42 / 263
ドゥアルーカ
ドゥアルーカ
しおりを挟む
「よお! 足の具合はどうだ?」
店先から聞き覚えのある声が聞こえた。
まだ少し違和感の残る足で、居間から声のする店先へと向かう。
「お! 帰ってきたか、入れよ。足はボチボチかな、もうちょっとの所まではきているよ」
「そうか、そらぁ何よりだ。ちょっと邪魔するぞ」
イスタバールから戻ったマッシュがいつものように柔和な笑みを湛えていた。
お茶を出して互いに人心地つける。
「そういやぁ、ネインが入ったぞ、近いうちに改めてだな」
「そうかそうか、いいヤツが入ったな。まあ、あの帰り際は入りそうだったよな」
「だな。ハルヲが言っていたけど、イスタバールはタントと一緒にあの件を洗っていたのか?」
「ハハハ、ハルは騙せなかったかぁ。残念ながら皆に発表出来るほどのネタは見つからなかったよ」
溜め息まじりにマッシュが告げる。
「この間シルが来てさ、勇者に抗する者の存在ってのを教えてくれたんだよ。あの襲撃の件を知ってソイツらの仕業と踏んだけど、オレ達の話を聞いてシルが追っている勇者の抗する者とは違うぽいって言っていた」
「それは興味深い話だ」
「マッシュとタントが追っているって話したらそっちは任すって言っていたぞ、そのうち接触あるんじゃないのか?」
「そうだな。こっちもシルの話を直接聞きたいな。なんにせよネインとの顔合わせもあるし皆で集まらないか? 進展はさほどなかったが話して起きたい事もある」
「わかった、近いうちに召集かけるよ」
「頼んだぞ、団長」
最後は笑みを湛えいつものマッシュで去って行った。
タントとマッシュでも進展なしか。
キルロの心の片隅に霞がかかる。
そんなイヤな感じが拭えなかった。
「あちぃーなもう」
ひとりボヤきながら鍛冶仕事に精を出す日々。
足が動かせないうちはこれしか出来ない。
黙々と槌を振るう当たり前の日々を過ごす、汗を滴らせ火花を飛ばす。
ネインの装備も見直さないと。
今度集合する時に持ってきて貰うか。
久々のスミテマアルバ全員集合。
知った顔同士だがマッシュとネインは加入してから初顔合わせだ。
簡単な自己紹介のあと、握手を交わす。
ネインにはシルから聞いた話をすると心底驚き、根がマジメなのだ、憤りを隠さなかった。
「それで、マッシュ、イスタバールでのお土産は?」
ハルヲがマッシュに成果を尋ねると、首を横に振りながらお手上げと両肩をすくめて見せた。
「結構厄介そうなヤツ等だって事が、わかっただけだ。決め手になる証拠とかは全く残してなかった。狙いも良くわからん」
溜め息まじりにマッシュは答える。
「騎馬と言うと兵士とか軍のイメージですと思います」
「確かにそうよね」
「だよな」
フェインの言葉にハルヲとマッシュは逡巡する。
兵士が市民を襲う?
ちょっと考えにくい。
しかしどうなのだろ、ありえるのか。
思考が空回りする。
「ま、そっちは引き続き調べてみるよ。シルとタントなんかと連係して、任してもらっていいかな?」
「もちろん! こちらからお願いするよ。頼むよ、マッシュ」
「そうね。宜しく頼むわ、なんせウチは団長がこれだからねぇ」
皆の言葉にマッシュは大きく頷く。
「それとタントからの伝言も兼ねて、今後の動きにも関する事を話すよ」
マッシュの真剣な声色に皆の表情に緊張の色が現れた。
マッシュは朗々と続ける。
「アルフェンのパーティーメンバーが襲われた。治療師の若い娘だ。犯人は捕まっていないうえに、治療師の娘は離脱を余儀なくされた。それが開店休業状態の理由だ」
キルロは洞窟の時の若い治療師を思い出す、あの娘か。
「その娘は大丈夫なの?」
ハルヲの問いにマッシュは首を傾げると左目を縦になぞる。
「実際見たわけではないが、左目と両脚の膝から下をやられたらしい」
『?!』
「嘘……」
皆が絶句する。
身近とも言える所で起きたおぞましい事件にハルヲは寒気がした。これがもし自分のパーティーで起こったらと考えると震えが止まらない。
「命に別状は無いが、そういう問題じゃないよな。犯人の事をアルフェン達は反勇者と呼んでいる、今もアルフェンのパーティーメンバーが躍起になって反勇者を追っている」
「それじゃウチらも手伝うか?」
キルロの意見にマッシュは首を横に振る。
「気持ちは分かるがアルフェン直属のパーティーってウチだけなんだ。今までは他の兄弟の余裕があるとこからパーティーを借りてこなしていたんだと」
「それじゃあなおのことウチが手伝ったほうがいいんじゃないの?」
ハルヲもキルロと同じ意見だ。
マッシュはまたしても首を横に振った。
「ウチらはアルフェンパーティーの肩代わりをしないとならない。精浄なのか運び屋をするのか近いうちに要請が来るはずだ。ウチらはそれをしっかりとこなす、それが一番だ」
皆がマッシュの言葉に納得した。やれることをやるシンプルな思考の方が動きやすい。
「わかった。アルフェンのパーティーのフォローに当たろう。それと皆、警戒を怠らないように」
皆が真剣な目で頷き合う。
顎に手を当て、マッシュが思い出したかのように口を開いた。
「アルンカペレは基本使わない。ダミーとバレてるぽいからな。ユクランカペレというダミー商会に変更するそうだ。ただギルドを通さず動いた方がいいのかアチラさんも頭を悩めている。どういう形で依頼が来るのか微妙な状態だ。コチラもその辺を頭に入れておいた方がいいだろう」
「わかった」
マッシュの言葉に頷く、皆思う事があるのだろう口を開く者はおらず思考の渦に身を預けていた。
解散時にネインから装備一式を預かる。
ネインの事だ、反対した所で前線に上がっちまう。
ならば防御力のアップは必須、それと同時に軽量でなければならない。
相反する課題をクリアーしていいものを作ろう。
前衛というには心許ない装備、盾と軽量なレザーアーマー。
物自体は悪くない。
重くならないようにミスリル辺りを叩いて薄くして貼るか、皮も叩いて薄くすれば余分な分カット出来て同じ重量で防御力を上げられる。
よし!
槌を握り鉄を叩き始めた。
店先から聞き覚えのある声が聞こえた。
まだ少し違和感の残る足で、居間から声のする店先へと向かう。
「お! 帰ってきたか、入れよ。足はボチボチかな、もうちょっとの所まではきているよ」
「そうか、そらぁ何よりだ。ちょっと邪魔するぞ」
イスタバールから戻ったマッシュがいつものように柔和な笑みを湛えていた。
お茶を出して互いに人心地つける。
「そういやぁ、ネインが入ったぞ、近いうちに改めてだな」
「そうかそうか、いいヤツが入ったな。まあ、あの帰り際は入りそうだったよな」
「だな。ハルヲが言っていたけど、イスタバールはタントと一緒にあの件を洗っていたのか?」
「ハハハ、ハルは騙せなかったかぁ。残念ながら皆に発表出来るほどのネタは見つからなかったよ」
溜め息まじりにマッシュが告げる。
「この間シルが来てさ、勇者に抗する者の存在ってのを教えてくれたんだよ。あの襲撃の件を知ってソイツらの仕業と踏んだけど、オレ達の話を聞いてシルが追っている勇者の抗する者とは違うぽいって言っていた」
「それは興味深い話だ」
「マッシュとタントが追っているって話したらそっちは任すって言っていたぞ、そのうち接触あるんじゃないのか?」
「そうだな。こっちもシルの話を直接聞きたいな。なんにせよネインとの顔合わせもあるし皆で集まらないか? 進展はさほどなかったが話して起きたい事もある」
「わかった、近いうちに召集かけるよ」
「頼んだぞ、団長」
最後は笑みを湛えいつものマッシュで去って行った。
タントとマッシュでも進展なしか。
キルロの心の片隅に霞がかかる。
そんなイヤな感じが拭えなかった。
「あちぃーなもう」
ひとりボヤきながら鍛冶仕事に精を出す日々。
足が動かせないうちはこれしか出来ない。
黙々と槌を振るう当たり前の日々を過ごす、汗を滴らせ火花を飛ばす。
ネインの装備も見直さないと。
今度集合する時に持ってきて貰うか。
久々のスミテマアルバ全員集合。
知った顔同士だがマッシュとネインは加入してから初顔合わせだ。
簡単な自己紹介のあと、握手を交わす。
ネインにはシルから聞いた話をすると心底驚き、根がマジメなのだ、憤りを隠さなかった。
「それで、マッシュ、イスタバールでのお土産は?」
ハルヲがマッシュに成果を尋ねると、首を横に振りながらお手上げと両肩をすくめて見せた。
「結構厄介そうなヤツ等だって事が、わかっただけだ。決め手になる証拠とかは全く残してなかった。狙いも良くわからん」
溜め息まじりにマッシュは答える。
「騎馬と言うと兵士とか軍のイメージですと思います」
「確かにそうよね」
「だよな」
フェインの言葉にハルヲとマッシュは逡巡する。
兵士が市民を襲う?
ちょっと考えにくい。
しかしどうなのだろ、ありえるのか。
思考が空回りする。
「ま、そっちは引き続き調べてみるよ。シルとタントなんかと連係して、任してもらっていいかな?」
「もちろん! こちらからお願いするよ。頼むよ、マッシュ」
「そうね。宜しく頼むわ、なんせウチは団長がこれだからねぇ」
皆の言葉にマッシュは大きく頷く。
「それとタントからの伝言も兼ねて、今後の動きにも関する事を話すよ」
マッシュの真剣な声色に皆の表情に緊張の色が現れた。
マッシュは朗々と続ける。
「アルフェンのパーティーメンバーが襲われた。治療師の若い娘だ。犯人は捕まっていないうえに、治療師の娘は離脱を余儀なくされた。それが開店休業状態の理由だ」
キルロは洞窟の時の若い治療師を思い出す、あの娘か。
「その娘は大丈夫なの?」
ハルヲの問いにマッシュは首を傾げると左目を縦になぞる。
「実際見たわけではないが、左目と両脚の膝から下をやられたらしい」
『?!』
「嘘……」
皆が絶句する。
身近とも言える所で起きたおぞましい事件にハルヲは寒気がした。これがもし自分のパーティーで起こったらと考えると震えが止まらない。
「命に別状は無いが、そういう問題じゃないよな。犯人の事をアルフェン達は反勇者と呼んでいる、今もアルフェンのパーティーメンバーが躍起になって反勇者を追っている」
「それじゃウチらも手伝うか?」
キルロの意見にマッシュは首を横に振る。
「気持ちは分かるがアルフェン直属のパーティーってウチだけなんだ。今までは他の兄弟の余裕があるとこからパーティーを借りてこなしていたんだと」
「それじゃあなおのことウチが手伝ったほうがいいんじゃないの?」
ハルヲもキルロと同じ意見だ。
マッシュはまたしても首を横に振った。
「ウチらはアルフェンパーティーの肩代わりをしないとならない。精浄なのか運び屋をするのか近いうちに要請が来るはずだ。ウチらはそれをしっかりとこなす、それが一番だ」
皆がマッシュの言葉に納得した。やれることをやるシンプルな思考の方が動きやすい。
「わかった。アルフェンのパーティーのフォローに当たろう。それと皆、警戒を怠らないように」
皆が真剣な目で頷き合う。
顎に手を当て、マッシュが思い出したかのように口を開いた。
「アルンカペレは基本使わない。ダミーとバレてるぽいからな。ユクランカペレというダミー商会に変更するそうだ。ただギルドを通さず動いた方がいいのかアチラさんも頭を悩めている。どういう形で依頼が来るのか微妙な状態だ。コチラもその辺を頭に入れておいた方がいいだろう」
「わかった」
マッシュの言葉に頷く、皆思う事があるのだろう口を開く者はおらず思考の渦に身を預けていた。
解散時にネインから装備一式を預かる。
ネインの事だ、反対した所で前線に上がっちまう。
ならば防御力のアップは必須、それと同時に軽量でなければならない。
相反する課題をクリアーしていいものを作ろう。
前衛というには心許ない装備、盾と軽量なレザーアーマー。
物自体は悪くない。
重くならないようにミスリル辺りを叩いて薄くして貼るか、皮も叩いて薄くすれば余分な分カット出来て同じ重量で防御力を上げられる。
よし!
槌を握り鉄を叩き始めた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる