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ヴィトリア
朝食
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朝食の為ダイニングルームへ集合する。
寝不足もあるのだろうが、目指す足取りは重い。
昨日のマッシュの話、どう消化すべきか逡巡しているうちに朝を迎えてしまった。
膜が張ったようなスッキリしない頭を揺り起こそうと、大きな伸びをしながらハルヲは廊下を進んだ。
「皆さんおはよう。昨日はゆっくりお休みになれたかな?」
席へ着くと父ヒルガが席に着いた面々をゆっくりと見渡し、柔和な笑顔を向けた。
「おかげさまで」
ハルヲは開ききらない眼で返答する。
マッシュとネインが視線だけハルヲに向けると俯いて笑って見せた。
ハルヲはその姿をひと睨みする。
「随分と眠そうだな? 寝起きだからか?」
「そうよ」
何も知らないキルロが、ハルヲの様子を不思議そうに見つめた。
ハルヲは短く答えると、黙々とパンを口に放り込む。
「この後の予定はどう進める?」
「そうだな、その事を含めて一度皆で確認したい事あるんだが、集まれるか?」
「構わない。朝食後オレの部屋集合でいいか?」
「ああ。それでいこう」
キルロの問い掛けにマッシュが提案をした。
昨日の件を話さない訳にはいかなものね。
ハルヲはその様子を見ながら黙々と朝食を進める。
たわいもない会話でつつがなく朝食は進んで行く、柔らかな日射しが温かい空気をより一層後押しする。
何も問題を抱えていなかったら、もっと幸せな朝なのに。
何も知らないとしたらそれは幸せなのかな? ⋯⋯不幸なのかな?
うまく働かない思考が底の方で停滞しているのをハルヲは感じる。
何せよ、この問題を解決しなければ、きっとこの家族は本当の意味で幸せになれないはず。押し売りにならないといいんだけど。
それも含めてヤツに話して、どう反応するか⋯⋯なのかな。
「あのよ、あのよ。昨日の夜中変なヤツらいたぞ。なあ」
何か思い出したかのようにユラがキノに向いた。
口のまわりをジャムだらけにしているキノが何度も頷き、またパンをムチャムチャと食べ始める。
皆の動きが止まった。
どういう事?
「それってどういう事だい?」
長兄のアルタがユラに尋ねる。
ユラはフォークに突き刺さったソーセージとアルタを交互に見やり、少し迷う素振りを見せたが、アルタに視線向け話し始める。
「昨日、腹イッパイ過ぎてよ、寝られんかったから散歩でもするかって、廊下歩いていたらよう、ナイフ持ったヤツらが誰かの扉前にいたからキノと二人でぶっ飛ばしてやったんよ。なんか、たいした事のないヤツらだったなぁ。おかげで腹がこなれて寝れたんだ。なあ」
ユラはそういう言うと、またキノに向いた。
キノはパンを食べ続けながら頷き返す。
ユラはフォークに刺したソーセージにかぶりつくと幸せそうな笑顔を作った。
ユラの言葉に一同は、事の重大さに顔を青くした。
「ちょっと! 扉って誰の?」
ハルヲの頭が一瞬で覚醒した。
誰かを襲撃しようとしていたって事だ。
「うーん? 暗かったし、誰かどこだかわからんからな。あ! 扉からキノが出てきたからキノの部屋じゃないのか」
フォークを握りしめながらユラはハルヲに答えた。
ターゲットはキルロか。
「オレか?!」
一同が一斉にキルロの方を向いた。
キルロは目を瞑り、少し考える素振りを見せる。
憤るとかではなく冷静な印象を受けるのが、少し意外だった。
「狙われたってのは気に食わないが、狙いがオレなら対処できるだろう。ただ屋敷の警備をもう少し厳重にした方が良さそうだよな」
「なあ、良かったらウチらも警備手伝うか」
「そらぁ、ありがたいがクエストは?」
「その辺も含めて後で話し合おうか」
「わかった。しかし全然気がつかなかったな。ユラありがとな、キノも」
マッシュはキルロから承諾に俯き逡巡している。今後の動きについて整理しているのだ。
ユラは黙ってフォークを掲げ返事とした。
「お前は大丈夫なのか?」
アルタが心配そうにキルロの方を見た。家族の顔色は芳しくない。
標的が自分達の可能性も消えてはいないのだ。仕方のない事。
それも含めて家が襲撃という、未遂とはいえ事の大きさが、じわりと家族へのしかかってきいている。
「ウチのヤツラと話して、また報告するよ。兄貴達はいつも通り過ごしてくれ、心配するな」
キルロはアルタへ微笑む。
ここで余裕を見せておかないとか。
今はキルロの強がりが家族への精神安定剤となる。
混沌とした朝食を終えるとキルロの部屋へと集合していく。
さすがにこの人数だと手狭感があるわね。
メンバー全員神妙な面持ちで待っていた。
「さて、今後の動きについて整理しようか」
キルロが口火を切ると、マッシュが軽く手を上げた。
キルロは視線で続けるように促す。
「そうだな、まずは謝っておくかな。スマン」
マッシュが頭を下げるとキルロとフェインは困惑の色を見せる。
「え? 何? 何に謝るの??」
キルロは事態が把握出来ず困惑の色を強めていた。
ハルヲやネインの落ち着いている素振りにますます混乱する。
「まずな、クエストはないんだ。このクエストは存在しない」
「え?! え?! どういうこと??」
「ですです。わからないのですが?」
マッシュもちょっと困ったように苦笑いを浮かべる。
続けるべきかどうか迷っているとネインが顔を上げた。
「続きは私が引き受けましょう」
「へ??」
「マッシュさんがおっしゃったようにブレイヴコタンへのクエストは存在しません」
「それはわかったけど……」
びっくりして思わず腰を上げた。
ハルヲがキルロの肩を押し座り直させる。
キルロがハルヲの方へ向くと、ネインを見るように黙って促した。
「今回のクエストは反勇者への資金の流れについての調査です」
「それとここが、どう関係あるんだ??」
「ここヴィトリアから資金が流れているという情報がマッシュさんの所へ入りました。この治療院を含めた全てのヴィトリアの施設が怪しいという事です。どこがシロでどこがクロか。誰がシロで誰がクロか」
キルロの顔から血の気が引いていく、その言葉は自分の家族もその対象に入っている事を意味している。
まさかという思いが強いのだろう。
マッシュはばつが悪そうに視線を逸らした。
「団長、ご家族の嫌疑がかかって困惑されているかもしれませんが、マッシュさんはご家族がシロである証拠を得る為に動かれていました。そこは誤解なきようにお願いします。ただ、マッシュさんや副団長、団長のお話からこの治療院が限りなくクロいと思われます」
まさか自分の家族が加担しているとは思えない。
思いたくない、そんな思いが表情から滲み出ている。
ハルヲは困ったようにキルロの肩に手をやり、ネインはあえて柔和な表情を湛え続けた。
「マッシュさんは以前に自分のご兄弟さえ疑ってかかった。団長もご存じでしょう。団長も含め私達は、ご家族が加担している事はないと思います。ただ知らずに利用されているとしたらそれは不幸な事ではないでしょうか」
「それを家族に証明できるのはアンタだけよ」
ハルヲが付け加える。
キルロは目を瞑って逡巡する。
どうすべきか、どうしたいのか。
ふぅー。
キルロは溜め息をひとつつくと目に力が戻った。
「家族が利用されているとしたら、気にいらねえ。事務長のヤツか?」
「そうね、多分だけどね」
「野郎!」
急にスイッチが入りハルヲとネインが諫める。
「マッシュ、どう動く?」
「そうだな、まずここの滞在を長引かせて欲しい。その間にいろいろ洗っちまおう」
「分かった、そんな事は問題ない、いつまででも大丈夫だ」
「気になるのは襲撃犯ね。なんでキルロを狙ったのかしら?」
「そこも洗おう。探っている件と関係しているのか、していないのか。何で狙ったのが気になる。ユラ、どんなヤツだった」
「う~ん。暗かったからな、目だけ出してナイフを持っていた。よえーヤツらだ。なあ」
キノがユラの言葉に頷く。
情報としては少なすぎる。
「そもそも、この家はそんなに簡単に侵入できるのでしょうか? ここまで大きいとそれなりの警備はしていそうなのですが」
ネインの言葉に一同の動きが一瞬止まる。
「キルロどうなの」
「金目のものはないけど、稼いでいると思われているからな。賊が侵入しないようにそれなりの警備はしているはずだ」
ユラとキノに簡単に退けられるような輩が、やすやす侵入できるとは思えない。
ハルヲは顎に手をやり逡巡する、何か引っ掛かる。
見落としがあるような気がしてならない。
まさか!? いやいやいや⋯⋯、でも⋯⋯。
イヤな考えが頭を過り、キルロの方を向く。
「なんだ?」
キルロが迷いの見える視線に小首を傾げる。
「イヤな事を言ってもいい?」
キルロは面食らったような表情を見せると続けるよう促す。
ハルヲは大きく息を吐き、意を決し言葉を発した。
「アンタの家族か、ごくごく近しい人が賊の手引きした可能性もあるんじゃない?」
皆の驚愕した視線が一斉にハルヲに注いだ。
寝不足もあるのだろうが、目指す足取りは重い。
昨日のマッシュの話、どう消化すべきか逡巡しているうちに朝を迎えてしまった。
膜が張ったようなスッキリしない頭を揺り起こそうと、大きな伸びをしながらハルヲは廊下を進んだ。
「皆さんおはよう。昨日はゆっくりお休みになれたかな?」
席へ着くと父ヒルガが席に着いた面々をゆっくりと見渡し、柔和な笑顔を向けた。
「おかげさまで」
ハルヲは開ききらない眼で返答する。
マッシュとネインが視線だけハルヲに向けると俯いて笑って見せた。
ハルヲはその姿をひと睨みする。
「随分と眠そうだな? 寝起きだからか?」
「そうよ」
何も知らないキルロが、ハルヲの様子を不思議そうに見つめた。
ハルヲは短く答えると、黙々とパンを口に放り込む。
「この後の予定はどう進める?」
「そうだな、その事を含めて一度皆で確認したい事あるんだが、集まれるか?」
「構わない。朝食後オレの部屋集合でいいか?」
「ああ。それでいこう」
キルロの問い掛けにマッシュが提案をした。
昨日の件を話さない訳にはいかなものね。
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何も知らないとしたらそれは幸せなのかな? ⋯⋯不幸なのかな?
うまく働かない思考が底の方で停滞しているのをハルヲは感じる。
何せよ、この問題を解決しなければ、きっとこの家族は本当の意味で幸せになれないはず。押し売りにならないといいんだけど。
それも含めてヤツに話して、どう反応するか⋯⋯なのかな。
「あのよ、あのよ。昨日の夜中変なヤツらいたぞ。なあ」
何か思い出したかのようにユラがキノに向いた。
口のまわりをジャムだらけにしているキノが何度も頷き、またパンをムチャムチャと食べ始める。
皆の動きが止まった。
どういう事?
「それってどういう事だい?」
長兄のアルタがユラに尋ねる。
ユラはフォークに突き刺さったソーセージとアルタを交互に見やり、少し迷う素振りを見せたが、アルタに視線向け話し始める。
「昨日、腹イッパイ過ぎてよ、寝られんかったから散歩でもするかって、廊下歩いていたらよう、ナイフ持ったヤツらが誰かの扉前にいたからキノと二人でぶっ飛ばしてやったんよ。なんか、たいした事のないヤツらだったなぁ。おかげで腹がこなれて寝れたんだ。なあ」
ユラはそういう言うと、またキノに向いた。
キノはパンを食べ続けながら頷き返す。
ユラはフォークに刺したソーセージにかぶりつくと幸せそうな笑顔を作った。
ユラの言葉に一同は、事の重大さに顔を青くした。
「ちょっと! 扉って誰の?」
ハルヲの頭が一瞬で覚醒した。
誰かを襲撃しようとしていたって事だ。
「うーん? 暗かったし、誰かどこだかわからんからな。あ! 扉からキノが出てきたからキノの部屋じゃないのか」
フォークを握りしめながらユラはハルヲに答えた。
ターゲットはキルロか。
「オレか?!」
一同が一斉にキルロの方を向いた。
キルロは目を瞑り、少し考える素振りを見せる。
憤るとかではなく冷静な印象を受けるのが、少し意外だった。
「狙われたってのは気に食わないが、狙いがオレなら対処できるだろう。ただ屋敷の警備をもう少し厳重にした方が良さそうだよな」
「なあ、良かったらウチらも警備手伝うか」
「そらぁ、ありがたいがクエストは?」
「その辺も含めて後で話し合おうか」
「わかった。しかし全然気がつかなかったな。ユラありがとな、キノも」
マッシュはキルロから承諾に俯き逡巡している。今後の動きについて整理しているのだ。
ユラは黙ってフォークを掲げ返事とした。
「お前は大丈夫なのか?」
アルタが心配そうにキルロの方を見た。家族の顔色は芳しくない。
標的が自分達の可能性も消えてはいないのだ。仕方のない事。
それも含めて家が襲撃という、未遂とはいえ事の大きさが、じわりと家族へのしかかってきいている。
「ウチのヤツラと話して、また報告するよ。兄貴達はいつも通り過ごしてくれ、心配するな」
キルロはアルタへ微笑む。
ここで余裕を見せておかないとか。
今はキルロの強がりが家族への精神安定剤となる。
混沌とした朝食を終えるとキルロの部屋へと集合していく。
さすがにこの人数だと手狭感があるわね。
メンバー全員神妙な面持ちで待っていた。
「さて、今後の動きについて整理しようか」
キルロが口火を切ると、マッシュが軽く手を上げた。
キルロは視線で続けるように促す。
「そうだな、まずは謝っておくかな。スマン」
マッシュが頭を下げるとキルロとフェインは困惑の色を見せる。
「え? 何? 何に謝るの??」
キルロは事態が把握出来ず困惑の色を強めていた。
ハルヲやネインの落ち着いている素振りにますます混乱する。
「まずな、クエストはないんだ。このクエストは存在しない」
「え?! え?! どういうこと??」
「ですです。わからないのですが?」
マッシュもちょっと困ったように苦笑いを浮かべる。
続けるべきかどうか迷っているとネインが顔を上げた。
「続きは私が引き受けましょう」
「へ??」
「マッシュさんがおっしゃったようにブレイヴコタンへのクエストは存在しません」
「それはわかったけど……」
びっくりして思わず腰を上げた。
ハルヲがキルロの肩を押し座り直させる。
キルロがハルヲの方へ向くと、ネインを見るように黙って促した。
「今回のクエストは反勇者への資金の流れについての調査です」
「それとここが、どう関係あるんだ??」
「ここヴィトリアから資金が流れているという情報がマッシュさんの所へ入りました。この治療院を含めた全てのヴィトリアの施設が怪しいという事です。どこがシロでどこがクロか。誰がシロで誰がクロか」
キルロの顔から血の気が引いていく、その言葉は自分の家族もその対象に入っている事を意味している。
まさかという思いが強いのだろう。
マッシュはばつが悪そうに視線を逸らした。
「団長、ご家族の嫌疑がかかって困惑されているかもしれませんが、マッシュさんはご家族がシロである証拠を得る為に動かれていました。そこは誤解なきようにお願いします。ただ、マッシュさんや副団長、団長のお話からこの治療院が限りなくクロいと思われます」
まさか自分の家族が加担しているとは思えない。
思いたくない、そんな思いが表情から滲み出ている。
ハルヲは困ったようにキルロの肩に手をやり、ネインはあえて柔和な表情を湛え続けた。
「マッシュさんは以前に自分のご兄弟さえ疑ってかかった。団長もご存じでしょう。団長も含め私達は、ご家族が加担している事はないと思います。ただ知らずに利用されているとしたらそれは不幸な事ではないでしょうか」
「それを家族に証明できるのはアンタだけよ」
ハルヲが付け加える。
キルロは目を瞑って逡巡する。
どうすべきか、どうしたいのか。
ふぅー。
キルロは溜め息をひとつつくと目に力が戻った。
「家族が利用されているとしたら、気にいらねえ。事務長のヤツか?」
「そうね、多分だけどね」
「野郎!」
急にスイッチが入りハルヲとネインが諫める。
「マッシュ、どう動く?」
「そうだな、まずここの滞在を長引かせて欲しい。その間にいろいろ洗っちまおう」
「分かった、そんな事は問題ない、いつまででも大丈夫だ」
「気になるのは襲撃犯ね。なんでキルロを狙ったのかしら?」
「そこも洗おう。探っている件と関係しているのか、していないのか。何で狙ったのが気になる。ユラ、どんなヤツだった」
「う~ん。暗かったからな、目だけ出してナイフを持っていた。よえーヤツらだ。なあ」
キノがユラの言葉に頷く。
情報としては少なすぎる。
「そもそも、この家はそんなに簡単に侵入できるのでしょうか? ここまで大きいとそれなりの警備はしていそうなのですが」
ネインの言葉に一同の動きが一瞬止まる。
「キルロどうなの」
「金目のものはないけど、稼いでいると思われているからな。賊が侵入しないようにそれなりの警備はしているはずだ」
ユラとキノに簡単に退けられるような輩が、やすやす侵入できるとは思えない。
ハルヲは顎に手をやり逡巡する、何か引っ掛かる。
見落としがあるような気がしてならない。
まさか!? いやいやいや⋯⋯、でも⋯⋯。
イヤな考えが頭を過り、キルロの方を向く。
「なんだ?」
キルロが迷いの見える視線に小首を傾げる。
「イヤな事を言ってもいい?」
キルロは面食らったような表情を見せると続けるよう促す。
ハルヲは大きく息を吐き、意を決し言葉を発した。
「アンタの家族か、ごくごく近しい人が賊の手引きした可能性もあるんじゃない?」
皆の驚愕した視線が一斉にハルヲに注いだ。
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