鍛冶師と調教師ときどき勇者と

坂門

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猫ときどき鍛冶師ときどき調教師

猫ときどき鍛冶師ときどき調教師

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 ハルさん達が帰って来ました。
 今日も無事に帰って来てくれました。
 
「「お帰りなさーい」」

 みんなが声を掛けます。
 良かった、みんなが安堵しました。
 ハルさんのいないここは、やはり何かが足りません。
 
「ただいま」

 ハルさんの笑顔にみんなも笑顔になります。
 少し寂しそうに見えたのは私だけでしょうか。

「エレナもありがとう」

 そう言って、柔らかな笑顔で頭を撫でてくれました。
 身長は私の方が大きいのに柔らかい小さな手が、私の頭をくしゃくしゃとしてくれると心が穏やかになるのが自分でも分かるのです。

「さすがに疲れたから、今日は休ませて貰うわね。久々に自分のベッドで寝られるわ」
「ゆっくり休んで下さい。あとはやっておきますよ」

 大きな伸びをするハルさんにアウロさんが声を掛けると、ハルさんも笑顔を返し自室へと消えて行きました。

「さあ、みんな。後片付けだ」
『はい!』

 ハルさんが帰って来た時のいつもの光景です。
 アウロさんがハルさんと一緒だった仔達のケアに当たります。
 今回はスピラです、馬車から降りると早速アウロさんに甘えるんです。
 大きな前足をアウロさんの肩に掛けて、大きな口でアウロさんの頭を甘噛みします、初めて見た時はびっくりしたけど見慣れた光景になりました。
 ”仲良くていいなぁって言ったら“
 “なめられているんだよ”
 って、困り果てた顔で言っていたアウロさんをいつも思い出します。
 私とフィリシアは……そうそうフィリシアはフィリシアさんって言うと他人行儀ねって怒るのです。
 最初は抵抗あったのだけど今じゃすっかり慣れました。
 私とフィリシアは馬車の掃除です。
 ラーサさんとモモさんが、荷物を片づけている間に馬車を洗います。
 今日は汚れてはいるけど傷とか増えてないので良かった、そんな事を思いながら洗って行きます。

「ねえ、フィリシア。ハルさんなんか元気なかった気がするのだけど⋯⋯」
「そうね。きっとなんかあったんじゃない。落ち着いたら話してくれるわよ」

 車輪を洗いながらニッて、笑ってくれました。
 何気ないことだけどハルさんとみんなの絆を垣間見た気がします。
 信頼、信用、ここに来ていろいろ学んでいます。
 私もがんばろう。
 拳をギュッと握りました。


 アウロさんが、馬車組の様子を見に来ました。

「そっちはどう?」
「ぼちぼち終わります」
「じゃあ、キリのいいところでご飯にしようか」
『はーい』

 スピラも落ち着いたみたいです。ご飯を食べながらついていった仔達の様子や荷物の状態から今回の旅がどうだったのかみんなで予想します。
 平気そうな顔をしているけど、みんなやっぱり心配なのですよね。

「回復薬が結構減っていたのがきになるわね」
「スピラは元気だったな、異常もなし」
「馬車の傷は増えてなかったわ、ねえー」
「はい、増えていなかったです」
「矢はほぼ使い果たしていた。大変だったのかな?」

 
 御飯を食べていると自然とそんな話題になっていきます。
 ハルさんの前では微塵も感じさせないですが、みんな今回もどうだったのか凄く気にしています。
 でも、決してハルさんには聞きません。ハルさんから話してくれるのをひたすら待つのです。
 とっても心がやきもきしてソワソワするのですが、私も成人しましたからね、みんなと同じように毅然と振る舞うのですよ。
 でも、ハルさんに聞く前にキノに聞いちゃっているのはみんなには内緒です。

「アウロさんを筆頭に皆さん、ハルさんに信頼されていますよね。うらやましいです」
「エレナだって信頼されているじゃない」
「そうそう、自信持ちなさい」

 モモさんとラーサさんが笑顔で言ってくれました。
 嬉しいけど私なんかまだまだですよ。

「昔は僕達もここまで、まかして貰うって感じじゃなかったよな」
「考えてみるとそうよね」
「ここ1、2年じゃない?」
「そうなのですか?」

 アウロさんが思い出しながら話してくれました。
 フィリシアやラーサさんも同意します。
 最近ですね。

「なにかあったのですか? きっかけとか?」

 皆さんに聞いてみると一応に腕を組んで考えます、思いあたる節がないのでしょうか。

「あ! キルロさんに出会っているよ!」
「えー、関係あるのかな?」

 モモさんが目を見開いてもアウロさんは懐疑的です。

「キルロさんって最初どんな感じでした?」
「僕が初めて見た時はひたすらに謝っていたな」
「ええー?! 私の時はハルさんの肩バンバン叩いて高笑いしていたよ」
「私の時はハルさんにえらい剣幕で怒られていたよ」
「私の時は………なんかいい雰囲気だった! きゃっ!」
 
アウロさん、モモさん、ラーサさん、フィリシアとみんな違い過ぎて良く分からないです。
 とりあえずキルロさんと出会ってハルさんも変わったのかな?
 だとしたら私と一緒、なんてね。

 片づけは終わったので通常業務です。
 私は今、犬豚ポルコドッグや猫、豚や狸猫なんかの大きくない仔達を面倒見ています。
 大きな部屋で放し飼いになっているので脱走した仔はいないか、調子の悪い仔はいないか。
 きれいに掃除をしてご飯をあげて、調子の悪い仔がいたらハルさんやアウロさんに相談しにいきます。
 それと時間がある時はフィリシアが担当しているトリマーの仕事を手伝ったり、モモさんに治療の仕方を教わったりと一日はあっという間に過ぎて行き、それと同時にとても充実しています。
 自分の部屋へ戻ってベッドに潜るとあっという間に夢の中です。
 おやすみなさい。




「キノ、お帰りー」
「ただいまー!」

 今日は仕事が夕方からなのでキルロさんのところへ遊びにいっちゃいました。
 キルロさんは“ゆっくりしていけ”って笑顔を見せて工房へ入ったきりです。
 なんでもハルさんの為にドーンとするやつ? を作るのだとか?
 キノの言う事はたまにわかんないのよ。

「キノ、ケガなかった? 大丈夫だった?」

 キノが珍しく窓の外へと視線を向けると、振り向きもせず首を横に振りました。
 今まで見たことのないキノの仕草に心が落ち着きません。
 陽のあたるキノの銀白髪がキラキラと輝いてとても綺麗です。
 怖いけど聞かないとそんな気がしました。

「どうしたの?」
「ネイン、死んじゃった」

 キノがこちらに振り返りポツリといいました。心臓がバクバクして苦しいです。
 いつも穏やかで、一歩引いたところからみんなを見守っている。そんな感じのする方。
 涙が一筋流れると、涙が溢れて止まりません。
 悲しいし怖い。これがもしハルさんやキルロさんだったら……。
 想像しただけで耐えられない。
 でも、私なんかより一緒にいたハルさんやキルロさん、キノの方がショックなはず。
 私はしっかりしないと。
 気がつくとキノが膝に手を添えてくれていました、そっとそこに手を合わせます。
 大丈夫という変わりに何度もキノに頷くとわかってくれたみたいです。

「キノ、無理しないでね。お願い、キルロさんもハルさんも……」
「うん」

 帰り際にキノを抱きしめながら伝えました。
 キノの返事に勇気づけられ、今日も仕事をしっかりとやります。
 ハルさんの為に私が出来るのはそれだけですから。




「早駆けですー」

 店先からの声にキルロは眠い目をこすりながら玄関口へと向かった。
 誰?
 アルフェン?
 封蝋はいたって一般的な封蝋で中を開け手紙を取り出す。
 マナル。
 マナルから緊急ってことはヴィトリアからか。
 なんかヤバいのかな?
 少し心がざわつく。
 どれどれ。

 な?!

 人手不足?!

 少しホッとする。
 最近は物騒な話題に事欠かなかったんで、またそんなことが起きたのかとヒヤヒヤしたぞ。
 でも、割と急を要するのか。
 治療院メディシナが人手不足で回せないってのは、いかがなものか。
 学校も建てたし、急に人材が必要になったせいもあるのかな。
 ……オレのせい?
 それはやっぱり動かないと。
 こういう時の副理事長だよな。
 うんうん。
 とりあえずハルヲに投げよう。
 そうしよう。
 マナルからの手紙をポケットに押し込み店をあとにした。

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