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果樹の森
執事と事務長ときどき理事長
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村から温かいスープが果樹の森へと届いた。
久々の温かい食事に皆の顔が綻んでいる。
村の住人も兎人に会いたがるというウストランの言葉に嘘はなかった。柔和な表情で次々とスープを振る舞っていく。
今度はこっちがスピード勝負だ。
新しいクエストのスタート、兎人のヴィトリアへの移動と居住区の確保。
「よし、ウチラも行こう。マッシュは中央で襲撃の件を含めて、兎人について情報の共有と収集、ハルヲは一度ミドラスに戻って馬車と取り急ぎ必要そうな備品の確保。オレはヴィトリアへ向かって、居住区の確保と受け入れ態勢について話しをつけてくる」
「ヴィトリアにはネインも連れて行って、アンタひとりじゃ不安しかないわ」
ハルヲの一言にキルロは渋い顔を見せるが、ハルヲはそっぽ向いて涼しい顔をしているだけだった。
「ネインもヴィトリア来てくれ」
「オレも行く!」
頷くネインにユラもなぜか手を上げる。
「ユラ来ても何もする事ないぞ?」
「うまいもん食えるだろ」
キルロは頭を抱えたが、ドワーフか⋯⋯。
手先は器用だし、物作りは得意分野なはず。
「ユラ、家造りとか得意か?」
「当たり前だろ! ドワーフなんだから叩いたり掘ったり、得意に決まっとろうが。ヌシはそんな事も知らんのか」
「確認しただけだ! ユラもヴィトリア来てくれ、フェインはここに残ってフォローをよろしく。時間は余りない、すぐ行くぞ」
すぐさま大きな森を後にして、各々が目的地へと移動する。
いろいろな人の思いを背負っての重要クエストがスタートした。
ヴィトリアを目指す馬車がいつもより派手に揺れていた。
キルロ達を乗せる馬車が、街道を猛スピードで走る。
車輪の軋む音が耳障りだが、そんな事はおかまいなしだ。
ヴィトリアに入ると真っ直ぐに治療院の裏手にまわり門をくぐった。
「お帰りなさいませ。突然ですがどうかされましたか?」
玄関をくぐると執事のヴァージが驚きの表情で四人を向かい入れた。
早駆けの手紙すら出す時間なかったからな。ヴァージには申し訳ないが時間が足りない。
「すまんなヴァージ。急で申し訳ないんだが、新しい事務長と話がしたいんだ。取り次いで貰えるか?」
「お安いご用です。では、こちらでお待ち下さい」
ヴァージはペースを取り戻すと、広々とした客間へと案内する。
綺麗に整う部屋のテーブルにはいつものように果物が置かれていた。
事務長が来るまで、もどかしい時間を過ごす。
ユラとキノはおいしそうに果物を頬張り、ネインは目を瞑り静かに佇む。
キルロだけがテーブルを指でトントンと叩き、もどかしさを露わにしていた。
今のうちにすべき事を整理しよう。
居住区の確保と建築、それと仕事か。
後は稀少種としての安全確保、最初は奇異の目で見られるよな。
そこは慣れて貰うしかない。覚悟はしといて貰おう。
コン、コン。
扉が軽くノックされ扉の方へと目を向けた。扉から見覚えのある犬人の男が入ってくると、驚きのあまり思わずキルロは立ち上がってしまう。
「ネスタ!? なんでアンタがいるんだ?」
イスタバールのクエスト時、ブレイヴコタン(勇者の村)の代表をしていたネスタとの思わぬ再会をキルロは驚きを持って迎えた。
初めての勇者クエストで右も左も分からないスミテマアルバレギオを、随分とフォローしてくれた優秀な男性がなぜここに?
「新しい事務長のネスタです。キルロ理事長宜しくお願い致します」
口調は丁寧だが軽くウインクしながら、茶目っ気たっぷりに笑顔を見せた。
アルフェンに任せて正解だったな、優秀な男を送り込んでくれた。
「久しぶり! アンタが事務長とは。安心して任せられるな」
「そう言って貰えると素直に嬉しいですね」
笑顔で握手を交わす。
あれ?
さっき理事長とか言ってなかった?
聞き間違いかな。
「早速で申し訳ないんだけど、いろいろとお願い事があるんだ。仕事を増やして申し訳ないけど宜しくお願い出来るかな? ヴァージにも手伝って貰おうと思っている。ヴァージもちょっといいか?」
入口の所に佇むヴァージにも声を掛ける、手を胸に宛てて黙って頷く。
ネスタもキルロの勢いに少し驚いた表情を見せたが、キルロの真剣な声色に大きく頷いた。
「それで理事長、仕事とは何でしょう?」
あ?! やっぱり言った。
「ネスタ、理事長ってなに? 気になって話が進まない」
「【ヴィトーロインメディシナ(治療院)】の理事長ですよ? あれ? ご存知じゃないですか?」
「何それ! 止めて!! 柄じゃない」
「そう言われましても、院長たってのお願いですので。ちなみに副理事長はハルヲンスイーバ・カラログース様です」
「ええええー!?」
絶対ふざけているよな。
父親が、ほくそ笑んでいる姿が頭を過る。
しかし今はそれどころじゃない、落ち着くまでは放置だ。親父め。
「その件はまた後だ。簡単に言うと100名程をヴィトリアに移住させたいので、住居の整備など、移住出来る環境を整えて欲しい。金はうちの治療院から従業員に迷惑が掛からないように回してくれ。場所は裏通りの空いている土地を、まるっと国から買い取って、何とかして欲しい」
ネスタはメモを取りながら、キルロの話を聞いていた。
メモを見ながらペンでトントンと叩き頭の中を整理している。
「場所とお金は大丈夫でしょう。ただ100名となると、なかなかすぐにという訳にはいかないでしょうな、何か訳ありですよね」
「そうなんだ。兎人って知っているか?」
ネスタとヴァージが顔を見合わせる。
突然の問いにネスタは少し困惑した表情を見せ、ヴァージも珍しく少し目を見開いた。
「お伽話のやつですよね?」
ネスタは自信なく答えヴァージに振り向く、ヴァージもそれに頷き困惑の色を見せた。
キルロはそんな二人を見つめ小さく頷く。
「そのお伽話は実在するんだ。兎人の隠れ里が襲われ壊滅。生き残った人達も近隣の村の助けで、どうにかこうにか避難生活をおくっている状態なんだ」
「襲われた? なぜですか?」
さすが兵士。
ネスタの反応にそう感じる、ネスタにまかせればきっと大丈夫だ。
「理由はまだわからない。安全の確保の為、目を配って貰いたいんだ。その辺りについてはマッシュが中央に報告がてら、掛け合っているはずだ。ネスタも気を配って貰えると安心なんだけど」
ネスタは厳しい目つきでキルロの話に黙って頷く。
その姿にキルロは安堵の表情を浮かべる。
「あのう。2、30人程度の居住施設だと、どれくらいかかりますか?」
話を聞いていたネインが手を上げて発言すると、ネスタとヴァージが顎に手をやり考え込んだ。
「2週間くらいでしょうか」
「いや、頑張れば10日でなんとかできるのではないかと」
ネスタの答えを受けたヴァージが何か思いついた。
それを受けたネインは静かにテーブルの上へ腕を置き逡巡する。
「団長、すぐに取りかかって頂き4~5班に分けて移住でいかがでしょうか? 人数が減っていけば果樹の村の負担も減っていきます。一気に100名より現実的ではないかと」
確かに、グループ分けは本人達に任せればいい。
何の動きもないより気持ち的にも動きがあった方がいいはず。
ネインの案で行かない理由はないな。
「それで行こう、ヴァージは現場の指揮を頼む。ユラ、ヴァージの手伝いとフォローを頼む」
「あいよ」
果物を頬張ながら片手をあげた、ヴァージは胸に手を置き静かに頭を下げる。
「ネスタは国との交渉や予算の整理、後は護衛の段取りなど大局を見て判断を頼む。ヴァージとうまく連携して宜しく頼むよ。中央からも、なんかあるかも知れないから窓口になってくれ」
「ヴァージさんは優秀ですからね、足引っ張らないように尽力しますよ」
「二人とも優秀過ぎだよ。居住施設の目処がついたら連絡を。それじゃ宜しく」
みんなが一斉に動き始める。扉を出ようとしたネスタに声を掛けた。
「ネスタ、落ち着いたら理事長の件詳しく聞くからなー」
ネスタはにっこり笑うと手を胸に当て、少しオーバーに頭を下げて扉の外へと消えて行った。
久々の温かい食事に皆の顔が綻んでいる。
村の住人も兎人に会いたがるというウストランの言葉に嘘はなかった。柔和な表情で次々とスープを振る舞っていく。
今度はこっちがスピード勝負だ。
新しいクエストのスタート、兎人のヴィトリアへの移動と居住区の確保。
「よし、ウチラも行こう。マッシュは中央で襲撃の件を含めて、兎人について情報の共有と収集、ハルヲは一度ミドラスに戻って馬車と取り急ぎ必要そうな備品の確保。オレはヴィトリアへ向かって、居住区の確保と受け入れ態勢について話しをつけてくる」
「ヴィトリアにはネインも連れて行って、アンタひとりじゃ不安しかないわ」
ハルヲの一言にキルロは渋い顔を見せるが、ハルヲはそっぽ向いて涼しい顔をしているだけだった。
「ネインもヴィトリア来てくれ」
「オレも行く!」
頷くネインにユラもなぜか手を上げる。
「ユラ来ても何もする事ないぞ?」
「うまいもん食えるだろ」
キルロは頭を抱えたが、ドワーフか⋯⋯。
手先は器用だし、物作りは得意分野なはず。
「ユラ、家造りとか得意か?」
「当たり前だろ! ドワーフなんだから叩いたり掘ったり、得意に決まっとろうが。ヌシはそんな事も知らんのか」
「確認しただけだ! ユラもヴィトリア来てくれ、フェインはここに残ってフォローをよろしく。時間は余りない、すぐ行くぞ」
すぐさま大きな森を後にして、各々が目的地へと移動する。
いろいろな人の思いを背負っての重要クエストがスタートした。
ヴィトリアを目指す馬車がいつもより派手に揺れていた。
キルロ達を乗せる馬車が、街道を猛スピードで走る。
車輪の軋む音が耳障りだが、そんな事はおかまいなしだ。
ヴィトリアに入ると真っ直ぐに治療院の裏手にまわり門をくぐった。
「お帰りなさいませ。突然ですがどうかされましたか?」
玄関をくぐると執事のヴァージが驚きの表情で四人を向かい入れた。
早駆けの手紙すら出す時間なかったからな。ヴァージには申し訳ないが時間が足りない。
「すまんなヴァージ。急で申し訳ないんだが、新しい事務長と話がしたいんだ。取り次いで貰えるか?」
「お安いご用です。では、こちらでお待ち下さい」
ヴァージはペースを取り戻すと、広々とした客間へと案内する。
綺麗に整う部屋のテーブルにはいつものように果物が置かれていた。
事務長が来るまで、もどかしい時間を過ごす。
ユラとキノはおいしそうに果物を頬張り、ネインは目を瞑り静かに佇む。
キルロだけがテーブルを指でトントンと叩き、もどかしさを露わにしていた。
今のうちにすべき事を整理しよう。
居住区の確保と建築、それと仕事か。
後は稀少種としての安全確保、最初は奇異の目で見られるよな。
そこは慣れて貰うしかない。覚悟はしといて貰おう。
コン、コン。
扉が軽くノックされ扉の方へと目を向けた。扉から見覚えのある犬人の男が入ってくると、驚きのあまり思わずキルロは立ち上がってしまう。
「ネスタ!? なんでアンタがいるんだ?」
イスタバールのクエスト時、ブレイヴコタン(勇者の村)の代表をしていたネスタとの思わぬ再会をキルロは驚きを持って迎えた。
初めての勇者クエストで右も左も分からないスミテマアルバレギオを、随分とフォローしてくれた優秀な男性がなぜここに?
「新しい事務長のネスタです。キルロ理事長宜しくお願い致します」
口調は丁寧だが軽くウインクしながら、茶目っ気たっぷりに笑顔を見せた。
アルフェンに任せて正解だったな、優秀な男を送り込んでくれた。
「久しぶり! アンタが事務長とは。安心して任せられるな」
「そう言って貰えると素直に嬉しいですね」
笑顔で握手を交わす。
あれ?
さっき理事長とか言ってなかった?
聞き間違いかな。
「早速で申し訳ないんだけど、いろいろとお願い事があるんだ。仕事を増やして申し訳ないけど宜しくお願い出来るかな? ヴァージにも手伝って貰おうと思っている。ヴァージもちょっといいか?」
入口の所に佇むヴァージにも声を掛ける、手を胸に宛てて黙って頷く。
ネスタもキルロの勢いに少し驚いた表情を見せたが、キルロの真剣な声色に大きく頷いた。
「それで理事長、仕事とは何でしょう?」
あ?! やっぱり言った。
「ネスタ、理事長ってなに? 気になって話が進まない」
「【ヴィトーロインメディシナ(治療院)】の理事長ですよ? あれ? ご存知じゃないですか?」
「何それ! 止めて!! 柄じゃない」
「そう言われましても、院長たってのお願いですので。ちなみに副理事長はハルヲンスイーバ・カラログース様です」
「ええええー!?」
絶対ふざけているよな。
父親が、ほくそ笑んでいる姿が頭を過る。
しかし今はそれどころじゃない、落ち着くまでは放置だ。親父め。
「その件はまた後だ。簡単に言うと100名程をヴィトリアに移住させたいので、住居の整備など、移住出来る環境を整えて欲しい。金はうちの治療院から従業員に迷惑が掛からないように回してくれ。場所は裏通りの空いている土地を、まるっと国から買い取って、何とかして欲しい」
ネスタはメモを取りながら、キルロの話を聞いていた。
メモを見ながらペンでトントンと叩き頭の中を整理している。
「場所とお金は大丈夫でしょう。ただ100名となると、なかなかすぐにという訳にはいかないでしょうな、何か訳ありですよね」
「そうなんだ。兎人って知っているか?」
ネスタとヴァージが顔を見合わせる。
突然の問いにネスタは少し困惑した表情を見せ、ヴァージも珍しく少し目を見開いた。
「お伽話のやつですよね?」
ネスタは自信なく答えヴァージに振り向く、ヴァージもそれに頷き困惑の色を見せた。
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「襲われた? なぜですか?」
さすが兵士。
ネスタの反応にそう感じる、ネスタにまかせればきっと大丈夫だ。
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ネスタは厳しい目つきでキルロの話に黙って頷く。
その姿にキルロは安堵の表情を浮かべる。
「あのう。2、30人程度の居住施設だと、どれくらいかかりますか?」
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確かに、グループ分けは本人達に任せればいい。
何の動きもないより気持ち的にも動きがあった方がいいはず。
ネインの案で行かない理由はないな。
「それで行こう、ヴァージは現場の指揮を頼む。ユラ、ヴァージの手伝いとフォローを頼む」
「あいよ」
果物を頬張ながら片手をあげた、ヴァージは胸に手を置き静かに頭を下げる。
「ネスタは国との交渉や予算の整理、後は護衛の段取りなど大局を見て判断を頼む。ヴァージとうまく連携して宜しく頼むよ。中央からも、なんかあるかも知れないから窓口になってくれ」
「ヴァージさんは優秀ですからね、足引っ張らないように尽力しますよ」
「二人とも優秀過ぎだよ。居住施設の目処がついたら連絡を。それじゃ宜しく」
みんなが一斉に動き始める。扉を出ようとしたネスタに声を掛けた。
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