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追跡
調教師の捜索ときどきエルフ達
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誰もいなくなった崩れかけの小屋は殺風景で、事の終わりを映し出す。
それは別の物語の始まりを意味するようでもあった。
朽ちかけの屋根に、所々抜け落ちている床。
床に染み込んだ何かは黒く乾き、ひび割れていた。
床に溜まった埃は歩く度に舞い上がり、視界を塞でいく。
穴の開いた屋根から陽光がこぼれ、幾筋もの光の線となって照らしていた。
エーシャが壁を眺め、キノが気配を探る。
フェインは抜けた床を覗き込み、床下を睨む。
こぼれ落ちた何かがないか? 忘れている何かがないか?
ハルヲが虚無感に溢れていたこの絶望の部屋で、次に繋がる何かを求める。
「正直、ここは気分が滅入るわね」
「だねぇ。リンの話を聞いているだけに気乗りしないわ。まぁ、そうも言っていられないけど」
「エーシャは残っていても良かったのよ」
「仲間外れにしないでよ」
エーシャはそう言うと白い歯を見せ、努めて明るく振舞った。
女性達が監禁されていた部屋。
死臭が漂うだけのこの部屋に何か残っているのだろうか?
「それらしいものはないです」
フェインが顔を上げた、煤けた顔を手でこすり余計に顔を黒くした。
「フェイン、ちゃんと口に布当てておきなさい。鼻の穴真っ黒になるわよ」
「はいです」
こっちには何もないか、もしかしたらと思ったけど。
扉の向かいに見える、佇むユラの炎で燃えカスと化した小屋を睨む。
中央にはまだ先ほどまでの弔いの煙が燻っていた。
「ねえねえ」
キノがハルヲの袖を引っ張る。
キノの視線の先には、布切れが丸めて床に投げ出されていた。
恐る恐る布をめくる。
??
何もない、訝しげにハルヲはキノを見やった。
「キノ、何もないわよ」
キノは黙って首を何度も横に振った。
もう一度、視線を向ける。
布切れの周りに埃が積もっていない、そこに何かがあったという事か?
しかもここ最近、埃が積もっていないという事は動いたという事だ。
ただ、その範囲を考えると人としては小さいように感じる。
犬とか? その類のものが迷いこんだ? とか?
キノが気にしているのが引っ掛かるわね。
ハルヲの隣でじっとその場を見つめるキノに視線を送る。
「誰かいるよ」
? 誰か?
「誰かって人って事?」
「うん。そんなニオイ」
人って言われても、ドワーフよりも小さい⋯⋯、まさか小人族??
まさかね。
でも、サイズ的には⋯⋯。
子供?
いやいや、村からそう遠くないといえ、こんな森にひとりで生き残れるとは。
逡巡しているハルヲの周りにみんなが集まりだした。
「ハル、どうしたの?」
「キノがここに誰かいたって言うのよ」
エーシャとフェインが顔を見合わせ、怪訝そうに指さす布切れを見つめた。
言われてみると何かがそこにあった形跡が見て取れるが、その形跡からふたりにも適当なものが思いつかない。
「人? って事?」
「キノが言うにはね」
「子供ではないですか? 大きさ的にはそうだと思いますです」
「やっぱり、そう考えるよねぇ⋯⋯」
「多分、ここにはしばらく誰もこないと、状況から判断つく賢さを持っている子ですよ。そう考えれば、ここで生き抜けるくらいの知恵を持っていそうです」
「なるほど」
フェインの言葉に一同が納得を見せた。
状況を判断出来る子か⋯⋯。
「一度、ここを出ましょう。私達がいたらきっと帰って来ない。いなくなれば寝床に戻ってくるんじゃない」
村に持ち帰る少しばかりのものを積み込み、エーシャが馬車の手綱を引いた。
「ここにもう用はない! 帰るわよ!」
ハルヲがわざとらしく高らかな声を上げ、馬車は燻る炎を背にして、この場をあとにする⋯⋯フリをした。
どこから様子を見ている可能性が高い。
ある程度馬車を走らせた所でハルヲとフェイン、キノの三人は荷台から飛び降りた。
森の中を回り込み、小屋を監視する。
扉を睨み、森の中で息を潜めていく。
中央部で燻っていた炎はすでに頼りない一本の煙となり全てを灰に帰した。
夕闇の訪れが森の影を長くしていく。
注視する三人を嘲笑うかのように何の動きも見られない、いたずらに時間だけが過ぎて行った。
「来ませんです」
「そうね」
空振りかと思った瞬間、キノがハルヲの肩を叩き小屋を指さす。
壊れた窓からチラっと何かが小屋の中で動いた。
三人は視線を交わすとハルヲは黙ってハンドサインを出した。
それを一瞥し、フェインとキノが左右へ散っていく。
人の声が聞こえる、誰かとしゃべっている子供の声?
「⋯⋯だれか来て、片づけたな。ここはもうダメだ」
「お兄ちゃん、どうする?」
ハルヲは意を決し、扉を開いた。
「はいはい、逃げなくていいわよ。危害は加えないから」
予想通り子供、しかも狼人の兄妹。
兄が小さな妹を背にして庇っていた。
ふたりともかなり幼い、兄も10歳もいってないのではないか?
震える妹を必死に庇っている姿が、今まで何度となく修羅場をくぐり抜けて来たと思わせた。
ハルヲは両手を軽く上げ、攻撃の意思がない事を伝える。
兄の懐疑的なするどい視線がハルヲから離れない。
「そんなに警戒しないで、少し話を聞きたいだけだから。そうね、もちろん、タダで聞かせろなんて言わないわ。⋯⋯⋯⋯これでどう?」
ハルヲは腰の皮箱から携帯食をふたつ取り出し目の前に差し出した。
兄が掻っ攫うようにハルヲの手から受け取ると、背にする妹に渡す。
「まだ食うなよ」
「毒なんて入ってないわよ。あんた達を殺す意味がないでしょう。ほら」
ハルヲはそう言って、また携帯食を取り出すと自分でひと口食べて飲み込んで見せる。
食べかけの携帯食を差し出すと兄は分捕り、また妹に渡した。
「それは食っていいぞ」
「妹思いじゃない」
兄がグっとハルヲを睨む、フェインとキノも現れハルヲの側に立った。
薄汚れた兄妹を見やり嘆息する。
「ねえ、いつからここいるの?」
兄は剣呑な表情を浮かべるだけで何も答えない。
「そっか、まだ名乗ってなかったわね。私はハル、こっちがフェインでこっちの小さな子がキノ。あなた達の名前を教えてくださらない?」
兄はキョロキョロとフェインやキノを見やり、ハルヲをまた睨む。
どうすべきか逡巡している。
「アルタスとクレア⋯⋯」
「いい名前じゃない。答えたくなかったらこれは答えなくていいわ。あなた達のご両親はどうしているの?」
クレアがアルタスの袖をぎゅっと握った。
アルタスは俯き、口を開く。
「死んだ。多分」
「そう。ごめんなさいね、イヤな事聞いて」
「冒険に出て、帰って来なかった。多分死んでいる」
「その時あった家は?」
「追い出された。だからふたりで生きていく」
横目に映るフェインがふたりの境遇に涙を流す。
全く、相変わらずね。
ハルヲはふたりに微笑み掛ける、青い瞳に優しさを映し、慈愛に満ちた笑みを向ける。
「そっか。頑張ったわね。ふたりで生き抜くなんて簡単じゃないわ、凄いわね」
「おばちゃん達はなんだ?」
「おばっ⋯⋯!?」
アルタスの言葉にハルヲが絶句した、慈愛に満ちた瞳は怒りの炎を宿す。
キノがそのやり取りに声を殺して笑い転げていた。
「キィ⋯⋯⋯ノォォォッォォォ⋯⋯」
地獄の底から湧き上がるハルヲの呻きにクレアの背後へと飛び込んだ。
その様子にクレアが相好を崩した。
吹き出すクレアに場が和むと緊迫した空気がほぐれていく。
「あああー! もう! お姉さんよ!」
ハルヲも怒るに怒れず悶えるだけだった。
口を尖らすハルヲにアルタスの警戒が薄れる。
「悪かったよ、おば⋯⋯お姉さん。どれくらいここにいたかは分からない。気分悪い所だったけど人の来る気配がなかったんで、しばらく寝泊まりしていた」
「あんた今、なんか言いかけなかった? まぁ、いいわ。それで私達以外ここに誰か来なかった?」
アルタスとクレアが顔を見合わせる。
「ちゃんとは分からないけど、一週間くらい前にいたよ」
アルタスの言葉にハルヲとフェインの瞳が険しくなる。
関係者以外がわざわざ来るとは思えない。
何かが残っていたのか、抜かった。
思わず顔をしかめてしまう、気を取り直しアルタスに問い掛ける。
「どんなやつ?」
「エルフがふたり、向こうの焼けた小屋でなんかしてた」
「どんなエルフか覚えている?」
「銀色の髪した男のエルフとおかっぱみたいな髪型の女エルフ」
銀髪におかっぱ?
突破口に繋げたい、青い瞳が強い意思を発する。
「アルタス、ありがとう」
ハルヲとフェインが目配せをする。
見つけた、間違いなく怪しい存在のエルフを二名確認した。
ハルヲの心音がひとつ高鳴った。
「チッ!」
シルの目つきはより一層険しくなった。
舌打ちと厳しい視線を空っぽの部屋へ向ける。
またハズレ⋯⋯。
「シル、またハズレだよ」
ユトもふてくされぎみに空っぽの部屋を睨んだ。
見るからに何もない殺風景な部屋、薄っすら積もった床の埃がここに主がいない事を告げていた。
無駄だと分かっていようが、やるしかないのよね。
シルは大きく溜め息をついた。
「シル様、どうしますか?」
「カイナ、いつもの通りよ。しっかりここを洗って」
「かしこまりました。よし、おまえ達キリキリ動けよ!」
カイナの号令でパーティーが捜索を始めていく。
壊れた椅子が転がっているだけの部屋。
部屋の埃にシル達の足跡がついていく。
これで何回目の空振りだ?
思うように進まない思想的反勇者の捜索に苛立ちが募る。
「シル様。次の情報が入っていますが、どうされますか?」
「行くわよ、もちろん。いくら空振りになろうが絶対に掴んでやる」
いつもの笑顔は消え失せ、追跡者としての顔を見せる。
「次はどこ?」
「はい。ミドラスの獣人街です」
カイナを一瞥し、埃が舞う部屋へ視線を移した。
それは別の物語の始まりを意味するようでもあった。
朽ちかけの屋根に、所々抜け落ちている床。
床に染み込んだ何かは黒く乾き、ひび割れていた。
床に溜まった埃は歩く度に舞い上がり、視界を塞でいく。
穴の開いた屋根から陽光がこぼれ、幾筋もの光の線となって照らしていた。
エーシャが壁を眺め、キノが気配を探る。
フェインは抜けた床を覗き込み、床下を睨む。
こぼれ落ちた何かがないか? 忘れている何かがないか?
ハルヲが虚無感に溢れていたこの絶望の部屋で、次に繋がる何かを求める。
「正直、ここは気分が滅入るわね」
「だねぇ。リンの話を聞いているだけに気乗りしないわ。まぁ、そうも言っていられないけど」
「エーシャは残っていても良かったのよ」
「仲間外れにしないでよ」
エーシャはそう言うと白い歯を見せ、努めて明るく振舞った。
女性達が監禁されていた部屋。
死臭が漂うだけのこの部屋に何か残っているのだろうか?
「それらしいものはないです」
フェインが顔を上げた、煤けた顔を手でこすり余計に顔を黒くした。
「フェイン、ちゃんと口に布当てておきなさい。鼻の穴真っ黒になるわよ」
「はいです」
こっちには何もないか、もしかしたらと思ったけど。
扉の向かいに見える、佇むユラの炎で燃えカスと化した小屋を睨む。
中央にはまだ先ほどまでの弔いの煙が燻っていた。
「ねえねえ」
キノがハルヲの袖を引っ張る。
キノの視線の先には、布切れが丸めて床に投げ出されていた。
恐る恐る布をめくる。
??
何もない、訝しげにハルヲはキノを見やった。
「キノ、何もないわよ」
キノは黙って首を何度も横に振った。
もう一度、視線を向ける。
布切れの周りに埃が積もっていない、そこに何かがあったという事か?
