208 / 263
追跡
調教師と狼ときどき尋問
しおりを挟む
「キノ! アルタスとクレアと遊んでらっしゃい」
「あいあーい。行くぞー」
どことなく口調がキルロに似てきた気がするわね。
ハルヲは部屋を飛び出して行く姿を眺めながら、関係のない事を思っていた。
剣呑な雰囲気が漂い始めた客間、落ち込むばかりのネガティブな雰囲気から空気の変化が漂う。
シルが眉間に皺を寄せて、深く思考を巡らし、思考回路を追跡者のそれへと切り替えていく。
静かな時が流れる、必要な時間だ。
思いを巡らし、今考えるべき最適解を導く為に。
ハースがおもむろに手を上げた、一同の視線がハースに向く。
それを確認して、ハースは口を開いた。
「団長に取り急ぎ報告に行くべきです。カイナは団長の所に行くと言っていたが、行っていない可能性が高い。つまり今回の獣人街の件すら、知らない可能性があります」
「確かに。でも、私の立場からあなた達が動くのは容認出来ない。変わりに私達が伝えに行くのではダメかしら?」
「お言葉は有り難いですが、自分達が行った方が話は早いです。私が行きます。四人の中では一番軽傷ですし、もう動けます」
ハースの言葉を受け、ハルヲは腕を組んだ。
カイナと副団長セルバの裏切り行為の大きな可能性。
確かに早急な対応が必要な案件だ。
「ハル、ヘッグ貸して、私がハースと行ってくるよ。サッサと動こう」
エーシャが立ち上がり、ハースに手を差し出した。
善は急げ、ってやつか。
ハルヲも渋々と了承していく。
「エーシャの言う通りね。迷っている時間はない、すぐに準備させる。ふたりとも宜しく」
ふたりは頷き客間をあとにした、ヘッグの足ならすぐだ。
片づけなくてはいけない問題を、どう片づければいいのか。
まるで濃い霧にでも包まれて見えてこない。
「これはなかなか堪えるわね」
シルが嘆息しながら呟く。
悩む姿を見せながらも、いつもの弓なりの双眸を見せた。
シルの強さだ。
嫉妬にも似た羨望を、その強さにいつも感じる。
「強いわね。私が同じ立場だったら、しばらくは立ち上がれない」
「ハルの方が何倍も強いわよ」
「??」
「フフ、まぁいいじゃない、お互いにないものねだりって事で」
シルの顔にいつもの微笑みが戻った。
すりガラスに映る炎が、紫桃色を照らし出す。
下世話なほど豪奢な部屋の真ん中に、ポツリと置かれた椅子。
袋を被った猫人が、その似合わぬ巨躯を椅子へと縛り付けていた。
恐怖からガタガタと震え、忙しなく首を振り無駄な抵抗を繰り返す。
さて、コイツがどれだけの情報を持っているのか。
「ツケの利く店じゃ。ゆっくり話を聞こうかのう」
ロクが猫人の肩に手を回し耳元で囁いた。
次は何が起こるのか、未知への恐怖に体を硬直させる。
真っ暗闇に漂う只ならぬ空気を感じ、目に涙を浮かべていた。
袋が少しずらされ、さるぐつわが外される。
荒い吐息と共に罵詈雑言を飛ばし、強がりを見せた。
一同がやれやれと嘆息していく。
こりゃあ、落ち着くまで時間掛かるな。
「ああん! もう、コイツうるさい!」
犬人のシモーネが耳を塞いだ。
カズナが首元に冷たい刃を当てると、一気に静かになっていく。
「さて、おまえさん名前は? こっちが聞く事に素直に答えてくれるなら命は取らんよ」
マッシュの言葉を受け、カズナが手に力を込める、刃が首の皮膚を軽く押し込んでいく。
じっと荒い呼吸を繰り返し、観念した。
「ゲビン⋯⋯」
「よし、ゲビン。アルバ襲撃は誰の引き金だ?」
「誰でもない。オレ自身の考えだ」
やはり、裏で糸を引いているヤツはいないか。
ロクやシモーネは、明らかにその答えに疑いの眼差しを向けるが、裏で大物が糸を引いているならばコイツみたいな玄人を雇って狙うはずだ。
コイツ自身で動いたってのは、まんざら嘘じゃあない。
「勝手に動いて、おまえさんの直上のセロだっけ、怒ると思わなかったのか?」
マッシュの言葉を聞いて、ドルチェナ達はマッシュに驚きを隠さなかった。
いつ間にそんな情報を得たというのか、マッシュの方を見やると軽く肩をすくめておどけて見せる。
その仕草にマッシュがカマを掛けたと理解し、苦笑いを浮かべていく。
ドルチェナだけは、羨望の眼差しをマッシュに向けた。
「成果が上がれば、怒るとは思わない」
「ゲビン、そいつは違うぞ。あれは勝手に動く事を許さないタイプだ。摂政とは面識あるのか?」
「ない」
即答するゲビンにマッシュは思う。
コイツ頭は回らない。
直属の実働隊って所か。
「摂政から直での仕事もあるんだな」
「いや⋯⋯ない」
「おまえさんのその“ない”は“ある”って言っているのと変わらんぞ」
マッシュは溜め息まじりに言う。
マッシュがドルチェナに顎でゲビンを指した。
ドルチェナは一瞬喜々とした表情を浮かべるが、すぐに厳しい目つきでゲビンを睨んだ。
ドルチェナは爪を切る為のハサミをシモーネに投げると、シモーネはパチパチとハサミを軽快に鳴らした。
「あれれれ、あなた爪が伸びていますね。私が切って差し上げましょう。さぁ、手を広げて」
「な、何、言ってやがる? 爪なんかどうでもいいじゃあねえか!?」
「気になるでしょう、さぁさぁ」
「ふ、ふざけんな。何言ってやがる⋯⋯」
「はぁ~、言う事聞かない悪い子はこうですね。エイッ」
シモーネはサクリと、あっさり手の甲にハサミを突き立てた。
ハサミは手を貫通して、刃先から血を滴らせる。
「いってぇええええーー! なに、なにしやがる、頭イカれてるぞ」
「何コイツ、すごい失礼なんだけど! 言う事聞かなかったのはそっちでしょう? 悪いのはどっちよ。あとコイツうるさい。舌切っていい?」
シモーネの言葉に一瞬で黙った。
躊躇のないシモーネに袋の中の顔は蒼ざめていく。
「な、だから嘘つくなって。洗いざらい話しちまえば、それで終いだ」
押し黙るゲビンに、マッシュは盛大な溜め息をついた。
「ゲビン、お話しが出来ないなら、おまえさんがここいる理由はない。解放するしかないか」
ゲビンの目が見開く、解放される。
この現状を打破せねば、コイツらは後でゆっくりと見つけ出してやればいい。
今はこの状況から逃れるのが第一。
少しばかり見出した光にゲビンはすがった。
「仕方ない。解放するか」
よし。
ゲビンは心の中で叫ぶ。
「あ、でも仕返しとか考えていると困るんで実でも飲ますか。これ本当に効くのかな? 西の建築予定地でたんまりと手に入ったけど。2、3粒飲ませてみれば分かるってヤツか。脳みそもいい感じにトロトロだったけ? なぁ、ゲビン」
何言っている? あの実を持っている? 嘘だ。ハッタリだ。
でも、西の建築って、あそこの居たやつらか。
倒した奴らから奪い取るのは容易い。
ゲビンの中でじわりとマッシュの言葉の信憑性が増していく。
袋の中で呼吸が荒くなる。
その姿を見つめマッシュは、ほくそ笑む。
「よし。じゃあ、口を出してくれ実を突っ込んじまおう」
袋を少し上げ口を剝き出しにした。
荒い呼吸が手に取るように分かる。
「さあて、どんな感じにとろけるのかねぇ」
ロクが顔を押さえ、ドルチェナが両頬を力一杯挟んでいく。
首を振って必死に逃れようとするがふたり掛かりになす術はない。
「言う! 言う! 言う!」
口ごもりながら叫ぶ声にマッシュはドルチェナに合図を出した。
解放されたゲビンは、荒い息を整えていく。
袋が再び被せられ、意気消沈した姿を見せた。
「残念だな。とろける様を見てみたかったんだが。お話しする気になったのなら仕方ない。さて、おまえさんの直上はセロ、セロを通じて摂政からの仕事ってのが、あったはずだ。最近あった仕事を話せ」
うな垂れるゲビンがそのままの姿でとつとつと話し始めた。
「小人族の抹消、オレは参加していない。工房の建築、延期になった。近々では古い避難経路の埋め立てと、新しい避難経路の工事」
一同が頷き合う、目新しい情報はなかったが逆に嘘をついていない確認が取れた。
実際コイツは現場で指揮を取る側に違いない。
「新しい経路は何本作るんだ?」
「六本」
「完了しているのは?」
「一本」
ゲビンの覇気のない受け答えに室内は静まり返り、集中して言葉を拾っていく。
「近々、完成する予定の経路は?」
「知らない。本当だ。多分まだ手すらつけていないと思う」
一斉に作るわけではなく、一本を突貫工事で完成させた。
なぜ? そんなに急いだ?
そもそも、使われた所は潰すにしても出入口だけ変えればいいのに、なぜわざわざ全部潰した? ヤツの性格もあるが腑に落ちんな。
「なんで、わざわざ全部潰した? 埋めるのだけでも相当な労力だ」
「全部は埋めていない。入口近辺を埋めただけだ。経路は生きている」
「解せんな。経路を埋める時間が無かったのか?」
「分からない。経路は残せという指示だった」
「なんで、一本だけ急いだ?」
「分からない⋯⋯、あ、人を迎え入れるからとか何とか、摂政達が話しているのが聞こえた」
「誰を?」
「話の感じからヒューマンかも、街中は目立つとか言っていた」
マッシュが目を細めた。
このタイミングでヒューマンを、こそこそ迎え入れる⋯⋯。
ドルチェナを見やると猫人のピッポとシモーネの獣人のコンビに目で合図を出した。
ふたりは直ぐに避難経路の見張りに部屋を飛び出して行く。
「そいつがいつ来るか知っているか?」
「さすがにそれは⋯⋯」
もう、合流済なのか、まだなのか、そして誰なのか。
工事は完了したばかり。
完成を伝えてから向かうはずだ。
そこにタイムラグが必ず生まれる。
まだ、間に合うか。
そして、ここにいる全員が頭に描いている人物ならば⋯⋯。
「もしかしたら、大当たりかもしれんな」
紫桃色に照らし出される、マッシュの陰影が顎に手をやった。
「あいあーい。行くぞー」
どことなく口調がキルロに似てきた気がするわね。
ハルヲは部屋を飛び出して行く姿を眺めながら、関係のない事を思っていた。
剣呑な雰囲気が漂い始めた客間、落ち込むばかりのネガティブな雰囲気から空気の変化が漂う。
シルが眉間に皺を寄せて、深く思考を巡らし、思考回路を追跡者のそれへと切り替えていく。
静かな時が流れる、必要な時間だ。
思いを巡らし、今考えるべき最適解を導く為に。
ハースがおもむろに手を上げた、一同の視線がハースに向く。
それを確認して、ハースは口を開いた。
「団長に取り急ぎ報告に行くべきです。カイナは団長の所に行くと言っていたが、行っていない可能性が高い。つまり今回の獣人街の件すら、知らない可能性があります」
「確かに。でも、私の立場からあなた達が動くのは容認出来ない。変わりに私達が伝えに行くのではダメかしら?」
「お言葉は有り難いですが、自分達が行った方が話は早いです。私が行きます。四人の中では一番軽傷ですし、もう動けます」
ハースの言葉を受け、ハルヲは腕を組んだ。
カイナと副団長セルバの裏切り行為の大きな可能性。
確かに早急な対応が必要な案件だ。
「ハル、ヘッグ貸して、私がハースと行ってくるよ。サッサと動こう」
エーシャが立ち上がり、ハースに手を差し出した。
善は急げ、ってやつか。
ハルヲも渋々と了承していく。
「エーシャの言う通りね。迷っている時間はない、すぐに準備させる。ふたりとも宜しく」
ふたりは頷き客間をあとにした、ヘッグの足ならすぐだ。
片づけなくてはいけない問題を、どう片づければいいのか。
まるで濃い霧にでも包まれて見えてこない。
「これはなかなか堪えるわね」
シルが嘆息しながら呟く。
悩む姿を見せながらも、いつもの弓なりの双眸を見せた。
シルの強さだ。
嫉妬にも似た羨望を、その強さにいつも感じる。
「強いわね。私が同じ立場だったら、しばらくは立ち上がれない」
「ハルの方が何倍も強いわよ」
「??」
「フフ、まぁいいじゃない、お互いにないものねだりって事で」
シルの顔にいつもの微笑みが戻った。
すりガラスに映る炎が、紫桃色を照らし出す。
下世話なほど豪奢な部屋の真ん中に、ポツリと置かれた椅子。
袋を被った猫人が、その似合わぬ巨躯を椅子へと縛り付けていた。
恐怖からガタガタと震え、忙しなく首を振り無駄な抵抗を繰り返す。
さて、コイツがどれだけの情報を持っているのか。
「ツケの利く店じゃ。ゆっくり話を聞こうかのう」
ロクが猫人の肩に手を回し耳元で囁いた。
次は何が起こるのか、未知への恐怖に体を硬直させる。
真っ暗闇に漂う只ならぬ空気を感じ、目に涙を浮かべていた。
袋が少しずらされ、さるぐつわが外される。
荒い吐息と共に罵詈雑言を飛ばし、強がりを見せた。
一同がやれやれと嘆息していく。
こりゃあ、落ち着くまで時間掛かるな。
「ああん! もう、コイツうるさい!」
犬人のシモーネが耳を塞いだ。
カズナが首元に冷たい刃を当てると、一気に静かになっていく。
「さて、おまえさん名前は? こっちが聞く事に素直に答えてくれるなら命は取らんよ」
マッシュの言葉を受け、カズナが手に力を込める、刃が首の皮膚を軽く押し込んでいく。
じっと荒い呼吸を繰り返し、観念した。
「ゲビン⋯⋯」
「よし、ゲビン。アルバ襲撃は誰の引き金だ?」
「誰でもない。オレ自身の考えだ」
やはり、裏で糸を引いているヤツはいないか。
ロクやシモーネは、明らかにその答えに疑いの眼差しを向けるが、裏で大物が糸を引いているならばコイツみたいな玄人を雇って狙うはずだ。
コイツ自身で動いたってのは、まんざら嘘じゃあない。
「勝手に動いて、おまえさんの直上のセロだっけ、怒ると思わなかったのか?」
マッシュの言葉を聞いて、ドルチェナ達はマッシュに驚きを隠さなかった。
いつ間にそんな情報を得たというのか、マッシュの方を見やると軽く肩をすくめておどけて見せる。
その仕草にマッシュがカマを掛けたと理解し、苦笑いを浮かべていく。
ドルチェナだけは、羨望の眼差しをマッシュに向けた。
「成果が上がれば、怒るとは思わない」
「ゲビン、そいつは違うぞ。あれは勝手に動く事を許さないタイプだ。摂政とは面識あるのか?」
「ない」
即答するゲビンにマッシュは思う。
コイツ頭は回らない。
直属の実働隊って所か。
「摂政から直での仕事もあるんだな」
「いや⋯⋯ない」
「おまえさんのその“ない”は“ある”って言っているのと変わらんぞ」
マッシュは溜め息まじりに言う。
マッシュがドルチェナに顎でゲビンを指した。
ドルチェナは一瞬喜々とした表情を浮かべるが、すぐに厳しい目つきでゲビンを睨んだ。
ドルチェナは爪を切る為のハサミをシモーネに投げると、シモーネはパチパチとハサミを軽快に鳴らした。
「あれれれ、あなた爪が伸びていますね。私が切って差し上げましょう。さぁ、手を広げて」
「な、何、言ってやがる? 爪なんかどうでもいいじゃあねえか!?」
「気になるでしょう、さぁさぁ」
「ふ、ふざけんな。何言ってやがる⋯⋯」
「はぁ~、言う事聞かない悪い子はこうですね。エイッ」
シモーネはサクリと、あっさり手の甲にハサミを突き立てた。
ハサミは手を貫通して、刃先から血を滴らせる。
「いってぇええええーー! なに、なにしやがる、頭イカれてるぞ」
「何コイツ、すごい失礼なんだけど! 言う事聞かなかったのはそっちでしょう? 悪いのはどっちよ。あとコイツうるさい。舌切っていい?」
シモーネの言葉に一瞬で黙った。
躊躇のないシモーネに袋の中の顔は蒼ざめていく。
「な、だから嘘つくなって。洗いざらい話しちまえば、それで終いだ」
押し黙るゲビンに、マッシュは盛大な溜め息をついた。
「ゲビン、お話しが出来ないなら、おまえさんがここいる理由はない。解放するしかないか」
ゲビンの目が見開く、解放される。
この現状を打破せねば、コイツらは後でゆっくりと見つけ出してやればいい。
今はこの状況から逃れるのが第一。
少しばかり見出した光にゲビンはすがった。
「仕方ない。解放するか」
よし。
ゲビンは心の中で叫ぶ。
「あ、でも仕返しとか考えていると困るんで実でも飲ますか。これ本当に効くのかな? 西の建築予定地でたんまりと手に入ったけど。2、3粒飲ませてみれば分かるってヤツか。脳みそもいい感じにトロトロだったけ? なぁ、ゲビン」
何言っている? あの実を持っている? 嘘だ。ハッタリだ。
でも、西の建築って、あそこの居たやつらか。
倒した奴らから奪い取るのは容易い。
ゲビンの中でじわりとマッシュの言葉の信憑性が増していく。
袋の中で呼吸が荒くなる。
その姿を見つめマッシュは、ほくそ笑む。
「よし。じゃあ、口を出してくれ実を突っ込んじまおう」
袋を少し上げ口を剝き出しにした。
荒い呼吸が手に取るように分かる。
「さあて、どんな感じにとろけるのかねぇ」
ロクが顔を押さえ、ドルチェナが両頬を力一杯挟んでいく。
首を振って必死に逃れようとするがふたり掛かりになす術はない。
「言う! 言う! 言う!」
口ごもりながら叫ぶ声にマッシュはドルチェナに合図を出した。
解放されたゲビンは、荒い息を整えていく。
袋が再び被せられ、意気消沈した姿を見せた。
「残念だな。とろける様を見てみたかったんだが。お話しする気になったのなら仕方ない。さて、おまえさんの直上はセロ、セロを通じて摂政からの仕事ってのが、あったはずだ。最近あった仕事を話せ」
うな垂れるゲビンがそのままの姿でとつとつと話し始めた。
「小人族の抹消、オレは参加していない。工房の建築、延期になった。近々では古い避難経路の埋め立てと、新しい避難経路の工事」
一同が頷き合う、目新しい情報はなかったが逆に嘘をついていない確認が取れた。
実際コイツは現場で指揮を取る側に違いない。
「新しい経路は何本作るんだ?」
「六本」
「完了しているのは?」
「一本」
ゲビンの覇気のない受け答えに室内は静まり返り、集中して言葉を拾っていく。
「近々、完成する予定の経路は?」
「知らない。本当だ。多分まだ手すらつけていないと思う」
一斉に作るわけではなく、一本を突貫工事で完成させた。
なぜ? そんなに急いだ?
そもそも、使われた所は潰すにしても出入口だけ変えればいいのに、なぜわざわざ全部潰した? ヤツの性格もあるが腑に落ちんな。
「なんで、わざわざ全部潰した? 埋めるのだけでも相当な労力だ」
「全部は埋めていない。入口近辺を埋めただけだ。経路は生きている」
「解せんな。経路を埋める時間が無かったのか?」
「分からない。経路は残せという指示だった」
「なんで、一本だけ急いだ?」
「分からない⋯⋯、あ、人を迎え入れるからとか何とか、摂政達が話しているのが聞こえた」
「誰を?」
「話の感じからヒューマンかも、街中は目立つとか言っていた」
マッシュが目を細めた。
このタイミングでヒューマンを、こそこそ迎え入れる⋯⋯。
ドルチェナを見やると猫人のピッポとシモーネの獣人のコンビに目で合図を出した。
ふたりは直ぐに避難経路の見張りに部屋を飛び出して行く。
「そいつがいつ来るか知っているか?」
「さすがにそれは⋯⋯」
もう、合流済なのか、まだなのか、そして誰なのか。
工事は完了したばかり。
完成を伝えてから向かうはずだ。
そこにタイムラグが必ず生まれる。
まだ、間に合うか。
そして、ここにいる全員が頭に描いている人物ならば⋯⋯。
「もしかしたら、大当たりかもしれんな」
紫桃色に照らし出される、マッシュの陰影が顎に手をやった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。


家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる