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希求と幻惑
夕餉の足音
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夕餉の準備に追われる足音が、窓の外から聞こえてくる。
暗くなり始めた街は静かな活気を称え、いくつもの足音を響かせた。
窓から届く光は弱く、部屋の中に伸びる影を引き延ばしていく。
「それでその情報ってなに? なに?」
好奇心旺盛な変わり者のエルフがシルの言葉に割って入ってきた。
「うちらがイスタバールに行く途中騎馬隊の襲撃を受けたんだ。ダミーのクエスト中だったから、あまり大事にならないように調べていた。それがこの間、襲撃犯が誰だったか分かったんだよ」
「誰?」
いつも見せる厳しいカイナの視線はまだ見ぬ襲撃犯へと向けられる。
シルに抱かれたまま、しまらない姿で答えた。
「オーカの騎馬隊。国の衛兵にあたるやつらだ」
想像していた斜め上からの答えに、三人のエルフは一時放心状態となった。
国が? 何のために?
シルは眉間に皺を寄せ逡巡する。
「まぁ、今の段階でオーカが反勇者と繋がっていると決めつけるのは少し早計な気もするが、国じゃないにしろ国の衛兵を動かせるやつが繋がっているのはまず間違いない」
「襲撃イコール反勇者って言うのも少し安易じゃない? 襲ったからって決めつけるのもどうなの?」
「確かに。ただ騎馬隊に下った命令は、オレたちを襲うことだった。まぁ、詳しくは襲ったやつがぼちぼち来るはずだから直接聞いてくれ?」
「え?! 襲撃犯がここにいるの?」
「ああ、いるよ。そいつが話してくれたから分かったんだ」
ユトが目を見開いた。変わり者のエルフですら困惑する程のキルロの言葉。自分たちを襲った人間を側に置くなんて考えられない。
エルフたちはキルロの言葉にほとほとあきれ返るだけ。
らしいというか、危機感がないというか、なんというかお人好し過ぎる。
「領主様⋯⋯⋯」
扉が開くとヒューマンの若い男が気まずそうに顔をのぞかせる。
今、話に出ていたコラットがうつむき様子を伺う。
扉を開き、うす暗い待合いへ進むと、美麗なエルフが領主に抱きついている姿に目を丸くした。
「ああ、今話に出ていた元オーカ騎馬隊所属のコラットだ。このエルフたちはオレたちが世話になっているパーティーのメンバー、シル、カイナ、ユト。取って食ったりしないからそんなに恐縮しなくていいぞ。あとこの姿は気にしないでくれ。出来れば記憶から消しておいてくれ」
「はぁ⋯⋯⋯」
コラットは気のない返事をすると三人のエルフのただならぬ気配に気圧される。
うす暗い部屋に浮かび上がる三人の剣呑な表情に背筋を正す。
値踏みする視線にいたたまれず、気持ちが落ち着かないでいた。
「あれ? さっき領主様って呼んでなかった?」
「気にするな。何でもない」
「気にするなって言われると気になるものじゃない?」
そこに喰いつくのかユト。
スルーして欲しかったのに、これはシルも食いついくな。
「まぁ、その話はあとだ。先にコラットの話を聞こう」
「そうね。じゃぁまずあなた、私の王子を襲ったのですってね。どういうつもりかしら? 場合によっては許されないわよ」
冷ややかに射抜く視線を向けるシルの姿にコラットは震えあがるだけだった。
「そうじゃない! コラットどういう指令が下ったか教えてくれ」
コラットはうつむきながらもエルフたちへ視線を送り、ポツポツと話し始めた。
「はい、隊長からイスタバールへ向かう商隊の馬車からオーカより盗んだ盗品を奪い返せ。という指令が下りました。盗品専門の商隊だから気兼ねするなと。オーカから奪った物が木箱に入っているのでそれを奪取するのが一番の目的だと伝えられました」
「木箱の中身については何も聞かされなかったの?」
「はい、何も聞いていません」
シルがひとつ唸ってみせた。
コラットが嘘をついている可能性について考えてみる。
嘘をついてかばう者があるのか? あくまでも『元』騎馬隊だ、上司やオーカをかばう必要性は感じられない。
何か細工をしているようにも見えないし、今の言葉に嘘はないと見ていいのか。
「商隊の生死についてはどういう通達だったの?」
「あ⋯⋯はい。生死については問わないと。邪魔するようであれば手心をかける必要ないと言われました」
バツ悪そうに答えるコラットをシルが睨む。
正直に答えたコラットはさらに小さくなっていく。
「コラコラ、せっかく協力してくれているのだから威嚇をするな。コラット気にしなくていいぞ」
「むう」
シルが頬を膨らまし唇を尖らす。
そんなんじゃあ、いつまで経っても話が進まない。
キルロは嘆息する。
暗がりが訪れた部屋に少しばかり重い空気が流れこむ。
ユトが立ち上がりランプに火を灯すと、柔らかな灯りが待合いを照らしみんなの表情がはっきりと見えるようになった。
「こんなところかな。コラットありがとう。仕事終わりに悪かったな」
「いえ、それでは失礼します」
一礼するとコラットは扉を出て行った。
どう考えるべきか、今聞いた話をシルたちは精査している。
ランプが淡く照らす表情は誰も真剣で口を開く者もおらず、とつとつと時間が流れていった。
うつむいたり、視線を宙に向けたり各々が逡巡している。
「ちなみに木箱には何が入っていたの? 精浄用のあれ?」
「そうだ。木箱にぎっしり魔具が詰まっていた。ちなみに運んでいたオレたちも中身は聞いていない。ダミー用の荷物だと信じて疑わなかった。なぁ、シル苦しいからもう勘弁してくれないか?」
「それはダメよ。つまり襲撃を指示した人間は荷物の内容を知っていた?」
「う~ん⋯⋯⋯」
キルロがひとつ唸る。
そうなるとアルフェンの周辺が怪しい? それはちょっと考えにくいな。
「シル様、そうとは限らないのでは? 単純に勇者絡みのクエスト。しかも荷運び。魔具を積んでいると考えるのが普通ではないかと思います」
「確かにカイナの言う通りかも。そっちの方が、合点がいく。勇者絡みのクエってだけで強奪を考えたんじゃないかな」
「おまえに言ったのではない。シル様に言ったのだ。いい加減離れろ!」
「それこそシルに言え!」
シルの頭を悩ます襲撃者の影。
間違いなく裏で誰かが絵図を描いている。
それは間違いなく勇者に近い人間。
誰だ? オーカと関わりのあるヤツ⋯⋯。
静まり返る待合いに扉が開く音が届く。
「こんばんワ?! キルロ?? さン?!!」
マナルが待合いに入るなりエルフに抱き着かれている奇妙な光景に小首を傾げる。
「ぉぉぉおおおお!! 兎さん!!」
ユトのテンションがいきなりマックスになった。
シルもカイナも初めて見る兎人に驚きの表情を隠さない。
「よお、マナル。今日見たことは記憶から消してくれ」
「は、はァ⋯⋯⋯イ?」
煮え切らない答えにキルロは不安になる。
「ホントにいたね! 紹介してよ! いやぁ、やっぱ面白いなぁ【スミテマアルバレギオ】」
「こっちはウチらが世話になっている【ノクスニンファレギオ】のシル、カイナ、ユトだ」
「初めましテ、マナルと申しまス」
「マナルは、ここの副大統領だ」
「お偉いさんなの?! すごいね!」
「形の上だけでス。凄くないですヨ」
ユトのテンションの高さが、その場にいた人間たちを圧倒していく。
ここまで食いつくとは。
マナルも苦笑いを浮かべ対処に苦心していた。
みんな最初はそうか⋯⋯いや、にしてもユトのテンションは高過ぎる。
「ヤクロウさんが忙しくて手が離せないのデ、代わりにご挨拶に伺いましタ。元気そうで良かったでス」
「そうかわざわざありがとう」
シルが何かに気が付いたらしく抱きしめる力が強くなっていく。
「あらヤダ、そういう事。副大統領がわざわざのご挨拶、なるほどねぇ。さすが領主様、ホントに王子になっちゃうのかしら」
「いやいや、そんなんじゃないからホントに」
「シル様、さすがにもう離れた方が良いかと思いますが」
カイナの言葉に、キルロは激しく首を縦に振った。
キルロを見つめるマナルの眼差しがいつの間にか憐憫を帯びていく。
少し考える素振りを見せるとシルはパっと手を離した。
キルロは解放の安堵に浸る。
「何か来るわ、私の第六感がそう言っている」
え!? 何!? 敵襲!? ウソだろう。
ガラガラと外が騒がしい、大きな車輪の音が響く。
扉の外へと飛び出す。
「あれ?! ハルヲ? フェイン?」
大きな馬車の手綱を引くふたりの姿に間抜けな声を上げてしまった。
「やっぱりね。ハル帰って来ちゃったわ。残念」
キルロの後ろからシルが覗き込み落胆の声を上げた。
「紛らわしいな、おい!」
ここはシルに突っ込むのが正しい。
暗くなり始めた街は静かな活気を称え、いくつもの足音を響かせた。
窓から届く光は弱く、部屋の中に伸びる影を引き延ばしていく。
「それでその情報ってなに? なに?」
好奇心旺盛な変わり者のエルフがシルの言葉に割って入ってきた。
「うちらがイスタバールに行く途中騎馬隊の襲撃を受けたんだ。ダミーのクエスト中だったから、あまり大事にならないように調べていた。それがこの間、襲撃犯が誰だったか分かったんだよ」
「誰?」
いつも見せる厳しいカイナの視線はまだ見ぬ襲撃犯へと向けられる。
シルに抱かれたまま、しまらない姿で答えた。
「オーカの騎馬隊。国の衛兵にあたるやつらだ」
想像していた斜め上からの答えに、三人のエルフは一時放心状態となった。
国が? 何のために?
