鍛冶師と調教師ときどき勇者と

坂門

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ソシエタス

鍛冶師と調教師と勇者と

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「単刀直入に言うね。君達に我々の直属のパーティーを組んで貰いたいのだ」

 良く通る穏やかな口調で告げた。
 真っ直ぐ二人を見据え、放たれた言葉に意志の強さを感じる。

「ハハハ、何言っているんだ。ただの鍛冶師と調教師だぞ。無理、無理、無理」

 キルロはアルフェンの言葉を笑い飛ばす。
 ハルヲは隣で視線を前に向けたまま、剣呑な雰囲気を漂わせているだけだった。

「ハルヲンスイーバ・カラログース。4~5年前この界隈じゃちょっとした有名人よね。“白い閃光”なんて渾名もあったわね。あそこにいたサーベルタイガー由来かしら。キルロ・ヴィトーロイン。西方のヴィトリアに著名な治療師、なんて言ったかしら?………そうそうヴィトーロイン家ってあったわね。あらぁ、あなた同じ家名ね、関わり合ったりしてね~」

 タントがしなやかな手をヒラヒラ振りながら半笑いで言い放つ。
 キルロの表情も一変し、険しい顔つきで勇者一同を睨んだ。
 それを見たハルヲは“クエイサー達と遊んでらっしゃい”とキノを退室させる。

「なんだ? 嗅ぎ回っていたのか?」
「内緒にしていた事は謝罪するよ。ただ聞いた所で君は答えたかい? 洞窟での雨宿りの日、君は家名を名乗らなかったよね。直属とはいえパーティーに誘うのだ、近辺については調べさせて貰うさ。その上での今回は勧誘だよ。勿論、強制はしないがね」

 キルロの問いをあっさり認める。
 こちらを見つめる視線は全く淀みがない。
 反論の余地なしか。
 アルフェンの言葉に嘘はないのだろうが、コソコソと嗅ぎ回られたのはやはり面白くはない。

「あそこで私たちを見つけたのは? クエストを見て様子を伺っていたって事?」

 ハルヲがタントに鋭い視線を投げ、タントに問いた。

「あぁ~あれね。たまたまよ。偶然。クエストがどうの言ってきた時は、何言ってんだかさっぱり。白蛇が目に入ったんでね、あれれ? もしかして……ってね。アンタ達運良かったわねぇ」

 タントは相変わらず飄々としている。
 捉えどころのないヤツね。
 ただ、洞窟で会った時の殺気立った感じが今日はしない。
 ハルヲの頭の中で敵なのか味方なのか判別つかない状況がもどかしさを覚えた。


 “再会”ってあの時出会っていた? 気を失っていた時か?

 キルロもまた逡巡していた。
 どこまで信用出来るのか、信用してもいいものなのか判断出来ないでいた。
 直属のパーティーってどういう事だ?
 彼らのイヌになれって事か?
 そいつはごめんだ。
 キルロとハルヲは黙って思考を巡らせている。
 どうすればいいのか、何が正解なのか。
 彼らの目の前であからさまに相談出来る雰囲気ではない。
 視線だけをハルヲに送ると、ハルヲもまた視線をキルロに向けていた。

白精石アルバナオスラピス

 唐突にアルフェンが聞き慣れない単語を口にした。
 キルロとハルヲをじっと見つめ相変わらず落ち着き払っている。

「なんだそりゃ?」

 耳慣れない単語にキルロは聞き返す。
 専門家ではないが、素材になる石なら耳にしたことはあるはずだ。しかし、白精石アルバナオスラピスなんて石は聞いた事がない。

「キノについている石の名前知っているかい?」

 アルフェンが自分の鼻の頭を指しながら言う。

「………あれが白精石アルバナオスラピスって事か?」
「フフ、話が早いね。カラログースさんも知っている……でしょう」
「どういう事だ??」

 何かに感づき“チッ!”とハルヲは舌打ちしてタントを睨んだ。
 タントの方は我関せずといった感じで肩をすくめる。
 何?? どうなっている?? 

「アンタがあの時寝転んでいたあの場所。そこにあった岩壁の石がそれって事でしょう。石を見なかった事にする代わりに、アイツに外まで案内して貰ったのよ」

 ハルヲはタントを親指で指した。
 石を口外してはいけない? なんでだ?

「ちゃんとお口にチャック出来ていたわね~」
「ァアアン!」

 タントの人を食った口ぶりに、ハルヲがイラつきを隠さない。

「おい、タントいい加減にしろ。アルフェンの話が進まんだろう」

 黙って成り行きを見ていたクラカンが口を開いた。“すまんな”とハルヲに謝罪する。
 口外しちゃマズいものなのか、キノにつけちゃダメだったのか?

「あれ? 口外しちゃマズいものなのになんで言ったんだ? 黙ってればいいじゃん?」
「はっは~! そうだね。失敬、失敬。白精石アルバナオスラピスの事を知っているのは勇者のパーティーと直属の一部のパーティーだけだった。言っちゃマズかったね」
「アンタ、わざとだろ!」

 キルロが突っ込む。
 アルフェンは口角を上げて笑みを浮かべる。

「アレがどういうものか、わかるかい? アレは世界の命運を担うモノと言っても良いくらい重要なものなのだよ。あの存在が、もし世界に知れ渡れば世界の均衡が崩れるかもしれない。それくらい重要なものなんだ」

 キルロもハルヲもイマイチ頭がついていかない。
 ただの綺麗な石なんじゃないのか?
 命運を担う?
 あんな石が?
 世界の均衡が崩れる? どういう事だ?

「精浄しているって話はしたよね。どうやって行っているか話しはしたかい? 簡単に言うと黒素アデルガイストを中和する魔具マジックアイテムをこの土地に撒いて、中和することで人が住めるようにしているんだよ。その魔具マジックアイテムは勇者の家系しか作れないと言われている」
「?? だから?」
「言われている。だけで作ろうと思えば作れるのさ」
「え?! だったら皆で作って一斉にバラ撒けば済む事だろ?」 
 
 アルフェンとキルロのやり取りを聞いていたハルヲが何かに気がついた。

「材料……って事ね」
「さすがだね。話が早い」
「でも、だったらさっきアイツが言ったように開示して大量生産すれば……」

 アルフェンは首を横に何度も振る。

黒素アデルガイストの濃い所にある。それ以外の条件が未だに分からないんだ。何かが変化しているのか? 何年かかるのか? どこに行けばあるのか……」
「北方か【吹き溜まり】って事?」
「そうだね。今の所あの石を見つけているのは。でも、【吹き溜まり】なら絶対あるって訳でもないし、【吹き溜まり】の探索に人員をはけるほどの余裕も正直ない。恥ずかしい話現状を維持するだけで手一杯なんだ」

 アルフェンは肩をすくめ、嘆息して見せた。
 ハルヲは目を閉じて頭の中を整理する。

「でも、それと国家のバランスってどう係わるんだ?」
 
 キルロはやはり効率が悪いと訴えた。

「あの石を自分達の国だけに使おうって人間が現れたらどうなると思う? あの石を持つ事に寄って独裁体制が可能になってしまうと思わんか?」

 クラカンはキルロに静かに語りかける。

「独裁者が現れればそれに対抗する勢力が現れる。独裁者が二人、三人と現れれば独裁者同士で資源を奪い合う争いが起きる。ましてやどれくらい残存しているのか分からない資源を取り合うことになって、この世界が良い方向を向いて進めると思うか? 争っている場合じゃない世界でそんな事してたら………結果はわかるだろう?」

 話のスケールがデカ過ぎる。
 そんな話を聞かされてどうしろと言うんだ。

「君はこう思ったかい? 僕達に下僕のように扱われるのかと」
「いや…まぁ…正直、かな」
「僕達にそんなに余裕はないんだ。単純に一緒に動いてくれる、助けてくれる仲間を探しているだけなんだよ」
 
 真っ直ぐなアルフェンの目に、その言葉に嘘は無い。だが、なんかスッキリとしない思いがあるのも事実。

「後はそうだな、門外不出の情報を君達は知り過ぎた。後戻りは許されないな」
「うおい!? アンタが勝手にベラベラしゃべっただけだろう! こっちは別に聞きたくもない情報を聞かされただけだぞ」
 
 アルフェンはニヤリといたずらっ子のような無邪気な笑顔を浮かべて言う。

「口が滑ってしまったよ」
「それだけ?! 本気か?!」

 キルロは頭を抱える。
 ダメだ、イマイチ頭がついていかね。
 ハルヲはそのやり取りを見ながら考えていた。
 何が正解?
 言葉に嘘は無いというより正直過ぎる。こちらに声を掛けて彼らになんのメリットがあるのだろう?

「勇者なんて言われているけど、その気なれば誰でも出来る仕事をしているだけなんだよ。魔具マジックアイテムを作ってばら撒く。それだけ。ただ他の人と違うのは魔具マジックアイテムを決して自分達の為だけに使わない、人と違うとしたらそこだけかもね」

 アルフェンが珍しく真剣な顔で語った。
 本音を聞いたような気がした。
 キルロはアルフェンを真っ直ぐ見つめた。

「わかった。やる」

 キルロは間髪入れずすぐ答えた。

 “え? おまえもうちょっと考えて……”と言いかけているハルヲを制止して続けた。

「なんだかんだ言ってもアンタ達は皆の為に働いているんだろう。それを手伝ってくれってだけの話なんだ。これと言って断る理由はない。オレで手作えるなら手伝うよ」

 まるで自分に言い聞かせるようにキルロは答えた。
 事は簡単だ、複雑に考えるのは止めよう。

「ただしだ、ハルヲは関係ない。オレだけがやる。それが条件だ」
 
 アルフェンが少し考えて“じゃあ…”と何か言い掛けるとハルヲが口を開いた。

「この馬鹿! 何一人でカッコつけてんのよ。アンタより私の方が即戦力なんだからアンタこそ引き下がんなさいよ」
「まとまり掛けた話をほじくり返すなよ。白い閃光!」
 
 この野郎!
 ハルヲは顔を真っ赤にするとキルロを睨みつける。

「何をこのー! ヴィトーロイン家のお坊ちゃまが!」

 ぬう!
 キルロとハルヲは睨み合う。
 勇者一同が嘆息しながらそれを眺めていた。

「で、結局どうするのさ?」

 タントが飽きれモードで言い放つ。

『やる!』

 と二人ハモった。
 アルフェンは大笑いし、クラカンは苦笑い、タントは盛大な溜め息をつく。

「君達はホントに面白いね。快諾してくれてありがとう宜しく頼むね」
「宜しく頼むよ」
「えぇ、宜しく」

 二人は改めて承諾の返事をした。
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