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オルン
焚火
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「ちょっと寝過ぎたかな」
口角を上げたマッシュが長ナイフを構え、赤い目の群れの前に立ちはだかった。
鋭い視線をダークインプに向けると一瞬で首を跳ねていく。
跳ね飛んだ首の断面からは血飛沫が吹き上がる。
断末魔を上げることもなく、赤い目を見開いた首がコロコロと周辺に転がっていく。
転がる首と首や手足を失った骸が血溜まりに浮かび、一面はダークインプの墓場と化す。
ナイフはあっという間に真っ赤な血を垂らし、血生臭さが周辺に漂った。
「サッサと片付けて、あちらさんに行こうか」
長ナイフを肩に乗せ、マッシュがダークインプを見下ろす。
赤い目のギラつきは相も変わらずマッシュとキノを睨んでいた。
ハルヲに吸い込まれるはずの光球がなかなか落ちていかない。相当な深手を負ってしまっているのが伝わり、キルロの焦りを誘った。
キルロは光球一点に集中して回復を願う。
クソ、落ちろ。
背中越しには相変わらず派手な打撃音が鳴り響いている。
ネインはキルロ達を背後に置き、重い打撃音を鳴らしていた。
“ぐっ”一撃一撃が重い、集中して受け流す。
一撃の重さが増して来ているように感じる。
実際に増しているのか、ネイン自身が弱ってきているのか⋯⋯。
考えている間もないほどに、重い拳が容赦なく振り下ろされていく。
トロールは思うように動かせない自分のもどかしさおも怒りに変換し、濁った眼球を一層血走らせネインを容赦なく連打し、吼える。
重い打撃音が鳴り止まない。
フェインは一直線にトロールの背後へと駆けた。
怒りに身を任せている姿を、トロールの背中越しにフェインは確認する。
さらにスピードを上げ背後へと疾走していく。
しまった!
襲いかかる重い一撃がネインの盾を吹き飛ばす。
その右腕がネインを狙い再び振り下ろす。
「避けろ!!」
ネインは叫んだ。視野の片隅で横に跳ねるキルロを捉えると、振り下ろす右腕に無防備に立ちすくんだ。
ネインの叫びに反射的に体が動く。
ハルヲを庇うように抱き抱え、必死に横へと飛んだ。
トロールとの距離を確認しようと顔を上げると、無防備に立ちすくむネインの姿が目に飛び込んできた。
振り下ろす右腕がネインを確実に捉えている。
「ネイン!!」
キルロが叫ぶとネインが一瞬こちらを見た気がした。
フェインが背後から左足へ素早く回りこんで行く。
猛る。
ネインを捉える右腕が見える。
「はぁぁあああああー!」
絶対にさせない。
フェインの強い意志を込めた渾身の回し蹴りが、トロールの左膝を襲う。
ありったけの力を鉄の踵に乗せ膝を砕きに掛かった。
バキッ!
鈍い破砕音が届く。続けざまに鉄の拳に全身の力を乗せ、膝を砕く。
乾いた破裂音が鳴るとトロールは断末魔の咆哮を上げ、トロールは膝から崩れ落ちていった。
ネインを狙った右腕は力なく地面を叩くだけ。
《トゥルボ・レーラ》
身動きの取れなくなったトロールを確認するとネインが詠唱を開始する。
ネインの手のひらに緑色の光が収束されていく。
膝を折るトロールの姿をキルロの視線が確認する。
やったのか?
動かない血塗れのハルヲに、視線を移す。
《レフェクト・サナティオ・トゥルボ》
キルロはすぐに詠唱を開始した。
意識の戻らないハルヲをしっかりと見据え、今度こそと集中を上げる。
落ちてく光球を見つめ、静かにハルヲの回復を願った。
ネインの手のひらから収束された緑光が、トロールへ一直線に向かっていく。
緑光のラインはトロールの胸を捉えると、轟音と共に大きく凹ます。
硬直するトロールが口元からどす黒い血を吐き出し、抑えの効かない体が大きな地響きと共に仰向けに倒れた。
「美味しい所いただくか」
マッシュが長ナイフを握り直し、倒れたトロールの左耳から長ナイフを突き刺す。
耳から真っ赤な血をドロっと垂らし、低い呻きをひとつ上げると濁った目から生気が消えていった。
「片づいたな。キノ、クエイサーとプロトン連れてきてくれ。皆お疲れさん、後は副団長だな」
マッシュが置いてあるバックパックを拾い上げ、ハルヲの元へと急いだ。
キルロが片膝をつき、手のひらから光球をかざしている姿が見える。
マッシュがふたりに近づいて行く。誰が言う事もなく二人のまわりに皆が集まり、光球の行方を見守り、回復を願った。
もう少しだ。
手をかざしながら光球が吸い込まれて行く様をキルロは注視する。
荒かった呼吸もだいぶ力強さが戻ってきた。
口から吐かれた血の後が、首へと筋になり乾いていく。
顔中カピカピだな、乾いて紫かかった血がひび割れを起こしている。
もう少しだ。
光球は全て落ちた。
ハルヲがゆっくりと目を開けていく、乾いた血でくっついてしまった瞼は少し開けづらそうだ。
良し、大丈夫と思った刹那、キルロの視界にノイズが入ると黒一色となった。
「キルロさん!」
横にゆっくりと倒れて行くキルロと声を上げるフェインの姿。
ハルヲは膜が張った意識の中でぼんやりとそれを視認する。
キルロ?!
意識が覚醒していく。
ゆっくりと体を起こす。
顔の皮膚がごわつき痛みはないが、貧血状態なのかふらつく感じが現実感を薄くする。
「副団長殿! 大丈夫ですか」
ネインが声を掛けてきた。
見渡すと皆が心配そうな顔でこちらをのぞき込む。
「大丈夫。それより奴は? キルロは?」
「レスマインドだと思います。魔力を使いすぎたのでしょう。魔力が回復すれば大丈夫なはずです」
ネインが落ち着いた口調で答えると、横たわるキルロに視線を向ける。安堵した空気がこの場を包むと疲労感が一気に襲ってきた。
「トロールも始末したのよね。正直少し休みたいわ」
「異議なしだ」
「ですです」
ハルヲの意見に意を唱えるものはいない、満場一致で休憩を選択した。
岩陰に移動しマッシュが火を起こす。
揺らめく焚き火の炎に照らされて、ゆっくりと息を吐き出すと、ざらついていた意識をほぐしていった。
目が醒めると空があった。
何していたんだっけ?
はっ!
キルロの意識が急速に覚醒する体に鞭をいれ、上半身を叩き起こす。
「ハルヲ?! トロールは?!」
「キルロ起きた」
緊張感のないキノの声がする。
焚き火?
ポンとふいに肩に手を置かれた。
振り向くと未だに乾いた血にまみれているハルヲの姿があった。
“はぁー”と盛大なため息をつき、辺りを見回すと皆の弛緩した笑みが見える。
“良かった”と地面に体を投げ出す。
「おはよう」
マッシュが満面の笑みで肩に手を置いてきた。
「マッシュありがとな、キノ助けてくれて」
「たいした事ないさ。死ななきゃ、おまえさんが何とかしくれんだろうって思ってるからさ」
「それはあるわね」
ハルヲもマッシュに同意する。
皆が笑顔で良かった。
キルロも安堵し自然と笑みがこぼれていく。
「フェインもネインもありがとう、キノもありがとな」
キルロは二人に頭を下げ、キノの頭に手を置いた。
フェインはわたわたと恐縮し、ネインはちょっと照れた笑みを浮かべる。
キノは笑顔でじっとキルロを見つめ視線を交わした。
横を見るとハルヲの血塗れの顔、カピカピに乾いた血濡れの顔に思わず吹き出す。
「ハルヲの顔、なかなかのスプラッタだな」
「うるさい!」
ハルヲが珍しく優しいパンチをしてきた。
口角を上げたマッシュが長ナイフを構え、赤い目の群れの前に立ちはだかった。
鋭い視線をダークインプに向けると一瞬で首を跳ねていく。
跳ね飛んだ首の断面からは血飛沫が吹き上がる。
断末魔を上げることもなく、赤い目を見開いた首がコロコロと周辺に転がっていく。
転がる首と首や手足を失った骸が血溜まりに浮かび、一面はダークインプの墓場と化す。
ナイフはあっという間に真っ赤な血を垂らし、血生臭さが周辺に漂った。
「サッサと片付けて、あちらさんに行こうか」
長ナイフを肩に乗せ、マッシュがダークインプを見下ろす。
赤い目のギラつきは相も変わらずマッシュとキノを睨んでいた。
ハルヲに吸い込まれるはずの光球がなかなか落ちていかない。相当な深手を負ってしまっているのが伝わり、キルロの焦りを誘った。
キルロは光球一点に集中して回復を願う。
クソ、落ちろ。
背中越しには相変わらず派手な打撃音が鳴り響いている。
ネインはキルロ達を背後に置き、重い打撃音を鳴らしていた。
“ぐっ”一撃一撃が重い、集中して受け流す。
一撃の重さが増して来ているように感じる。
実際に増しているのか、ネイン自身が弱ってきているのか⋯⋯。
考えている間もないほどに、重い拳が容赦なく振り下ろされていく。
トロールは思うように動かせない自分のもどかしさおも怒りに変換し、濁った眼球を一層血走らせネインを容赦なく連打し、吼える。
重い打撃音が鳴り止まない。
フェインは一直線にトロールの背後へと駆けた。
怒りに身を任せている姿を、トロールの背中越しにフェインは確認する。
さらにスピードを上げ背後へと疾走していく。
しまった!
襲いかかる重い一撃がネインの盾を吹き飛ばす。
その右腕がネインを狙い再び振り下ろす。
「避けろ!!」
ネインは叫んだ。視野の片隅で横に跳ねるキルロを捉えると、振り下ろす右腕に無防備に立ちすくんだ。
ネインの叫びに反射的に体が動く。
ハルヲを庇うように抱き抱え、必死に横へと飛んだ。
トロールとの距離を確認しようと顔を上げると、無防備に立ちすくむネインの姿が目に飛び込んできた。
振り下ろす右腕がネインを確実に捉えている。
「ネイン!!」
キルロが叫ぶとネインが一瞬こちらを見た気がした。
フェインが背後から左足へ素早く回りこんで行く。
猛る。
ネインを捉える右腕が見える。
「はぁぁあああああー!」
絶対にさせない。
フェインの強い意志を込めた渾身の回し蹴りが、トロールの左膝を襲う。
ありったけの力を鉄の踵に乗せ膝を砕きに掛かった。
バキッ!
鈍い破砕音が届く。続けざまに鉄の拳に全身の力を乗せ、膝を砕く。
乾いた破裂音が鳴るとトロールは断末魔の咆哮を上げ、トロールは膝から崩れ落ちていった。
ネインを狙った右腕は力なく地面を叩くだけ。
《トゥルボ・レーラ》
身動きの取れなくなったトロールを確認するとネインが詠唱を開始する。
ネインの手のひらに緑色の光が収束されていく。
膝を折るトロールの姿をキルロの視線が確認する。
やったのか?
動かない血塗れのハルヲに、視線を移す。
《レフェクト・サナティオ・トゥルボ》
キルロはすぐに詠唱を開始した。
意識の戻らないハルヲをしっかりと見据え、今度こそと集中を上げる。
落ちてく光球を見つめ、静かにハルヲの回復を願った。
ネインの手のひらから収束された緑光が、トロールへ一直線に向かっていく。
緑光のラインはトロールの胸を捉えると、轟音と共に大きく凹ます。
硬直するトロールが口元からどす黒い血を吐き出し、抑えの効かない体が大きな地響きと共に仰向けに倒れた。
「美味しい所いただくか」
マッシュが長ナイフを握り直し、倒れたトロールの左耳から長ナイフを突き刺す。
耳から真っ赤な血をドロっと垂らし、低い呻きをひとつ上げると濁った目から生気が消えていった。
「片づいたな。キノ、クエイサーとプロトン連れてきてくれ。皆お疲れさん、後は副団長だな」
マッシュが置いてあるバックパックを拾い上げ、ハルヲの元へと急いだ。
キルロが片膝をつき、手のひらから光球をかざしている姿が見える。
マッシュがふたりに近づいて行く。誰が言う事もなく二人のまわりに皆が集まり、光球の行方を見守り、回復を願った。
もう少しだ。
手をかざしながら光球が吸い込まれて行く様をキルロは注視する。
荒かった呼吸もだいぶ力強さが戻ってきた。
口から吐かれた血の後が、首へと筋になり乾いていく。
顔中カピカピだな、乾いて紫かかった血がひび割れを起こしている。
もう少しだ。
光球は全て落ちた。
ハルヲがゆっくりと目を開けていく、乾いた血でくっついてしまった瞼は少し開けづらそうだ。
良し、大丈夫と思った刹那、キルロの視界にノイズが入ると黒一色となった。
「キルロさん!」
横にゆっくりと倒れて行くキルロと声を上げるフェインの姿。
ハルヲは膜が張った意識の中でぼんやりとそれを視認する。
キルロ?!
意識が覚醒していく。
ゆっくりと体を起こす。
顔の皮膚がごわつき痛みはないが、貧血状態なのかふらつく感じが現実感を薄くする。
「副団長殿! 大丈夫ですか」
ネインが声を掛けてきた。
見渡すと皆が心配そうな顔でこちらをのぞき込む。
「大丈夫。それより奴は? キルロは?」
「レスマインドだと思います。魔力を使いすぎたのでしょう。魔力が回復すれば大丈夫なはずです」
ネインが落ち着いた口調で答えると、横たわるキルロに視線を向ける。安堵した空気がこの場を包むと疲労感が一気に襲ってきた。
「トロールも始末したのよね。正直少し休みたいわ」
「異議なしだ」
「ですです」
ハルヲの意見に意を唱えるものはいない、満場一致で休憩を選択した。
岩陰に移動しマッシュが火を起こす。
揺らめく焚き火の炎に照らされて、ゆっくりと息を吐き出すと、ざらついていた意識をほぐしていった。
目が醒めると空があった。
何していたんだっけ?
はっ!
キルロの意識が急速に覚醒する体に鞭をいれ、上半身を叩き起こす。
「ハルヲ?! トロールは?!」
「キルロ起きた」
緊張感のないキノの声がする。
焚き火?
ポンとふいに肩に手を置かれた。
振り向くと未だに乾いた血にまみれているハルヲの姿があった。
“はぁー”と盛大なため息をつき、辺りを見回すと皆の弛緩した笑みが見える。
“良かった”と地面に体を投げ出す。
「おはよう」
マッシュが満面の笑みで肩に手を置いてきた。
「マッシュありがとな、キノ助けてくれて」
「たいした事ないさ。死ななきゃ、おまえさんが何とかしくれんだろうって思ってるからさ」
「それはあるわね」
ハルヲもマッシュに同意する。
皆が笑顔で良かった。
キルロも安堵し自然と笑みがこぼれていく。
「フェインもネインもありがとう、キノもありがとな」
キルロは二人に頭を下げ、キノの頭に手を置いた。
フェインはわたわたと恐縮し、ネインはちょっと照れた笑みを浮かべる。
キノは笑顔でじっとキルロを見つめ視線を交わした。
横を見るとハルヲの血塗れの顔、カピカピに乾いた血濡れの顔に思わず吹き出す。
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