シルは眉間に皺を寄せ逡巡する。
「まぁ、今の段階でオーカが反勇者と繋がっていると決めつけるのは少し早計な気もするが、国じゃないにしろ国の衛兵を動かせるやつが繋がっているのはまず間違いない」
「襲撃イコール反勇者って言うのも少し安易じゃない? 襲ったからって決めつけるのもどうなの?」
「確かに。ただ騎馬隊に下った命令は、オレたちを襲うことだった。まぁ、詳しくは襲ったやつがぼちぼち来るはずだから直接聞いてくれ?」
「え?! 襲撃犯がここにいるの?」
「ああ、いるよ。そいつが話してくれたから分かったんだ」
ユトが目を見開いた。変わり者のエルフですら困惑する程のキルロの言葉。自分たちを襲った人間を側に置くなんて考えられない。
エルフたちはキルロの言葉にほとほとあきれ返るだけ。
らしいというか、危機感がないというか、なんというかお人好し過ぎる。
「領主様⋯⋯⋯」
扉が開くとヒューマンの若い男が気まずそうに顔をのぞかせる。
今、話に出ていたコラットがうつむき様子を伺う。
扉を開き、うす暗い待合いへ進むと、美麗なエルフが領主に抱きついている姿に目を丸くした。
「ああ、今話に出ていた元オーカ騎馬隊所属のコラットだ。このエルフたちはオレたちが世話になっているパーティーのメンバー、シル、カイナ、ユト。取って食ったりしないからそんなに恐縮しなくていいぞ。あとこの姿は気にしないでくれ。出来れば記憶から消しておいてくれ」
「はぁ⋯⋯⋯」
コラットは気のない返事をすると三人のエルフのただならぬ気配に気圧される。
うす暗い部屋に浮かび上がる三人の剣呑な表情に背筋を正す。
値踏みする視線にいたたまれず、気持ちが落ち着かないでいた。
「あれ? さっき領主様って呼んでなかった?」
「気にするな。何でもない」
「気にするなって言われると気になるものじゃない?」
そこに喰いつくのかユト。
スルーして欲しかったのに、これはシルも食いついくな。
「まぁ、その話はあとだ。先にコラットの話を聞こう」
「そうね。じゃぁまずあなた、私の王子を襲ったのですってね。どういうつもりかしら? 場合によっては許されないわよ」
冷ややかに射抜く視線を向けるシルの姿にコラットは震えあがるだけだった。
「そうじゃない! コラットどういう指令が下ったか教えてくれ」
コラットはうつむきながらもエルフたちへ視線を送り、ポツポツと話し始めた。
「はい、隊長からイスタバールへ向かう商隊の馬車からオーカより盗んだ盗品を奪い返せ。という指令が下りました。盗品専門の商隊だから気兼ねするなと。オーカから奪った物が木箱に入っているのでそれを奪取するのが一番の目的だと伝えられました」
「木箱の中身については何も聞かされなかったの?」
「はい、何も聞いていません」
シルがひとつ唸ってみせた。
コラットが嘘をついている可能性について考えてみる。
嘘をついてかばう者があるのか? あくまでも『元』騎馬隊だ、上司やオーカをかばう必要性は感じられない。
何か細工をしているようにも見えないし、今の言葉に嘘はないと見ていいのか。
「商隊の生死についてはどういう通達だったの?」
「あ⋯⋯はい。生死については問わないと。邪魔するようであれば手心をかける必要ないと言われました」
バツ悪そうに答えるコラットをシルが睨む。
正直に答えたコラットはさらに小さくなっていく。
「コラコラ、せっかく協力してくれているのだから威嚇をするな。コラット気にしなくていいぞ」
「むう」
シルが頬を膨らまし唇を尖らす。
そんなんじゃあ、いつまで経っても話が進まない。
キルロは嘆息する。
暗がりが訪れた部屋に少しばかり重い空気が流れこむ。
ユトが立ち上がりランプに火を灯すと、柔らかな灯りが待合いを照らしみんなの表情がはっきりと見えるようになった。
「こんなところかな。コラットありがとう。仕事終わりに悪かったな」
「いえ、それでは失礼します」
一礼するとコラットは扉を出て行った。
どう考えるべきか、今聞いた話をシルたちは精査している。
ランプが淡く照らす表情は誰も真剣で口を開く者もおらず、とつとつと時間が流れていった。
うつむいたり、視線を宙に向けたり各々が逡巡している。
「ちなみに木箱には何が入っていたの? 精浄用のあれ?」
「そうだ。木箱にぎっしり魔具が詰まっていた。ちなみに運んでいたオレたちも中身は聞いていない。ダミー用の荷物だと信じて疑わなかった。なぁ、シル苦しいからもう勘弁してくれないか?」
「それはダメよ。つまり襲撃を指示した人間は荷物の内容を知っていた?」
「う~ん⋯⋯⋯」
キルロがひとつ唸る。
そうなるとアルフェンの周辺が怪しい? それはちょっと考えにくいな。
「シル様、そうとは限らないのでは? 単純に勇者絡みのクエスト。しかも荷運び。魔具を積んでいると考えるのが普通ではないかと思います」
「確かにカイナの言う通りかも。そっちの方が、合点がいく。勇者絡みのクエってだけで強奪を考えたんじゃないかな」
「おまえに言ったのではない。シル様に言ったのだ。いい加減離れろ!」
「それこそシルに言え!」
シルの頭を悩ます襲撃者の影。
間違いなく裏で誰かが絵図を描いている。
それは間違いなく勇者に近い人間。
誰だ? オーカと関わりのあるヤツ⋯⋯。
静まり返る待合いに扉が開く音が届く。
「こんばんワ?! キルロ?? さン?!!」
マナルが待合いに入るなりエルフに抱き着かれている奇妙な光景に小首を傾げる。
「ぉぉぉおおおお!! 兎さん!!」
ユトのテンションがいきなりマックスになった。
シルもカイナも初めて見る兎人に驚きの表情を隠さない。
「よお、マナル。今日見たことは記憶から消してくれ」
「は、はァ⋯⋯⋯イ?」
煮え切らない答えにキルロは不安になる。
「ホントにいたね! 紹介してよ! いやぁ、やっぱ面白いなぁ【スミテマアルバレギオ】」
「こっちはウチらが世話になっている【ノクスニンファレギオ】のシル、カイナ、ユトだ」
「初めましテ、マナルと申しまス」
「マナルは、ここの副大統領だ」
「お偉いさんなの?! すごいね!」
「形の上だけでス。凄くないですヨ」
ユトのテンションの高さが、その場にいた人間たちを圧倒していく。
ここまで食いつくとは。
マナルも苦笑いを浮かべ対処に苦心していた。
みんな最初はそうか⋯⋯いや、にしてもユトのテンションは高過ぎる。
「ヤクロウさんが忙しくて手が離せないのデ、代わりにご挨拶に伺いましタ。元気そうで良かったでス」
「そうかわざわざありがとう」
シルが何かに気が付いたらしく抱きしめる力が強くなっていく。
「あらヤダ、そういう事。副大統領がわざわざのご挨拶、なるほどねぇ。さすが領主様、ホントに王子になっちゃうのかしら」
「いやいや、そんなんじゃないからホントに」
「シル様、さすがにもう離れた方が良いかと思いますが」
カイナの言葉に、キルロは激しく首を縦に振った。
キルロを見つめるマナルの眼差しがいつの間にか憐憫を帯びていく。
少し考える素振りを見せるとシルはパっと手を離した。
キルロは解放の安堵に浸る。
「何か来るわ、私の第六感がそう言っている」
え!? 何!? 敵襲!? ウソだろう。
ガラガラと外が騒がしい、大きな車輪の音が響く。
扉の外へと飛び出す。
「あれ?! ハルヲ? フェイン?」
大きな馬車の手綱を引くふたりの姿に間抜けな声を上げてしまった。
「やっぱりね。ハル帰って来ちゃったわ。残念」
キルロの後ろからシルが覗き込み落胆の声を上げた。
「紛らわしいな、おい!」
ここはシルに突っ込むのが正しい。
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