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オルン
山頂
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パーティーへヒールを行っていく。
傷を負い、疲弊したままでの行軍は危険だ。
キルロは倒れている間に応急処置が施されていた。いつものようにハルヲがしたのだろう、気が付けば体中に包帯が巻かれている。
「フェイン、合流ポイントには間に合いそうか?」
「時間的には大分余裕はあります。山道の険しさとエンカウント次第ってとこでしょうか」
キルロの問いに地図を広げたフェインが答える。
フェインの言葉を聞き、皆が地図をのぞき込んでいく。普段見慣れない等高線がびっしりと書き込まれており、普段以上に読めなかった。
「山道はそれほどでもないって言っていたわよね」
「エンカウントも希望的観測ではあるが、トロールが蹂躙した後って事も十二分に考えられる」
ハルヲとマッシュがマップをのぞき込みながら今後について逡巡する。
「団長の魔力が回復するまで、休憩するのが良いかと思います」
「そうだな」
「のんびりとしてられないけど、このパーティーの生命線だものね⋯⋯認めたくはないけど」
ネインの言葉にマッシュとハルヲも同意する。
最後になんか吐かれたが、まぁ、気にしないことにしよう。
《マガアクヴァン》
ハルヲが囁きキルロに魔力を分ける。
「どう?」
「今ので、結構増えたけど七割ってとこだな。できればもう少し回復させたいな」
「そうね、焦らないで休憩しましょう」
ハルヲの言葉に頷き、補給を取ったり眠ったりと各々休息を取っていた。
焚火の炎がパチパチと静かに爆ぜる音が、煙と一緒に空へと舞い上がる。
「なんだか表情が明るくなったな」
キルロがネインの表情を見て話しかけると、少し照れた仕草を見せた。
「大変でしたけど、初めて仕事をこなせた気がして」
「ネインのおかげで全員がここにいるんだ、誇れよ」
キルロはニヤっと笑いネインの肩を軽く小突いた。
ネインは嬉しい顔を隠すように俯き視線を外に向ける。
パーティー全体の雰囲気が緩み、明るくなってきた。
焚火の炎がみんなの笑顔を柔らかな橙色で照らし出し、疲れた体を温めていく。
「よし、お待たせ。バッチリだ」
キルロが見回し立ち上がる。
休憩のおかげで、パーティーの脚に力が戻った。焦る必要はない、一歩一歩ゆっくりと進めて行けばいい。
なだらかな岩山が続いた。
標高が高くなっていくと気温も比例して下がってくる。
それにあわせて辺りの木々が低くなり、道の脇に溶けきらない雪の塊が散見すると、いよいよ本格的な寒さが襲ってきた。
「外套の準備しよう」
キルロの音頭で外套を羽織り、白い息を吐きながら静かに進む。
道が凍り始め雪山らしさを見せて来た。
スノーシュをはめて滑らぬよう、慎重に歩を進める。
体の芯に堪える寒さが体中を覆い始めると、雪がちらつき始めた。
吐く息の白さが濃くなっていく。
陽が落ちると寒さは一層厳しくなる。ブレイヴコタンで準備してくれた防寒具が力を発揮した。
無理だと思ったらビバークしよう。
進められるうちは歩みを止めない。
「あの温泉が恋しいわ」
『確かに』
ハルヲの一言に皆が頷く。
軽口叩けるうちは大丈夫だ。マッシュを先頭に一本道を進む。
陽が昇り始めた。
空に塗られた漆黒が、紫色のグラデーションを落とし始める。
「頂上です」
フェインの言葉に皆が立ち止まり、山頂からの風景に息を呑む。
凛とした冷たい澄んだ空気が、景色の透明度を上げる。
漆黒から落ちて来る紫色のグラデーションを橙色が下から照らす。
雲の海を境界にして、紫と橙色の明暗がくっきりと分かれ、空を二分する。
紫と橙の幻想的な風景を空に作り出し、誰もがそれに見入っていた。
「すげー」
「綺麗ね」
キルロもハルヲも当たり前の言葉しか、口からこぼれてこない。
ただただ、その風景に圧倒されしばらくの間その場に佇んでいた。
陽が昇ると気温も上がってきた。
途中小休止を挟みながら、ゆっくりと進む。
山は雪山から岩山へとその姿を再び変え、木々の緑も高さも少しずつ戻ってくると地上が近づいていると実感する。
気がつくと針葉樹に囲まれた林道に入った。
疲労感があるのかバックパックが肩に食い込んでくるように感じ、何度となく位置の修正をする。
「ちょっと行ってくる。待っていてくれ、フェイン!」
マッシュがフェインに声を掛けると、二人でパーティーから飛び出し先行する。
残された面子は、引き続きゆっくりと歩を進めていく。
目を見開いたまま絶命しているゴブリンが道端に転がり始めた。
道にへばりつく血は乾き始め、赤黒く変色を始めている。
ゴブリンのいくつもの骸を横目にしながら進むと、骸が途切れた所でマッシュとフェインが佇んでいた。
「助かるよ」
「造作ない」
キルロが感謝するとマッシュが肩をすくめ、フェインは照れた笑みで答えた。
足元が岩から土になり、下山したことを告げる。
合流ポイントまであと少しだ。
「フェインどうだ?」
「予定より早く到着出来そうです」
歩みを止めずにフェインは地図を確認していく。
無事に役割を果たせそうだ。
『⋯⋯ゴォォ……』
低い唸りが微かに風に乗り漏れ聞こえて来た。
「何かいますね」
「だな」
パーティーの緊張が一気に上がった。
フェインとマッシュが視線を外に向け、警戒をあらわにしながら確認しあう。
最後の最後で勘弁して貰いとこだが、こちらの都合など考えてはくれるはずもない。
低い唸りと共に重い足音が、パーティーに近づいてくる。
キルロもバッグパックを下ろし背中の剣を抜刀した。
緑の皮膚、300Mc近い体躯、見知った姿のそれが、木々の中をのそりと移動している。
「オークか⋯⋯」
「割とデカいけどさっきのヤツ(トロール)に比べたら、たいした事ないわよ」
キルロの呟きにハルヲがオークを見据えながら答える。
近づいてきているもののこちらには、気がついてはいない。
先手を撃つか逡巡していると、突然に腰の辺りから派手に血を吹き出しながら皮膚を震わすほどの咆哮をあげた。
横腹からへその辺りまで体半分ほどが切り裂かれ、周辺はおびただしい血の量でオークの足元一面が血の海となる。
目から生気がなくなると木々を倒しながら前のめりに倒れ、血溜まりの海が跳ね上がり土煙と共に周囲に血を撒き散らした。
?!
なんだ? なんで??
パーティー全員が一瞬、何が起こったのかわからなかった。
さらにヤバいヤツが現れた? 剣を握る手に力をこめる。
パーティーの緊張は一気に上がり、全員が一斉に前方に最大限の警戒を見せて行った。
「あああー! くっさー!」
へ?!
土煙の奥から血塗られた大きな戦斧を肩に抱えたドワーフが、苦虫を噛み潰した顔して佇んでいた。
傷を負い、疲弊したままでの行軍は危険だ。
キルロは倒れている間に応急処置が施されていた。いつものようにハルヲがしたのだろう、気が付けば体中に包帯が巻かれている。
「フェイン、合流ポイントには間に合いそうか?」
「時間的には大分余裕はあります。山道の険しさとエンカウント次第ってとこでしょうか」
キルロの問いに地図を広げたフェインが答える。
フェインの言葉を聞き、皆が地図をのぞき込んでいく。普段見慣れない等高線がびっしりと書き込まれており、普段以上に読めなかった。
「山道はそれほどでもないって言っていたわよね」
「エンカウントも希望的観測ではあるが、トロールが蹂躙した後って事も十二分に考えられる」
ハルヲとマッシュがマップをのぞき込みながら今後について逡巡する。
「団長の魔力が回復するまで、休憩するのが良いかと思います」
「そうだな」
「のんびりとしてられないけど、このパーティーの生命線だものね⋯⋯認めたくはないけど」
ネインの言葉にマッシュとハルヲも同意する。
最後になんか吐かれたが、まぁ、気にしないことにしよう。
《マガアクヴァン》
ハルヲが囁きキルロに魔力を分ける。
「どう?」
「今ので、結構増えたけど七割ってとこだな。できればもう少し回復させたいな」
「そうね、焦らないで休憩しましょう」
ハルヲの言葉に頷き、補給を取ったり眠ったりと各々休息を取っていた。
焚火の炎がパチパチと静かに爆ぜる音が、煙と一緒に空へと舞い上がる。
「なんだか表情が明るくなったな」
キルロがネインの表情を見て話しかけると、少し照れた仕草を見せた。
「大変でしたけど、初めて仕事をこなせた気がして」
「ネインのおかげで全員がここにいるんだ、誇れよ」
キルロはニヤっと笑いネインの肩を軽く小突いた。
ネインは嬉しい顔を隠すように俯き視線を外に向ける。
パーティー全体の雰囲気が緩み、明るくなってきた。
焚火の炎がみんなの笑顔を柔らかな橙色で照らし出し、疲れた体を温めていく。
「よし、お待たせ。バッチリだ」
キルロが見回し立ち上がる。
休憩のおかげで、パーティーの脚に力が戻った。焦る必要はない、一歩一歩ゆっくりと進めて行けばいい。
なだらかな岩山が続いた。
標高が高くなっていくと気温も比例して下がってくる。
それにあわせて辺りの木々が低くなり、道の脇に溶けきらない雪の塊が散見すると、いよいよ本格的な寒さが襲ってきた。
「外套の準備しよう」
キルロの音頭で外套を羽織り、白い息を吐きながら静かに進む。
道が凍り始め雪山らしさを見せて来た。
スノーシュをはめて滑らぬよう、慎重に歩を進める。
体の芯に堪える寒さが体中を覆い始めると、雪がちらつき始めた。
吐く息の白さが濃くなっていく。
陽が落ちると寒さは一層厳しくなる。ブレイヴコタンで準備してくれた防寒具が力を発揮した。
無理だと思ったらビバークしよう。
進められるうちは歩みを止めない。
「あの温泉が恋しいわ」
『確かに』
ハルヲの一言に皆が頷く。
軽口叩けるうちは大丈夫だ。マッシュを先頭に一本道を進む。
陽が昇り始めた。
空に塗られた漆黒が、紫色のグラデーションを落とし始める。
「頂上です」
フェインの言葉に皆が立ち止まり、山頂からの風景に息を呑む。
凛とした冷たい澄んだ空気が、景色の透明度を上げる。
漆黒から落ちて来る紫色のグラデーションを橙色が下から照らす。
雲の海を境界にして、紫と橙色の明暗がくっきりと分かれ、空を二分する。
紫と橙の幻想的な風景を空に作り出し、誰もがそれに見入っていた。
「すげー」
「綺麗ね」
キルロもハルヲも当たり前の言葉しか、口からこぼれてこない。
ただただ、その風景に圧倒されしばらくの間その場に佇んでいた。
陽が昇ると気温も上がってきた。
途中小休止を挟みながら、ゆっくりと進む。
山は雪山から岩山へとその姿を再び変え、木々の緑も高さも少しずつ戻ってくると地上が近づいていると実感する。
気がつくと針葉樹に囲まれた林道に入った。
疲労感があるのかバックパックが肩に食い込んでくるように感じ、何度となく位置の修正をする。
「ちょっと行ってくる。待っていてくれ、フェイン!」
マッシュがフェインに声を掛けると、二人でパーティーから飛び出し先行する。
残された面子は、引き続きゆっくりと歩を進めていく。
目を見開いたまま絶命しているゴブリンが道端に転がり始めた。
道にへばりつく血は乾き始め、赤黒く変色を始めている。
ゴブリンのいくつもの骸を横目にしながら進むと、骸が途切れた所でマッシュとフェインが佇んでいた。
「助かるよ」
「造作ない」
キルロが感謝するとマッシュが肩をすくめ、フェインは照れた笑みで答えた。
足元が岩から土になり、下山したことを告げる。
合流ポイントまであと少しだ。
「フェインどうだ?」
「予定より早く到着出来そうです」
歩みを止めずにフェインは地図を確認していく。
無事に役割を果たせそうだ。
『⋯⋯ゴォォ……』
低い唸りが微かに風に乗り漏れ聞こえて来た。
「何かいますね」
「だな」
パーティーの緊張が一気に上がった。
フェインとマッシュが視線を外に向け、警戒をあらわにしながら確認しあう。
最後の最後で勘弁して貰いとこだが、こちらの都合など考えてはくれるはずもない。
低い唸りと共に重い足音が、パーティーに近づいてくる。
キルロもバッグパックを下ろし背中の剣を抜刀した。
緑の皮膚、300Mc近い体躯、見知った姿のそれが、木々の中をのそりと移動している。
「オークか⋯⋯」
「割とデカいけどさっきのヤツ(トロール)に比べたら、たいした事ないわよ」
キルロの呟きにハルヲがオークを見据えながら答える。
近づいてきているもののこちらには、気がついてはいない。
先手を撃つか逡巡していると、突然に腰の辺りから派手に血を吹き出しながら皮膚を震わすほどの咆哮をあげた。
横腹からへその辺りまで体半分ほどが切り裂かれ、周辺はおびただしい血の量でオークの足元一面が血の海となる。
目から生気がなくなると木々を倒しながら前のめりに倒れ、血溜まりの海が跳ね上がり土煙と共に周囲に血を撒き散らした。
?!
なんだ? なんで??
パーティー全員が一瞬、何が起こったのかわからなかった。
さらにヤバいヤツが現れた? 剣を握る手に力をこめる。
パーティーの緊張は一気に上がり、全員が一斉に前方に最大限の警戒を見せて行った。
「あああー! くっさー!」
へ?!
土煙の奥から血塗られた大きな戦斧を肩に抱えたドワーフが、苦虫を噛み潰した顔して佇んでいた。
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