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果樹の森
果樹の村
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「僕たちも、ようやく後釜みつかってね、動き始めるよ。今まで休んでいた分働かないとね」
帰り際、手を振るアルフェンが笑みを湛え二人に告げる。
アルフェンが動くという事は、しばらく勇者がらみでのクエストは無いとみた。
ユラが加入して普通のクエストをしていないよな。指名のクエばかり行っているのもどうなのだろう?
変な印象を持たれるのは良くない気がする。明るい午後の陽射しの下、手綱を引くキルロはぼんやりと思考を巡らせていた。
「なあマッシュ、時間出来そうだし、通常クエスト受けないか?」
馬車の奥で同じように微睡んでいるマッシュに声を掛けた。
眠そうな眼をしながら眩しそうに外を覗き、大きな欠伸をするとキルロの隣へ移動する。
「いいんじゃないか。クックの件は引っかかっているが、タントも動く。こっちの出来る事は全てやってあるしな」
マッシュは眠そうな目をこすりながら答える。
明日あたりギルドへ行ってみるか。
あ、ハルヲにも言っておかないと。
ミドラスから一日半ほど東へ移動しそこから北へさらに一日。
辺境の村ゴナでゴブリンやコボルトなどが大量発生し、村人の生活が脅かしている。いわゆる、お掃除クエというやつで駆除すれば完了。
数が多いとはいえ、厄介なやつがいるわけではないし、ソシエタス向けのクエだけに報酬は美味しい。今のウチなら余裕だ。
荷運びではないので馬車にも随分余裕がある。交代で眠りにつき、小休止だけで一気に駆け抜けた。
朝も夜も、車輪と馬は休む事なく動き続けていく。
「お待ちしておりました」
村の代表を名乗るウストランという猫人の女性が丁寧に出迎えてくれた。
相当に困っているらしく、身動きの取れない村の窮状を訴える。
確かに村に近づくに連れエンカウントは増えたが、驚くほどではなかった。どういう事だ?
ゴブリンやコボルトが現れた所で、そんなに危険だとは思えない。
「この村は、ここから少し北上した所にある果樹の森で果物を採取し、生計をたてているのですが、モンスターが大量に発生してしまい、近づけない状況なのです。果樹が荒らされていないかも心配です。何卒、宜しくお願いします」
本当に迷惑しているのだろう、言葉からその心労が伝わってくる。
「しかし急に発生? するものなのか?」
「さあな? まだ時間もあるし、とりあえず行ってみるか」
「そうね、そんな遠くないのでしょう」
サーベルタイガーのクエイサーと大型兎のプロトンを村にお願いし、一同は果樹園を目指し歩き始めた。
「なんだこれ!?」
「ごちゃごちゃ言わず叩け!」
キルロは叫び、ハルヲの手は剣を振り続ける。
当たり一面、腰くらいまでしかないゴブリンやコボルトが埋め尽くしていた。
「ユラ! フォローするから詠唱頼む」
キルロの言葉を受け、ユラはすぐにキルロの背中へと回り詠唱を始める。
《イグニス》
赤い光がユラの手に収束していく。
「撃つぞ!」
ユラの言葉にキルロは斬りつけながら、横へと飛ぶ。
ユラのかざした手から赤い光が炎となり、ゴブリンの群れを焼失させていく。
焼け焦げた一本の道ができるも、またすぐにゴブリン達に埋め尽くされてしまう。
「ユラ! もう一度だ」
《イグニス》
再び焼け焦げた道を作り上げたが、同じようにまたゴブリン埋がめ尽くす。
焼け焦げた同胞を気にも止めず踏みつぶすと、焼けて脆くなった骨は粉々となり跡形もなく埋もれていく。
双尾蠍の甲殻で補強した装備は傷ひとつ受けることはない。ただひたすらに、体力だけが削られていく。
確かにこの数が村に押し寄せたら一発だ。ここで侵攻が止まっているのはラッキーだな。
ラッキー?
なんで止まっているんだ?
ゆっくりと考えているヒマない。
傷を受けないとはいえ、一斉に纏わりつかれたらさすがにヤバい。血のイヤな臭いが充満し、骸が踏みつぶされる度に粘着質のイヤな音を立てた。
ゴブリンやコボルトは、血の海に浸した真っ赤な足で地を蹴り襲い掛かる。
このまま叩いても埒があかない、いたずらに体力を消耗するだけだ。
「一度引くぞ!」
キルロの叫びにパーティーは撤退を決めた。
追ってくるモンスターを斬り捨てながら村へと戻る。
モンスターの数がまるで波が引くように減っていく、追いすがるコボルトを斬り捨てるとキルロは足を止めた。
その様子を見ていた他のメンバーも足を止める。
「なあ、なんで追ってこないんだ?」
「確かにおかしいですよね」
キルロが首をひねりながら疑問を呈した。
ネインも逃げてきた方向に目をやりキルロを一瞥する。
いつの間にかモンスターの姿は見えなくなっていた。全員が逃げてきた方向を見据え、この不可解な事象を逡巡する。
「まるで果樹の森を守っているみたいだな」
「それか採取の邪魔をしているのか」
マッシュとハルヲも首を傾げる。
「モンスターが採取の邪魔をするなんて、聞いたことねえぞ」
「ですです」
「そうよね」
ユラもフェインも誰もが経験のない状況を処理できていない。
「だけど、あれなんとかしないと村が潰れちまう。数が尋常じゃない」
「火山石も準備してあるが、全部吹き飛ばせる数はないぞ」
「ある程度減らして、火力でゴリ押ししかないかな」
一同が難しい顔で思案した。
闇雲に突っ込むのは愚策でしかないことはわかる。
ただ、それ以外の答えが見つからない。
「あのう、誰かが指揮をしているって事はないでしょうか? 撤退するなんておかしいかなって思いますです」
「私もそれは思います。各々が意志を持って動いているとは思えません」
フェインとネインがひとつの可能性を示唆した。フェインとネインの言葉は、この不可解なモンスターの行動を理解する鍵になるか⋯⋯。
確かに。
何者かが指示していると考えた方が、理にかなっている。
「それはありえるな」
「レッドキャップとか?」
「レッドキャップが他の種族を束ねるって話は聞いたことないわ。あとあの数を束ねられるとは思えない」
マッシュもネインに頷く。
指揮するといえば真っ先に思いつくのはレッドキャップだが、その可能性が低い事をハルヲは冷静に示唆した。
「亜種と考えるといかがでしょう?」
レッドキャップの亜種か。
ネインの言葉にその可能性を想像してみる。
「亜種の可能性は残すべきだが、可能性としては低そうだな。亜種が出現するには、ここの黒素が薄いように思える」
「とりあえず村に戻ってから可能性を考えよう。普通に湧いていると考えないほうがいいって事は間違いなさそうだ。村までは今の所襲う可能性は低い。明日また出直そう」
日が落ちてきた森をゆっくりと村へと戻った。
帰り際、手を振るアルフェンが笑みを湛え二人に告げる。
アルフェンが動くという事は、しばらく勇者がらみでのクエストは無いとみた。
ユラが加入して普通のクエストをしていないよな。指名のクエばかり行っているのもどうなのだろう?
変な印象を持たれるのは良くない気がする。明るい午後の陽射しの下、手綱を引くキルロはぼんやりと思考を巡らせていた。
「なあマッシュ、時間出来そうだし、通常クエスト受けないか?」
馬車の奥で同じように微睡んでいるマッシュに声を掛けた。
眠そうな眼をしながら眩しそうに外を覗き、大きな欠伸をするとキルロの隣へ移動する。
「いいんじゃないか。クックの件は引っかかっているが、タントも動く。こっちの出来る事は全てやってあるしな」
マッシュは眠そうな目をこすりながら答える。
明日あたりギルドへ行ってみるか。
あ、ハルヲにも言っておかないと。
ミドラスから一日半ほど東へ移動しそこから北へさらに一日。
辺境の村ゴナでゴブリンやコボルトなどが大量発生し、村人の生活が脅かしている。いわゆる、お掃除クエというやつで駆除すれば完了。
数が多いとはいえ、厄介なやつがいるわけではないし、ソシエタス向けのクエだけに報酬は美味しい。今のウチなら余裕だ。
荷運びではないので馬車にも随分余裕がある。交代で眠りにつき、小休止だけで一気に駆け抜けた。
朝も夜も、車輪と馬は休む事なく動き続けていく。
「お待ちしておりました」
村の代表を名乗るウストランという猫人の女性が丁寧に出迎えてくれた。
相当に困っているらしく、身動きの取れない村の窮状を訴える。
確かに村に近づくに連れエンカウントは増えたが、驚くほどではなかった。どういう事だ?
ゴブリンやコボルトが現れた所で、そんなに危険だとは思えない。
「この村は、ここから少し北上した所にある果樹の森で果物を採取し、生計をたてているのですが、モンスターが大量に発生してしまい、近づけない状況なのです。果樹が荒らされていないかも心配です。何卒、宜しくお願いします」
本当に迷惑しているのだろう、言葉からその心労が伝わってくる。
「しかし急に発生? するものなのか?」
「さあな? まだ時間もあるし、とりあえず行ってみるか」
「そうね、そんな遠くないのでしょう」
サーベルタイガーのクエイサーと大型兎のプロトンを村にお願いし、一同は果樹園を目指し歩き始めた。
「なんだこれ!?」
「ごちゃごちゃ言わず叩け!」
キルロは叫び、ハルヲの手は剣を振り続ける。
当たり一面、腰くらいまでしかないゴブリンやコボルトが埋め尽くしていた。
「ユラ! フォローするから詠唱頼む」
キルロの言葉を受け、ユラはすぐにキルロの背中へと回り詠唱を始める。
《イグニス》
赤い光がユラの手に収束していく。
「撃つぞ!」
ユラの言葉にキルロは斬りつけながら、横へと飛ぶ。
ユラのかざした手から赤い光が炎となり、ゴブリンの群れを焼失させていく。
焼け焦げた一本の道ができるも、またすぐにゴブリン達に埋め尽くされてしまう。
「ユラ! もう一度だ」
《イグニス》
再び焼け焦げた道を作り上げたが、同じようにまたゴブリン埋がめ尽くす。
焼け焦げた同胞を気にも止めず踏みつぶすと、焼けて脆くなった骨は粉々となり跡形もなく埋もれていく。
双尾蠍の甲殻で補強した装備は傷ひとつ受けることはない。ただひたすらに、体力だけが削られていく。
確かにこの数が村に押し寄せたら一発だ。ここで侵攻が止まっているのはラッキーだな。
ラッキー?
なんで止まっているんだ?
ゆっくりと考えているヒマない。
傷を受けないとはいえ、一斉に纏わりつかれたらさすがにヤバい。血のイヤな臭いが充満し、骸が踏みつぶされる度に粘着質のイヤな音を立てた。
ゴブリンやコボルトは、血の海に浸した真っ赤な足で地を蹴り襲い掛かる。
このまま叩いても埒があかない、いたずらに体力を消耗するだけだ。
「一度引くぞ!」
キルロの叫びにパーティーは撤退を決めた。
追ってくるモンスターを斬り捨てながら村へと戻る。
モンスターの数がまるで波が引くように減っていく、追いすがるコボルトを斬り捨てるとキルロは足を止めた。
その様子を見ていた他のメンバーも足を止める。
「なあ、なんで追ってこないんだ?」
「確かにおかしいですよね」
キルロが首をひねりながら疑問を呈した。
ネインも逃げてきた方向に目をやりキルロを一瞥する。
いつの間にかモンスターの姿は見えなくなっていた。全員が逃げてきた方向を見据え、この不可解な事象を逡巡する。
「まるで果樹の森を守っているみたいだな」
「それか採取の邪魔をしているのか」
マッシュとハルヲも首を傾げる。
「モンスターが採取の邪魔をするなんて、聞いたことねえぞ」
「ですです」
「そうよね」
ユラもフェインも誰もが経験のない状況を処理できていない。
「だけど、あれなんとかしないと村が潰れちまう。数が尋常じゃない」
「火山石も準備してあるが、全部吹き飛ばせる数はないぞ」
「ある程度減らして、火力でゴリ押ししかないかな」
一同が難しい顔で思案した。
闇雲に突っ込むのは愚策でしかないことはわかる。
ただ、それ以外の答えが見つからない。
「あのう、誰かが指揮をしているって事はないでしょうか? 撤退するなんておかしいかなって思いますです」
「私もそれは思います。各々が意志を持って動いているとは思えません」
フェインとネインがひとつの可能性を示唆した。フェインとネインの言葉は、この不可解なモンスターの行動を理解する鍵になるか⋯⋯。
確かに。
何者かが指示していると考えた方が、理にかなっている。
「それはありえるな」
「レッドキャップとか?」
「レッドキャップが他の種族を束ねるって話は聞いたことないわ。あとあの数を束ねられるとは思えない」
マッシュもネインに頷く。
指揮するといえば真っ先に思いつくのはレッドキャップだが、その可能性が低い事をハルヲは冷静に示唆した。
「亜種と考えるといかがでしょう?」
レッドキャップの亜種か。
ネインの言葉にその可能性を想像してみる。
「亜種の可能性は残すべきだが、可能性としては低そうだな。亜種が出現するには、ここの黒素が薄いように思える」
「とりあえず村に戻ってから可能性を考えよう。普通に湧いていると考えないほうがいいって事は間違いなさそうだ。村までは今の所襲う可能性は低い。明日また出直そう」
日が落ちてきた森をゆっくりと村へと戻った。
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