの切っ先がホブゴブリンの眉間を貫く。
ユトが斬り刻み、ヤクラスが、ミアンが黒い群れへと飛び込み亡き者にしていった。
血溜まりを踏みしめ、血まみれになりながらも濁る瞳を向け、爪を立て、牙を剥く。
いくら斬り刻もうが、首が飛ぼうか怯む事はない。
頬に、腕に、爪を立てられ、首元に牙を剥いて来る。
足を踏みしめれば、血溜まりの血が跳ね足元を汚して行く。
獣のイヤな臭いと鉄の臭い。
『キシャアア』
ホブゴブリンが哭き声と共に飛び込んで来る。
避けるスペースなどは存在しない、ひたすらに剣を振った。
ミルバもシルも肩で息をする。
病み上がりに近いユトの顔から余裕はすでに消えている。
ヤクラス達も終わりの見えない戦場に、集中を切らさぬよう踏ん張りを見せていた。
ミルバを襲う爪をシルが斬り捨てる。
ヤクラスに剥く牙をミアンが首ごと跳ねていた。
肩で息するユトの隣では、ホブゴブリンの眉間に矢が突き刺さり崩れ落ちていく。
「ウッ」
「クソッ!」
飛び込んだ人間の呻きや嘆きが、哭き声に混じり耳を掠めていく。
何匹ものホブゴブリンに飛びつかれ、身動きが取れなくなると、助ける間もなく地面へと沈んでしまった。
一瞬の出来事に何も出来ない。
ミルバが、シルが、その光景に目を剥くと瞳の奥に憎悪の炎を燃やす。
それでも、地面へと沈む人間が後を絶たない。
黒い塊がまるでひとつの生き物のように人を飲み込んでいく。
「ひとりになるな! 距離を開けすぎるな! クソッ! 邪魔だ!」
ミルバが大剣を振りながら叫ぶ、飛び込んで行けない自分に腹を立て吠える。
体中から血が流れ、皮膚の上を汗と一緒に落ちて行く。
これがヤツらの仕組んだ事なら、ヤツらの手のひらで遊んでいるだけではないか。
ミルバの怒りが頂点に達する。
「オラアァアァァァ! どけっ!」
群がるホブゴブリンを薙ぎ払い、ひとり奥へと突っ込んで行く。
ミルバのその姿を視界に掠めたヤクラスが舌を打つ、まずい。
冷静さを欠いたミルバの姿に顔をしかめる。
「ミルバ! 行くな!」
ヤクラスの叫びにシルはミルバを一瞥する。
ヤクラスにひとつ頷いて見せると急いでミルバのあとを追った。
カズナの刃がホブゴブリンの首元を掻き切った。
塊からはぐれたのだろう、血走る目に生気はもうない。
【スミテマアルバレギオ】が大きく右方に展開していく。
【スミテマアルバレギオ】と【ルプスコナレギオ】は後ろに控えるオーク亜種を討ちに出ていた。
キルロのこの提案に難色を示す者はいない、ふたつのパーティーが大きく左右に展開し後方からこの黒い塊を挟み撃ちにする。まず落とすべきは後ろで守られているオーク亜種。
「団長、初めてを思い出すな」
マッシュが不敵な笑みを浮かべる。
「あん時は苦労したよ、大変だったよな」
「アハハハ、そういやそうだったな。どれだけ成長したか分かるな」
「成長してない可能性もありえる」
「ハハ、そりゃないわ。ちゃんと成長しているさ」
キルロの目に映るいくつものオークの巨躯。
オークの姿が大きくなるにつれ、鼓動も早くなっていく。
成長しているのかな? 実感はないが、マッシュの言葉を信じよう。
「シッ!」
カズナがオークの懐へ飛び込んだ。
「【電撃】」
エーシャが群がるホブゴブリンに照準を合わす。
ハルヲが剛弓を構え、ユラが杖を振るう。
フェインの拳が脇腹を抉り、マッシュの刃は喉元に穴を開けた。
まさに瞬殺。
キルロの眼前で巨躯は崩れ落ちた。
「出る幕なしかよ」
キルロの嘆きをよそに【スミテマアルバレギオ】は次へと照準を合わせていった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる