上 下
50 / 263
オルン

レグレクィエス

しおりを挟む
「うん?」

 ドワーフは目を凝らし、こちらに視線を向けていた。
 ずんぐりとした筋肉質な体をフルアーマーで覆い、ブラウンの口髭がドワーフらしさをさらに後押ししている。
 しばらくじっとこちらを見ているとおもむろに手を振ってきた。

「おーい! 大丈夫かぁー!」

 心配してくれているみたいだ、キルロは手を振り返した。

「大丈夫だ!」

 キルロの声を聞いたドワーフが駆けて来た。間違いない、ブルンタウロスレギオの誰かだ。

「ヌシ達大丈夫だったか、そうか良かった、良かった。しかしあいつの贓物は臭くてたまらんな。なにを喰らっていやがるのか」

 鼻をつまみながらしかめっ面でドワーフが愚痴った。えらく人懐っこいヤツだ。

「ヌシら行商人か? こんなとこまで商売熱心なヤツらだの」
「こんな買うヤツいねえ所に行商人なんて、来るわけねえ」
「ジョークジョーク、ドワーフジョーク。ヌシらスミテマアルバの連中だろ、わかっとるわ」

 キルロの肩をバンバン叩きながら一人で大笑いしている。
 多分これ面倒臭いパターンとキルロは嘆息する。

「すると……あんたがリーダーだな。ワシはブルンタウロスレギオの副団長リグニス・モレシャだ。リグで構わん」

 とマッシュに手を差し出した。
 これ以上ないくらい複雑な表情を浮かべたマッシュが手を差し出し、握手を交わす。

「ぁあ、マッシュだ、マッシュ・クライカだ。なあリグ、申し訳ないがオレはリーダーじゃないぞ」
「なんと! これは失礼した、すると……あんたかハーフっ娘。すまん、すまんドワーフの血を受け継いでいるんだ、そらぁ優秀だわな」

 マッシュがキルロを指さす間もなくハルヲに手を差し出した。もの凄く戸惑いながらもハルヲも手を差し出し、握手を交わす。

「ハルヲンスイーバ・カラログースよ、ハルでいいわ。リグ、私は副団長だけどこのパーティーのリーダーじゃないわ。リーダーはあなたのすぐ隣の男よ」

 埒があかないと見たハルヲがキルロを指さすと、リグは驚嘆の表情を浮かべ怪訝な眼差しでキルロを見つめた。

背負子サポーターじゃろ?」
「団長のキルロだ! よろしく、リグ~」
「ハ、ハハハ。知とった知とった。ドワーフジョークだ。よろしくリーダー」

 絶対あのままだったらキルロが最後になっていたに違いない。イヤミ成分をたっぷり効かせたキルロの自己紹介に、リグの乾いた笑いを伴うリアクションでそれを確信した。
 それはそれとして、キルロは手を差しだし、しかっりと握手を交わす。

「予定より早かったのう、さすが直属パーティー優秀じゃ。もてなす事は出来んが、ゆっくりとレスト出来る拠点へ案内しよう」

「それは助かる」

 キルロが皆の声を代弁した。
 今一番欲しているのは休養で間違いない。
 リグの申し出に一も二もなく賛同した。
 “こっち、こっち”とリグの手招きに着いて行く、道なき道を進むと眼前が突然と開ける。
 大型のテントがいくつも立ち並び、いくつかのテントの屋根から煙が立ち込めていた。
 人はまばらで20名程か、ドワーフやヒューマン、獣人の姿が見受けられちょっとした集落と化している。

「凄いな」
「うん? そうかいつも使っているから、なんも感じんな」
「運ぶのだけでも大変だろ」
「このまんま放っといているから大変じゃないぞ」
「え?! 誰かに見られたり、使われてもいいのか??」
「構わん、構わん。ここに来るヤツは勇者直属か迷った一般人くらいじゃろ? 迷った一般人がここにたどり着けたらラッキーじゃ、大概がモンスターにコレじゃろ」

 リグは首に手を当てて見せた。
 言われてみれば確かにそうだ。

「【レグレクィエス(王の休養)】。ここをそう呼んでいる。ここから北に向かう足掛かりだな。北方にもここよりかは小さいがいくつかあるぞ、ヌシらもきっと世話になるわい」

 蓄えている顎ひげを撫でながら周りを見渡しているキルロに向けてリグは語りかけた。

「あそこの空いているテントを自由に使え、荷物下ろしたら補給品を貰おうかの。もう急ぐ事はない。のんびりやれや」
「わかった、そうさせて貰うよ」

 リグは奥のテントを指差すと片手を上げ仕事に戻っていった。
 大人5、6人がゆったりと過ごせる程の大きなテントを二つ貸して貰い、男女に分かれて荷物の整理を始めていく。

「こっちでいいか?」
「うん? ああ、それはあっちだな」

 スミテマアルバが運んだ補給の品をブルンタウロスの指示を仰ぎながら納品作業を進める。

「結構あるな、お疲れさん」

 犬人シアンスロープの男がキルロ達を労いながら手伝ってくれた。
 慣れた手つきで次々に収めていく、ここからさらにリグのパーティーが北へ、別のパーティーが東へと荷を運ぶらしい。

「ここから北か、どんな感じ何だろう」
「過酷さは増すでしょうね」

 ブルンタウロスの作業を見つめながら、キルロとハルヲは呟き合う。

「ヌシらのおかげで余裕持って準備出来たわ、感謝するぞ」
「いいよ、アンタらの方がキツイ仕事してんだから、手助けになったならなによりだ」
 
 リグの言葉にキルロは笑顔で返した。
 

 テントは快適で山越えの疲れを癒やしてくれる。
 ブルンタウロスの連中も余裕持って準備出来たと、簡単な酒宴を上げて歓待してくれた。
 その気持ちが嬉しく、スミテマアルバのメンバーは笑顔で酒宴に参加する。
 気のいいヤツらが揃っているレギオだ、難しい話は置いといて今は笑い合おう。

 一日のんびりと過ごさせて貰い、翌々日の早朝にレグ達と一緒にレグレクィエスを後にした。

「レグ、気をつけて!」
「ヌシらものう、また会おう!」

 手を軽く上げ、互いの無事を祈るとスミテマアルバとブルンタウロスは道を分けて進んで行った。

 荷物がなくなれば足取りは軽い。小物とのエンカウントはあったものの順調に歩を進める。
 行きより早い時間に山頂を通過となり、あの景色は見られなくて残念ではあるが仕方ない。
 木々のないゴツゴツとした岩場を進む。
 寒さは厳しいが、この短期間で慣れた感もある。


 しばらく下った所で、おもむろにキノがキルロの袖を引っ張った。

「キルロ、あそこ」

 キノが岩場の上を指差す。
 目を凝らして見上げると、白い大きな鳥の姿が見えた。

「おいハルヲ! あれアックスピークじゃないか?」

 後ろからハルヲの肩を叩き、岩場を指差す。ハルヲの目に、こちらを見つめ佇む一羽のアックスピークが映った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン
ファンタジー
 師と仰いだ人と同じ轍を踏まないように、計画的な冒険者引退を計ってきた三十代半ばのガイル。  その日、冒険者として最後の依頼を無事終えることができた彼が、感慨深く安い酒を楽しんでいる前へ、依頼で同行したエルフの美少女パメラがやって来るなり居丈高に口にした。 「魔剣を譲りなさい!」  旅の途中に彼女の事情を知った後では断りづらい。冒険者から足を洗うのが目の前でもあって、剣を手放すのはやぶさかではない。  二人は彼の部屋へと場所を移して剣を見せる予定だったのに見せることにはならず、色々と見せることになったのはパメラのほうだった。  おかげでそのまま付きまとわれることになり、ホームタウンへ戻っても緊急クエストが発生して強制参加を余儀なくされる。  最後のクエストを終えたと考えていた三十代半ば男の旅の幕引きは、彼の意思とは関係なくさせてもらえそうになかった。

処理中です...