62 / 263
鍛冶師とドワーフ
鍛冶師とドワーフときどき調教師
しおりを挟む
「ハルヲー! ハルヲー!」
「あのよ、あのよ、なんでこんな所まで来なくちゃならんのだ?」
「深く考えるな! 感じろ!」
ユラはぶつぶつとキルロに文句を垂れている。
一人では決めらないとはユラには言えず、適当な理由を付けてユラをハルヲンテイムへと連れ出した。
チッ! チッ!
不機嫌全開のハルヲがいつものように裏口へ現れた。
連れて来て大丈夫だったかな? ここはいつも以上に明るく努めよう。
いつもより少し高めのテンションで手を上げた。
「よお!」
「よお! じゃないわよ、このクソ忙しい時になんなのよ。ったく!」
“いつもの事じゃん”なんて言ったら、火に油を注ぐ事は間違いない。
“まあまあ”とここはやり過ごしておく。もう大人ですから。
そんな二人のやり取りを見るや否や、ユラはハルヲに羨望の眼差し向けた。憧れの人に出会えたかのように瞳に爛々と星が輝いている。
ああ、この展開知っている。どこかのエルフと同じパターンだ、間違いない。
「おいおいおい、ヌシはなんだ! すげーな! ドワーフなのにエルフの血が流れているのか?! 羨ましいぞ!」
ユラはテンション高く、羨望を隠す事もせずそのキラキラと輝く瞳をハルヲに向ける。
いきなり憧れの対象となる慣れない展開に、ハルヲは戸惑いを隠せない。
困っているような、喜んでいるような、なんともいえない微妙な表情をハルヲは浮かべ、ユラを見つめ返した。
「こ、こちらのお嬢さんは、どなたかしら?」
「おい、口調がおかしくなっているぞ。こっちはユラだ。加入希望のドワーフのソサかな?」
「ぇ?! あぁードワーフ? えっ? ソサ?」
「ユラ、こっちは副団長のハルヲだ」
「ハルよ!」
ハルヲの蹴りが腿裏に飛んで来た。
困惑していたくせに聞き逃しはしないのな。
「ユラ・アイホスだ! 副団長宜しく頼むぞ」
「ハルヲンスイーバ・カラログースよ、ハルって呼んで」
「ぉおおー、名前はエルフ寄りなんだな。すげーな、いいーな」
褒められ慣れていないハルヲは、ユラと握手をしながらもずっと照れに照れている。
ハルヲと遭遇した事でさらにやる気に満ちあふれたユラを、今さらお断りというわけにはいかないか。やる気はあるんだよな。
ハルヲをハーフと蔑む事も無いし、いいのかな?
ハルヲへ質問責めしているユラに視線を送りながら逡巡する。
「団長よー、頼むよ。入団いいだろ?」
ユラの懇願に頭を掻きながらハルヲに視線を向けると、誉められ続けたせいか顔がヘラヘラとした笑みを浮かべ若干上気している。
意見聞ける状態じゃないな。
やる気もあって悪い奴じゃない、マッシュすら手玉に取るメンタルもある。
これだけ揃えば十分かな。
ふぅっと息を吐き出しユラに笑顔を向け、手を差し出した。
「ようこそスミテマアルバレギオへ。ユラ・アイホス」
満面の笑みでユラは握り返してきた。
「宜しく頼むぞ!」
ユラ・アイホス加入。
“ハルヲー”とキノが飛び込んで来る。
ちょうど良かった。
「ちょうど良かった、知り合いの娘のキノだ。こっちは新しく入ったユラ。キノもクエストには、ほぼほぼ参加しているんだ」
ユラは一瞬、言っている事が理解出来ず、困惑していた。
そりゃそうか常識的に考えれば、こんな小さい子がクエストに参加するなんてありえないもんな。
キノはユラに“よっ!”と手を上げると、ユラはキルロとキノを交互に見やる。うんうんとユラは一人納得。
「ヌシよりチビッコの方がつえーな」
口に出して言うな。
後日、マッシュからメンバーへ召集がかかった。
ユラの紹介も兼ねていつも通り鍛冶屋へ集合する。
人も増えてだいぶ手狭になってきたな。
居間でフェインとネインを紹介する。
マッシュは顔を合わせているので、新ためて挨拶だけした。
互いに紹介しあい握手を交わす。
「私はこの盾を譲る気はありませんよ」
「オレだってこの杖を譲る気ないぞ」
ネインとユラがっちり握手を交わす、なにかが通じ合った瞬間。
キルロはその光景を複雑な思いで見つめる。
これでいいのか? 良くないのか? ⋯⋯まぁ、いいか。
「それとユラ、話しておかなきゃならない事があるんだ」
キルロが勇者直属のパーティーである事を告げる。
ユラも真剣な面持ちで、キルロの話しを黙って頷きながら聞いた。
重要である事はしっかり理解してくれる。
「内密だな。わかった。誰にも言わん」
この様子なら大丈夫だ。
「さて、マッシュ。今日は? この間のタント絡み?」
キルロがマッシュに声を掛ける。皆の視線がマッシュに注ぐと、マッシュは顔を上げた。
「そんな所だ。クエストの発注がある。ヴィトリアから北へ上がったブレイヴコタン(勇者の村)へ消耗品の運搬だ。今回は魔具ではないってよ」
「ヴィトリアってキルロの故郷じゃない」
マッシュの言葉にハルヲが少し驚いた表情を見せ、キルロの方へ視線を送った。
「ああ、そうだ。あ! ウチ泊まるか? 早駆けで手紙出しとくけど?」
「へ? 仲違いして飛び出したとかじゃないの?」
「えー、そんな事言ったか? 家族とは別に普通だぞ」
確かに言われた記憶はないけど、若いうちに飛び出るなんて大概親とぶつかり合って喧嘩して飛び出すってのが筋でしょう。
ハルヲは勝手な解釈をした恥ずかしさを隠すように視線を外した。
「なんなら入院施設もあるし、個室余っているんじゃないかな? 素通りなら泊まる必要ないけどな」
「いや、助かる。団長頼めるか?」
「もちろん」
キルロはマッシュに笑顔で答える。
「あ、あのー、ご迷惑とかじゃないですか?」
「あ、ウチはそういうの大丈夫だから、気にすんな」
フェインが申し訳無さそうに問い掛けると、キルロはフェインに親指を立てて見せた。
「どのようなご両親なのですか?」
「う~ん、そうだな、普通だけどオレ以外の家族は優し過ぎるかな」
ネインはキルロの答えに小首を傾げる。
「優し過ぎってどういう事?」
ハルヲもネインと同じ所に引っかかった。
優しいではなく、優し過ぎて良く無いことでもあるのか??
「う~ん、なんつうか誰に対しても優しいんだよ、悪意を持っているヤツにさえ、優しくしちゃう。うまく言えないけどそんな感じかな」
キルロは肩をすくめながら答えた。
ハルヲも分かったような、分からないような、まぁ、家族に会えば分かるか。
家族に会う!?
急にハルヲの思考がグルグル回り始める。
家族に会うなんてどうしよう。
皆いるし大丈夫、大丈夫。
普通にしていれば問題なし。
そうそう皆いるし大丈夫。
たかがパーティーの一員だから問題なし。
大丈夫、大丈夫⋯⋯。
「ハ、ハルさん大丈夫ですか??」
フェインの心配も耳に届いていない。
頭の中がグルグルとしているハルヲは、椅子の上で赤くなったり青くなったりしていた。その姿を一同が小首を傾げて見つめている事にすら、全く気づかないハルヲだった。
「あのよ、あのよ、なんでこんな所まで来なくちゃならんのだ?」
「深く考えるな! 感じろ!」
ユラはぶつぶつとキルロに文句を垂れている。
一人では決めらないとはユラには言えず、適当な理由を付けてユラをハルヲンテイムへと連れ出した。
チッ! チッ!
不機嫌全開のハルヲがいつものように裏口へ現れた。
連れて来て大丈夫だったかな? ここはいつも以上に明るく努めよう。
いつもより少し高めのテンションで手を上げた。
「よお!」
「よお! じゃないわよ、このクソ忙しい時になんなのよ。ったく!」
“いつもの事じゃん”なんて言ったら、火に油を注ぐ事は間違いない。
“まあまあ”とここはやり過ごしておく。もう大人ですから。
そんな二人のやり取りを見るや否や、ユラはハルヲに羨望の眼差し向けた。憧れの人に出会えたかのように瞳に爛々と星が輝いている。
ああ、この展開知っている。どこかのエルフと同じパターンだ、間違いない。
「おいおいおい、ヌシはなんだ! すげーな! ドワーフなのにエルフの血が流れているのか?! 羨ましいぞ!」
ユラはテンション高く、羨望を隠す事もせずそのキラキラと輝く瞳をハルヲに向ける。
いきなり憧れの対象となる慣れない展開に、ハルヲは戸惑いを隠せない。
困っているような、喜んでいるような、なんともいえない微妙な表情をハルヲは浮かべ、ユラを見つめ返した。
「こ、こちらのお嬢さんは、どなたかしら?」
「おい、口調がおかしくなっているぞ。こっちはユラだ。加入希望のドワーフのソサかな?」
「ぇ?! あぁードワーフ? えっ? ソサ?」
「ユラ、こっちは副団長のハルヲだ」
「ハルよ!」
ハルヲの蹴りが腿裏に飛んで来た。
困惑していたくせに聞き逃しはしないのな。
「ユラ・アイホスだ! 副団長宜しく頼むぞ」
「ハルヲンスイーバ・カラログースよ、ハルって呼んで」
「ぉおおー、名前はエルフ寄りなんだな。すげーな、いいーな」
褒められ慣れていないハルヲは、ユラと握手をしながらもずっと照れに照れている。
ハルヲと遭遇した事でさらにやる気に満ちあふれたユラを、今さらお断りというわけにはいかないか。やる気はあるんだよな。
ハルヲをハーフと蔑む事も無いし、いいのかな?
ハルヲへ質問責めしているユラに視線を送りながら逡巡する。
「団長よー、頼むよ。入団いいだろ?」
ユラの懇願に頭を掻きながらハルヲに視線を向けると、誉められ続けたせいか顔がヘラヘラとした笑みを浮かべ若干上気している。
意見聞ける状態じゃないな。
やる気もあって悪い奴じゃない、マッシュすら手玉に取るメンタルもある。
これだけ揃えば十分かな。
ふぅっと息を吐き出しユラに笑顔を向け、手を差し出した。
「ようこそスミテマアルバレギオへ。ユラ・アイホス」
満面の笑みでユラは握り返してきた。
「宜しく頼むぞ!」
ユラ・アイホス加入。
“ハルヲー”とキノが飛び込んで来る。
ちょうど良かった。
「ちょうど良かった、知り合いの娘のキノだ。こっちは新しく入ったユラ。キノもクエストには、ほぼほぼ参加しているんだ」
ユラは一瞬、言っている事が理解出来ず、困惑していた。
そりゃそうか常識的に考えれば、こんな小さい子がクエストに参加するなんてありえないもんな。
キノはユラに“よっ!”と手を上げると、ユラはキルロとキノを交互に見やる。うんうんとユラは一人納得。
「ヌシよりチビッコの方がつえーな」
口に出して言うな。
後日、マッシュからメンバーへ召集がかかった。
ユラの紹介も兼ねていつも通り鍛冶屋へ集合する。
人も増えてだいぶ手狭になってきたな。
居間でフェインとネインを紹介する。
マッシュは顔を合わせているので、新ためて挨拶だけした。
互いに紹介しあい握手を交わす。
「私はこの盾を譲る気はありませんよ」
「オレだってこの杖を譲る気ないぞ」
ネインとユラがっちり握手を交わす、なにかが通じ合った瞬間。
キルロはその光景を複雑な思いで見つめる。
これでいいのか? 良くないのか? ⋯⋯まぁ、いいか。
「それとユラ、話しておかなきゃならない事があるんだ」
キルロが勇者直属のパーティーである事を告げる。
ユラも真剣な面持ちで、キルロの話しを黙って頷きながら聞いた。
重要である事はしっかり理解してくれる。
「内密だな。わかった。誰にも言わん」
この様子なら大丈夫だ。
「さて、マッシュ。今日は? この間のタント絡み?」
キルロがマッシュに声を掛ける。皆の視線がマッシュに注ぐと、マッシュは顔を上げた。
「そんな所だ。クエストの発注がある。ヴィトリアから北へ上がったブレイヴコタン(勇者の村)へ消耗品の運搬だ。今回は魔具ではないってよ」
「ヴィトリアってキルロの故郷じゃない」
マッシュの言葉にハルヲが少し驚いた表情を見せ、キルロの方へ視線を送った。
「ああ、そうだ。あ! ウチ泊まるか? 早駆けで手紙出しとくけど?」
「へ? 仲違いして飛び出したとかじゃないの?」
「えー、そんな事言ったか? 家族とは別に普通だぞ」
確かに言われた記憶はないけど、若いうちに飛び出るなんて大概親とぶつかり合って喧嘩して飛び出すってのが筋でしょう。
ハルヲは勝手な解釈をした恥ずかしさを隠すように視線を外した。
「なんなら入院施設もあるし、個室余っているんじゃないかな? 素通りなら泊まる必要ないけどな」
「いや、助かる。団長頼めるか?」
「もちろん」
キルロはマッシュに笑顔で答える。
「あ、あのー、ご迷惑とかじゃないですか?」
「あ、ウチはそういうの大丈夫だから、気にすんな」
フェインが申し訳無さそうに問い掛けると、キルロはフェインに親指を立てて見せた。
「どのようなご両親なのですか?」
「う~ん、そうだな、普通だけどオレ以外の家族は優し過ぎるかな」
ネインはキルロの答えに小首を傾げる。
「優し過ぎってどういう事?」
ハルヲもネインと同じ所に引っかかった。
優しいではなく、優し過ぎて良く無いことでもあるのか??
「う~ん、なんつうか誰に対しても優しいんだよ、悪意を持っているヤツにさえ、優しくしちゃう。うまく言えないけどそんな感じかな」
キルロは肩をすくめながら答えた。
ハルヲも分かったような、分からないような、まぁ、家族に会えば分かるか。
家族に会う!?
急にハルヲの思考がグルグル回り始める。
家族に会うなんてどうしよう。
皆いるし大丈夫、大丈夫。
普通にしていれば問題なし。
そうそう皆いるし大丈夫。
たかがパーティーの一員だから問題なし。
大丈夫、大丈夫⋯⋯。
「ハ、ハルさん大丈夫ですか??」
フェインの心配も耳に届いていない。
頭の中がグルグルとしているハルヲは、椅子の上で赤くなったり青くなったりしていた。その姿を一同が小首を傾げて見つめている事にすら、全く気づかないハルヲだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる