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イスタバール
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「ようやく、一息つけるな」
洞口の奥へと進む。今はこの深い闇が安息の場と化した。
疲れた体を思い思いに投げ出し、安堵の溜め息を漏らす。
「ですねですね」
「エンカウントの高さより、一個体の強度がこの間より高い気がするんだよな」
「ですねですね、前より少し面倒臭くて時間かかっちゃいましたです」
フェインが思い出して、疲れた顔を見せた。
「だな。火山石もひとつ使っちまったしな」
「あの数はキツイです」
「だな」
マッシュも嘆息を漏らす。
岩壁に囲まれた洞窟で、パーティーがやっと人心地つけた。
疲労の色を隠せないほど、パーティーは疲弊している。
まだ何も出来ていないのが現状だが、一度ここでリセットをしたい。
「ちょっとアンタ背中見せてごらん」
「いいよ、大したことないから」
“いいからー!”っと半ば強引にハルヲは、キルロをうつ伏せにした。
“あぁ……”と背中を見たハルヲが声にならない声を上げ、額に手を当てた。
「アントン」
ハルヲが呼ぶと大きな体をヒョコヒョコさせながら、ハルヲの側にやってくる。背負っているバックパックから、皮の小箱を取り出した。
《トストィ》
ハルヲは背中の傷に沿うように指を滑らせ、小さく詠う。
「麻酔まで使えるのか?!」
マッシュがハルヲの詠に目を剥いた。
フェインは羨望の眼差しで、ハルヲを見つめる。
ハルヲはそんな二人を一瞥だけして、皮の小箱から消毒液と針と糸を取り出す。
バグベアーの爪でパックリと開いたキルロの腰を、消毒して縫い始めた。
「凄いですね! でも痛そうです」
「今は麻酔効いて痛くないはずよ、痛くても縫うけど。傷を縫うってだけなら人も動物も変わらないわよ。コイツの場合は特にね」
「ハハハ」
「マッシュ! そこで笑うな」
フェインは物珍しそう見入っていた。
マッシュは灯りを手に患部を照らし、ハルヲの治療を見守っている。
「よし。とりあえずはオーケーよ」
「わるいな」
装備を直しながら感謝を告げると、ハルヲは笑みを向け返事した。
「キノは大丈夫か?」
「元気!」
「そうか、またスピラとアントン頼むぞ」
「あいあーい」
キノが元気なのは何よりだ。明るい材料のひとつになる。
疲労困憊のパーティーの口数は少なく黙々と補給と休息を取っていく。
今は弛緩した空気に身を委ね、回復に専念しよう。
「しかし、またバグベアーに追い掛けられた。そんなのばっかだよ」
「運命よ、運命、諦めなさい」
「そんな運命受け入れられるか!」
キルロとハルヲが軽口を叩き合っていると、パーティーもだいぶ復活の兆しが見えてきた。
目にも力強さが戻り、ポジティブな空気がパーティーを包む。
ぼちぼちリスタートするか。
「フェイン、マップいいか」
「はいです」
キルロの前にマップを広げ、ハルヲとマッシュもそれを覗きこんだ。
「ここから一番近い採取ポイントはどこだ?」
「そうですね、ここが一番近いです」
フェインはキルロにマップの一点を指差す。
ハルヲは腕を組み、マッシュは顎に手をやりながらマップを見つめた。
「まずはそこで採取しよう。そこからすぐ西が未開拓だ、マッピングも兼ねて西を目指すのはどうだろ?」
「悪くないんじゃないか」
「そうね」
マッシュとハルヲも賛同した。
フェインも頷き探索のリスタートの準備に掛かる。
「次に同じような状況になったら、すぐさま撤退しよう。クエスト失敗でも仕方ない。退路確保を第一優先で」
キルロが皆を見回しながら告げる。
「わかったわ」
ハルヲを筆頭に皆が頷き同意した。
あれだけの群れにもう一度囲まれたら、体力的にきつ過ぎる。
危険な綱渡りをする必要はない。リーダーとして全員を無事に帰す、それが何よりも大切な事だ。それより優先される事案はない。
「とりあえず、レストポイントが確保出来たのは何よりだな。回復に集中出来るのはデカい。ウチのマッパーは優秀だ」
マッシュが笑みを浮かべてフェインを誉めると、フェインは案の定顔を真っ赤にして“いや、あの、そんな事は”と手足をワタワタさせる。
「ちょっとウチのマッパーで遊ばないでよね~」
