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イスタバール

鍛冶師の鍛冶業とときどき面接

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 話すだけ話してタント“じゃあね~”と軽やかに手を振り去って行く。
 とりあえずは装備の見直しがてら、白精石アルバナオスラピスの取り付けを急ごう。

「これさあ、防具にって言っていたけど、用は身につけておけばいいんだよな。実際キノは鼻ピアスでしっかり効果あったわけだし。ピアスとかチョーカーとかでも問題ないよな? あとクエイサー達、大型兎ミドラスロップとかもどうするか考えなきゃな」
「オレはチョーカーでいいぞ」
「私もチョーカーですいませんです」
「わかった、ハルヲはどうする?」
  
 マッシュとフェインは即答にハルヲはちょっと悩んでいる感じだった。

「ウチの仔達の分も含めていったん保留でもいい?」
「そらぁ、構わないが……わかった。決まったら教えてくれ」

 何か迷っているようだし、ハルヲに任せよう。
 全員の装備をレベルアップしたいのでそちらを優先的に進める事にする。
 フェインの装備が一番心許ない、先ずはフェインだな。

「そういや、フェイン。蹴りは使わないのか?」
「使いたいのですがメタルブーツが無くて使うと指先が折れちゃうので使えないんです、すいませんです」
「そんなもん作るぞ。ベースにする靴と装備一式預けろ、悪いようにしない」

 キルロはニヤリと笑う。
 フェインは“ぉおおー”と感嘆にうち震える。

「マッシュとハルヲ、それにクエイサー達にも簡単な装備欲しいよな。順番にやっていくから、また声を掛けるよ」

 二人とも“宜しく”と言って今日はお開きとなった。
 明日ひさびさに採掘しに行くか。




 陽が上り始めた。街が動き出す前にキノと二人、森の採掘ポイントを目指す。
 久々に地元の森を歩く、これといったプレッシャーもなく歩くのは久々だ。
 重なる葉の隙間からこぼれる陽の光を感じ、湿った土のにおいに包まれながら進む。
 途中ダイアウルフの群れに遭遇したが簡単に退けた。亜種エリートと比べたら容易いものだ。【吹き溜まり】のモンスターに比べるとなんともぬるい、知らず知らずの内に経験値が上がっているって事か。
 キノは今日も拾った小枝を振りながら、鼻歌まじりでご機嫌だ。こんな日があってもいいよな。
 いや、こんな日だけでいいのか。
 ただ、こんな日が続かないかもしれない危機が迫っているという事実。そしてそれを知ってしまった。
 あれこれ考え過ぎず出来る事をするしかない。余計な心配をしても始まらない。
 大きな伸びをひとつするとゴーグルを装着し採掘を始めた。

「キノー! 遠くいくなよ」
「あいあーい」

 木々の周りを走り回り、元気な声が返ってきた。




 フェインの装備の一新に取り掛かる。
 年季の入ったメタルグローブは一回溶かしてしまう。
 下地のグローブだけ残して作り直しだ。
 グローブをはめたままマッピングもしやすいのが理想だよな。
 握れる部分を内側に作ってカバーみたく可動式にしたらどうだろ?
 握るとグローブになって放すと指が自由に動かせる。
 指との間に隙間が出来るからダメだな。
 ベースグローブの指一本一本にメタルを取り付ける方が威力と使い勝手の両立出来るか⋯⋯ちと面倒だがそれでいこう。
 いい素材も手に入った。
 アダマスルベンというレア鉱石とペンナメタルという軽くて硬い鉄、今回の素材としてはうってつけだ。
 鉱石は拳頭の部分に取り付け威力を上げる。
 メタルブーツもと思ったが全部鉄にすると重過ぎだな、探索もするわけだし当てる部分だけ鉄にしよう。良し! 決まった。
 まずは叩き台。それを元に煮詰めていこう。

 ゴーグルをはめて、槌を握りしめた。


「フェイン、装備の叩き台出来たぞ、つけてみてくれ」
「おおぉ、わざわざすいませんです」
「何か気になる所を教えてくれ」

 叩き台となる装備が完成したので、早速フェインに足を運んで貰った。
 サイズの確認やら動きの確認をしていく。

「これで十分です! ありがとうございました」
 
 フェインがペコペコと頭を下げながら感謝を述べる。

「いやいや、ちょっと待てて! お前のその謙虚な姿勢は長所でもあるんだが、今回はちゃんと注文をつけてくれないと。フェインの一発で誰かが救われる事だって多いにあり得るんだ。これから相棒になる装備、しっかり作っていこうぜ」
「はぁ……うー、難しいですね」
「それじゃまずはサイズをつめよう。そしたら殴る位置を確認して鉱石の微調整どうだ? こんな感じならいけるだろ?」

 答えに詰まったフェインに助け舟を出す。
 “フムフム”と頷くと、フェインから少しずつ注文が出始め、細かい所までだいぶ煮詰める事が出来た。

「よし! グローブはそんな感じでやっておく。ブーツはこんな感じにしたんだが……」

 フェインにブーツを渡すと早速試着する。
 
「これはいいです! 重くないです」

 回し蹴りのポーズをキルロに向けて決める。

「あ、踵も使いたいので踵にも鉄を付けいただけますか?」
「そらぁ⋯⋯構わないが……」

 キルロは顔を赤くし視線を外す。

「フェイン、そのなんだ……パンツ⋯⋯見えている……」

 キルロの指差す先にはスカートで回し蹴りのポーズを決めるフェイン。
 そらあ、丸見え状態になりますって。

「ふわわわわ、すいませんです!」

 今度はフェインが顔を赤くし急いで足を下した。
 とても気まずい。

「フェインのおパンツ~♪ フェインのおパンツ~♪」

 キノが適当なメロディーでご機嫌を歌を奏でる。
 気まずさが倍増するから止めてくれ。

「キノ、ストップ! それとそれハルヲの前で絶対歌うなよ! 殺されるから!」

 キノはニマっと怪しい笑みを浮かべるだけだった。

「え?! それは危険! キノだめですよ!」

 フェインもキノにお願いの念押しをする。キノはここぞとばかり、ニマニマとさらに笑みを深めた。
 た、頼むぞキノ。


 フェインに続き、ハルヲも装備を持って店に訪れた。
 フェインの装備に目処が立ち、マッシュの装備は元が良かったので、レザーアーマーにハイミスリルの補強で終了。簡単な作業だ。
 武器に関しては磨いて研いで終わりである。さすがマッシュ、いいもの使ってらっしゃる。

「サーベルタイガー用の鞍補強出来るかしら?」
「勿論、重くならない方がいいよな。ミスリルで補強するか。白精石アルバナオスラピスはどうする?」
「サーベルタイガーは首輪で、大型兎《ミドラスロップ》はピアスにするわ」
「了解、了解」

 キルロは親指を立てて見せる。
 ハルヲの装備はいつも整備しているので慣れたもんだが、ちょっと気になる事もあった。

「なぁ、これ(アーマー)って微妙にサイズあってなくないか? ちょっと採寸させてくれ」

 キルロが軽装備アーマーを指差しながら言うと、ハルヲも何の気もなしに頷いた。
 キルロがメジャーを持ち出しハルヲの採寸を始める。
 身長から始まって、手足の長さと続き腰周りそして胸周りと息がかかりそうな程の至近距離で採寸される。
 ハルヲは真っ赤になるが、キルロの真剣な眼差しが目に入ると、浮つきそうな気持ちが落ち着いていった。

「私もピアスにしようかと思って」

 採寸されながらキルロに言うと少し驚いた表情を見せた。

「そらあ、構わないが。必要な量と大きさを考えると4つくらいになるし……エルフの耳にピアス開けていいのか?」

 エルフは身体に穴を開ける装飾はしないし、見た事がなかった。
 
「まぁ私、エルフじゃないし。この間シルがソシエタスに誘ってくれたでしょう、半分冗談かもしれないけどアレでなんか吹っ切れたのよね。私は私だ。その証じゃないけど耳にピアス開けようかと思って」

 ちょっと照れくさそうにハルヲは答えた。
 何かがハルヲの中で変わったのか、ハルヲの言葉を聞いてそれがポジティブな変化であると感じたキルロは“そうか”とだけ答える。

 採寸も終わり装備の方向性も決まったので、ちょっとまったりしながらお茶で一服する。
 最近はバタついていたのでハルヲと何げない会話するのも久しぶりでハルヲンテイムの事やエレナの事、今後のソシエタスの事などなどざっくばらんに話をしていった。

「キルロ団長!」

 店先から聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。
 団長?
 久々の面接かな?
 ハルヲと視線を交わすと“どうぞ”と手で合図して見せた。

「オレがキルロだが、何用だい?」

 肩まで伸びる、美しい輝きを見せるブラウンの髪に切れ長の目。瞳は深い青を湛え、彫りの深い顔立ちに長い耳、美しい美丈夫然とした、いかにもエルフの男性が立っていた。

「もし宜しければ面談をしていただけないですか?」
「お! 入団希望者。勿論、構わないさ。こちらへどうぞ」

 ハルヲのいる居間へとエルフを案内する。
 ハルヲの視界がエルフを捉えると少し警戒の色を見せたが、やはりシルとの出会いで何かが変わった、露骨にイヤがる態度は見せなかった。
 反対にハルヲを視界に捉えたエルフは驚愕の表情を浮かべる。

「ドワーフとエルフのハーフ……」

 エルフの一言にハルヲの警戒感が二段階程上がった気がした。
 何をそんなに驚いているのだろ?
 珍しいから?
 それにしても驚くって反応はちょっと違うよな?
 大丈夫かな、面談?
 不安がキルロの心に立ち込めていく。
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