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鍛冶師と治療師ときどき
青い蛾ときどき勇者
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並ぶいくつもの燭台が照らし出すこの空間。
何人もの人間が忙しく動きまわっていた。
未だ目を開けないオットの周りへ、キルロ達は自然と集まっていく。
橙色が照らす顔は蒼白く、血の気がなかなか戻らない。
ずっと寄り添っているウルスも煮え切らない表情で見つめることしか出来なかった。
【蟻の巣】に広がるこの空間に流れている空気が緊迫したものではないのが救いだ。
緊張していた体を弛緩させ、オットの目覚めを待つ。
「エーシャ久しぶりですね。まさかあなたが現場復帰するとは思いませんでしたよ。しかも歩いているなんて、びっくりですね」
ラースがひょこひょこと歩いていたエーシャに目を丸くする。
柔和な笑顔をたたえ、エーシャの側に立った。
「はっはんー、凄いでしょう。ちょっとだけ見せてあげる。チラッ」
そう言って法衣の裾をまくり左足の義足をチラっと見せた。
あまり表情を崩さないラースが少し驚いて見せると、エーシャは“シシ”といたずらっぽく笑って見せた。
「種明かしかい? 僕も君の歩く姿が気になっていたよ。でもまた、元気な姿を見る事が出来て本当に良かった」
「でしょ、でしょ。私も歩けるようになるとは思わなかったもの」
エーシャが破顔するとアルフェンも微笑を返した。
キルロは残務処理に追われる人々を見ながら疲労感の濃い体で立ち上がり、手伝おうと手を差し出す。
「休んでいて下さい。こちらは大丈夫ですから」
中央の衛兵に苦笑いでたしなめられ、仕方なくまたみんなと同じようにオットの側でしゃがみこんだ。
ゆっくりと流れる時間にもやっとした思いが流されて行っては、またむくむくともたげる。
そればかりが繰り返され、煮え切らない思いにずっと苛まれていた。
ここにいるみんなが、そうなのか?
仲間が傷つき、失い、なにも出来なかったというもどかしさ。
何度となく嘆息して、もやっとする思いを吐き出そうと試みるが、思ったようには出ていってはくれなかった。
「かはっ!!」
オットがいきなり上半身を起こした。
目を剥き前方を睨む。
吐き出す息は荒く、濁る瞳に殺意がこもる。
「落ち着け。もう大丈夫じゃ!」
ウルスがすぐにオットの肩に手を置いた。
オットはすぐに辺りを見回して、また仰向けに寝転ぶ。
天をじっと見つめ、落ち着きを取り戻すと瞳の濁りも消えていった。
「そうか、僕は助かったのか⋯⋯。ウルス、君が助けてくれたのかい?」
「ここにおる者全員でヌシらを救出した」
オットは目を閉じ、深く息を吐いた。
落ち着きを取り戻しゆっくりと上半身を起こしていく。
「そうか。みんな、ありがとう。それで他の者達は?」
そこにいる全員がバツ悪そうに顔を見合わせる。
その様子にオットも悟る、瞳が見る見る険しくなっていった。
「見ての通り、ここに戻れたのはヌシとココだけじゃ。ここに戻る道中アーチもロッコも⋯⋯キシャも⋯⋯⋯⋯」
ウルスが悔しさと悲しさから声を詰まらす。
今まで耐えて来た思いが堰を切ったようにあふれ出し、必死に耐えた。
その姿にオットの目が冷たく滾る。
アッシモ!
目を剥き、唇を噛んだ。
「はぁぁっ。ココも助かったが心が壊れてしまった。復帰は難しい」
「命があっただけ良しとしよう。心はゆっくりと取り戻せばいいさ」
所在なく宙を見続けているココを見つめた。
その様子に申し訳ないとオットは心の中で何度も詫びる。
「【ブラウブラッタレギオ(青い蛾)】には申し訳ないことした。オレが書状を送ったばかりに巻き込む形になっちまった⋯⋯」
マッシュはオットとウルスに頭を下げた。
【ブラウブラッタレギオ】が払った代償が大きすぎる。
大切な仲間を何人も失う形になってしまった。
「ヌシだって、兄弟を失っておろうが。詫びる必要などないわい」
「そうだよ。ウルスの言う通りだ。確かにマッシュの言う通り払った代償は大きすぎる。そこはきっちりとアッシモに返して貰うさ」
オットは瞳に冷たい殺気が伴った。
アッシモを必ず捕らえるという強い意志を放つ。
「熱は冷めていないようだね」
オットの様子を眺めていたアルフェンが口を開く。
いつも見せる穏やかな表情はここに来てから見せていない。
つぶらなオッドアイも険しい表情を見せていた。
「ここで逃げ切られても困る。急ぎ、レギオ会議を開こうと思う。オットの所も代役でも構わない、ぜひ参加して欲しい」
「這ってでも行くよ。勝負所だね」
オットは考える余地もなく即答した。
「レギオ会議ってなんだ?」
「知る訳ないでしょう」
聞いた事のない言葉にキルロはハルヲの耳元で呟いた。
ハルヲは苦い顔でキルロを一瞥する。
その姿がアルフェンの目に映った。
「あ! そうだった。【スミテマアルバレギオ】はまだ参加したことなかったね。年に一度、情報の交換と共有を目的に団長達を召集するんだよ。いつもだと恒例行事って感じでつつがなく終わるのだけど、今回は緊急の会議だね。各ソシエタスの団長達を中央に召集を掛けて、今後についての情報を共有しておこうかと思うんだ」
「なるほどね。ハルヲ頼むな」
「は?! 何言っているの、あんたが行かないでどうするのよ!」
ハルヲに一喝され、渋い表情を浮かべた。
団長が集まるって、すげえ人達に混じって話しをするのか?
すげぇ、イヤだな、誰か代わってくんないかな。
「団長、頼むぞ!」
「そうだぞ、しっかりやって来いよ」
「ですです」
「私が代わりに行ってあげようか?」
「それハ、ダメダ」
揃いも揃って他人事だと思いやがって。
盛大な溜め息をつき、諦める事にした。
「ところで、【吹き溜まり】の調査の続きはどうするんだ? ウチも手伝うか?」
「いや、【スミテマアルバレギオ】は一旦戻って、いつでも飛び出せるように準備をお願いしたい。調査の続きは中央が引き継ぐよ。僕も調査の方にかかりっきりになるので何かの時は【スミテマアルバレギオ】に動いて欲しい」
「うーん、そうか。分かった。準備して待機しておくよ」
「宜しく」
中央の負担が大きい気もするが、確かに人手は多いほうがいい、いちパーティーが手伝うより中央総出で当たる方が効率的か。
それにアルフェンの代わりに動くとしたら自分達だもんな。
ここは素直に従おう。
「ワシらは手伝うか?」
「いや、【ブラウブラッタレギオ】は立て直すのを優先して貰って構わない。今回はいろいろ助けて貰ったからね、ここに関しては充分だよ」
「立て直しに時間なんていらないけど、僕達はアッシモを追わせて貰うよ。アイツだけは絶対に許さない」
オットの言葉にウルスも納得の姿を見せる、くせ者集団らしく潜って追い詰める気なのか。
「オット、ウチらに出来る事あったらいつでも声掛けてくれ。いつでも手伝うからさ」
「本当かい! それは心強い。もうすでにフェインからオーカのことを教えて貰ったりして、お世話になっているけどね。何かの際は宜しくお願いするよ」
「やっぱりオーカか?」
「うん。ウチも店を出しているからその辺りから情報を集めてみるよ」
「店?!」
「そう。【猫の尻尾亭】っていう店。オーカに行った際は、ぜひ寄ってよ」
オットが不適な笑みをキルロに見せた。フェインが行った店みたいなやつか?
手広いというかなんというか。
うん?
もし、そんな店行ったのがバレたら⋯⋯⋯⋯。
「まぁ、気が向いたら寄らせて貰うよ。あ、そうだ! 素材があれば義足作るぞ、手持ちがもうないんですぐには作れないけど」
「義足?」
そう言うとオットは失った左足をさすった、失った大きなもののひとつでもある。
その姿にキルロはエーシャを指さした。
「エーシャの左足も義足なんだ。オレが作った。なかなかやるだろう。リハビリ次第で歩けるくらいには回復出来るぞ。ただ素材がなぁ、エーシャのやつは双尾蠍の甲殻を使っているんだが、作るには同じものか同等に頑丈でしなる素材が必要なんだ」
「なるほどね。なんとかしてみるよ、ぜひお願いしたい」
キルロは了解の意味を込めて口角を上げて見せ、オットの心にも更なる希望の火が灯っていった。
何人もの人間が忙しく動きまわっていた。
未だ目を開けないオットの周りへ、キルロ達は自然と集まっていく。
橙色が照らす顔は蒼白く、血の気がなかなか戻らない。
ずっと寄り添っているウルスも煮え切らない表情で見つめることしか出来なかった。
【蟻の巣】に広がるこの空間に流れている空気が緊迫したものではないのが救いだ。
緊張していた体を弛緩させ、オットの目覚めを待つ。
「エーシャ久しぶりですね。まさかあなたが現場復帰するとは思いませんでしたよ。しかも歩いているなんて、びっくりですね」
ラースがひょこひょこと歩いていたエーシャに目を丸くする。
柔和な笑顔をたたえ、エーシャの側に立った。
「はっはんー、凄いでしょう。ちょっとだけ見せてあげる。チラッ」
そう言って法衣の裾をまくり左足の義足をチラっと見せた。
あまり表情を崩さないラースが少し驚いて見せると、エーシャは“シシ”といたずらっぽく笑って見せた。
「種明かしかい? 僕も君の歩く姿が気になっていたよ。でもまた、元気な姿を見る事が出来て本当に良かった」
「でしょ、でしょ。私も歩けるようになるとは思わなかったもの」
エーシャが破顔するとアルフェンも微笑を返した。
キルロは残務処理に追われる人々を見ながら疲労感の濃い体で立ち上がり、手伝おうと手を差し出す。
「休んでいて下さい。こちらは大丈夫ですから」
中央の衛兵に苦笑いでたしなめられ、仕方なくまたみんなと同じようにオットの側でしゃがみこんだ。
ゆっくりと流れる時間にもやっとした思いが流されて行っては、またむくむくともたげる。
そればかりが繰り返され、煮え切らない思いにずっと苛まれていた。
ここにいるみんなが、そうなのか?
仲間が傷つき、失い、なにも出来なかったというもどかしさ。
何度となく嘆息して、もやっとする思いを吐き出そうと試みるが、思ったようには出ていってはくれなかった。
「かはっ!!」
オットがいきなり上半身を起こした。
目を剥き前方を睨む。
吐き出す息は荒く、濁る瞳に殺意がこもる。
「落ち着け。もう大丈夫じゃ!」
ウルスがすぐにオットの肩に手を置いた。
オットはすぐに辺りを見回して、また仰向けに寝転ぶ。
天をじっと見つめ、落ち着きを取り戻すと瞳の濁りも消えていった。
「そうか、僕は助かったのか⋯⋯。ウルス、君が助けてくれたのかい?」
「ここにおる者全員でヌシらを救出した」
オットは目を閉じ、深く息を吐いた。
落ち着きを取り戻しゆっくりと上半身を起こしていく。
「そうか。みんな、ありがとう。それで他の者達は?」
そこにいる全員がバツ悪そうに顔を見合わせる。
その様子にオットも悟る、瞳が見る見る険しくなっていった。
「見ての通り、ここに戻れたのはヌシとココだけじゃ。ここに戻る道中アーチもロッコも⋯⋯キシャも⋯⋯⋯⋯」
ウルスが悔しさと悲しさから声を詰まらす。
今まで耐えて来た思いが堰を切ったようにあふれ出し、必死に耐えた。
その姿にオットの目が冷たく滾る。
アッシモ!
目を剥き、唇を噛んだ。
「はぁぁっ。ココも助かったが心が壊れてしまった。復帰は難しい」
「命があっただけ良しとしよう。心はゆっくりと取り戻せばいいさ」
所在なく宙を見続けているココを見つめた。
その様子に申し訳ないとオットは心の中で何度も詫びる。
「【ブラウブラッタレギオ(青い蛾)】には申し訳ないことした。オレが書状を送ったばかりに巻き込む形になっちまった⋯⋯」
マッシュはオットとウルスに頭を下げた。
【ブラウブラッタレギオ】が払った代償が大きすぎる。
大切な仲間を何人も失う形になってしまった。
「ヌシだって、兄弟を失っておろうが。詫びる必要などないわい」
「そうだよ。ウルスの言う通りだ。確かにマッシュの言う通り払った代償は大きすぎる。そこはきっちりとアッシモに返して貰うさ」
オットは瞳に冷たい殺気が伴った。
アッシモを必ず捕らえるという強い意志を放つ。
「熱は冷めていないようだね」
オットの様子を眺めていたアルフェンが口を開く。
いつも見せる穏やかな表情はここに来てから見せていない。
つぶらなオッドアイも険しい表情を見せていた。
「ここで逃げ切られても困る。急ぎ、レギオ会議を開こうと思う。オットの所も代役でも構わない、ぜひ参加して欲しい」
「這ってでも行くよ。勝負所だね」
オットは考える余地もなく即答した。
「レギオ会議ってなんだ?」
「知る訳ないでしょう」
聞いた事のない言葉にキルロはハルヲの耳元で呟いた。
ハルヲは苦い顔でキルロを一瞥する。
その姿がアルフェンの目に映った。
「あ! そうだった。【スミテマアルバレギオ】はまだ参加したことなかったね。年に一度、情報の交換と共有を目的に団長達を召集するんだよ。いつもだと恒例行事って感じでつつがなく終わるのだけど、今回は緊急の会議だね。各ソシエタスの団長達を中央に召集を掛けて、今後についての情報を共有しておこうかと思うんだ」
「なるほどね。ハルヲ頼むな」
「は?! 何言っているの、あんたが行かないでどうするのよ!」
ハルヲに一喝され、渋い表情を浮かべた。
団長が集まるって、すげえ人達に混じって話しをするのか?
すげぇ、イヤだな、誰か代わってくんないかな。
「団長、頼むぞ!」
「そうだぞ、しっかりやって来いよ」
「ですです」
「私が代わりに行ってあげようか?」
「それハ、ダメダ」
揃いも揃って他人事だと思いやがって。
盛大な溜め息をつき、諦める事にした。
「ところで、【吹き溜まり】の調査の続きはどうするんだ? ウチも手伝うか?」
「いや、【スミテマアルバレギオ】は一旦戻って、いつでも飛び出せるように準備をお願いしたい。調査の続きは中央が引き継ぐよ。僕も調査の方にかかりっきりになるので何かの時は【スミテマアルバレギオ】に動いて欲しい」
「うーん、そうか。分かった。準備して待機しておくよ」
「宜しく」
中央の負担が大きい気もするが、確かに人手は多いほうがいい、いちパーティーが手伝うより中央総出で当たる方が効率的か。
それにアルフェンの代わりに動くとしたら自分達だもんな。
ここは素直に従おう。
「ワシらは手伝うか?」
「いや、【ブラウブラッタレギオ】は立て直すのを優先して貰って構わない。今回はいろいろ助けて貰ったからね、ここに関しては充分だよ」
「立て直しに時間なんていらないけど、僕達はアッシモを追わせて貰うよ。アイツだけは絶対に許さない」
オットの言葉にウルスも納得の姿を見せる、くせ者集団らしく潜って追い詰める気なのか。
「オット、ウチらに出来る事あったらいつでも声掛けてくれ。いつでも手伝うからさ」
「本当かい! それは心強い。もうすでにフェインからオーカのことを教えて貰ったりして、お世話になっているけどね。何かの際は宜しくお願いするよ」
「やっぱりオーカか?」
「うん。ウチも店を出しているからその辺りから情報を集めてみるよ」
「店?!」
「そう。【猫の尻尾亭】っていう店。オーカに行った際は、ぜひ寄ってよ」
オットが不適な笑みをキルロに見せた。フェインが行った店みたいなやつか?
手広いというかなんというか。
うん?
もし、そんな店行ったのがバレたら⋯⋯⋯⋯。
「まぁ、気が向いたら寄らせて貰うよ。あ、そうだ! 素材があれば義足作るぞ、手持ちがもうないんですぐには作れないけど」
「義足?」
そう言うとオットは失った左足をさすった、失った大きなもののひとつでもある。
その姿にキルロはエーシャを指さした。
「エーシャの左足も義足なんだ。オレが作った。なかなかやるだろう。リハビリ次第で歩けるくらいには回復出来るぞ。ただ素材がなぁ、エーシャのやつは双尾蠍の甲殻を使っているんだが、作るには同じものか同等に頑丈でしなる素材が必要なんだ」
「なるほどね。なんとかしてみるよ、ぜひお願いしたい」
キルロは了解の意味を込めて口角を上げて見せ、オットの心にも更なる希望の火が灯っていった。
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