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追跡
音の鳴る方
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降り止まぬ雨はぬかるみを深くし、足元をすくい不安定にさせた。
一瞬のミスに命を落とす現状。神経をすり減らし、消耗は激しい。
雨が体温を奪っていき、体力をすり減らしていった。
ドルチェナも肩で息をし、体中から垂らす血を雨が滲ませていく。
足元に沈む獣人には脇目も振らず、目の前の敵へと向かった。
いつまで続くか分からぬ戦いと、いつまで降り続けるのか分からぬ雨が体に重くのしかかっていく。
ロクも、シモーネも、雨に流れた血の跡が体中に散見した。
またひとり獣人が倒れ、泥水が跳ねる。
ドルチェナ達の低い呻きと荒い呼吸が、打ち付ける雨音に吸われていく。
大きく息を吐き出し、また次へと飛び込んで行った。
割れた右の脛。
体重を掛ける事も出来ず、右脚はぬかるみに触れているだけだった。
自慢の足を封じられ、鋭く睨む眼光が手斧と共にカズナに迫る。
両手から繰り出す、斧の重い斬撃。
小さいゆえ、鋭く振るその太刀筋は鋭い。
カズナは下がる事しか出来ず、手に付けた小さな刃で斧を受け流すだけだった。
アッシモの瞳から油断は見て取れない、重い一撃がカズナを襲い続ける。
右から左から、踏み込むその一撃をいなす。
「ゴフッ!」
突然の腹部への一撃。
カズナが胃からせり上がる吐瀉物をぬかるみへとぶちまける。
アッシモの前蹴りが全く見えていなかった。
胃が捻じれ顔を歪まし、口の中のものを全て吐き出す。
荒い呼吸のまま、アッシモへ構え直した。
斧が頭を掠め、左の肩口を擦る。
肉が少しばかり削がれ、血が滲む。
破れた衣服が肩口からみすぼらしく垂れ、抉れた皮膚が露わになった。
カズナは口を開けたまま、荒い呼吸を繰り返し構え直す。
呼吸を整える隙さえ与えて貰えない。
この防戦一方の状況を打破する一手を模索する。
脚が壊れるのを覚悟で突っ込むしかないのか。
キルロがいれば躊躇なく行くのだが、この状況ではただの愚行になる恐れもある。
ぬかるむ左の足元に力を込める、覚悟を決めた。
アッシモが突っ込んできたら躊躇するな、振り抜け。
手斧を交差させ突っ込むアッシモの姿を睨む。
アッシモの頭が沈む。
予想の軌道と違う動きに一瞬の戸惑いがカズナに生まれた。
アッシモの斧はカズナの左足を狙い、深く潜行する。
左足を狙う斧が振られていく。
目を剥くカズナが、左足一本で前方へと咄嗟に跳ねた。
アッシモは頭上を越えていくカズナを追うように、斧の軌道を強引に上へとかち上げる。
アッシモの斬撃がカズナの右腕を捉えた。
「クッ⋯⋯」
カズナの体はアッシモの頭を飛び越え、前方へと転がって行く。
勢い良く泥を跳ねながら転がると、カズナの右腕から血が噴き出していた。
ズキズキと熱を帯びる傷口を、雨粒が冷やしていく。
不思議とそこまでの痛みは感じ無い。
だが、思うように右腕が動かず、カズナの顔から余裕が消えていく。
一撃必殺を狙う大味な攻撃を、してこないのが厄介ダ。
力で押す斧使いのクセに、攻撃は確実性を持って理詰めで攻めて来る。
隙が見えない、じわじわと追い詰められていく。
クソ。
空気が変わる。
こちらが動けない事がバレたか? いよいよ仕留めに入るつもりか?
カズナは上がらない腕で構え直す、受け止められるのか?
疑問形にするな、弱気を見せるな。
自身を鼓舞し対峙する。
横からの一振り、体を反らし避ける。
アッシモの口元が綻んだのが一瞬見えた。
誘われた。
アッシモはすぐさま二の太刀を振り下ろす。
カズナは反ったまま強引に後ろへ跳ねる、斧の軌跡が軽装備の胸を擦り、剝き出しとなった腹部を切り裂いていく。
「チッ」
アッシモが仕留め損なった悔しさを隠さない。
後ろに跳ねた分だけ浅くなったが、状況はまずくなる一方。
カズナが腹部を押さえ、ゆらりと立ち上がる。
体中から出血が止まらない、それでもボロボロの兎は立ちはだかった。
何かが出来るとは思えない、大人しく寝ていればいいのにと、弱気の自分が顔をもたげる。
それでも左手一本で辛うじて構える、滾らせろと自身を鼓舞した。
斧が迫る、気を抜けばそれはすぐに届く。
折れるなと鼓舞しても、すでに体は言う事を聞いてはくれない。
緩慢な動きで、斧を弾く。
すかさず振り下ろす斧を睨む、カズナは動かない体にイラつき舌打ちをした。
グリっと曲がった鼻を真っ直ぐに戻す。
ダラダラと流れ落ちる血は止まらない。
一筋縄で行く相手とは思ってはいなかったが、こうも厄介とは。
マッシュは溜め息まじりに息を吐きだし、クックを睨み直した。
再び、ふたりの刃が切り結ぶ。
両手で振り下ろすクックの一撃にマッシュが押されていく。
マッシュは横にクルっと回転し、クックの剣をいなした。
そのまま長ナイフを横一閃、クックの頬を切裂く。
縦に横にマッシュは振り続けた。
形勢はめまぐるしく入れ替わっていく。
切り裂かれたクックの衣服が所々口を開き、マッシュも鼻から口にかけて雨粒が流しても、流しても、とめどなく血が流れ落ちていた。
猫にやられた傷もうずく、こちらがやや不利ってところか。
ま、それがどうしたって話だよな。
マッシュは微笑し、三度突っ込む。
振り下ろされるクックの狙いすました剣。
チッ! 躱せるか?!
狙いすます軌道から身体を捻る。
致命的な一撃は逃れた。だが、肩を掠めたクックの刃、付いた血の跡は雨に流れていく。
また傷口を増やしたな。
ま、どうって事ない。
自身に言い聞かせ、さらに一歩踏み込んだ。
微笑を浮かべるマッシュに目を剥くクック。
その焦る顔が見たかったんだよ。
マッシュが長ナイフを斬り上げる。
!!
マッシュの刃がクックの胸を切り裂き、苦し紛れに振り下ろしたクックの剣はマッシュの肩口に食い込む。
また、浅いか。
クックの胸元がじわじわと赤く染まり、雨がそれを滲ませていった。
致命傷にはまたしても遠い、しぶとい。
肩で息するふたりがまた睨み合い、互いの隙を伺っていく。
体中がいてえ、団長がいねえのは、こういう時つれえなぁ。
ユラは脇腹を押さえ、ゆっくりと下がっていった。
マッシュすまんのう。
深呼吸してみる、脇腹に激痛が走り大きく息を吸えなかった。
一歩引いて見る戦況は芳しいとは言えない。
ドルチェナ達も善戦しているが、いかんせん数のゴリ押しに苦戦している。
お、そうだった。
ハルヲから貰った回復薬の存在を思い出し、腰のポーチからアンプルを取り出すと急いで口を折った。
「うわぁっ、まっずぅうう」
毒々しい色合いを一気に飲み干す。
顔をしかめつつも、痛みが和らぐのを感じた。
「よし、治った」
少しだけ改善した痛みに、周りを見渡す。
あれはヤバイな。
ユラが駆け出す。
やっぱりいてえな、けどまずい薬飲んだから、もう大丈夫。
⋯⋯なはず。
自分に言い聞かせ、急ぐ。
間に合え。
斧の軌道は、カズナの脳天を捉えていく。
緩慢な動きで斧に抗する、振り上げる左腕はまるでスローモーションのようだった。
小さな影がカズナの前へ滑り込む。
大きな盾が小さな斧を、激しい金属音と共に受け止めた。
「ボーっとするな! ほれ」
後ろ手に回復薬をカズナに投げた。
アッシモと対峙するユラの後ろで、一気に飲み干す。
「助かっタ」
「まだだぞ」
和らぐ痛みにカズナの目に力が戻る。
ユラが盾で重い斧の斬撃を受け止める。
その影から、カズナが腕を伸ばし、刃を向けた。
カズナの刃が少しずつ届き始める。
ユラの守りを信頼し、刃を届かす事だけを考えた。
カズナの刃を信じて、斧を受け止める事だけを考えた。
じりじりとユラが前への圧を上げていくと、アッシモの勢いが少し、また少しと削れていく。
あと一押しが届かない。
掠るカズナの刃がアッシモの皮膚に口を開けていくが、最後のところで躱されてしまう。
こちらが負傷しているとはいえ、ふたり掛かりで互角に近いとは。
ようやくアッシモが肩で息をし始めた。
そうか、こっちも苦しいが、そっちも苦しいよな。
「こっちだ!」
ピッポの声が響いた。
降りしきる雨の中、数十人の影が見える。
【猫の尻尾亭】店長の猫人クロルを筆頭に、【ブラウブラッタレギオ(青い蛾)】の団員でもある従業員達が次々に顔を出す。
戦場の様子を見るなり一斉に突っ込んだ。その姿を冷静にアッシモは見つめていた。
「クック!!」
アッシモが叫ぶとクックはすぐに後ろに跳ねる。
させまいとマッシュが突っ込み、ユラとカズナもアッシモに迫った。
アッシモとクックが、ほぼ同時に玉に火を点け地面に投げつける。
激しい光が周辺を包む。
またか。
目を開けると、目の前すらままならない程の白い煙に覆われていた。
「逃がすなよ!」
マッシュが叫ぶ。
すぐ近くで、馬の蹄の音が聞こえる。
「馬の方だ! 急げ!」
蹄の鳴る方へと、音を頼りに動けるもの達が一斉に駆け出した。
ぬかるむ地面に足を取られながら、必死に地面を蹴る。
煙が晴れて行くと、視界が開けて来た。
馬の方を一同が睨んだ。
一頭の裸馬が、雨の森を軽快に駆けまわっている。
遅れて追いかけたユラとカズナが立ちすくむマッシュの姿に、また出し抜かれた事を悟った。
「また、やられちまったか」
「こいつは、相当に悔しいな」
マッシュが珍しくイラ立ちを露わにした。
土砂降りの雨が打ち付ける。
体は冷えていくが、心の中は煮えたぎっていた。
一瞬のミスに命を落とす現状。神経をすり減らし、消耗は激しい。
雨が体温を奪っていき、体力をすり減らしていった。
ドルチェナも肩で息をし、体中から垂らす血を雨が滲ませていく。
足元に沈む獣人には脇目も振らず、目の前の敵へと向かった。
いつまで続くか分からぬ戦いと、いつまで降り続けるのか分からぬ雨が体に重くのしかかっていく。
ロクも、シモーネも、雨に流れた血の跡が体中に散見した。
またひとり獣人が倒れ、泥水が跳ねる。
ドルチェナ達の低い呻きと荒い呼吸が、打ち付ける雨音に吸われていく。
大きく息を吐き出し、また次へと飛び込んで行った。
割れた右の脛。
体重を掛ける事も出来ず、右脚はぬかるみに触れているだけだった。
自慢の足を封じられ、鋭く睨む眼光が手斧と共にカズナに迫る。
両手から繰り出す、斧の重い斬撃。
小さいゆえ、鋭く振るその太刀筋は鋭い。
カズナは下がる事しか出来ず、手に付けた小さな刃で斧を受け流すだけだった。
アッシモの瞳から油断は見て取れない、重い一撃がカズナを襲い続ける。
右から左から、踏み込むその一撃をいなす。
「ゴフッ!」
突然の腹部への一撃。
カズナが胃からせり上がる吐瀉物をぬかるみへとぶちまける。
アッシモの前蹴りが全く見えていなかった。
胃が捻じれ顔を歪まし、口の中のものを全て吐き出す。
荒い呼吸のまま、アッシモへ構え直した。
斧が頭を掠め、左の肩口を擦る。
肉が少しばかり削がれ、血が滲む。
破れた衣服が肩口からみすぼらしく垂れ、抉れた皮膚が露わになった。
カズナは口を開けたまま、荒い呼吸を繰り返し構え直す。
呼吸を整える隙さえ与えて貰えない。
この防戦一方の状況を打破する一手を模索する。
脚が壊れるのを覚悟で突っ込むしかないのか。
キルロがいれば躊躇なく行くのだが、この状況ではただの愚行になる恐れもある。
ぬかるむ左の足元に力を込める、覚悟を決めた。
アッシモが突っ込んできたら躊躇するな、振り抜け。
手斧を交差させ突っ込むアッシモの姿を睨む。
アッシモの頭が沈む。
予想の軌道と違う動きに一瞬の戸惑いがカズナに生まれた。
アッシモの斧はカズナの左足を狙い、深く潜行する。
左足を狙う斧が振られていく。
目を剥くカズナが、左足一本で前方へと咄嗟に跳ねた。
アッシモは頭上を越えていくカズナを追うように、斧の軌道を強引に上へとかち上げる。
アッシモの斬撃がカズナの右腕を捉えた。
「クッ⋯⋯」
カズナの体はアッシモの頭を飛び越え、前方へと転がって行く。
勢い良く泥を跳ねながら転がると、カズナの右腕から血が噴き出していた。
ズキズキと熱を帯びる傷口を、雨粒が冷やしていく。
不思議とそこまでの痛みは感じ無い。
だが、思うように右腕が動かず、カズナの顔から余裕が消えていく。
一撃必殺を狙う大味な攻撃を、してこないのが厄介ダ。
力で押す斧使いのクセに、攻撃は確実性を持って理詰めで攻めて来る。
隙が見えない、じわじわと追い詰められていく。
クソ。
空気が変わる。
こちらが動けない事がバレたか? いよいよ仕留めに入るつもりか?
カズナは上がらない腕で構え直す、受け止められるのか?
疑問形にするな、弱気を見せるな。
自身を鼓舞し対峙する。
横からの一振り、体を反らし避ける。
アッシモの口元が綻んだのが一瞬見えた。
誘われた。
アッシモはすぐさま二の太刀を振り下ろす。
カズナは反ったまま強引に後ろへ跳ねる、斧の軌跡が軽装備の胸を擦り、剝き出しとなった腹部を切り裂いていく。
「チッ」
アッシモが仕留め損なった悔しさを隠さない。
後ろに跳ねた分だけ浅くなったが、状況はまずくなる一方。
カズナが腹部を押さえ、ゆらりと立ち上がる。
体中から出血が止まらない、それでもボロボロの兎は立ちはだかった。
何かが出来るとは思えない、大人しく寝ていればいいのにと、弱気の自分が顔をもたげる。
それでも左手一本で辛うじて構える、滾らせろと自身を鼓舞した。
斧が迫る、気を抜けばそれはすぐに届く。
折れるなと鼓舞しても、すでに体は言う事を聞いてはくれない。
緩慢な動きで、斧を弾く。
すかさず振り下ろす斧を睨む、カズナは動かない体にイラつき舌打ちをした。
グリっと曲がった鼻を真っ直ぐに戻す。
ダラダラと流れ落ちる血は止まらない。
一筋縄で行く相手とは思ってはいなかったが、こうも厄介とは。
マッシュは溜め息まじりに息を吐きだし、クックを睨み直した。
再び、ふたりの刃が切り結ぶ。
両手で振り下ろすクックの一撃にマッシュが押されていく。
マッシュは横にクルっと回転し、クックの剣をいなした。
そのまま長ナイフを横一閃、クックの頬を切裂く。
縦に横にマッシュは振り続けた。
形勢はめまぐるしく入れ替わっていく。
切り裂かれたクックの衣服が所々口を開き、マッシュも鼻から口にかけて雨粒が流しても、流しても、とめどなく血が流れ落ちていた。
猫にやられた傷もうずく、こちらがやや不利ってところか。
ま、それがどうしたって話だよな。
マッシュは微笑し、三度突っ込む。
振り下ろされるクックの狙いすました剣。
チッ! 躱せるか?!
狙いすます軌道から身体を捻る。
致命的な一撃は逃れた。だが、肩を掠めたクックの刃、付いた血の跡は雨に流れていく。
また傷口を増やしたな。
ま、どうって事ない。
自身に言い聞かせ、さらに一歩踏み込んだ。
微笑を浮かべるマッシュに目を剥くクック。
その焦る顔が見たかったんだよ。
マッシュが長ナイフを斬り上げる。
!!
マッシュの刃がクックの胸を切り裂き、苦し紛れに振り下ろしたクックの剣はマッシュの肩口に食い込む。
また、浅いか。
クックの胸元がじわじわと赤く染まり、雨がそれを滲ませていった。
致命傷にはまたしても遠い、しぶとい。
肩で息するふたりがまた睨み合い、互いの隙を伺っていく。
体中がいてえ、団長がいねえのは、こういう時つれえなぁ。
ユラは脇腹を押さえ、ゆっくりと下がっていった。
マッシュすまんのう。
深呼吸してみる、脇腹に激痛が走り大きく息を吸えなかった。
一歩引いて見る戦況は芳しいとは言えない。
ドルチェナ達も善戦しているが、いかんせん数のゴリ押しに苦戦している。
お、そうだった。
ハルヲから貰った回復薬の存在を思い出し、腰のポーチからアンプルを取り出すと急いで口を折った。
「うわぁっ、まっずぅうう」
毒々しい色合いを一気に飲み干す。
顔をしかめつつも、痛みが和らぐのを感じた。
「よし、治った」
少しだけ改善した痛みに、周りを見渡す。
あれはヤバイな。
ユラが駆け出す。
やっぱりいてえな、けどまずい薬飲んだから、もう大丈夫。
⋯⋯なはず。
自分に言い聞かせ、急ぐ。
間に合え。
斧の軌道は、カズナの脳天を捉えていく。
緩慢な動きで斧に抗する、振り上げる左腕はまるでスローモーションのようだった。
小さな影がカズナの前へ滑り込む。
大きな盾が小さな斧を、激しい金属音と共に受け止めた。
「ボーっとするな! ほれ」
後ろ手に回復薬をカズナに投げた。
アッシモと対峙するユラの後ろで、一気に飲み干す。
「助かっタ」
「まだだぞ」
和らぐ痛みにカズナの目に力が戻る。
ユラが盾で重い斧の斬撃を受け止める。
その影から、カズナが腕を伸ばし、刃を向けた。
カズナの刃が少しずつ届き始める。
ユラの守りを信頼し、刃を届かす事だけを考えた。
カズナの刃を信じて、斧を受け止める事だけを考えた。
じりじりとユラが前への圧を上げていくと、アッシモの勢いが少し、また少しと削れていく。
あと一押しが届かない。
掠るカズナの刃がアッシモの皮膚に口を開けていくが、最後のところで躱されてしまう。
こちらが負傷しているとはいえ、ふたり掛かりで互角に近いとは。
ようやくアッシモが肩で息をし始めた。
そうか、こっちも苦しいが、そっちも苦しいよな。
「こっちだ!」
ピッポの声が響いた。
降りしきる雨の中、数十人の影が見える。
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戦場の様子を見るなり一斉に突っ込んだ。その姿を冷静にアッシモは見つめていた。
「クック!!」
アッシモが叫ぶとクックはすぐに後ろに跳ねる。
させまいとマッシュが突っ込み、ユラとカズナもアッシモに迫った。
アッシモとクックが、ほぼ同時に玉に火を点け地面に投げつける。
激しい光が周辺を包む。
またか。
目を開けると、目の前すらままならない程の白い煙に覆われていた。
「逃がすなよ!」
マッシュが叫ぶ。
すぐ近くで、馬の蹄の音が聞こえる。
「馬の方だ! 急げ!」
蹄の鳴る方へと、音を頼りに動けるもの達が一斉に駆け出した。
ぬかるむ地面に足を取られながら、必死に地面を蹴る。
煙が晴れて行くと、視界が開けて来た。
馬の方を一同が睨んだ。
一頭の裸馬が、雨の森を軽快に駆けまわっている。
遅れて追いかけたユラとカズナが立ちすくむマッシュの姿に、また出し抜かれた事を悟った。
「また、やられちまったか」
「こいつは、相当に悔しいな」
マッシュが珍しくイラ立ちを露わにした。
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