鍛冶師と調教師ときどき勇者と

坂門

文字の大きさ
上 下
18 / 263
ソシエタス

鍛冶師と勇者と調教師ときどき猫

しおりを挟む
~ラ・サーガ~

~北に不穏の種が生まれ芽吹く時、人々は嘆き続け暗闇に屈する。
南に勇気ある者生まれ風吹かす時、人々は光の種の芽吹きを感じる。
風が火を呼び、水を運び地に安寧をもたらすと不穏の種は枯れはじめ
光の種と共に北の地に封ずる。人々は安寧の地を得、繁栄を為す~




「これが親とか学校とかで何遍も聞かされるおとぎ話だ」

 キノとエレナを前にキルロがこの地に流布している伝承を話して見せた。

「よくわからないね」
「ねー」

 エレナの言葉にキノがキョトンと同意する。

「確かに。あ! でもちょっと前に勇者さん達にあったよな」
「あったー。目が緑の人」
「緑なんて珍しいね! あ、でもキノの金色も珍しいよ」

 怪我も癒えて自宅に戻りしばらく経ったある日。
 エレナの勉強会を開いている。
 キノは知り合いの子を預かっているという事で体裁を整えた。
 ホントは年の離れた兄妹にしようと思ったが、どこ行っても“アンタの子かい”と言われるので仕方なく諦める。
 そんなに老けてはいない。
 まだ19なのに。
 人型のキノにはなんだか慣れたというか、正直違和感がなく以前と感覚的に対差がない。
 不思議だが自分だけではなく、キノを知る人間は皆が同じ感覚でいるみたいだ。
 むしろ話せるようになったので前よりコミュニケーションが取りやすくなった。
 良かったのだか悪かったのだか、とりあえず一時の混乱は治まり今は平和な日常を取り戻している。


 キノがこだわったあのピアスは、“あの洞窟”で手に入れた、というかポケットに入っていた石で作り直した。
 肌の白さと石の半透明な白さの相性が良く、なかなかいい出来だと自負している。
 まあ、キノも気に入ってくれたし、結果的に良かったって事で。 

「今日もフルーツ買ってきたよ、食べる?」
「食べるー」
 
 二人で楽しそうにしているので放っておこう。自分は工房に戻って行く。
 相変わらず仲が良いな。
 こちらも思わず微笑んでしまう。
 サボっていたわけではないが、ご無沙汰なので感覚を取り戻すべくゴーグルを装着して炉に火を入れた。

 
「成人したらハルさんの所で、住み込みで働かないかって言って貰えたんです」 

 帰り際に満面の笑みでエレナが言ってきた。
 おお、ハルヲのやつめ。

「良かったな! アイツは打算では動かないからな、ダメなものはダメって言うヤツだ。来いって言うって事はエレナを必要としているって事だ」

 照れた笑みを浮かべ去って行くエレナの姿を見送った。
 成人にならないと親の許可いるんだよな。
 もどかしさを感じる。出来れば今すぐにでも家から出してやりたいんだが。
 キルロは頭を掻いた。
 なんとかしてやりたいものだ。


 しばらく店を閉じてしまっていたのでギルドに向かい、受けられる受注をいくつか取った。
 選り好みはしてられない、効率が悪かろうがショボいクエでも受ける。
 帰り際に壁際を見上げると、ソシエタス向きの受注が目に入った。
 すげぇな、桁が違うな、相変わらず。
 自分が受けたものとは規模が違い過ぎる。
 見ちゃダメだったな。
 自分が小さくなった気分になる。
 討伐にしても採取にしてもソシエタス向きは規模がデカい。
 難度も報酬も個人とは桁が違い過ぎる。
 当たり前といえばそれまでだけど、それはそれで大変なのかな?
 まあ、自由気ままに出来る今の方が性に合っている。
 さて、帰って早速取り掛かろう。
 
 しばらく工房に籠もる日が続く。
 なんと言っても3万ミルド、早く払わねば。


「あちぃー」

 何日も仕事に集中したおかげで受注分の目処がついた。
 これで少しペースを落とせる。
 大きく体を伸ばしてごくごくと一気に水を飲み干し、人心地つけた。
 
「キノ、そっちが終わったら休憩しよう」
「あいあーい」

 キノには家の手伝いをお願いしていた。
 白蛇時代、掃除や洗濯を見ていてやってみたかったらしく、どうやら遊び感覚でやっているので楽しそうだ。
 こちらは凄く助かる。

「ごめんくださいー、こんにちは!」

 聞き馴染みのない声が店先からした。
 
 客!!

 店先へダッシュする。

「はーい、なんのご入り……用? ってアンタ!?」
「やぁ、久しぶりだね、キノも元気かい」
「あの時の勇者さん……」

 微笑みを湛えながら右手を軽く上げた。

「お客さん? いらっしゃいませー」
「あ、キノ……、あ、いや、その知人の子供を預かっていまして、たまたま名前がキノでして……ハハハ」

 取り繕うのがホントに下手だと自分でも分かる。
 余計な事聞かれませんように。
 アルフェンは一瞬片目を瞑りキノを見つめると満面の笑みを浮かべる。

「……キノか。そうか。大切にしてあげなきゃね」

 アルフェンは、いたずらっぽく言い放った。
 なんだか見透かされている気もするが、下手な事は言わないようにしないと。

「まあね。そらぁもちろん……」

 下手な事聞かれないかと内心ドキドキする。
 話題を変えないと。

「いやまぁ、そんな事より今日はどうした? お連れさんもいるけど、この間より少ないな。武器か防具のメンテナンスか? まさかホントに来てくれると思わなかったよ」

 目先を変えるために急いで話題を変える。
 今日はこの間と違い前衛ヴァンガードらしき男と、猫人キャットピープルの女だけが後ろに控えていた。

「そうかい? こちらの仕事もとりあえずひと区切りついたんでね、約束通り伺わせて貰ったよ。なかなかいい工房じゃないか」

 アルフェンは店内を見回し、乱暴に置かれている武器や防具を手に取りながら答える。

「最近はどう? 店の調子はいいのかい?」
「ちょっと仕事出来てない時期あったんで、今必死に取り戻してる最中だ」

 逆に質問されたキルロが肩をすくめながら答えた。
 なんだかのらりくらりと芯を外されている感じがする。
 結局今日はなんで来たんだ?

「仕事出来ない時期? 大丈夫かい?」
「ま、ちょっと怪我しちまって。治るまで仕事は控えていたんだ」
「そうなんだ。病院へは行ったのかい?」
「いや、知り合いの所で世話になった。治療もそこでね」
「いい治療師ヒーラーの知り合いでもいるのかな?」
「いや~調教師テイマーなんだけどね」
「ほう……」

 一瞬アルフェンの顔つきが変わった気がしたが、気のせいだったようだ。微笑みを浮かべたままキルロに向き直した。

治療師ヒーラーじゃなく調教師テイマーに治して貰うなんて、相変わらず君は面白いね」
「面白いか?」
「その調教師テイマーにも会えないかな?」
「どうかな? 会えるかな? でもなんで?」
「動物ばかりでなく人まで治すなんて面白そうな方じゃないか」

 前衛ヴァンガードの男に視線を送ると、首を左右に軽く振り諦めろと無言で伝える。
 なんだかちょっと面倒くさいな。

「え?! ホントに行くの? 会えないかもしれないのに?」
「構わないさ。さぁ、早速行こう」

 アルフェンはそそくさと踵を返し、店を後にして行く。
 前衛ヴァンガードの男がキルロの肩に手を置くと、“すまんな”と哀れんでくれた。

「はぁー」

 盛大な溜め息を吐き、“行くか”とハルヲンテイムに向かう事にした。
 しかし面倒くさいな。

「キノも行くー」

 ピョンピョンとキルロの背中を足場に跳ねると肩にチョンと座りキルロに肩車して貰った。
 キノの身体能力の高さにいつも驚かされる。

 


「ハルヲー」

 いつもより淡白に裏口から声掛ける。
 今日はいない方がいい。

「何?」

 扉を開けると目の前にいた。

「あ、いらっしゃった」
「そらあ、いるわよ。自分の店だもの」

 いつもの面倒臭さ100%の答えが返ってきた。

「なんかハルヲに会いたいって人がいてさ……」

 アルフェンから見えないように手で小さく“ゴメン”と伝える。
ハルヲがキルロの後ろにいたアルフェン達を見ると雰囲気が一変、ハルヲは剣呑な表情を浮かべる。
 その一変した空気が、キルロにまで伝わってきた。

「え? え?! どうした?」

 急な変化にキルロは戸惑いを見せる。

「あらハーフ、久しぶりね。こんなに早く再会するとわね」

 マスクを外し、薄笑いを浮かべながらハルヲに言葉を向ける。
 ハルヲの表情がいっそう堅くなった。
 “再会”って? どういうこと?

「こんにちは」

 アルフェンが丁寧に挨拶をする。
 表情ひとつ変えずハルヲは視線をそらした。

「あ、こちらはアルフェン・ミシュクロイン。勇者の家系の三男だ。こっちはハルヲンスイーバ・カラログース。オレが世話になっている調教師テイマーだ」

 キルロはお互いを紹介した。
 にこやかなアルフェンと違いハルヲの表情は堅いままだ。

「カラログースさん、初めまして」

 改めて丁寧に挨拶をし直す。

「初めまして」

 ハルヲは視線をそらしたまま返した。

「僕のパーティーメンバーも紹介しておこう。こちらがクラカン・ロンドバルフ、見ての通り前衛ヴァンガードをしてもらっている。こちらはタント・ユイ、スカウトで斥候などいろいろ多岐に渡りお願いしている」

 クラカンはゆっくりとお辞儀をし、タントは“ハ~イ”と軽く手を振った。

「で、その勇者様方はなんの御用でいらしたのかしら」

 ハルヲが一同を見回しながら冷たく言い放つ。
 
「フフフ、そうだね。こんな所で立ち話しも何なんでどこか落ち着ける所に移動しないかい?」
「……いいわよ、こちらへどうぞ」

 一同を客間へと移動させた。
 全員が席に着くとアルフェンが口火を切った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...