しかもここ最近、埃が積もっていないという事は動いたという事だ。
ただ、その範囲を考えると人としては小さいように感じる。
犬とか? その類のものが迷いこんだ? とか?
キノが気にしているのが引っ掛かるわね。
ハルヲの隣でじっとその場を見つめるキノに視線を送る。
「誰かいるよ」
? 誰か?
「誰かって人って事?」
「うん。そんなニオイ」
人って言われても、ドワーフよりも小さい⋯⋯、まさか小人族??
まさかね。
でも、サイズ的には⋯⋯。
子供?
いやいや、村からそう遠くないといえ、こんな森にひとりで生き残れるとは。
逡巡しているハルヲの周りにみんなが集まりだした。
「ハル、どうしたの?」
「キノがここに誰かいたって言うのよ」
エーシャとフェインが顔を見合わせ、怪訝そうに指さす布切れを見つめた。
言われてみると何かがそこにあった形跡が見て取れるが、その形跡からふたりにも適当なものが思いつかない。
「人? って事?」
「キノが言うにはね」
「子供ではないですか? 大きさ的にはそうだと思いますです」
「やっぱり、そう考えるよねぇ⋯⋯」
「多分、ここにはしばらく誰もこないと、状況から判断つく賢さを持っている子ですよ。そう考えれば、ここで生き抜けるくらいの知恵を持っていそうです」
「なるほど」
フェインの言葉に一同が納得を見せた。
状況を判断出来る子か⋯⋯。
「一度、ここを出ましょう。私達がいたらきっと帰って来ない。いなくなれば寝床に戻ってくるんじゃない」
村に持ち帰る少しばかりのものを積み込み、エーシャが馬車の手綱を引いた。
「ここにもう用はない! 帰るわよ!」
ハルヲがわざとらしく高らかな声を上げ、馬車は燻る炎を背にして、この場をあとにする⋯⋯フリをした。
どこから様子を見ている可能性が高い。
ある程度馬車を走らせた所でハルヲとフェイン、キノの三人は荷台から飛び降りた。
森の中を回り込み、小屋を監視する。
扉を睨み、森の中で息を潜めていく。
中央部で燻っていた炎はすでに頼りない一本の煙となり全てを灰に帰した。
夕闇の訪れが森の影を長くしていく。
注視する三人を嘲笑うかのように何の動きも見られない、いたずらに時間だけが過ぎて行った。
「来ませんです」
「そうね」
空振りかと思った瞬間、キノがハルヲの肩を叩き小屋を指さす。
壊れた窓からチラっと何かが小屋の中で動いた。
三人は視線を交わすとハルヲは黙ってハンドサインを出した。
それを一瞥し、フェインとキノが左右へ散っていく。
人の声が聞こえる、誰かとしゃべっている子供の声?
「⋯⋯だれか来て、片づけたな。ここはもうダメだ」
「お兄ちゃん、どうする?」
ハルヲは意を決し、扉を開いた。
「はいはい、逃げなくていいわよ。危害は加えないから」
予想通り子供、しかも狼人の兄妹。
兄が小さな妹を背にして庇っていた。
ふたりともかなり幼い、兄も10歳もいってないのではないか?
震える妹を必死に庇っている姿が、今まで何度となく修羅場をくぐり抜けて来たと思わせた。
ハルヲは両手を軽く上げ、攻撃の意思がない事を伝える。
兄の懐疑的なするどい視線がハルヲから離れない。
「そんなに警戒しないで、少し話を聞きたいだけだから。そうね、もちろん、タダで聞かせろなんて言わないわ。⋯⋯⋯⋯これでどう?」
ハルヲは腰の皮箱から携帯食をふたつ取り出し目の前に差し出した。
兄が掻っ攫うようにハルヲの手から受け取ると、背にする妹に渡す。
「まだ食うなよ」
「毒なんて入ってないわよ。あんた達を殺す意味がないでしょう。ほら」
ハルヲはそう言って、また携帯食を取り出すと自分でひと口食べて飲み込んで見せる。
食べかけの携帯食を差し出すと兄は分捕り、また妹に渡した。
「それは食っていいぞ」
「妹思いじゃない」
兄がグっとハルヲを睨む、フェインとキノも現れハルヲの側に立った。
薄汚れた兄妹を見やり嘆息する。
「ねえ、いつからここいるの?」
兄は剣呑な表情を浮かべるだけで何も答えない。
「そっか、まだ名乗ってなかったわね。私はハル、こっちがフェインでこっちの小さな子がキノ。あなた達の名前を教えてくださらない?」
兄はキョロキョロとフェインやキノを見やり、ハルヲをまた睨む。
どうすべきか逡巡している。
「アルタスとクレア⋯⋯」
「いい名前じゃない。答えたくなかったらこれは答えなくていいわ。あなた達のご両親はどうしているの?」
クレアがアルタスの袖をぎゅっと握った。
アルタスは俯き、口を開く。
「死んだ。多分」
「そう。ごめんなさいね、イヤな事聞いて」
「冒険に出て、帰って来なかった。多分死んでいる」
「その時あった家は?」
「追い出された。だからふたりで生きていく」
横目に映るフェインがふたりの境遇に涙を流す。
全く、相変わらずね。
ハルヲはふたりに微笑み掛ける、青い瞳に優しさを映し、慈愛に満ちた笑みを向ける。
「そっか。頑張ったわね。ふたりで生き抜くなんて簡単じゃないわ、凄いわね」
「おばちゃん達はなんだ?」
「おばっ⋯⋯!?」
アルタスの言葉にハルヲが絶句した、慈愛に満ちた瞳は怒りの炎を宿す。
キノがそのやり取りに声を殺して笑い転げていた。
「キィ⋯⋯⋯ノォォォッォォォ⋯⋯」
地獄の底から湧き上がるハルヲの呻きにクレアの背後へと飛び込んだ。
その様子にクレアが相好を崩した。
吹き出すクレアに場が和むと緊迫した空気がほぐれていく。
「あああー! もう! お姉さんよ!」
ハルヲも怒るに怒れず悶えるだけだった。
口を尖らすハルヲにアルタスの警戒が薄れる。
「悪かったよ、おば⋯⋯お姉さん。どれくらいここにいたかは分からない。気分悪い所だったけど人の来る気配がなかったんで、しばらく寝泊まりしていた」
「あんた今、なんか言いかけなかった? まぁ、いいわ。それで私達以外ここに誰か来なかった?」
アルタスとクレアが顔を見合わせる。
「ちゃんとは分からないけど、一週間くらい前にいたよ」
アルタスの言葉にハルヲとフェインの瞳が険しくなる。
関係者以外がわざわざ来るとは思えない。
何かが残っていたのか、抜かった。
思わず顔をしかめてしまう、気を取り直しアルタスに問い掛ける。
「どんなやつ?」
「エルフがふたり、向こうの焼けた小屋でなんかしてた」
「どんなエルフか覚えている?」
「銀色の髪した男のエルフとおかっぱみたいな髪型の女エルフ」
銀髪におかっぱ?
突破口に繋げたい、青い瞳が強い意思を発する。
「アルタス、ありがとう」
ハルヲとフェインが目配せをする。
見つけた、間違いなく怪しい存在のエルフを二名確認した。
ハルヲの心音がひとつ高鳴った。
「チッ!」
シルの目つきはより一層険しくなった。
舌打ちと厳しい視線を空っぽの部屋へ向ける。
またハズレ⋯⋯。
「シル、またハズレだよ」
ユトもふてくされぎみに空っぽの部屋を睨んだ。
見るからに何もない殺風景な部屋、薄っすら積もった床の埃がここに主がいない事を告げていた。
無駄だと分かっていようが、やるしかないのよね。
シルは大きく溜め息をついた。
「シル様、どうしますか?」
「カイナ、いつもの通りよ。しっかりここを洗って」
「かしこまりました。よし、おまえ達キリキリ動けよ!」
カイナの号令でパーティーが捜索を始めていく。
壊れた椅子が転がっているだけの部屋。
部屋の埃にシル達の足跡がついていく。
これで何回目の空振りだ?
思うように進まない思想的反勇者の捜索に苛立ちが募る。
「シル様。次の情報が入っていますが、どうされますか?」
「行くわよ、もちろん。いくら空振りになろうが絶対に掴んでやる」
いつもの笑顔は消え失せ、追跡者としての顔を見せる。
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