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鍛冶師と治療師ときどき
鶏と王
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『グガァァァァアアアア!!』
王の雄叫びが轟く。
互いに血を滲ませながらも一歩も引くことはしない。
カズナの長い耳がくちばしについばまれ、穴が開きそうなほど肉を削がれていた。
対峙するキノの体に傷はないものの、珍しく肩で息をし、激しい消耗を見せる。
白き小さな者に王は固執していた。
カズナの刃が王の横腹にいくつもの傷を作ろうとも、キノから視線を外しはしない。
一度狙った獲物を取り逃がさないという王としてのプライドなのか⋯⋯。
カズナが何度となく、背後に回り黒い羽が覆いつくす背に向けて、刃を向けていく。
その気配に王の目がうるさいとカズナを見下し、足に携える硬質の爪でカズナを削りにいった。
カズナの手の甲から伸びる短い刃と硬質の爪がぶつかり合う。
大きな体躯でいとも簡単に跳ね回る脚力、その力がカズナを襲った。
骨まで響く激しい衝突に、勢いのままカズナは吹き飛んでいく。
「グッ⋯⋯」
背中を激しく地面に叩きつけ小さく唸った。
その小さな隙をつきキノが逆手に握る白銀の刃で首元へ迫る。
ギロリと視線は再びその白き小さな者へと戻っていく。
互いに猛る。
大きなくちばしを威嚇するかのごとく大きく開き、上から喰らついていく。
キノは上から漂う醜悪な気配にすぐに横へ跳ねる。
その動きを読んでいたかのように硬質な爪がキノへと向かう。
クロスさせたナイフと爪が再びぶつかり合い、その衝撃にキノはコロコロと地面を転がった。
「キノ! 下がレ!」
カズナの叫びを一瞥し、キノ再びたて王と相対した。
美しい白銀髪が泥と草に汚れている。
王の体躯も滲む血に赤黒く濡れ光り、黄色のくちばしと血走った鋭い目が浮かび上がった。キノを見下ろすその姿から、強者としての矜恃を見せつけているのが分かる。
王は威風堂々と佇んでいた。
そして、血走った瞳に力が込められていく。
フー、フー。
荒い鼻息が王が興奮状態であることを警告する。
短い羽をひとつ羽ばたいて見せると、頭を低く保ち、今まで見せなかった速さでキノへと頭から向かっていった。極大の漆黒の矢のごとく地面を蹴る。
あれはマズイ。
カズナの頭の中で警鐘が鳴り響く。
王はキノを貫く漆黒の矢と化し、風を切り裂いた。。
「キノ!」
カズナが叫んだ。
キノは迫りくる一条の矢と化したくちばしに、ナイフを構える。
勝負に出た王から逃げる素振りを見せず、瞳に青い炎を再び灯す。
クソ!
カズナが王の後を追って行く。兎の足を持ってしても思うように距離が詰まっていかない。カズナはもどかしさだけを積み上げる。
「逃げロ!」
カズナは王の背中を追いながら何度となく叫ぶ。
キノは構えを崩さない。
漆黒の矢を睨み、正面に立ち塞がった。
その黄色の切っ先がキノを捉える。
『ギャア! ギャア!』
キノを目前で王は頭を跳ね上げた。
苦しそうに鳴き声を上げ、右方を睨む。
王の右手、やや離れた所でキシャが睨みを利かしている。
右の羽の付け根にブラブラと深々と突き刺さった槍。
「そいつはロッコの分だ、良く味わえ」
苦しむ王を睨み、キシャが呟いた。
タッタッタッタと軽やかな足音が鳴る。
「【氷球】」
エーシャの詠う声が響いた。
左方からヘッグと共に王へと突っ込んでいく。
エーシャの放つ青い光は氷の矢となり、王の腹を突き破る。
「クァアッ!」
「どうよ! ヘッグ見た!?」
エーシャは鞍上からヘッグの首を撫でまわした。
「畳みかけろ!」
ハルヲは叫び、矢を放つ。
太い風切り音と共に柔らかな皮を突き破り、王の体にいくつもの穴を開けていく。
「カズナ! 足だ!」
マッシュが立ち尽くす王の足元に潜り込むと、足の肉をごっそりと削いでいく。間髪入れず膝の皿に当たる関節に鉄靴を叩きつけると、関節の折れる感触が粉砕音と共に体に伝わった。
『グギャァー!』
体重を支えられなくなった足は折れ曲がり、王は地面へと体を投げ打つ。
「貰いー!」
横たわる王へキルロが飛び込んでいく。
キルロは剣を両手で握り、長い首へと斬り掛かった。
黒い羽毛を跳ね上げ、柔らかな肉を両断する。
死のギリギリまでその瞳は殺気を放つが、分断した頭が生気を失うまで時間は掛からない。
先ほどまで殺気を放っていた瞳が、白く濁っていった。
血の池に沈む王を見つめ、みんなが安堵の息を吐く。
「美味しいとこだけ、貰っちまったな。おい? キノ!? それどうした?」
キルロが横たわる鶏の化け物を一瞥すると泥だらけのキノが目に入った。
急いで駆け寄り、頭や体についた泥を急いで払い落としながら怪我の具合を探る。
「怪我ないか? 大丈夫か?」
キノは上目でキルロを見つめ返し、黙って頷いた。
キルロは安堵し、辺りを見回していく。
ユラとキノ、カズナの消耗が激しい。
ユラとキノは呼吸を整えようと深く息を吸い、カズナの体はいくつもの小さな傷を作っていた。
「カズナ! ヒールするぞ」
「あ! 待って、待って。私がするー。団長は温存しておいて」
エーシャがカズナの元へと駆けていきヒールを掛けた。
「助かったよ」
キシャがキルロの肩に手を置いた。
「ふたりで潜っていたのか?」
キシャは黙って首を横に振る。
「そうか、もっと早く来れてれば⋯⋯」
「そんなことはないさ。全滅しかけたんだ、しなかっただけで十分だ。仇も取れたしな」
煮え切らないキルロの肩にギュッと力を込めた。
それでもまだ渋い表情を浮かべるキルロに、嘆息しながら言葉を続ける。
「思ったより早かったくらいだ。良く場所が分かったな」
「あ、爆音が聞こえたんで音のする方へ急いだらって感じだ。あれが無かったらまだ探していたかも」
「あれか、意味ねえと思ったが⋯⋯そうか。ところで、おさげの眼鏡かけた姉ちゃんが見当たらないが今回は留守番か?」
キシャがキョロキョロと辺りを見回し、フェインの姿を探しているとマッシュが近づいてきた。
「よお! しぶといな。何キョロキョロしているんだ?」
「おまえに言われたくねえぞ。まあ、でも助かった。おまえのところにおさげの姉ちゃんいたろう? 見当たらねえなぁと思って」
「フェインか。ここ来る手前に怪しい落石痕を見つけてそこを調べて貰っている。地盤的に落石が起こるようには見えないんだと、怪しいだろう?」
「そらぁ、そこを探れって、言っているようなものだ」
逡巡するキシャにマッシュは肩をすくめて見せた。
「おい! なんじゃあれ? ヌシらの所はびっくり人間だけ集めているのか?」
ウルスがヒールを掛けるエーシャを見つめ、目をひん剥いて驚きを隠さない。
攻撃魔法を唱えた人間が回復魔法も唱えている。この出鱈目な光景に絶句していた。
「止めてよ、エーシャとあいつだけよ。あとはいたって普通でしょう?」
ハルヲが固まるウルスに言うと、ウルスは眉間に皺を寄せ厳しい目を向ける。
「何言っとる。ドワとエルフのハーフなんて見たことないし、あそこにいる、あやつは兎じゃろ? あんなんも見たことないぞ。ここはびっくり人間パーティーか!?」
「ブハッ」
ウルスが余りにも真剣な表情で訴えるのでハルヲは吹き出してしまった。
確かに言われてみればそうなのかな? 見慣れてしまって感覚がマヒしてしまっているのかもしれない。
「みんな大丈夫か? 急いでフェインに合流しよう。こっちに来ないってことは何か見つけた可能性が高い。行こう!」
キルロの号令でフェインの元へと急いだ。
キシャとウルスが離れ際、ふたりが倒れている方を一瞥し、すぐにキルロのあとを追った。
「やっぱり、そうですよね」
フェインは取り除いた岩の隙間から灯りを照らすと、奥へと続く細長い空間が見えた。
自然に出来たにはあまりにも不自然な落石痕、誰かが何かを隠すために塞いだと考えるのが妥当。
フェインは急いで岩を取り除いていった、もしこの奥にオット達が取り残されていたら⋯⋯。
一心不乱に岩を後ろへと放り投げていく。
取り除いた岩の隙間から外の空気が流れ込んでいった。
徐々に現れる洞口、フェインの思いは確信へと変わる。
間違いなくここにいる。
岩を取り除く手のスピードをさらに上げていった。
王の雄叫びが轟く。
互いに血を滲ませながらも一歩も引くことはしない。
カズナの長い耳がくちばしについばまれ、穴が開きそうなほど肉を削がれていた。
対峙するキノの体に傷はないものの、珍しく肩で息をし、激しい消耗を見せる。
白き小さな者に王は固執していた。
カズナの刃が王の横腹にいくつもの傷を作ろうとも、キノから視線を外しはしない。
一度狙った獲物を取り逃がさないという王としてのプライドなのか⋯⋯。
カズナが何度となく、背後に回り黒い羽が覆いつくす背に向けて、刃を向けていく。
その気配に王の目がうるさいとカズナを見下し、足に携える硬質の爪でカズナを削りにいった。
カズナの手の甲から伸びる短い刃と硬質の爪がぶつかり合う。
大きな体躯でいとも簡単に跳ね回る脚力、その力がカズナを襲った。
骨まで響く激しい衝突に、勢いのままカズナは吹き飛んでいく。
「グッ⋯⋯」
背中を激しく地面に叩きつけ小さく唸った。
その小さな隙をつきキノが逆手に握る白銀の刃で首元へ迫る。
ギロリと視線は再びその白き小さな者へと戻っていく。
互いに猛る。
大きなくちばしを威嚇するかのごとく大きく開き、上から喰らついていく。
キノは上から漂う醜悪な気配にすぐに横へ跳ねる。
その動きを読んでいたかのように硬質な爪がキノへと向かう。
クロスさせたナイフと爪が再びぶつかり合い、その衝撃にキノはコロコロと地面を転がった。
「キノ! 下がレ!」
カズナの叫びを一瞥し、キノ再びたて王と相対した。
美しい白銀髪が泥と草に汚れている。
王の体躯も滲む血に赤黒く濡れ光り、黄色のくちばしと血走った鋭い目が浮かび上がった。キノを見下ろすその姿から、強者としての矜恃を見せつけているのが分かる。
王は威風堂々と佇んでいた。
そして、血走った瞳に力が込められていく。
フー、フー。
荒い鼻息が王が興奮状態であることを警告する。
短い羽をひとつ羽ばたいて見せると、頭を低く保ち、今まで見せなかった速さでキノへと頭から向かっていった。極大の漆黒の矢のごとく地面を蹴る。
あれはマズイ。
カズナの頭の中で警鐘が鳴り響く。
王はキノを貫く漆黒の矢と化し、風を切り裂いた。。
「キノ!」
カズナが叫んだ。
キノは迫りくる一条の矢と化したくちばしに、ナイフを構える。
勝負に出た王から逃げる素振りを見せず、瞳に青い炎を再び灯す。
クソ!
カズナが王の後を追って行く。兎の足を持ってしても思うように距離が詰まっていかない。カズナはもどかしさだけを積み上げる。
「逃げロ!」
カズナは王の背中を追いながら何度となく叫ぶ。
キノは構えを崩さない。
漆黒の矢を睨み、正面に立ち塞がった。
その黄色の切っ先がキノを捉える。
『ギャア! ギャア!』
キノを目前で王は頭を跳ね上げた。
苦しそうに鳴き声を上げ、右方を睨む。
王の右手、やや離れた所でキシャが睨みを利かしている。
右の羽の付け根にブラブラと深々と突き刺さった槍。
「そいつはロッコの分だ、良く味わえ」
苦しむ王を睨み、キシャが呟いた。
タッタッタッタと軽やかな足音が鳴る。
「【氷球】」
エーシャの詠う声が響いた。
左方からヘッグと共に王へと突っ込んでいく。
エーシャの放つ青い光は氷の矢となり、王の腹を突き破る。
「クァアッ!」
「どうよ! ヘッグ見た!?」
エーシャは鞍上からヘッグの首を撫でまわした。
「畳みかけろ!」
ハルヲは叫び、矢を放つ。
太い風切り音と共に柔らかな皮を突き破り、王の体にいくつもの穴を開けていく。
「カズナ! 足だ!」
マッシュが立ち尽くす王の足元に潜り込むと、足の肉をごっそりと削いでいく。間髪入れず膝の皿に当たる関節に鉄靴を叩きつけると、関節の折れる感触が粉砕音と共に体に伝わった。
『グギャァー!』
体重を支えられなくなった足は折れ曲がり、王は地面へと体を投げ打つ。
「貰いー!」
横たわる王へキルロが飛び込んでいく。
キルロは剣を両手で握り、長い首へと斬り掛かった。
黒い羽毛を跳ね上げ、柔らかな肉を両断する。