ハルヲは笑いながらマッシュに釘を刺すと、フェインはさらに困惑を深めていく。
元気な姿を確認してキルロは腰を上げた。
「よし、そろそろ行こうか!」
キルロが告げる。
皆も同意し脚に力を込める。
洞窟を出発しスロープ状の岩場を下り底へと向かった。
鬱蒼とした木々の間を抜けて行く。
フェインの案内でマッシュが道を切り開き、パーティーはゆっくりと歩を進め目的地を目指す。
先ほどのエンカウントで狩り尽くしたのだろうか、不気味な程静かだ。
パーティーの足音と漏れる吐息だけが耳を掠めている。
「静かね」
「だよな。いなけりゃいないで、楽でいいんだけど」
後方の警戒にあたっているハルヲとキルロが言葉を交わす。
今の状況を良しとするか、考えあぐねていた。
「この辺りのはずです」
フェインがポイント到達を告げた。
皆で足元を探索し始めた。ナイフで邪魔な草を刈り、黒金岩を探す。
「あんまり離れないように!」
草を刈りながらキルロが声を掛ける、なかなか見つからない。
心のどこかで焦っているのか。
“見ればわかる”って言っていたけど、ホントにわかるのだろうか? そんな疑念すら湧いてくる。
「あったー!」
キノが声をあげる。
皆がキノの方に振り返ると、足早に駆け寄った。
「これか……」
キルロがその石を見つめる。
黒く光り凸凹のほとんどないツルッとした50Mc程の漆黒の岩。皆が見惚れるほど、綺麗に見える不思議な岩だ。確かにこれなら、見てすぐわかる。間違いようがない。
早速、岩の底を確認するべく、ひっくり返そうと岩を手にする。
「よっと、軽っ!?」
思わず口から漏れるほど軽かった。子供でも持ち上げられそうな軽さだ。
ツルッとした底に一カ所ポコッとこぶし大に、出っ張った場所が見受けられた。
ここだな。
当たりをつけると腰に備えているピッケルで慎重に削っていく。
岩肌は柔らかくポロポロと面白いように剥がれ落ちていき、白い半透明、仄かにキラキラするものが少しずつ現れてきた。
白精石だ。間違いない。
黒金岩を丁寧に削いでいくと、コロっとまるで植物の種のように白精石が転がり落ちた。
落ちた白精石を手に取ると、キルロは皆を見回し笑みを浮かべ、皆も笑みを返し視線を交わしあった。
洞口の奥へと進む。今はこの深い闇が安息の場と化した。
疲れた体を思い思いに投げ出し、安堵の溜め息を漏らす。
「ですねですね」
「エンカウントの高さより、一個体の強度がこの間より高い気がするんだよな」
「ですねですね、前より少し面倒臭くて時間かかっちゃいましたです」
フェインが思い出して、疲れた顔を見せた。
「だな。火山石もひとつ使っちまったしな」
「あの数はキツイです」
「だな」
マッシュも嘆息を漏らす。
岩壁に囲まれた洞窟で、パーティーがやっと人心地つけた。
疲労の色を隠せないほど、パーティーは疲弊している。
まだ何も出来ていないのが現状だが、一度ここでリセットをしたい。
「ちょっとアンタ背中見せてごらん」
「いいよ、大したことないから」
“いいからー!”っと半ば強引にハルヲは、キルロをうつ伏せにした。
“あぁ……”と背中を見たハルヲが声にならない声を上げ、額に手を当てた。
「アントン」
ハルヲが呼ぶと大きな体をヒョコヒョコさせながら、ハルヲの側にやってくる。背負っているバックパックから、皮の小箱を取り出した。
《トストィ》
ハルヲは背中の傷に沿うように指を滑らせ、小さく詠う。
「麻酔まで使えるのか?!」
マッシュがハルヲの詠に目を剥いた。
フェインは羨望の眼差しで、ハルヲを見つめる。
ハルヲはそんな二人を一瞥だけして、皮の小箱から消毒液と針と糸を取り出す。
バグベアーの爪でパックリと開いたキルロの腰を、消毒して縫い始めた。
「凄いですね! でも痛そうです」
「今は麻酔効いて痛くないはずよ、痛くても縫うけど。傷を縫うってだけなら人も動物も変わらないわよ。コイツの場合は特にね」
「ハハハ」
「マッシュ! そこで笑うな」
フェインは物珍しそう見入っていた。
マッシュは灯りを手に患部を照らし、ハルヲの治療を見守っている。
「よし。とりあえずはオーケーよ」
「わるいな」
装備を直しながら感謝を告げると、ハルヲは笑みを向け返事した。
「キノは大丈夫か?」
「元気!」
「そうか、またスピラとアントン頼むぞ」
「あいあーい」
キノが元気なのは何よりだ。明るい材料のひとつになる。
疲労困憊のパーティーの口数は少なく黙々と補給と休息を取っていく。
今は弛緩した空気に身を委ね、回復に専念しよう。
「しかし、またバグベアーに追い掛けられた。そんなのばっかだよ」
「運命よ、運命、諦めなさい」
「そんな運命受け入れられるか!」
キルロとハルヲが軽口を叩き合っていると、パーティーもだいぶ復活の兆しが見えてきた。
目にも力強さが戻り、ポジティブな空気がパーティーを包む。
ぼちぼちリスタートするか。
「フェイン、マップいいか」
「はいです」
キルロの前にマップを広げ、ハルヲとマッシュもそれを覗きこんだ。
「ここから一番近い採取ポイントはどこだ?」
「そうですね、ここが一番近いです」
フェインはキルロにマップの一点を指差す。
ハルヲは腕を組み、マッシュは顎に手をやりながらマップを見つめた。
「まずはそこで採取しよう。そこからすぐ西が未開拓だ、マッピングも兼ねて西を目指すのはどうだろ?」
「悪くないんじゃないか」
「そうね」
マッシュとハルヲも賛同した。
フェインも頷き探索のリスタートの準備に掛かる。
「次に同じような状況になったら、すぐさま撤退しよう。クエスト失敗でも仕方ない。退路確保を第一優先で」
キルロが皆を見回しながら告げる。
「わかったわ」
ハルヲを筆頭に皆が頷き同意した。
あれだけの群れにもう一度囲まれたら、体力的にきつ過ぎる。
危険な綱渡りをする必要はない。リーダーとして全員を無事に帰す、それが何よりも大切な事だ。それより優先される事案はない。
「とりあえず、レストポイントが確保出来たのは何よりだな。回復に集中出来るのはデカい。ウチのマッパーは優秀だ」
マッシュが笑みを浮かべてフェインを誉めると、フェインは案の定顔を真っ赤にして“いや、あの、そんな事は”と手足をワタワタさせる。
「ちょっとウチのマッパーで遊ばないでよね~」
ハルヲは笑いながらマッシュに釘を刺すと、フェインはさらに困惑を深めていく。
元気な姿を確認してキルロは腰を上げた。
「よし、そろそろ行こうか!」
キルロが告げる。
皆も同意し脚に力を込める。
洞窟を出発しスロープ状の岩場を下り底へと向かった。
鬱蒼とした木々の間を抜けて行く。
フェインの案内でマッシュが道を切り開き、パーティーはゆっくりと歩を進め目的地を目指す。
先ほどのエンカウントで狩り尽くしたのだろうか、不気味な程静かだ。
パーティーの足音と漏れる吐息だけが耳を掠めている。
「静かね」
「だよな。いなけりゃいないで、楽でいいんだけど」
後方の警戒にあたっているハルヲとキルロが言葉を交わす。
今の状況を良しとするか、考えあぐねていた。
「この辺りのはずです」
フェインがポイント到達を告げた。
皆で足元を探索し始めた。ナイフで邪魔な草を刈り、黒金岩を探す。
「あんまり離れないように!」
草を刈りながらキルロが声を掛ける、なかなか見つからない。
心のどこかで焦っているのか。
“見ればわかる”って言っていたけど、ホントにわかるのだろうか? そんな疑念すら湧いてくる。
「あったー!」
キノが声をあげる。
皆がキノの方に振り返ると、足早に駆け寄った。
「これか……」
キルロがその石を見つめる。
黒く光り凸凹のほとんどないツルッとした50Mc程の漆黒の岩。皆が見惚れるほど、綺麗に見える不思議な岩だ。確かにこれなら、見てすぐわかる。間違いようがない。
早速、岩の底を確認するべく、ひっくり返そうと岩を手にする。
「よっと、軽っ!?」
思わず口から漏れるほど軽かった。子供でも持ち上げられそうな軽さだ。
ツルッとした底に一カ所ポコッとこぶし大に、出っ張った場所が見受けられた。
ここだな。
当たりをつけると腰に備えているピッケルで慎重に削っていく。
岩肌は柔らかくポロポロと面白いように剥がれ落ちていき、白い半透明、仄かにキラキラするものが少しずつ現れてきた。
白精石だ。間違いない。
黒金岩を丁寧に削いでいくと、コロっとまるで植物の種のように白精石が転がり落ちた。
落ちた白精石を手に取ると、キルロは皆を見回し笑みを浮かべ、皆も笑みを返し視線を交わしあった。
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