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希望と絶望
光
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「ここで何をしている?」
獣人の手にする刃先に、力が入ったのが首元から伝わってきた。
「【吹き溜まり】に落ちたコイツの救出よ」
「なぜ落ちた?」
「知らないわよ。こっちが聞きたいくらい、事故なのかハメられたのか………多分ハメられたと思うけど⋯⋯」
首元にあてられた刃から冷たい感触が伝わってきた。
努めて冷静にハルヲは答える。
声がうわずらないようにしっかりした口調を心掛けた。
コイツは一体誰?
「あなたこそ、ここで何をしているの?」
ハルヲが聞き返すと獣人の握る、波打つように湾曲したククリ刀にグっと力が入るのが伝わる。
答える気などないと沈黙が雄弁に語った。
「なぜ、この男をハメる必要がある?」
「そこの白蛇狙いよ。主を消して、どこかで高く売るつもりだったのでしょうね」
獣人は視線を左右に動かし、逡巡しているのが見える。
深い溜め息を漏らすとククリ刀を下ろした。
「アンタ達を外に連れて行く」
「?!」
思わぬ展開にハルヲが戸惑いを見せると、女はククリ刀を真っ直ぐハルヲ達に向けた。
猫人⋯⋯。
「ただし、ここで見たもの全て忘れる事。アンタ達は【吹き溜まり】でこの男を無事救出した。それだけだ」
女は面倒くさそうな口調で言い放つ。
ハルヲは黙ってそれに頷いた。
ククリ刀を下ろすとハルヲと女は、キルロをグラバーの背に乗せる。女は布切れでハルヲの目をきつく縛り付け視界を閉じた。
「イヤと言うなら、ここで永遠のサヨナラよ」
「わかったわ」
この女を信じる材料はないのだが、他に選択肢はない。細い紐を握らされると、無言のまま引っ張られた。
疑心を胸の奥へと押し込み、痛む足を引きずり必死に歩を進める。
腿の裏側は常に鈍い痛みと熱っぽさを放ち、足の運びを遮ろうとしてきた。
これを乗り切ればきっと。
淡い期待を胸に、足を動かす事だけに集中した。
どのくらい歩いた?
視界を奪われ、自信の荒い呼吸ばかりが気になる。
体力的にも限界は越えているが、歩みは止めるわけにはいかない。
「止まれ」
女の声とズッズっと重いものを引きずる音がした。
また歩きだす。
うん? 明るくなった?
目隠し越しに陽光のあたる感覚がある。
外に出たのか?
すぐにまた“止まれ”と言われ、ズッズっと背中越しに重いものが引きずられる音がする。
湿り気を帯びた草葉の香りがしてきた。
目隠しは外されず、右へ左へとひっきりなしに引っ張られる。
足元に草葉を踏みしめる感覚。
自分がどの方向を向いているのか全くわからない、なすがままに進む。
「止まれ。ここを東に行け。街だ。」
女はそれだけ言うと目隠しを外した。
急な光りが目に飛びこんで来て目を閉じる。
少しずつ目を開け光に目を慣らして行くと、既に女の姿はなかった。
結局あの女はなんだったのだ?
東にゆっくりとパーティーは歩を進める。
もう少しだ、グラバーの上でぐったりと動かぬキルロを見つめ痛む足に耐えながらもゆっくりと確実に進んで行く。
街が見えてくる頃には夕闇が訪れ、パーティーの長い影を落とした。
明るく柔らかい光を感じ目が覚めた。
洞窟じゃなかたっけ??
柔らかな布団の上でゆっくりと意識を起立させる。
体中が痛む。
生きている。
体をゆっくりと起こすとしっかりと手当てしてあった。
左腕は肩からしっかり固定されていて動かせない。
病室?
キノは!
ベッドから立ちあがろうとすると激しいめまいに襲われ、フラフラとうまく立ちあがれない。
めまいが治まるまでジッと堪え、部屋の外へ出た。
「お! キルロさん、起きましたね。もう起きて大丈夫ですか?」
両手にいっぱいに荷物を持った笑顔のアウロがそこにいた。
「お! なんだか久しぶり」
笑顔で返す。アウロも笑顔で奥へ消えて行こうとしていた。
アウロ??
なんで、なんで??
病院じゃないの???
