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ヴィトリア
ヴィトリア
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オルンを目指した時と同様に、西へ進路を取って進んだ。
心地よい揺れと木漏れ日が皆の眠気を誘う。
弛緩した空気に身を預けていると、フェインはキルロに振り向いた。
「あのー、キルロさん。ヴィトリアとはどんな国なのですかです?」
「私も聞きたいです」
フェインの言葉にネインも身体を揺り起こす。
キルロは外に向けていた視線を二人に向け、ひと呼吸置いた。
揺れる馬車での時間潰しだな。
「そうだな、医療で外貨を獲得している珍しい国だ。デカイ治療院と病院が三つあってその内のひとつがウチだ。そこを中心に薬屋とか医療に関係する産業が集まって経済を回しているって感じかな」
「え? キルロさん家。治療院なのですか! あ、だから病室が空いているとかおっしゃっていたのですね」
「あ、そうか! 言ってなかったな」
「こいつの家はヴィトリアでも随一らしいわよ、お坊ちゃまなのよ」
手綱を引いているハルヲが前を向きながら半笑いで口を挟む。
キルロは“まったく”と嘆息まじりにハルヲ横目で睨んだ。
「それといろいろな理由で国を出なくちゃならなくなった人が、流れ着く場所でもあるんだ。表向き医療大国で人道的な国って大義名分があるから受け入れを拒ない、拒めないかな。街の外れとか隅の方にそういう人達が固まって暮らしている区域がある」
「スラムって事ですか」
「そんな感じだ。大通りは綺麗に整備されているが、一歩奥へ入れば別の顔が顔を出す。そんな国かな。ミドラスのような雑多で活気のある国とはちょっと違う」
「表裏がはっきりしているのですね」
ネインの言葉にキルロは黙って頷く。
フェインはキルロの言葉を受け外に視線を移した。
間もなく到着だ。
真っ白な壁が囲む、ヴィトリアが見えてきた。
門をくぐると白で統一され、装飾の少ない建物が整然と建ち並ぶ。
人種は雑多だがそれほど多くなく、身なりの整った人が多く見える。
街の中心を目指し進むと目の前に城のごとき巨大な建物が見えてきた。
ミドラスのギルドほどではないにせよその大きさがこの国の中心を担っている事を語っている。
「あ! あれだ」
キルロはその建物を指差す。
『ええええー!!!』
一同が驚嘆の声を上げる。
「相当にデカイな」
「国の施設じゃないの?」
マッシュとハルヲが絶句しながら声を上げる。
フェインとネインは目を剥いてその建物を見上げていた。
ユラとキノは⋯⋯余り興味がないようだ。
「いやいや、あれ治療院で家じゃないから。裏に回ってくれ」
「にしたって……」
ハルヲは手綱を引きながら見上げる。【ハルヲンテイム】も一般的な元病院だ、大きさもそこそこにある。同じくらいの規模を勝手に想像していたが、これは遥かに凌ぐ。
裏手に回ると立派な門があり、キルロが門番と親しげに言葉を交わすと門が開いた。
馬車はそのまま屋敷に向かって、一本道を進む。
手入れの行き届いた庭やそれを飾るオブジェが並ぶ。
絵に描いたようなお屋敷ね、ハルヲは心の中でそう呟く。
「お帰りなさいませ。お久しぶりでございます」
「ヴァージ、久しぶり。しばらく厄介になるよ。こちらは家の事を仕切ってくれているヴァージだ」
「皆様の事はキルロ様のお手紙で拝聴しておりますゆえ、ご紹介は結構でございます。皆様お疲れでしょう。こちらへどうぞ」
玄関で出迎えてくれた初老のヒューマンを紹介した。
小柄で痩せ形、白髪で立派な口髭までも真っ白だ。
綺麗に整えている身なりに優雅な身のこなし、相当に出来る人と見受けられる。
「夕食の準備が整うまでの時間、こちらでごゆるりとお過ごし下さい。何かあればこちらでお呼びたてを」
ベルをテーブルの上へ置き、ヴァージは客間から出て行った。
『はぁ~』
一同、硬直ぎみだった体を弛緩させる。
「ちょっと! 何これ聞いてないわよ」
「ですです」
「これは流石に想像していませんでした」
「だな。デカすぎだ」
「あのよ、これ食っていいのか?」
矢継ぎ早にキルロに詰め寄る。
キルロとキノはテーブルの上の果物にかぶりついていた。
「うん? お前らも食えよ。余ってもしょうがないんだから」
「おいしいよー」
そんな二人の姿を見て、一同は嘆息する。ユラだけが、目を輝かせ果物にかぶりついていた。
キルロは各々に果物を投げ渡し軽く息を吐く。
「そんな想像しているような気取った家じゃないぞ。国に取って金づるだから囲まれているだけだ」
“そんないいもんじゃない”
ぼそりとキルロは付け加える。
「金持ち相手にぼったくっているんだ、バカみてえな値段設定だぞ」
「取れるとこから取るなんて基本じゃない?」
「ハルヲは余分に取った金を使うべき所に回しているだろ。ここは何に使っているのか、さっぱりだ」
キルロは肩をすくめる。
金溢れるほど持っているんじゃない?
皆がそう思っている事が伝わる。
キルロは頷き苦笑いを浮かべ続ける。
「ウチって給料貰ってないんだよ」
『??』
どういう事なのか事情が飲み込めない、この暮らしはどこから?
疑問ばかりが湧き起こる。キルロは一同の様子に眦を掻いた。
「この生活は担保されているが、自由に使える金はゼロだ。必要なものがあれば買って貰える。といっても物欲の無い人達だからな贅沢品を買っているのを見た事ないけどな」
「なんだか窮屈な話だな」
「この生活しか知らなければ、それすらも思わないよ」
マッシュに答えると、キルロは深い溜め息をつく。
それはそれでいろいろあるのかと、ハルヲはキルロの様子から感じ取る。
「まぁまぁ、深い事考えずのんびりしようぜ。時期に飯だ!」
キルロは気を取り直すかのように一同に両手を広げて見せた。
夕食の為、ダイニングルームへと移動した。
ハルヲとフェインが異様に緊張し、動きがおかしな事になっている。
中へ入ると感嘆の声を小さく上げた。
大きな20人は座れるテーブルに質素な調度品が飾られたダイニングルームは嫌味がなく高級感がある。
ずらりと並べられた食器の数にハルヲは軽く眩暈を起こす。
椅子にはキルロの家族がすでに着席して、メンバーを歓迎したくれた。
「ようこそスミテマアルバレギオの皆さん」
「キルロがいつも世話になっているね」
「よろしく!」
笑顔を湛え着席を促す、“ま、座ろう”とキルロが真っ先に座ると皆も後に続いた。
「世話になっているスミテマアルバとキノは手紙に書いたから分かるよな」
“大丈夫だ”と家族の面々は頷くのを見てキルロは続けた。
「親父のヒルガ、お袋のイリア、こっちが一番上の兄貴アルタ、二番目のクルガだ」
キルロが家族を紹介した。
ハルヲは視線をキルロの紹介に合わせて移していく。
父ヒルガは口髭を蓄え白髪混じりの頭はびっしりオールバックに整えられている。
その風貌から高貴な雰囲気を醸し出しているが嫌味はない。
ちょっとふっくらしたイリア、美しい茶髪が自然とウェーブしている。
髪型からか柔らかな印象を受ける。
アルタは母親似かな? ウェーブした茶髪がそう見せているのかしら。
クルガはキルロと似て父親似ね、こうやって見るとキルロが一番父親に似ているわね。
ただ皆、表情が温和だわ、キルロだけがやんちゃそうな顔立ちをしている。
キルロが言っていた優し過ぎというのが、顔立ちにまで表れている気がした。
「冷めないうちに食べよう、皆さんも遠慮なく食べて下さい。久しぶりの来客で張り切って準備したのでね」
父親のヒルガが両手を広げ茶目っ気のある笑顔で即す。
その顔にさすがキルロと親子ね、ハルヲはそう思うと笑顔がこぼれた。
心地よい揺れと木漏れ日が皆の眠気を誘う。
弛緩した空気に身を預けていると、フェインはキルロに振り向いた。
「あのー、キルロさん。ヴィトリアとはどんな国なのですかです?」
「私も聞きたいです」
フェインの言葉にネインも身体を揺り起こす。
キルロは外に向けていた視線を二人に向け、ひと呼吸置いた。
揺れる馬車での時間潰しだな。
「そうだな、医療で外貨を獲得している珍しい国だ。デカイ治療院と病院が三つあってその内のひとつがウチだ。そこを中心に薬屋とか医療に関係する産業が集まって経済を回しているって感じかな」
「え? キルロさん家。治療院なのですか! あ、だから病室が空いているとかおっしゃっていたのですね」
「あ、そうか! 言ってなかったな」
「こいつの家はヴィトリアでも随一らしいわよ、お坊ちゃまなのよ」
手綱を引いているハルヲが前を向きながら半笑いで口を挟む。
キルロは“まったく”と嘆息まじりにハルヲ横目で睨んだ。
「それといろいろな理由で国を出なくちゃならなくなった人が、流れ着く場所でもあるんだ。表向き医療大国で人道的な国って大義名分があるから受け入れを拒ない、拒めないかな。街の外れとか隅の方にそういう人達が固まって暮らしている区域がある」
「スラムって事ですか」
「そんな感じだ。大通りは綺麗に整備されているが、一歩奥へ入れば別の顔が顔を出す。そんな国かな。ミドラスのような雑多で活気のある国とはちょっと違う」
「表裏がはっきりしているのですね」
ネインの言葉にキルロは黙って頷く。
フェインはキルロの言葉を受け外に視線を移した。
間もなく到着だ。
真っ白な壁が囲む、ヴィトリアが見えてきた。
門をくぐると白で統一され、装飾の少ない建物が整然と建ち並ぶ。
人種は雑多だがそれほど多くなく、身なりの整った人が多く見える。
街の中心を目指し進むと目の前に城のごとき巨大な建物が見えてきた。
ミドラスのギルドほどではないにせよその大きさがこの国の中心を担っている事を語っている。
「あ! あれだ」
キルロはその建物を指差す。
『ええええー!!!』
一同が驚嘆の声を上げる。
「相当にデカイな」
「国の施設じゃないの?」
マッシュとハルヲが絶句しながら声を上げる。
フェインとネインは目を剥いてその建物を見上げていた。
ユラとキノは⋯⋯余り興味がないようだ。
「いやいや、あれ治療院で家じゃないから。裏に回ってくれ」
「にしたって……」
ハルヲは手綱を引きながら見上げる。【ハルヲンテイム】も一般的な元病院だ、大きさもそこそこにある。同じくらいの規模を勝手に想像していたが、これは遥かに凌ぐ。
裏手に回ると立派な門があり、キルロが門番と親しげに言葉を交わすと門が開いた。
馬車はそのまま屋敷に向かって、一本道を進む。
手入れの行き届いた庭やそれを飾るオブジェが並ぶ。
絵に描いたようなお屋敷ね、ハルヲは心の中でそう呟く。
「お帰りなさいませ。お久しぶりでございます」
「ヴァージ、久しぶり。しばらく厄介になるよ。こちらは家の事を仕切ってくれているヴァージだ」
「皆様の事はキルロ様のお手紙で拝聴しておりますゆえ、ご紹介は結構でございます。皆様お疲れでしょう。こちらへどうぞ」
玄関で出迎えてくれた初老のヒューマンを紹介した。
小柄で痩せ形、白髪で立派な口髭までも真っ白だ。
綺麗に整えている身なりに優雅な身のこなし、相当に出来る人と見受けられる。
「夕食の準備が整うまでの時間、こちらでごゆるりとお過ごし下さい。何かあればこちらでお呼びたてを」
ベルをテーブルの上へ置き、ヴァージは客間から出て行った。
『はぁ~』
一同、硬直ぎみだった体を弛緩させる。
「ちょっと! 何これ聞いてないわよ」
「ですです」
「これは流石に想像していませんでした」
「だな。デカすぎだ」
「あのよ、これ食っていいのか?」
矢継ぎ早にキルロに詰め寄る。
キルロとキノはテーブルの上の果物にかぶりついていた。
「うん? お前らも食えよ。余ってもしょうがないんだから」
「おいしいよー」
そんな二人の姿を見て、一同は嘆息する。ユラだけが、目を輝かせ果物にかぶりついていた。
キルロは各々に果物を投げ渡し軽く息を吐く。
「そんな想像しているような気取った家じゃないぞ。国に取って金づるだから囲まれているだけだ」
“そんないいもんじゃない”
ぼそりとキルロは付け加える。
「金持ち相手にぼったくっているんだ、バカみてえな値段設定だぞ」
「取れるとこから取るなんて基本じゃない?」
「ハルヲは余分に取った金を使うべき所に回しているだろ。ここは何に使っているのか、さっぱりだ」
キルロは肩をすくめる。
金溢れるほど持っているんじゃない?
皆がそう思っている事が伝わる。
キルロは頷き苦笑いを浮かべ続ける。
「ウチって給料貰ってないんだよ」
『??』
どういう事なのか事情が飲み込めない、この暮らしはどこから?
疑問ばかりが湧き起こる。キルロは一同の様子に眦を掻いた。
「この生活は担保されているが、自由に使える金はゼロだ。必要なものがあれば買って貰える。といっても物欲の無い人達だからな贅沢品を買っているのを見た事ないけどな」
「なんだか窮屈な話だな」
「この生活しか知らなければ、それすらも思わないよ」
マッシュに答えると、キルロは深い溜め息をつく。
それはそれでいろいろあるのかと、ハルヲはキルロの様子から感じ取る。
「まぁまぁ、深い事考えずのんびりしようぜ。時期に飯だ!」
キルロは気を取り直すかのように一同に両手を広げて見せた。
夕食の為、ダイニングルームへと移動した。
ハルヲとフェインが異様に緊張し、動きがおかしな事になっている。
中へ入ると感嘆の声を小さく上げた。
大きな20人は座れるテーブルに質素な調度品が飾られたダイニングルームは嫌味がなく高級感がある。
ずらりと並べられた食器の数にハルヲは軽く眩暈を起こす。
椅子にはキルロの家族がすでに着席して、メンバーを歓迎したくれた。
「ようこそスミテマアルバレギオの皆さん」
「キルロがいつも世話になっているね」
「よろしく!」
笑顔を湛え着席を促す、“ま、座ろう”とキルロが真っ先に座ると皆も後に続いた。
「世話になっているスミテマアルバとキノは手紙に書いたから分かるよな」
“大丈夫だ”と家族の面々は頷くのを見てキルロは続けた。
「親父のヒルガ、お袋のイリア、こっちが一番上の兄貴アルタ、二番目のクルガだ」
キルロが家族を紹介した。
ハルヲは視線をキルロの紹介に合わせて移していく。
父ヒルガは口髭を蓄え白髪混じりの頭はびっしりオールバックに整えられている。
その風貌から高貴な雰囲気を醸し出しているが嫌味はない。
ちょっとふっくらしたイリア、美しい茶髪が自然とウェーブしている。
髪型からか柔らかな印象を受ける。
アルタは母親似かな? ウェーブした茶髪がそう見せているのかしら。
クルガはキルロと似て父親似ね、こうやって見るとキルロが一番父親に似ているわね。
ただ皆、表情が温和だわ、キルロだけがやんちゃそうな顔立ちをしている。
キルロが言っていた優し過ぎというのが、顔立ちにまで表れている気がした。
「冷めないうちに食べよう、皆さんも遠慮なく食べて下さい。久しぶりの来客で張り切って準備したのでね」
父親のヒルガが両手を広げ茶目っ気のある笑顔で即す。
その顔にさすがキルロと親子ね、ハルヲはそう思うと笑顔がこぼれた。
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