死のギリギリまでその瞳は殺気を放つが、分断した頭が生気を失うまで時間は掛からない。
先ほどまで殺気を放っていた瞳が、白く濁っていった。
血の池に沈む王を見つめ、みんなが安堵の息を吐く。
「美味しいとこだけ、貰っちまったな。おい? キノ!? それどうした?」
キルロが横たわる鶏の化け物を一瞥すると泥だらけのキノが目に入った。
急いで駆け寄り、頭や体についた泥を急いで払い落としながら怪我の具合を探る。
「怪我ないか? 大丈夫か?」
キノは上目でキルロを見つめ返し、黙って頷いた。
キルロは安堵し、辺りを見回していく。
ユラとキノ、カズナの消耗が激しい。
ユラとキノは呼吸を整えようと深く息を吸い、カズナの体はいくつもの小さな傷を作っていた。
「カズナ! ヒールするぞ」
「あ! 待って、待って。私がするー。団長は温存しておいて」
エーシャがカズナの元へと駆けていきヒールを掛けた。
「助かったよ」
キシャがキルロの肩に手を置いた。
「ふたりで潜っていたのか?」
キシャは黙って首を横に振る。
「そうか、もっと早く来れてれば⋯⋯」
「そんなことはないさ。全滅しかけたんだ、しなかっただけで十分だ。仇も取れたしな」
煮え切らないキルロの肩にギュッと力を込めた。
それでもまだ渋い表情を浮かべるキルロに、嘆息しながら言葉を続ける。
「思ったより早かったくらいだ。良く場所が分かったな」
「あ、爆音が聞こえたんで音のする方へ急いだらって感じだ。あれが無かったらまだ探していたかも」
「あれか、意味ねえと思ったが⋯⋯そうか。ところで、おさげの眼鏡かけた姉ちゃんが見当たらないが今回は留守番か?」
キシャがキョロキョロと辺りを見回し、フェインの姿を探しているとマッシュが近づいてきた。
「よお! しぶといな。何キョロキョロしているんだ?」
「おまえに言われたくねえぞ。まあ、でも助かった。おまえのところにおさげの姉ちゃんいたろう? 見当たらねえなぁと思って」
「フェインか。ここ来る手前に怪しい落石痕を見つけてそこを調べて貰っている。地盤的に落石が起こるようには見えないんだと、怪しいだろう?」
「そらぁ、そこを探れって、言っているようなものだ」
逡巡するキシャにマッシュは肩をすくめて見せた。
「おい! なんじゃあれ? ヌシらの所はびっくり人間だけ集めているのか?」
ウルスがヒールを掛けるエーシャを見つめ、目をひん剥いて驚きを隠さない。
攻撃魔法を唱えた人間が回復魔法も唱えている。この出鱈目な光景に絶句していた。
「止めてよ、エーシャとあいつだけよ。あとはいたって普通でしょう?」
ハルヲが固まるウルスに言うと、ウルスは眉間に皺を寄せ厳しい目を向ける。
「何言っとる。ドワとエルフのハーフなんて見たことないし、あそこにいる、あやつは兎じゃろ? あんなんも見たことないぞ。ここはびっくり人間パーティーか!?」
「ブハッ」
ウルスが余りにも真剣な表情で訴えるのでハルヲは吹き出してしまった。
確かに言われてみればそうなのかな? 見慣れてしまって感覚がマヒしてしまっているのかもしれない。
「みんな大丈夫か? 急いでフェインに合流しよう。こっちに来ないってことは何か見つけた可能性が高い。行こう!」
キルロの号令でフェインの元へと急いだ。
キシャとウルスが離れ際、ふたりが倒れている方を一瞥し、すぐにキルロのあとを追った。
「やっぱり、そうですよね」
フェインは取り除いた岩の隙間から灯りを照らすと、奥へと続く細長い空間が見えた。
自然に出来たにはあまりにも不自然な落石痕、誰かが何かを隠すために塞いだと考えるのが妥当。
フェインは急いで岩を取り除いていった、もしこの奥にオット達が取り残されていたら⋯⋯。
一心不乱に岩を後ろへと放り投げていく。
取り除いた岩の隙間から外の空気が流れ込んでいった。
徐々に現れる洞口、フェインの思いは確信へと変わる。
間違いなくここにいる。
岩を取り除く手のスピードをさらに上げていった。
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