「ちょっと待ったーー! アウローー!」
廊下の奥へと消えて行くアウロを呼び止めた。
「ちょっと忙しいのですが」
「スマン、いろいろと状況が飲み込めてないんだが⋯⋯病院じゃないのここ?」
「あ、えーと病院じゃないけど病院です」
「それって病院ってこと?? え? 病院じゃない?? え? どういう事?」
「だから、ここって元病院じゃないですか。今さらですか?」
「何その今さら………って??」
「だから、もう、ハルヲンテイムは元病院じゃないですか」
「え?! そうなの?」
“もう”とアウロは呆れ顔で首を振る。
仕方なくない、いつも裏口からちょろっと覗くだけなんだから。
同意を求めようと思ったが止めといた。
聞かなくてはならない事がいっぱいある。
「キノは?! キノは大丈夫か!?」
「大丈夫ですよ。ちょっと弱ったとこもありましたけど、今はピンピンして裏で遊んでますよ」
良かった。
一番の懸念材料が問題なかった。
二番目を聞いてみよう。
「あ、あの~、それでワタクシはなんでここにいるのでしょう??」
「ああ、それはですね………」
アウロが事の経緯を語ってくれた。
キノが攫われたこと、ハルヲが助けてくれた事。
入院代が掛かるという事で病院ではなく薬などが揃っている店の空室で面倒見てくれた事、かれこれ救出されてから三日も経っている事。
アウロに感謝を述べハルヲの執務室へ向かった。
「ハルヲ様、この度は大変ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありませでした。そして色々と誠にありがとうございました」
執務室へ向かい、右手を胸に当て丁寧に謝罪と感謝を告げた。
「はっは~ん、良く分かったようだな。ワタシを崇めなさい」
椅子にふんぞり返り、ふくよかな胸を張った。
悔しいが今回は何も言えない。
「な、なにも言えね」
「そうよね、【吹き溜まり】に落ちて相当ヤバいとこまで行ったもんね~。救ったのは誰かしら?」
「ハルヲンスイーバ・カラログース様です」
「わかっているじゃない。さあさあ、崇め奉りなさい」
悔しい。
しかし、ぐうの音も出ないとはまさしくこの事だ。
涙を飲んで受け入れよう。
ハルヲが書類を取ろうと立ちあがると、杖を突いたのが目に入った。
「足、大丈夫か?」
「店の子達が大袈裟なのよ。もう、たいしたことないわ」
「ヤバかったみたいだな。ホントにありがとう。キノの事も。色々と助かったよ、また借りを作ちまったな」
「そうね。しっかり返してね」
いたずらっ子みたいな笑顔を見せた。
もうしばらくここに居なさいと言われ断ったが受け入れて貰えない、諦めてもうしばらく厄介になる事にした。
従業員のみんなにも迷惑を掛けたので、みんなに挨拶をして回る。
みんなが安堵の笑顔を見せてくれた。
戻ってきた時は相当ヤバそうに見えていたらしく、みんなが快方を喜んでくれる。
「キルロさん!」
「エレナ! ありがとう。色々と迷惑掛けたな」
エレナは首をブンブン振って“良かった、良かった”と何度も言って喜んでくれた。
ハルヲに同行してくれたクエイサー達にも“ありがとう”と感謝を伝える。
今回はみんなに迷惑を掛けてしまったな。
クエイサー達に挨拶していると、スルっと寄って来た。
「キノ、ありがとう。ハルヲ達が見つけてくれて良かったな」
笑顔で撫でる。
ホントに良かった。
それから数日、ハルヲの言葉に甘えハルヲンテイムでお世話になった。
夕方になるとキノとエレナが遊びに来てキノはそのままキルロの側で眠りにつく。
夕方になるとエレナとキノが、キャッキャッ遊んで一段と賑やかになる。
夜になり、眠りにつこうかという時、側にいるキノが目に入った。
エレナとキノはホントに仲がいいな。まるで女の子同士がじゃれ合っているみたいだ。いや姉妹かな? 友達同士か……。
そんな事を考えながら眠りについた。
穏やかだな。
朝、起きると全く予想だにしてなかった事態。
穏やかってなに??!
自分の側で知らない幼い女の子が裸で眠っていた。
“え?”
“えぇ?!”
“ぇええええー誰?この子?”
こういう時はとりあえず⋯⋯。
「ハルヲーーーーーーー!!!」
部屋の外へと飛び出した。
獣人の手にする刃先に、力が入ったのが首元から伝わってきた。
「【吹き溜まり】に落ちたコイツの救出よ」
「なぜ落ちた?」
「知らないわよ。こっちが聞きたいくらい、事故なのかハメられたのか………多分ハメられたと思うけど⋯⋯」
首元にあてられた刃から冷たい感触が伝わってきた。
努めて冷静にハルヲは答える。
声がうわずらないようにしっかりした口調を心掛けた。
コイツは一体誰?
「あなたこそ、ここで何をしているの?」
ハルヲが聞き返すと獣人の握る、波打つように湾曲したククリ刀にグっと力が入るのが伝わる。
答える気などないと沈黙が雄弁に語った。
「なぜ、この男をハメる必要がある?」
「そこの白蛇狙いよ。主を消して、どこかで高く売るつもりだったのでしょうね」
獣人は視線を左右に動かし、逡巡しているのが見える。
深い溜め息を漏らすとククリ刀を下ろした。
「アンタ達を外に連れて行く」
「?!」
思わぬ展開にハルヲが戸惑いを見せると、女はククリ刀を真っ直ぐハルヲ達に向けた。
猫人⋯⋯。
「ただし、ここで見たもの全て忘れる事。アンタ達は【吹き溜まり】でこの男を無事救出した。それだけだ」
女は面倒くさそうな口調で言い放つ。
ハルヲは黙ってそれに頷いた。
ククリ刀を下ろすとハルヲと女は、キルロをグラバーの背に乗せる。女は布切れでハルヲの目をきつく縛り付け視界を閉じた。
「イヤと言うなら、ここで永遠のサヨナラよ」
「わかったわ」
この女を信じる材料はないのだが、他に選択肢はない。細い紐を握らされると、無言のまま引っ張られた。
疑心を胸の奥へと押し込み、痛む足を引きずり必死に歩を進める。
腿の裏側は常に鈍い痛みと熱っぽさを放ち、足の運びを遮ろうとしてきた。
これを乗り切ればきっと。
淡い期待を胸に、足を動かす事だけに集中した。
どのくらい歩いた?
視界を奪われ、自信の荒い呼吸ばかりが気になる。
体力的にも限界は越えているが、歩みは止めるわけにはいかない。
「止まれ」
女の声とズッズっと重いものを引きずる音がした。
また歩きだす。
うん? 明るくなった?
目隠し越しに陽光のあたる感覚がある。
外に出たのか?
すぐにまた“止まれ”と言われ、ズッズっと背中越しに重いものが引きずられる音がする。
湿り気を帯びた草葉の香りがしてきた。
目隠しは外されず、右へ左へとひっきりなしに引っ張られる。
足元に草葉を踏みしめる感覚。
自分がどの方向を向いているのか全くわからない、なすがままに進む。
「止まれ。ここを東に行け。街だ。」
女はそれだけ言うと目隠しを外した。
急な光りが目に飛びこんで来て目を閉じる。
少しずつ目を開け光に目を慣らして行くと、既に女の姿はなかった。
結局あの女はなんだったのだ?
東にゆっくりとパーティーは歩を進める。
もう少しだ、グラバーの上でぐったりと動かぬキルロを見つめ痛む足に耐えながらもゆっくりと確実に進んで行く。
街が見えてくる頃には夕闇が訪れ、パーティーの長い影を落とした。
明るく柔らかい光を感じ目が覚めた。
洞窟じゃなかたっけ??
柔らかな布団の上でゆっくりと意識を起立させる。
体中が痛む。
生きている。
体をゆっくりと起こすとしっかりと手当てしてあった。
左腕は肩からしっかり固定されていて動かせない。
病室?
キノは!
ベッドから立ちあがろうとすると激しいめまいに襲われ、フラフラとうまく立ちあがれない。
めまいが治まるまでジッと堪え、部屋の外へ出た。
「お! キルロさん、起きましたね。もう起きて大丈夫ですか?」
両手にいっぱいに荷物を持った笑顔のアウロがそこにいた。
「お! なんだか久しぶり」
笑顔で返す。アウロも笑顔で奥へ消えて行こうとしていた。
アウロ??
なんで、なんで??
病院じゃないの???
「ちょっと待ったーー! アウローー!」
廊下の奥へと消えて行くアウロを呼び止めた。
「ちょっと忙しいのですが」
「スマン、いろいろと状況が飲み込めてないんだが⋯⋯病院じゃないのここ?」
「あ、えーと病院じゃないけど病院です」
「それって病院ってこと?? え? 病院じゃない?? え? どういう事?」
「だから、ここって元病院じゃないですか。今さらですか?」
「何その今さら………って??」
「だから、もう、ハルヲンテイムは元病院じゃないですか」
「え?! そうなの?」
“もう”とアウロは呆れ顔で首を振る。
仕方なくない、いつも裏口からちょろっと覗くだけなんだから。
同意を求めようと思ったが止めといた。
聞かなくてはならない事がいっぱいある。
「キノは?! キノは大丈夫か!?」
「大丈夫ですよ。ちょっと弱ったとこもありましたけど、今はピンピンして裏で遊んでますよ」
良かった。
一番の懸念材料が問題なかった。
二番目を聞いてみよう。
「あ、あの~、それでワタクシはなんでここにいるのでしょう??」
「ああ、それはですね………」
アウロが事の経緯を語ってくれた。
キノが攫われたこと、ハルヲが助けてくれた事。
入院代が掛かるという事で病院ではなく薬などが揃っている店の空室で面倒見てくれた事、かれこれ救出されてから三日も経っている事。
アウロに感謝を述べハルヲの執務室へ向かった。
「ハルヲ様、この度は大変ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありませでした。そして色々と誠にありがとうございました」
執務室へ向かい、右手を胸に当て丁寧に謝罪と感謝を告げた。
「はっは~ん、良く分かったようだな。ワタシを崇めなさい」
椅子にふんぞり返り、ふくよかな胸を張った。
悔しいが今回は何も言えない。
「な、なにも言えね」
「そうよね、【吹き溜まり】に落ちて相当ヤバいとこまで行ったもんね~。救ったのは誰かしら?」
「ハルヲンスイーバ・カラログース様です」
「わかっているじゃない。さあさあ、崇め奉りなさい」
悔しい。
しかし、ぐうの音も出ないとはまさしくこの事だ。
涙を飲んで受け入れよう。
ハルヲが書類を取ろうと立ちあがると、杖を突いたのが目に入った。
「足、大丈夫か?」
「店の子達が大袈裟なのよ。もう、たいしたことないわ」
「ヤバかったみたいだな。ホントにありがとう。キノの事も。色々と助かったよ、また借りを作ちまったな」
「そうね。しっかり返してね」
いたずらっ子みたいな笑顔を見せた。
もうしばらくここに居なさいと言われ断ったが受け入れて貰えない、諦めてもうしばらく厄介になる事にした。
従業員のみんなにも迷惑を掛けたので、みんなに挨拶をして回る。
みんなが安堵の笑顔を見せてくれた。
戻ってきた時は相当ヤバそうに見えていたらしく、みんなが快方を喜んでくれる。
「キルロさん!」
「エレナ! ありがとう。色々と迷惑掛けたな」
エレナは首をブンブン振って“良かった、良かった”と何度も言って喜んでくれた。
ハルヲに同行してくれたクエイサー達にも“ありがとう”と感謝を伝える。
今回はみんなに迷惑を掛けてしまったな。
クエイサー達に挨拶していると、スルっと寄って来た。
「キノ、ありがとう。ハルヲ達が見つけてくれて良かったな」
笑顔で撫でる。
ホントに良かった。
それから数日、ハルヲの言葉に甘えハルヲンテイムでお世話になった。
夕方になるとキノとエレナが遊びに来てキノはそのままキルロの側で眠りにつく。
夕方になるとエレナとキノが、キャッキャッ遊んで一段と賑やかになる。
夜になり、眠りにつこうかという時、側にいるキノが目に入った。
エレナとキノはホントに仲がいいな。まるで女の子同士がじゃれ合っているみたいだ。いや姉妹かな? 友達同士か……。
そんな事を考えながら眠りについた。
穏やかだな。
朝、起きると全く予想だにしてなかった事態。
穏やかってなに??!
自分の側で知らない幼い女の子が裸で眠っていた。
“え?”
“えぇ?!”
“ぇええええー誰?この子?”
こういう時はとりあえず⋯⋯。
「ハルヲーーーーーーー!!!」
部屋の外へと飛び出した。
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