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果樹の森
兎人(ヒュームレピス)
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灰色の犬? ⋯⋯まさかな⋯⋯。
マッシュだけがその単語に引っかかった。
行方を見失ったとある犬人が頭を過ったが、ここを襲う関連性が見つからない。気のし過ぎか、そう思うとマッシュは自分自身に溜め息を漏らす。
「あのよ、あのよ、ヌシらは兎人なんか?」
「そうでス」
ユラが小首を傾げながら二人に問いかける。
頷くマナルにユラとフェインは、目を輝かせ小さく歓声を上げた。
お伽話の世界から飛び出したにしては随分と覇気がない。
ふたりは歓声をすぐに引っ込め、また神妙な面持ちへと変えていった。
「聞きたい事は山ほどあるが、まずは、おたくらがいた村は今どうなっているんだ? 占拠されたままなのか?」
「ヤツラはもういなイ。この間見に行っタ。ただもうめちゃくちゃになっていタ」
キルロの問いにカズナは奥歯を噛み締める。
思い出すだけで怒りが沸いてくるのだろう、矛先をキルロに向けないように視線を反らし強い口調で悔しさを滲ませた。
「ここを占拠した事は事情を話せば村のヤツらもつべこべ言ってくる事はないかも知れない⋯⋯。まぁ、その辺はこっちで何とかする。ただ、いつまでもここにいるって訳にはいかないよなあ」
手を首に回し、キルロは空を見上げる。兎人の安全の確保と移動か。
また隠れ里を作らなきゃならないのかな。どれほどの時間が必要になるのか考えが及ばない。
疲れ果てている兎人達を見つめ、思考が定まらずゆらゆらと漂うだけで答えにたどり着かない。
他のメンバー達も同じように答えにたどり着けず、もどかしさを見せていた。
「なぜ隠れて暮らしているのですか? 良かったら理由をお聞かせ願えますか?」
ネインが二人に尋ねた。ネインの性格から村を襲ったヤツらに、はらわたが煮えくり返っているに違いない。ただ、ネインの口調からそれは感じられない。そこを押し殺し、穏やかに語りかけていた。
「なゼ? わからないでス、昔からそのように暮らしていたので、この生活しか知りませんシ⋯⋯」
「それって、隠れて暮らすのに大きな理由はないって事よね。そもそも隠れて暮らすって言っても、今回みたく見つかっちゃう事なんてあるでしょう? 良く今までバレなかったわね」
マナルが考えながら答えると、ハルヲが少し怪訝な表情を浮かべていく。
見つからない確率より見つかる確率の方がよっぽど高い。ただただ運が良かっただけで今まで見つからなかったとは思えなかった。
マナルが何か言おうとすると“オイ”とカズナが凄んだ。
マナルはそれを一瞥し、ハルヲに向かい話し始める。
「私達はずっと昔から森で迷っていた人がいたら助けまス。弱った方は介抱シ、ケガした方は治しまス。動けるようになったら酔わして、遠くの森の出口まで運んでしまいまス。そうして村の場所を今まで隠していましタ。森の出口で酔った人が兎を見たと言っても誰も信じなイ、なぜ遠くの森にいるのカ、兎がどこにいたのかわからなイ。そうして村の場所を隠していましタ」
「お話しと一緒です」
「だよな」
フェインとユラがマナルの言葉を受けて静かに感嘆の声を上げた。
そんな雰囲気じゃないことは承知しているが、子供の頃から聞いていた話が実在していたという事に衝動を抑え切れないでいる。
話を知らなかったハルヲはそんな二人に呆れ顔で一瞥すると、マナルに向き直した。
「なるほどね。でも、お酒で酔ったくらいでそこまで隠せる? 強い人だったらどうするの?」
「お酒ではありません」
「マナル!」
ハルヲの疑問に答えるマナルをカズナが諫めた。
お酒ではない? 酔う、なんだろ?
ハルヲは酔うという言葉から必死に考えるが、酒以外浮かんでこない。
眉間に皺を寄せて、小首を傾げる。
マッシュの目が急に見開いた。
まるで何か閃いたかのように。
「酒じゃない、何か薬のようなものか?」
マッシュはマナルに視線を投げ、強めの口調で問いかける。
何か重要な事柄のように目に真剣さが宿っていた。
マナルはカズナに振り向くと、カズナは黙って首を横に振る。
「ゴメンナサイ、お答えできませン」
マナルは謝罪を述べ、頭を下げた。
マッシュは嘆息し宙を仰ぐ。
集落の秘密か、同族を守る為の生命線って所か。
確かに気軽には答えられないやな。
目を瞑り逡巡する、知りたい事と教えられる事。
どこまでが許容範囲だ、考えろ、自分が必要な情報はなにか。
「イヤ、構わないよ。一族の秘密ならおいそれと話せない。ただこれだけは教えて欲しい。その秘密を狙って襲われたのか?」
マナルは視線を動かし考える。
首を軽く横に何度も振る。
「わかりませン。何で襲われたのか、ゴメンナサイ」
マッシュは仕方ないと肩をすくめる。
「たダ……」
「ただ?」
マナルの続けた言葉をマッシュは繰り返した。
何かあるのか?
「犬の人は酔っていなかったという事でス。酔っていたら村の場所を特定出来る分けありませんかラ。酔ったフリをしていただけでス。でも、そんな事関係ないですよネ」
「いや、マナル話してくれてありがとう。何で狙ったかまでは分からないが、酔ったフリしてまで欲しいモノがおまえさん達の村にあったって事だ」
人を狩りにきたわけではない。と、考えると襲うまでして得たい何かが、村に存在したという事だ。
人を酔わせる、酔わせてどうする?
酩酊状態、動きと思考を奪う?
思考を奪う……。
欲しいものを入手出来たんで、村をあとにしたのだ。
マッシュは何度も頷き、何か納得した様子を見せる。
顎に手を当てまた思考の海へとダイブした。
「村を再建するって言っても、元の場所ってわけにはいかないよな。また襲われる事がないとも言えない」
「動けるヤツばかりならそれでもいいガ、そうはいかないからナ」
「そうだよな」
キルロとカズナは座り込む覇気を失った人々を見回す。全てを奪われたのだ、こうなるのも仕方ない。
キルロは思考のループから抜け出すべく逡巡する。
カズナの言う通りだ。
どこか場所を求めて彷徨うにしても、この人数でか!?
どう考えても無理がある。
「私達の事は大丈夫でス、きっとなんとでもなりまス。」
考え込むキルロへマナルは微かな笑みを浮かべた。
何とかなるって言われても、なるとは思えない。
キルロは大きく息を吐き、打開策を探す。
大きな木の下で小さな子供達が走りまわっている。
子供達は通りかかった小さな戦士に羨望の眼差しを向けていた。
キノは腰に手をやり、胸を張って見せる。
頭ひとつ出ているキノは自分より小さい子と触れあう事がなかったからか、楽しそうにじゃれあっていた。
その微笑ましい光景に自然と顔が綻ぶ。
「隠れるている必要ってあるのでしょうかと思います」
フェインが唐突に声を上げた。
キルロに向かって懇願にも近い願いを。
フェインなりにいろいろ考えていたのか。
「だよな。普通に暮らせんのか?」
ユラも同じように声を上げる。
この人達に取って隠れて暮らすというのが普通の暮らし方だ。
代々同じ暮らし方をしていたら生活を変えるのはなかなか難しい。
ヴィトリアの実家を思い出す。タイプは全然違うが、ずっと同じ暮らし方をしているからそこに疑問を持てない、抜け出そうとも考えない、それしか知らないから。
逡巡するキルロに子供達の笑い声が耳朶をくすぐる。
顔を上げ、彼ら彼女達に目を向ける。
はじけんばかりの笑顔が見て取れた、これが正解だ。
「そうか! よし!」
キルロの急な掛け声に皆が一斉に視線を向けた。
キルロはマナルとカズナに顔向け、口角を上げる。
「アンタら全員、ヴィトリアへ来い。住む所作ってやるから安心しろ。ただ働いて貰うけどな」
話を聞いていた全員が首を傾げる。
マナルとカズナも突然の申し出にどう反応すればいいのか困惑していた。
「アンタ、なんでもかんでも抱え込んで、考えて言っているの?!」
ハルヲが呆れ果てた様子で首を横に振る。
キノから始まって、エレナやこの間の実家といい、結果的には良かったが何でもかんでも抱えていたらいつか飽和状態になる。
分かっているのかコイツは。
呆れるを通り越して、途方に暮れるわ。
「団長の性格です。諦めましょう副団長殿。それに考えようによっては、一番いい答えかもしれませんよ。中央と繋がりの出来たヴィトリアなら襲われる事も他の場所より低いですし、スラム街も整備中です。雑多な人種が集まるその周辺なら、お誂え向きだと思います」
ネインはハルヲに笑顔を向け、慰めるかのように話した。
ハルヲも顔しかめながらも、それが悪い答えではない事を理解している。
「ウチは厄介事を抱え込むソシエタスなのですよ。頼りにしていますよ、副団長殿」
「はぁ~、分かっているわよ。アナタもよ! ネイン」
続いた言葉に、ハルヲは盛大な溜め息で答える。
副団長になった時点で面倒くさい事になるとは思っていたが、まさかここまで話しが大きくなっていくとは。
頭が痛い。ハルヲはこの先の事を想像し頭を抱えていった。
マッシュだけがその単語に引っかかった。
行方を見失ったとある犬人が頭を過ったが、ここを襲う関連性が見つからない。気のし過ぎか、そう思うとマッシュは自分自身に溜め息を漏らす。
「あのよ、あのよ、ヌシらは兎人なんか?」
「そうでス」
ユラが小首を傾げながら二人に問いかける。
頷くマナルにユラとフェインは、目を輝かせ小さく歓声を上げた。
お伽話の世界から飛び出したにしては随分と覇気がない。
ふたりは歓声をすぐに引っ込め、また神妙な面持ちへと変えていった。
「聞きたい事は山ほどあるが、まずは、おたくらがいた村は今どうなっているんだ? 占拠されたままなのか?」
「ヤツラはもういなイ。この間見に行っタ。ただもうめちゃくちゃになっていタ」
キルロの問いにカズナは奥歯を噛み締める。
思い出すだけで怒りが沸いてくるのだろう、矛先をキルロに向けないように視線を反らし強い口調で悔しさを滲ませた。
「ここを占拠した事は事情を話せば村のヤツらもつべこべ言ってくる事はないかも知れない⋯⋯。まぁ、その辺はこっちで何とかする。ただ、いつまでもここにいるって訳にはいかないよなあ」
手を首に回し、キルロは空を見上げる。兎人の安全の確保と移動か。
また隠れ里を作らなきゃならないのかな。どれほどの時間が必要になるのか考えが及ばない。
疲れ果てている兎人達を見つめ、思考が定まらずゆらゆらと漂うだけで答えにたどり着かない。
他のメンバー達も同じように答えにたどり着けず、もどかしさを見せていた。
「なぜ隠れて暮らしているのですか? 良かったら理由をお聞かせ願えますか?」
ネインが二人に尋ねた。ネインの性格から村を襲ったヤツらに、はらわたが煮えくり返っているに違いない。ただ、ネインの口調からそれは感じられない。そこを押し殺し、穏やかに語りかけていた。
「なゼ? わからないでス、昔からそのように暮らしていたので、この生活しか知りませんシ⋯⋯」
「それって、隠れて暮らすのに大きな理由はないって事よね。そもそも隠れて暮らすって言っても、今回みたく見つかっちゃう事なんてあるでしょう? 良く今までバレなかったわね」
マナルが考えながら答えると、ハルヲが少し怪訝な表情を浮かべていく。
見つからない確率より見つかる確率の方がよっぽど高い。ただただ運が良かっただけで今まで見つからなかったとは思えなかった。
マナルが何か言おうとすると“オイ”とカズナが凄んだ。
マナルはそれを一瞥し、ハルヲに向かい話し始める。
「私達はずっと昔から森で迷っていた人がいたら助けまス。弱った方は介抱シ、ケガした方は治しまス。動けるようになったら酔わして、遠くの森の出口まで運んでしまいまス。そうして村の場所を今まで隠していましタ。森の出口で酔った人が兎を見たと言っても誰も信じなイ、なぜ遠くの森にいるのカ、兎がどこにいたのかわからなイ。そうして村の場所を隠していましタ」
「お話しと一緒です」
「だよな」
フェインとユラがマナルの言葉を受けて静かに感嘆の声を上げた。
そんな雰囲気じゃないことは承知しているが、子供の頃から聞いていた話が実在していたという事に衝動を抑え切れないでいる。
話を知らなかったハルヲはそんな二人に呆れ顔で一瞥すると、マナルに向き直した。
「なるほどね。でも、お酒で酔ったくらいでそこまで隠せる? 強い人だったらどうするの?」
「お酒ではありません」
「マナル!」
ハルヲの疑問に答えるマナルをカズナが諫めた。
お酒ではない? 酔う、なんだろ?
ハルヲは酔うという言葉から必死に考えるが、酒以外浮かんでこない。
眉間に皺を寄せて、小首を傾げる。
マッシュの目が急に見開いた。
まるで何か閃いたかのように。
「酒じゃない、何か薬のようなものか?」
マッシュはマナルに視線を投げ、強めの口調で問いかける。
何か重要な事柄のように目に真剣さが宿っていた。
マナルはカズナに振り向くと、カズナは黙って首を横に振る。
「ゴメンナサイ、お答えできませン」
マナルは謝罪を述べ、頭を下げた。
マッシュは嘆息し宙を仰ぐ。
集落の秘密か、同族を守る為の生命線って所か。
確かに気軽には答えられないやな。
目を瞑り逡巡する、知りたい事と教えられる事。
どこまでが許容範囲だ、考えろ、自分が必要な情報はなにか。
「イヤ、構わないよ。一族の秘密ならおいそれと話せない。ただこれだけは教えて欲しい。その秘密を狙って襲われたのか?」
マナルは視線を動かし考える。
首を軽く横に何度も振る。
「わかりませン。何で襲われたのか、ゴメンナサイ」
マッシュは仕方ないと肩をすくめる。
「たダ……」
「ただ?」
マナルの続けた言葉をマッシュは繰り返した。
何かあるのか?
「犬の人は酔っていなかったという事でス。酔っていたら村の場所を特定出来る分けありませんかラ。酔ったフリをしていただけでス。でも、そんな事関係ないですよネ」
「いや、マナル話してくれてありがとう。何で狙ったかまでは分からないが、酔ったフリしてまで欲しいモノがおまえさん達の村にあったって事だ」
人を狩りにきたわけではない。と、考えると襲うまでして得たい何かが、村に存在したという事だ。
人を酔わせる、酔わせてどうする?
酩酊状態、動きと思考を奪う?
思考を奪う……。
欲しいものを入手出来たんで、村をあとにしたのだ。
マッシュは何度も頷き、何か納得した様子を見せる。
顎に手を当てまた思考の海へとダイブした。
「村を再建するって言っても、元の場所ってわけにはいかないよな。また襲われる事がないとも言えない」
「動けるヤツばかりならそれでもいいガ、そうはいかないからナ」
「そうだよな」
キルロとカズナは座り込む覇気を失った人々を見回す。全てを奪われたのだ、こうなるのも仕方ない。
キルロは思考のループから抜け出すべく逡巡する。
カズナの言う通りだ。
どこか場所を求めて彷徨うにしても、この人数でか!?
どう考えても無理がある。
「私達の事は大丈夫でス、きっとなんとでもなりまス。」
考え込むキルロへマナルは微かな笑みを浮かべた。
何とかなるって言われても、なるとは思えない。
キルロは大きく息を吐き、打開策を探す。
大きな木の下で小さな子供達が走りまわっている。
子供達は通りかかった小さな戦士に羨望の眼差しを向けていた。
キノは腰に手をやり、胸を張って見せる。
頭ひとつ出ているキノは自分より小さい子と触れあう事がなかったからか、楽しそうにじゃれあっていた。
その微笑ましい光景に自然と顔が綻ぶ。
「隠れるている必要ってあるのでしょうかと思います」
フェインが唐突に声を上げた。
キルロに向かって懇願にも近い願いを。
フェインなりにいろいろ考えていたのか。
「だよな。普通に暮らせんのか?」
ユラも同じように声を上げる。
この人達に取って隠れて暮らすというのが普通の暮らし方だ。
代々同じ暮らし方をしていたら生活を変えるのはなかなか難しい。
ヴィトリアの実家を思い出す。タイプは全然違うが、ずっと同じ暮らし方をしているからそこに疑問を持てない、抜け出そうとも考えない、それしか知らないから。
逡巡するキルロに子供達の笑い声が耳朶をくすぐる。
顔を上げ、彼ら彼女達に目を向ける。
はじけんばかりの笑顔が見て取れた、これが正解だ。
「そうか! よし!」
キルロの急な掛け声に皆が一斉に視線を向けた。
キルロはマナルとカズナに顔向け、口角を上げる。
「アンタら全員、ヴィトリアへ来い。住む所作ってやるから安心しろ。ただ働いて貰うけどな」
話を聞いていた全員が首を傾げる。
マナルとカズナも突然の申し出にどう反応すればいいのか困惑していた。
「アンタ、なんでもかんでも抱え込んで、考えて言っているの?!」
ハルヲが呆れ果てた様子で首を横に振る。
キノから始まって、エレナやこの間の実家といい、結果的には良かったが何でもかんでも抱えていたらいつか飽和状態になる。
分かっているのかコイツは。
呆れるを通り越して、途方に暮れるわ。
「団長の性格です。諦めましょう副団長殿。それに考えようによっては、一番いい答えかもしれませんよ。中央と繋がりの出来たヴィトリアなら襲われる事も他の場所より低いですし、スラム街も整備中です。雑多な人種が集まるその周辺なら、お誂え向きだと思います」
ネインはハルヲに笑顔を向け、慰めるかのように話した。
ハルヲも顔しかめながらも、それが悪い答えではない事を理解している。
「ウチは厄介事を抱え込むソシエタスなのですよ。頼りにしていますよ、副団長殿」
「はぁ~、分かっているわよ。アナタもよ! ネイン」
続いた言葉に、ハルヲは盛大な溜め息で答える。
副団長になった時点で面倒くさい事になるとは思っていたが、まさかここまで話しが大きくなっていくとは。
頭が痛い。ハルヲはこの先の事を想像し頭を抱えていった。
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