208 / 263
追跡
調教師と狼ときどき尋問
しおりを挟む
「キノ! アルタスとクレアと遊んでらっしゃい」
「あいあーい。行くぞー」
どことなく口調がキルロに似てきた気がするわね。
ハルヲは部屋を飛び出して行く姿を眺めながら、関係のない事を思っていた。
剣呑な雰囲気が漂い始めた客間、落ち込むばかりのネガティブな雰囲気から空気の変化が漂う。
シルが眉間に皺を寄せて、深く思考を巡らし、思考回路を追跡者のそれへと切り替えていく。
静かな時が流れる、必要な時間だ。
思いを巡らし、今考えるべき最適解を導く為に。
ハースがおもむろに手を上げた、一同の視線がハースに向く。
それを確認して、ハースは口を開いた。
「団長に取り急ぎ報告に行くべきです。カイナは団長の所に行くと言っていたが、行っていない可能性が高い。つまり今回の獣人街の件すら、知らない可能性があります」
「確かに。でも、私の立場からあなた達が動くのは容認出来ない。変わりに私達が伝えに行くのではダメかしら?」
「お言葉は有り難いですが、自分達が行った方が話は早いです。私が行きます。四人の中では一番軽傷ですし、もう動けます」
ハースの言葉を受け、ハルヲは腕を組んだ。
カイナと副団長セルバの裏切り行為の大きな可能性。
確かに早急な対応が必要な案件だ。
「ハル、ヘッグ貸して、私がハースと行ってくるよ。サッサと動こう」
エーシャが立ち上がり、ハースに手を差し出した。
善は急げ、ってやつか。
ハルヲも渋々と了承していく。
「エーシャの言う通りね。迷っている時間はない、すぐに準備させる。ふたりとも宜しく」
ふたりは頷き客間をあとにした、ヘッグの足ならすぐだ。
片づけなくてはいけない問題を、どう片づければいいのか。
まるで濃い霧にでも包まれて見えてこない。
「これはなかなか堪えるわね」
シルが嘆息しながら呟く。
悩む姿を見せながらも、いつもの弓なりの双眸を見せた。
シルの強さだ。
嫉妬にも似た羨望を、その強さにいつも感じる。
「強いわね。私が同じ立場だったら、しばらくは立ち上がれない」
「ハルの方が何倍も強いわよ」
「??」
「フフ、まぁいいじゃない、お互いにないものねだりって事で」
シルの顔にいつもの微笑みが戻った。
すりガラスに映る炎が、紫桃色を照らし出す。
下世話なほど豪奢な部屋の真ん中に、ポツリと置かれた椅子。
袋を被った猫人が、その似合わぬ巨躯を椅子へと縛り付けていた。
恐怖からガタガタと震え、忙しなく首を振り無駄な抵抗を繰り返す。
さて、コイツがどれだけの情報を持っているのか。
「ツケの利く店じゃ。ゆっくり話を聞こうかのう」
ロクが猫人の肩に手を回し耳元で囁いた。
次は何が起こるのか、未知への恐怖に体を硬直させる。
真っ暗闇に漂う只ならぬ空気を感じ、目に涙を浮かべていた。
袋が少しずらされ、さるぐつわが外される。
荒い吐息と共に罵詈雑言を飛ばし、強がりを見せた。
一同がやれやれと嘆息していく。
こりゃあ、落ち着くまで時間掛かるな。
「ああん! もう、コイツうるさい!」
犬人のシモーネが耳を塞いだ。
カズナが首元に冷たい刃を当てると、一気に静かになっていく。
「さて、おまえさん名前は? こっちが聞く事に素直に答えてくれるなら命は取らんよ」
マッシュの言葉を受け、カズナが手に力を込める、刃が首の皮膚を軽く押し込んでいく。
じっと荒い呼吸を繰り返し、観念した。
「ゲビン⋯⋯」
「よし、ゲビン。アルバ襲撃は誰の引き金だ?」
「誰でもない。オレ自身の考えだ」
やはり、裏で糸を引いているヤツはいないか。
ロクやシモーネは、明らかにその答えに疑いの眼差しを向けるが、裏で大物が糸を引いているならばコイツみたいな玄人を雇って狙うはずだ。
コイツ自身で動いたってのは、まんざら嘘じゃあない。
「勝手に動いて、おまえさんの直上のセロだっけ、怒ると思わなかったのか?」
マッシュの言葉を聞いて、ドルチェナ達はマッシュに驚きを隠さなかった。
いつ間にそんな情報を得たというのか、マッシュの方を見やると軽く肩をすくめておどけて見せる。
その仕草にマッシュがカマを掛けたと理解し、苦笑いを浮かべていく。
