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オルン
餌
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最も西にあるオルン目指し夜道を馬車が進む。
街道を照らすランプは頼りなく道を照らし、その頼りない灯りに身を預ける。
揺られるスミテマアルバの一行に緩んだ空気はなく、緊張感が馬車の内部を覆っていた。
どういう事だ?
数日前の昼下がり、スミテマアルバレギオ宛てに依頼が届いたと、ギルドより連絡が入った。
早速アルフェンパーティーの代打依頼かとソシエタス向けの依頼窓口へ向かう。
“アルンカペレ様より商品護衛のご依頼が届いております”と受付嬢が告げる。
使わないはずのダミー商社? 真っ先に頭を過る罠の文字。
「アルンカペレで間違いないのか?」
「はい、間違いございません」
「そうか、わかった」
ここで余り下手なことは言って勘ぐられても困る。すぐに引き下がろう。
封蝋の紋様はアルンカペレで間違いない、偽物? 封蠟の偽装が出来るとしたら、本当に近しい人物の仕業だ。
一人で考えても仕方ないのでギルドを後にして、封書を手にハルヲンテイムを目指した。
「ハルヲー!」
裏口から声を掛けると直ぐにやって来た。
いつものように軽口叩くかと思ったが、キルロの剣呑な雰囲気を察すると真剣な目つきに変わる。
「スマン、これどう思う?」
アルンカペレの封書を見せるとハルヲは少し驚いた表情を見せ封書を手にした。
「本物よね?」
「だよな。偽装にしたら良く出来過ぎている」
結局、二人で逡巡しても埒があかない。後日改めて、みんなに集合を掛けることにした。
「これがその封書」
集合したメンバーの前にアルンカペレの封書をキルロが出した。
皆がそれぞれにマジマジと見つめる。
「開けてみましょう」
ハルヲに急かされキルロが封を開けていく。
中からは通常の依頼書が書式に乗っ取り書かれていた。
これと言っておかしい所はない、アルンカペレ名義という事以外は。
「胡散臭さもあるけど、アルフェンからの依頼で間違いないよな」
「偽造にも見えんしな」
キルロの言葉にマッシュも同意はしたが、まだ逡巡している様が伺える。
「こちら良く見ると期日が不味くないですか? 最西だと結構掛かりますよね?」
ネインが期日を指差しキルロを見つめた。
指差した先、期日は4日後。
「ヤバッ! 考えている暇ねえぞ。とりあえず直ぐに準備をしよう。考えるのは動き出してからにするぞ。ハルヲすまん! 馬車の準備を頼む。自分の準備出来たらすぐ向かう」
「了解、さぁ、動きましょう」
皆立ち上がり準備の為、足早にキルロの店を後にする。
キルロも大急ぎで準備を始め必要なものを袋へ詰め込んでいった。
いつもならタント辺りが接触してきても良さそうなものだが、それもない。
反勇者の件でそれどころじゃないのか。
手を動かしながら逡巡する。本物の依頼書なら行くしかない。腹を括って準備のスピードを上げる。
「皆、早いな」
「いつでも行けるように準備してありましたので」
「ですです」
ネインとフェインが荷物の積み込みをしている。急いだもののキルロが最後の到着となった。
ハルヲには馬の手配までお願いしたのに準備万端だ。
ハルヲが手綱で早々に出発する、ギルドで依頼荷を積み込めば準備は完了。人混みを避けながら出口に向かい夕暮れ近づいているミドラスを後に西へ進路を取った。
「この箱、この間と同じだよな。って事はアレか?」
「十中八九アレだ」
「アレとはなんですか?」
キルロとマッシュのやり取りを聞いていたネインが長い木箱を覗き込む。
そういえばイスタバールでネインは見てなかったな。
「開けるか」
キルロの言葉にマッシュが木箱に手を掛け、蓋をあける。
中には予想通り魔具がびっしりと入っていた。
30Mc程のその棒をマッシュはネインに投げた。
ネインは手にした棒をまじまじと眺めるが、思い当たるものは一切浮かんでこなかった。
「これは一体何ですか?」
「精浄で使う魔具だ」
「こんなもので黒素を抑えるのですか?」
「棒というかそれに使われている素材が抑えるんだよ」
キルロは魔具に付着している白精石指差した。
白精石の事を知らなけばただの黒い棒にしか見えない。
物珍しいのかネインはずっと手に取り、それを眺めていた。
「これはなんだ?」
マッシュが木箱から封書を取り出す、中には書類と地図が同封されていた。
マッシュはそれを手に取り一通り目を通すと、地図はフェインに書類はキルロに渡す。
マッシュはキルロとフェインに上目で視線を送る。
「なんて書いてあるの?」
手綱を引いているハルヲが背中越しにキルロに声を掛けた。
「オルン北のブレイヴコタン、そこからさらに北上してアステルス・ミシュロクロイン直属の【ブルンタウロスレギオ(鉛の雄牛)】に合流して、魔具を渡せ。だと」
「あのー、地図で見る限りですが、今回ブレイヴコタンより先は徒歩で山道のようです」
「徒歩かぁ、時間掛かりそうね。ブルンタウロスといえばゴリゴリの討伐系だったけ」
「有名なのか?」
「討伐系としてはデカいな。他の事を一切しないので逆に有名って感じかな」
皆がやるべき事を理解した。
一筋縄で行きそうにもないという事も。
「アルンカペレ名義ってなんか意味あるのかしら?」
やるべき事を整理したが、アルンカペレである事の関連性が見えてこないもどかしさをハルヲは感じていた。
別名義で発注した方が確実性は担保されるのではないかと感じる。
ハルヲの言葉に皆が思考を巡らす。
アルンカペレ名義では危険性が増すだけだ、別名義の方が確実性は上がる。
「もしかしたらだが……」
マッシュが口を開くと皆がマッシュに注目した。
「餌としてウチらは撒かれたのかもしれないな」
「餌? おびき寄せる為の?!」
「なるほどね、それなら合点がいくわ」
キルロは困惑を見せるが、ハルヲはマッシュの言葉に納得して見せた。
「アチラ(アルフェン)さんも余裕がないのか、焦っているのかもな。代行業と犯人の捜索。もしヤツらが食いついたら一石二鳥だ」
「警戒を上げよう」
「だな」
キルロの言葉に一同が緊張の面持ちを見せていく。
街道を照らすランプは頼りなく道を照らし、その頼りない灯りに身を預ける。
揺られるスミテマアルバの一行に緩んだ空気はなく、緊張感が馬車の内部を覆っていた。
どういう事だ?
数日前の昼下がり、スミテマアルバレギオ宛てに依頼が届いたと、ギルドより連絡が入った。
早速アルフェンパーティーの代打依頼かとソシエタス向けの依頼窓口へ向かう。
“アルンカペレ様より商品護衛のご依頼が届いております”と受付嬢が告げる。
使わないはずのダミー商社? 真っ先に頭を過る罠の文字。
「アルンカペレで間違いないのか?」
「はい、間違いございません」
「そうか、わかった」
ここで余り下手なことは言って勘ぐられても困る。すぐに引き下がろう。
封蝋の紋様はアルンカペレで間違いない、偽物? 封蠟の偽装が出来るとしたら、本当に近しい人物の仕業だ。
一人で考えても仕方ないのでギルドを後にして、封書を手にハルヲンテイムを目指した。
「ハルヲー!」
裏口から声を掛けると直ぐにやって来た。
いつものように軽口叩くかと思ったが、キルロの剣呑な雰囲気を察すると真剣な目つきに変わる。
「スマン、これどう思う?」
アルンカペレの封書を見せるとハルヲは少し驚いた表情を見せ封書を手にした。
「本物よね?」
「だよな。偽装にしたら良く出来過ぎている」
結局、二人で逡巡しても埒があかない。後日改めて、みんなに集合を掛けることにした。
「これがその封書」
集合したメンバーの前にアルンカペレの封書をキルロが出した。
皆がそれぞれにマジマジと見つめる。
「開けてみましょう」
ハルヲに急かされキルロが封を開けていく。
中からは通常の依頼書が書式に乗っ取り書かれていた。
これと言っておかしい所はない、アルンカペレ名義という事以外は。
「胡散臭さもあるけど、アルフェンからの依頼で間違いないよな」
「偽造にも見えんしな」
キルロの言葉にマッシュも同意はしたが、まだ逡巡している様が伺える。
「こちら良く見ると期日が不味くないですか? 最西だと結構掛かりますよね?」
ネインが期日を指差しキルロを見つめた。
指差した先、期日は4日後。
「ヤバッ! 考えている暇ねえぞ。とりあえず直ぐに準備をしよう。考えるのは動き出してからにするぞ。ハルヲすまん! 馬車の準備を頼む。自分の準備出来たらすぐ向かう」
「了解、さぁ、動きましょう」
皆立ち上がり準備の為、足早にキルロの店を後にする。
キルロも大急ぎで準備を始め必要なものを袋へ詰め込んでいった。
いつもならタント辺りが接触してきても良さそうなものだが、それもない。
反勇者の件でそれどころじゃないのか。
手を動かしながら逡巡する。本物の依頼書なら行くしかない。腹を括って準備のスピードを上げる。
「皆、早いな」
「いつでも行けるように準備してありましたので」
「ですです」
ネインとフェインが荷物の積み込みをしている。急いだもののキルロが最後の到着となった。
ハルヲには馬の手配までお願いしたのに準備万端だ。
ハルヲが手綱で早々に出発する、ギルドで依頼荷を積み込めば準備は完了。人混みを避けながら出口に向かい夕暮れ近づいているミドラスを後に西へ進路を取った。
「この箱、この間と同じだよな。って事はアレか?」
「十中八九アレだ」
「アレとはなんですか?」
キルロとマッシュのやり取りを聞いていたネインが長い木箱を覗き込む。
そういえばイスタバールでネインは見てなかったな。
「開けるか」
キルロの言葉にマッシュが木箱に手を掛け、蓋をあける。
中には予想通り魔具がびっしりと入っていた。
30Mc程のその棒をマッシュはネインに投げた。
ネインは手にした棒をまじまじと眺めるが、思い当たるものは一切浮かんでこなかった。
「これは一体何ですか?」
「精浄で使う魔具だ」
「こんなもので黒素を抑えるのですか?」
「棒というかそれに使われている素材が抑えるんだよ」
キルロは魔具に付着している白精石指差した。
白精石の事を知らなけばただの黒い棒にしか見えない。
物珍しいのかネインはずっと手に取り、それを眺めていた。
「これはなんだ?」
マッシュが木箱から封書を取り出す、中には書類と地図が同封されていた。
マッシュはそれを手に取り一通り目を通すと、地図はフェインに書類はキルロに渡す。
マッシュはキルロとフェインに上目で視線を送る。
「なんて書いてあるの?」
手綱を引いているハルヲが背中越しにキルロに声を掛けた。
「オルン北のブレイヴコタン、そこからさらに北上してアステルス・ミシュロクロイン直属の【ブルンタウロスレギオ(鉛の雄牛)】に合流して、魔具を渡せ。だと」
「あのー、地図で見る限りですが、今回ブレイヴコタンより先は徒歩で山道のようです」
「徒歩かぁ、時間掛かりそうね。ブルンタウロスといえばゴリゴリの討伐系だったけ」
「有名なのか?」
「討伐系としてはデカいな。他の事を一切しないので逆に有名って感じかな」
皆がやるべき事を理解した。
一筋縄で行きそうにもないという事も。
「アルンカペレ名義ってなんか意味あるのかしら?」
やるべき事を整理したが、アルンカペレである事の関連性が見えてこないもどかしさをハルヲは感じていた。
別名義で発注した方が確実性は担保されるのではないかと感じる。
ハルヲの言葉に皆が思考を巡らす。
アルンカペレ名義では危険性が増すだけだ、別名義の方が確実性は上がる。
「もしかしたらだが……」
マッシュが口を開くと皆がマッシュに注目した。
「餌としてウチらは撒かれたのかもしれないな」
「餌? おびき寄せる為の?!」
「なるほどね、それなら合点がいくわ」
キルロは困惑を見せるが、ハルヲはマッシュの言葉に納得して見せた。
「アチラ(アルフェン)さんも余裕がないのか、焦っているのかもな。代行業と犯人の捜索。もしヤツらが食いついたら一石二鳥だ」
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