ドルチェナだけは、羨望の眼差しをマッシュに向けた。
「成果が上がれば、怒るとは思わない」
「ゲビン、そいつは違うぞ。あれは勝手に動く事を許さないタイプだ。摂政とは面識あるのか?」
「ない」
即答するゲビンにマッシュは思う。
コイツ頭は回らない。
直属の実働隊って所か。
「摂政から直での仕事もあるんだな」
「いや⋯⋯ない」
「おまえさんのその“ない”は“ある”って言っているのと変わらんぞ」
マッシュは溜め息まじりに言う。
マッシュがドルチェナに顎でゲビンを指した。
ドルチェナは一瞬喜々とした表情を浮かべるが、すぐに厳しい目つきでゲビンを睨んだ。
ドルチェナは爪を切る為のハサミをシモーネに投げると、シモーネはパチパチとハサミを軽快に鳴らした。
「あれれれ、あなた爪が伸びていますね。私が切って差し上げましょう。さぁ、手を広げて」
「な、何、言ってやがる? 爪なんかどうでもいいじゃあねえか!?」
「気になるでしょう、さぁさぁ」
「ふ、ふざけんな。何言ってやがる⋯⋯」
「はぁ~、言う事聞かない悪い子はこうですね。エイッ」
シモーネはサクリと、あっさり手の甲にハサミを突き立てた。
ハサミは手を貫通して、刃先から血を滴らせる。
「いってぇええええーー! なに、なにしやがる、頭イカれてるぞ」
「何コイツ、すごい失礼なんだけど! 言う事聞かなかったのはそっちでしょう? 悪いのはどっちよ。あとコイツうるさい。舌切っていい?」
シモーネの言葉に一瞬で黙った。
躊躇のないシモーネに袋の中の顔は蒼ざめていく。
「な、だから嘘つくなって。洗いざらい話しちまえば、それで終いだ」
押し黙るゲビンに、マッシュは盛大な溜め息をついた。
「ゲビン、お話しが出来ないなら、おまえさんがここいる理由はない。解放するしかないか」
ゲビンの目が見開く、解放される。
この現状を打破せねば、コイツらは後でゆっくりと見つけ出してやればいい。
今はこの状況から逃れるのが第一。
少しばかり見出した光にゲビンはすがった。
「仕方ない。解放するか」
よし。
ゲビンは心の中で叫ぶ。
「あ、でも仕返しとか考えていると困るんで実でも飲ますか。これ本当に効くのかな? 西の建築予定地でたんまりと手に入ったけど。2、3粒飲ませてみれば分かるってヤツか。脳みそもいい感じにトロトロだったけ? なぁ、ゲビン」
何言っている? あの実を持っている? 嘘だ。ハッタリだ。
でも、西の建築って、あそこの居たやつらか。
倒した奴らから奪い取るのは容易い。
ゲビンの中でじわりとマッシュの言葉の信憑性が増していく。
袋の中で呼吸が荒くなる。
その姿を見つめマッシュは、ほくそ笑む。
「よし。じゃあ、口を出してくれ実を突っ込んじまおう」
袋を少し上げ口を剝き出しにした。
荒い呼吸が手に取るように分かる。
「さあて、どんな感じにとろけるのかねぇ」
ロクが顔を押さえ、ドルチェナが両頬を力一杯挟んでいく。
首を振って必死に逃れようとするがふたり掛かりになす術はない。
「言う! 言う! 言う!」
口ごもりながら叫ぶ声にマッシュはドルチェナに合図を出した。
解放されたゲビンは、荒い息を整えていく。
袋が再び被せられ、意気消沈した姿を見せた。
「残念だな。とろける様を見てみたかったんだが。お話しする気になったのなら仕方ない。さて、おまえさんの直上はセロ、セロを通じて摂政からの仕事ってのが、あったはずだ。最近あった仕事を話せ」
うな垂れるゲビンがそのままの姿でとつとつと話し始めた。
「小人族の抹消、オレは参加していない。工房の建築、延期になった。近々では古い避難経路の埋め立てと、新しい避難経路の工事」
一同が頷き合う、目新しい情報はなかったが逆に嘘をついていない確認が取れた。
実際コイツは現場で指揮を取る側に違いない。
「新しい経路は何本作るんだ?」
「六本」
「完了しているのは?」
「一本」
ゲビンの覇気のない受け答えに室内は静まり返り、集中して言葉を拾っていく。
「近々、完成する予定の経路は?」
「知らない。本当だ。多分まだ手すらつけていないと思う」
一斉に作るわけではなく、一本を突貫工事で完成させた。
なぜ? そんなに急いだ?
そもそも、使われた所は潰すにしても出入口だけ変えればいいのに、なぜわざわざ全部潰した? ヤツの性格もあるが腑に落ちんな。
「なんで、わざわざ全部潰した? 埋めるのだけでも相当な労力だ」
「全部は埋めていない。入口近辺を埋めただけだ。経路は生きている」
「解せんな。経路を埋める時間が無かったのか?」
「分からない。経路は残せという指示だった」
「なんで、一本だけ急いだ?」
「分からない⋯⋯、あ、人を迎え入れるからとか何とか、摂政達が話しているのが聞こえた」
「誰を?」
「話の感じからヒューマンかも、街中は目立つとか言っていた」
マッシュが目を細めた。
このタイミングでヒューマンを、こそこそ迎え入れる⋯⋯。
ドルチェナを見やると猫人のピッポとシモーネの獣人のコンビに目で合図を出した。
ふたりは直ぐに避難経路の見張りに部屋を飛び出して行く。
「そいつがいつ来るか知っているか?」
「さすがにそれは⋯⋯」
もう、合流済なのか、まだなのか、そして誰なのか。
工事は完了したばかり。
完成を伝えてから向かうはずだ。
そこにタイムラグが必ず生まれる。
まだ、間に合うか。
そして、ここにいる全員が頭に描いている人物ならば⋯⋯。
「もしかしたら、大当たりかもしれんな」
紫桃色に照らし出される、マッシュの陰影が顎に手をやった。
「あいあーい。行くぞー」
どことなく口調がキルロに似てきた気がするわね。
ハルヲは部屋を飛び出して行く姿を眺めながら、関係のない事を思っていた。
剣呑な雰囲気が漂い始めた客間、落ち込むばかりのネガティブな雰囲気から空気の変化が漂う。
シルが眉間に皺を寄せて、深く思考を巡らし、思考回路を追跡者のそれへと切り替えていく。
静かな時が流れる、必要な時間だ。
思いを巡らし、今考えるべき最適解を導く為に。
ハースがおもむろに手を上げた、一同の視線がハースに向く。
それを確認して、ハースは口を開いた。
「団長に取り急ぎ報告に行くべきです。カイナは団長の所に行くと言っていたが、行っていない可能性が高い。つまり今回の獣人街の件すら、知らない可能性があります」
「確かに。でも、私の立場からあなた達が動くのは容認出来ない。変わりに私達が伝えに行くのではダメかしら?」
「お言葉は有り難いですが、自分達が行った方が話は早いです。私が行きます。四人の中では一番軽傷ですし、もう動けます」
ハースの言葉を受け、ハルヲは腕を組んだ。
カイナと副団長セルバの裏切り行為の大きな可能性。
確かに早急な対応が必要な案件だ。
「ハル、ヘッグ貸して、私がハースと行ってくるよ。サッサと動こう」
エーシャが立ち上がり、ハースに手を差し出した。
善は急げ、ってやつか。
ハルヲも渋々と了承していく。
「エーシャの言う通りね。迷っている時間はない、すぐに準備させる。ふたりとも宜しく」
ふたりは頷き客間をあとにした、ヘッグの足ならすぐだ。
片づけなくてはいけない問題を、どう片づければいいのか。
まるで濃い霧にでも包まれて見えてこない。
「これはなかなか堪えるわね」
シルが嘆息しながら呟く。
悩む姿を見せながらも、いつもの弓なりの双眸を見せた。
シルの強さだ。
嫉妬にも似た羨望を、その強さにいつも感じる。
「強いわね。私が同じ立場だったら、しばらくは立ち上がれない」
「ハルの方が何倍も強いわよ」
「??」
「フフ、まぁいいじゃない、お互いにないものねだりって事で」
シルの顔にいつもの微笑みが戻った。
すりガラスに映る炎が、紫桃色を照らし出す。
下世話なほど豪奢な部屋の真ん中に、ポツリと置かれた椅子。
袋を被った猫人が、その似合わぬ巨躯を椅子へと縛り付けていた。
恐怖からガタガタと震え、忙しなく首を振り無駄な抵抗を繰り返す。
さて、コイツがどれだけの情報を持っているのか。
「ツケの利く店じゃ。ゆっくり話を聞こうかのう」
ロクが猫人の肩に手を回し耳元で囁いた。
次は何が起こるのか、未知への恐怖に体を硬直させる。
真っ暗闇に漂う只ならぬ空気を感じ、目に涙を浮かべていた。
袋が少しずらされ、さるぐつわが外される。
荒い吐息と共に罵詈雑言を飛ばし、強がりを見せた。
一同がやれやれと嘆息していく。
こりゃあ、落ち着くまで時間掛かるな。
「ああん! もう、コイツうるさい!」
犬人のシモーネが耳を塞いだ。
カズナが首元に冷たい刃を当てると、一気に静かになっていく。
「さて、おまえさん名前は? こっちが聞く事に素直に答えてくれるなら命は取らんよ」
マッシュの言葉を受け、カズナが手に力を込める、刃が首の皮膚を軽く押し込んでいく。
じっと荒い呼吸を繰り返し、観念した。
「ゲビン⋯⋯」
「よし、ゲビン。アルバ襲撃は誰の引き金だ?」
「誰でもない。オレ自身の考えだ」
やはり、裏で糸を引いているヤツはいないか。
ロクやシモーネは、明らかにその答えに疑いの眼差しを向けるが、裏で大物が糸を引いているならばコイツみたいな玄人を雇って狙うはずだ。
コイツ自身で動いたってのは、まんざら嘘じゃあない。
「勝手に動いて、おまえさんの直上のセロだっけ、怒ると思わなかったのか?」
マッシュの言葉を聞いて、ドルチェナ達はマッシュに驚きを隠さなかった。
いつ間にそんな情報を得たというのか、マッシュの方を見やると軽く肩をすくめておどけて見せる。
その仕草にマッシュがカマを掛けたと理解し、苦笑いを浮かべていく。
ドルチェナだけは、羨望の眼差しをマッシュに向けた。
「成果が上がれば、怒るとは思わない」
「ゲビン、そいつは違うぞ。あれは勝手に動く事を許さないタイプだ。摂政とは面識あるのか?」
「ない」
即答するゲビンにマッシュは思う。
コイツ頭は回らない。
直属の実働隊って所か。
「摂政から直での仕事もあるんだな」
「いや⋯⋯ない」
「おまえさんのその“ない”は“ある”って言っているのと変わらんぞ」
マッシュは溜め息まじりに言う。
マッシュがドルチェナに顎でゲビンを指した。
ドルチェナは一瞬喜々とした表情を浮かべるが、すぐに厳しい目つきでゲビンを睨んだ。
ドルチェナは爪を切る為のハサミをシモーネに投げると、シモーネはパチパチとハサミを軽快に鳴らした。
「あれれれ、あなた爪が伸びていますね。私が切って差し上げましょう。さぁ、手を広げて」
「な、何、言ってやがる? 爪なんかどうでもいいじゃあねえか!?」
「気になるでしょう、さぁさぁ」
「ふ、ふざけんな。何言ってやがる⋯⋯」
「はぁ~、言う事聞かない悪い子はこうですね。エイッ」
シモーネはサクリと、あっさり手の甲にハサミを突き立てた。
ハサミは手を貫通して、刃先から血を滴らせる。
「いってぇええええーー! なに、なにしやがる、頭イカれてるぞ」
「何コイツ、すごい失礼なんだけど! 言う事聞かなかったのはそっちでしょう? 悪いのはどっちよ。あとコイツうるさい。舌切っていい?」
シモーネの言葉に一瞬で黙った。
躊躇のないシモーネに袋の中の顔は蒼ざめていく。
「な、だから嘘つくなって。洗いざらい話しちまえば、それで終いだ」
押し黙るゲビンに、マッシュは盛大な溜め息をついた。
「ゲビン、お話しが出来ないなら、おまえさんがここいる理由はない。解放するしかないか」
ゲビンの目が見開く、解放される。
この現状を打破せねば、コイツらは後でゆっくりと見つけ出してやればいい。
今はこの状況から逃れるのが第一。
少しばかり見出した光にゲビンはすがった。
「仕方ない。解放するか」
よし。
ゲビンは心の中で叫ぶ。
「あ、でも仕返しとか考えていると困るんで実でも飲ますか。これ本当に効くのかな? 西の建築予定地でたんまりと手に入ったけど。2、3粒飲ませてみれば分かるってヤツか。脳みそもいい感じにトロトロだったけ? なぁ、ゲビン」
何言っている? あの実を持っている? 嘘だ。ハッタリだ。
でも、西の建築って、あそこの居たやつらか。
倒した奴らから奪い取るのは容易い。
ゲビンの中でじわりとマッシュの言葉の信憑性が増していく。
袋の中で呼吸が荒くなる。
その姿を見つめマッシュは、ほくそ笑む。
「よし。じゃあ、口を出してくれ実を突っ込んじまおう」
袋を少し上げ口を剝き出しにした。
荒い呼吸が手に取るように分かる。
「さあて、どんな感じにとろけるのかねぇ」
ロクが顔を押さえ、ドルチェナが両頬を力一杯挟んでいく。
首を振って必死に逃れようとするがふたり掛かりになす術はない。
「言う! 言う! 言う!」
口ごもりながら叫ぶ声にマッシュはドルチェナに合図を出した。
解放されたゲビンは、荒い息を整えていく。
袋が再び被せられ、意気消沈した姿を見せた。
「残念だな。とろける様を見てみたかったんだが。お話しする気になったのなら仕方ない。さて、おまえさんの直上はセロ、セロを通じて摂政からの仕事ってのが、あったはずだ。最近あった仕事を話せ」
うな垂れるゲビンがそのままの姿でとつとつと話し始めた。
「小人族の抹消、オレは参加していない。工房の建築、延期になった。近々では古い避難経路の埋め立てと、新しい避難経路の工事」
一同が頷き合う、目新しい情報はなかったが逆に嘘をついていない確認が取れた。
実際コイツは現場で指揮を取る側に違いない。
「新しい経路は何本作るんだ?」
「六本」
「完了しているのは?」
「一本」
ゲビンの覇気のない受け答えに室内は静まり返り、集中して言葉を拾っていく。
「近々、完成する予定の経路は?」
「知らない。本当だ。多分まだ手すらつけていないと思う」
一斉に作るわけではなく、一本を突貫工事で完成させた。
なぜ? そんなに急いだ?
そもそも、使われた所は潰すにしても出入口だけ変えればいいのに、なぜわざわざ全部潰した? ヤツの性格もあるが腑に落ちんな。
「なんで、わざわざ全部潰した? 埋めるのだけでも相当な労力だ」
「全部は埋めていない。入口近辺を埋めただけだ。経路は生きている」
「解せんな。経路を埋める時間が無かったのか?」
「分からない。経路は残せという指示だった」
「なんで、一本だけ急いだ?」
「分からない⋯⋯、あ、人を迎え入れるからとか何とか、摂政達が話しているのが聞こえた」
「誰を?」
「話の感じからヒューマンかも、街中は目立つとか言っていた」
マッシュが目を細めた。
このタイミングでヒューマンを、こそこそ迎え入れる⋯⋯。
ドルチェナを見やると猫人のピッポとシモーネの獣人のコンビに目で合図を出した。
ふたりは直ぐに避難経路の見張りに部屋を飛び出して行く。
「そいつがいつ来るか知っているか?」
「さすがにそれは⋯⋯」
もう、合流済なのか、まだなのか、そして誰なのか。
工事は完了したばかり。
完成を伝えてから向かうはずだ。
そこにタイムラグが必ず生まれる。
まだ、間に合うか。
そして、ここにいる全員が頭に描いている人物ならば⋯⋯。
「もしかしたら、大当たりかもしれんな」
紫桃色に照らし出される、マッシュの陰影が顎に手をやった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる