3 / 263
鍛冶師と調教師と白蛇
白蛇
しおりを挟む
「あなたは本当に変わっているわね」
ハルヲはキノをまじまじと見つめ、しみじみと言葉をこぼす。
「そんなに変わっているのか?」
「西方の国で、蛇を調教をしているって聞いた事があるからそこから逃げて来たのかしら? まあなんと言ってもこの眼。普通白蛇ならアルビノ種らしく赤眼になるはずなのに、この仔金眼よ。金眼。聞いた事がない」
「あ、本当だ。確かに⋯⋯しかも何だか蛇っぽくない眼だな」
「そうね。縦長の瞳孔じゃないわね⋯⋯うーん⋯⋯」
ハルヲは腕を組んで唸り始めてしまった。そんなに珍しいのか?
ハルヲは悩んでいたかと思うと不意に顔を上げ、従業員を呼んだ。
「アウロー! ちょっと来てー!」
奥で作業をしていた優しい顔つきの男が、足早にやって来る。ハルヲが全幅の信頼を寄せる唯一の男性従業員だ。
「はいはい。あ! キルロさん! こんちわ」
「よお!」
「で、どうしました? あれ!? この仔どうしたのですか? 白蛇を調教ですか? 相変わらず凄い⋯⋯え? ハルさんじゃない? キルロさん?! え? どこで? どうやったんすか? 教えて下さいよ! ねえ、ねえ、ねえ」
「してない! してないよ」
アウロはキルロの両肩を掴み、ぐわんぐわんと激しく揺する。
いい奴なんだけど、こと動物の事になるとテンションがおかしな事になりがちなんだよ。それさえなければ⋯⋯相変わらず残念なやつだ。
「アウロ。調教の手続きをしたいからピアスとピアッサー、それとナンバリング⋯⋯あと登録用紙の準備をお願い」
「分かりました」
「登録用紙? って、何が始まるんだ?」
「キノをちゃんと調教済の登録をしましょう。そうすれば、街中を連れて歩けるでしょう」
「はぁ⋯⋯」
そっちのけで準備が進められ、手持ち無沙汰のキルロは近くでのんびりとしているクエイサーの腹をモシャモシャし始めた。ゴロゴロと喉を鳴らしまんざらでもない姿を見せるとキノもサーベルタイガーの大きな体に寄り添う。
蛇ねぇ⋯⋯。
白虎に寄り添う白蛇を見つめ、忌避感の抜けない思い。腹を撫でていた手を白蛇へと向ける。
そのぎこちない手つきに、キノは頭を突き出した。手の平に触れる少し冷たい感触。ゆっくりと撫でると、気持ち良さそうに頭を預けて来た。
「まぁ、宜しく頼むよ」
キノが返事をするかのごとく頭を振って見せると、固かったキルロの表情も解けていった。
◇◇
「キルロ、キノ。準備出来たからちょっと来て」
ハルヲの呼び声に、困惑しながらもハルヲの元へと向かう。
用意されていた茶色と黄色の二色のピアス。綺麗に半円で二色に分かれていた。
「何が始まるんだ?」
「調教済という登録をしないと。この二色が付いている物を身に付けさせる。それとギルドへの登録ね。登録してあれば、街中を堂々と連れて歩けるから」
「はぁ⋯⋯」
改めて見るとクエイサーの首にも茶色と黄色の二色のスカーフが首に巻かれていた。あれにそんな意味があったとは。ただのおしゃれだと思っていたよ。
「麻酔」
ハルヲが呟くように詠唱すると小さな緑色の光球がキノの鼻先に吸い込まれていく。
「アウロ、ピアッサー頂戴。大丈夫よ。痛くない、すぐに終わるから」
手にする小さなピアッサーが鼻先でバチンと音を鳴らした。キノは少し驚いて見せたがイヤがる素振りは見せず、ハルヲは慣れた手つきで鼻先に二色のピアスを取り付けた。
視界に入る見慣れぬ物にキノは仕切りに赤い舌をピアスに向けては、小首を傾げ困惑する姿を見せる。その姿が妙におかしくて、キルロもハルヲも噴き出してしまった。
「プッ⋯⋯いやいや、キノさん、なかなか似合っているぞ」
キルロが親指を立てて見せると、納得したかのように首を振って見せる。なんだか上機嫌だ。
「キノ、もう一息頑張って。麻酔」
ハルヲが首筋に緑色に光る指先を滑らせた。
「これで終わり」
人差し指ほどのハンコを当てると、バチンと音がして首筋に『Ha―553』と印字されていた。
「この数字が登録番号か?」
「そうよ。これでキノと外歩けるわね。もう巻き付けて歩かなくても大丈夫よ」
今度はハルヲがいい笑顔で親指を立てて見せた。
「別の巻き付けたわけじゃないんだけどな⋯⋯まぁ、いいや。サンキュー、サンキュー助かったよ。じゃ!」
「ちょっと待ったぁ!! キルロ様、今回の登録料7万ミルドとなります。お支払いの程、宜しくお願い致します」
「へ?」
ハルヲはにこやかに手の平を差し出していた。キルロは鳴らない口笛で無かった事にしようと白を切る。
「おい、こら。手数料はおまけしたやった純粋な登録料だけだぞ、払え! ここまでしてやったんだ、私にひれ伏せ!」
「どういう事だよ!?」
とは言ってもここまでして貰って、逃げ出す事は出来るわけもなし。
はぁー。
今日のハイミスリルに羽が生えて飛んで行ってしまった。
◇◇◇◇
キノは楽しそうに街中を進んで行く。キルロは7万ミルドの衝撃に足取りは重かった。
白蛇自体が珍しいのにそれを調教しているのだから、すれ違う人達の驚く顔や好奇の目に晒されるのは予想の範疇。
とは言えだよな⋯⋯。
元来、目立つ事は極力避けて来た身としては、突き刺さる街中の視線は痛い、痛い。
いつもの帰り道が長くこんなに長く感じるなんて。
キルロはベッドのドサっと体を投げ出し、大きく伸びをした。
「あっぁぁ~疲れたぁ~」
採取に行って追いかけられて、白蛇と出会って⋯⋯なんと盛沢山な一日。もっと穏やかな一日になる予定だったんだが⋯⋯。
体の疲れと気疲れから、微睡はいつの間にか深い眠りへと変わっていた。
◇◇
「う~ん⋯⋯」
何かが足先を突っついていた。窓辺から光が差し込み、すっかりと朝を迎えている。
寝ぼけ眼で足先をみると、ぼんやりと浮かぶ大きな白蛇の姿に思わず叫びそうになった。
そうだ、キノだ。
大の苦手だったものが一日二日でそうそう治るものじゃない。衝撃的な朝の目覚め⋯⋯というにはお日様かなり高い所まで上がっていた。
ぐきゅるるうぅぅ⋯⋯。
キルロのお腹が鳴ると昨日の夜から何も食べていない事に気づいた。
腹減ったな。
狭い台所で、簡単なご飯の準備を始めた。残り物のスープにパンと干し肉とフルーツ。
あ! しまった。何あげればいいのか聞くのを忘れた。足元でこちらを見上げているキノに苦笑いを浮かべた。
とりあえず水だよな。皿に水を入れ、テーブルの足元に置くと赤い舌で器用に飲み始めた。その様子を眺めながら、スープを口に運んで行く。
何喰うのかな? 虫とかネズミ? 用意するの大変かな? あ! 干し肉なら大丈夫か。
「ほら、キノ、肉だ、肉。うまいぞ」
足元のキノに干し肉を晒すも、興味も示さなかった。仕方なく自身の口へ運ぶとキノも隣の椅子の上によじ登り、キルロの食べる姿を熱心に見つめる。
「何だ? 食わないんじゃないのか?」
キルロはもう一度干し肉を、キノの目の前に差し出すとパクっと食らいつき一気に食べていった。
「おお。うまいか。んじゃ、もっとやるか。食え、食え」
皿の上にあった干し肉をすべてキノ前に置き、自分はパンをもそもそと食べ始めた。
キノは干し肉を咥えながら、キルロの様子を見つめる。
パク。
キノがいきなりキルロの手にあったパンに食らいつき飲み込んでしまった。
「ぇ? ええええええー! パン食っていいんだっけ?」
軽いパニック状態。
キノを抱え、店を飛び出した。行き先はただひとつ、いつも頼りにするあそこ。
「ハルヲ! ハルヲーー! ハルヲ!!」
大声で調教店の店長の名を叫びながら、裏口に飛び込んだ。
「お?!」
キルロの姿にハルヲは一瞬顔をしかめたが、何かひとり納得して手の平を差し出した。
ハルヲの差し出す手の平を見つめ、キルロは一瞬固まると、そっとその手の平に自らの手を重ねた。重なり合うふたり手と手。互いの温もりが重なり合い、視線が重なり合った。ハルヲの顔は見る見る紅潮して行く⋯⋯。
「ちっがーう! 何さらすんじゃあー!」
「いってええー!!」
キルロの腿裏に見事な蹴りが決まった。ドワーフの血が力強い蹴りを見せる。
キノを抱え悶える事しか出来ないキルロは涙を浮かべ、不条理を訴えった。
「何すんだよ! もう少し手加減しろ!」
「うっさい! 7万持ってきたんだろ、早く出せ!」
「あ、いや⋯⋯。そっちじゃないっす」
「ああ!?」
ハルヲの顔がさらに険しくなっていく。
「待って、待って。ちょっと緊急事態⋯⋯キノがパンを食べちゃってさ、大丈夫かな?」
「えっ?! キノあなた、パン食べちゃったの?」
これにはハルヲも少しばかり驚いた顔を見せ、困惑を見せた。キノの体に触れ異常を探していく。
「うーん。今、これといった異常は見られないわね」
「そっか。良かった」
「しかし、あんたパン食べただけで、すっ飛んで来るなんてどれだけ親バカなのよ」
不敵な笑みでハルヲに言われ、かなり気恥ずかしい。
「まぁ、いいんじゃない。大切に育てるのはいい事だしね。なんかあったら、またいらっしゃい」
「うん、助かる。サンキュー。よし! キノ帰るぞ」
ハルヲの笑みに見送られ、ふたりは調教店をあとにした。
これは早々に7万返さないとなぁ。厳しいけど頑張らないとだ。
あ、恩も返したいが、返し方が思いつかないなぁ。
まぁ、恩はゆっくりと返して行くか。
「あ! 干し肉買って帰らないと。キノ屋台寄ってから帰るぞ」
ふたり街の中心街へと歩いて行った。
ハルヲはキノをまじまじと見つめ、しみじみと言葉をこぼす。
「そんなに変わっているのか?」
「西方の国で、蛇を調教をしているって聞いた事があるからそこから逃げて来たのかしら? まあなんと言ってもこの眼。普通白蛇ならアルビノ種らしく赤眼になるはずなのに、この仔金眼よ。金眼。聞いた事がない」
「あ、本当だ。確かに⋯⋯しかも何だか蛇っぽくない眼だな」
「そうね。縦長の瞳孔じゃないわね⋯⋯うーん⋯⋯」
ハルヲは腕を組んで唸り始めてしまった。そんなに珍しいのか?
ハルヲは悩んでいたかと思うと不意に顔を上げ、従業員を呼んだ。
「アウロー! ちょっと来てー!」
奥で作業をしていた優しい顔つきの男が、足早にやって来る。ハルヲが全幅の信頼を寄せる唯一の男性従業員だ。
「はいはい。あ! キルロさん! こんちわ」
「よお!」
「で、どうしました? あれ!? この仔どうしたのですか? 白蛇を調教ですか? 相変わらず凄い⋯⋯え? ハルさんじゃない? キルロさん?! え? どこで? どうやったんすか? 教えて下さいよ! ねえ、ねえ、ねえ」
「してない! してないよ」
アウロはキルロの両肩を掴み、ぐわんぐわんと激しく揺する。
いい奴なんだけど、こと動物の事になるとテンションがおかしな事になりがちなんだよ。それさえなければ⋯⋯相変わらず残念なやつだ。
「アウロ。調教の手続きをしたいからピアスとピアッサー、それとナンバリング⋯⋯あと登録用紙の準備をお願い」
「分かりました」
「登録用紙? って、何が始まるんだ?」
「キノをちゃんと調教済の登録をしましょう。そうすれば、街中を連れて歩けるでしょう」
「はぁ⋯⋯」
そっちのけで準備が進められ、手持ち無沙汰のキルロは近くでのんびりとしているクエイサーの腹をモシャモシャし始めた。ゴロゴロと喉を鳴らしまんざらでもない姿を見せるとキノもサーベルタイガーの大きな体に寄り添う。
蛇ねぇ⋯⋯。
白虎に寄り添う白蛇を見つめ、忌避感の抜けない思い。腹を撫でていた手を白蛇へと向ける。
そのぎこちない手つきに、キノは頭を突き出した。手の平に触れる少し冷たい感触。ゆっくりと撫でると、気持ち良さそうに頭を預けて来た。
「まぁ、宜しく頼むよ」
キノが返事をするかのごとく頭を振って見せると、固かったキルロの表情も解けていった。
◇◇
「キルロ、キノ。準備出来たからちょっと来て」
ハルヲの呼び声に、困惑しながらもハルヲの元へと向かう。
用意されていた茶色と黄色の二色のピアス。綺麗に半円で二色に分かれていた。
「何が始まるんだ?」
「調教済という登録をしないと。この二色が付いている物を身に付けさせる。それとギルドへの登録ね。登録してあれば、街中を堂々と連れて歩けるから」
「はぁ⋯⋯」
改めて見るとクエイサーの首にも茶色と黄色の二色のスカーフが首に巻かれていた。あれにそんな意味があったとは。ただのおしゃれだと思っていたよ。
「麻酔」
ハルヲが呟くように詠唱すると小さな緑色の光球がキノの鼻先に吸い込まれていく。
「アウロ、ピアッサー頂戴。大丈夫よ。痛くない、すぐに終わるから」
手にする小さなピアッサーが鼻先でバチンと音を鳴らした。キノは少し驚いて見せたがイヤがる素振りは見せず、ハルヲは慣れた手つきで鼻先に二色のピアスを取り付けた。
視界に入る見慣れぬ物にキノは仕切りに赤い舌をピアスに向けては、小首を傾げ困惑する姿を見せる。その姿が妙におかしくて、キルロもハルヲも噴き出してしまった。
「プッ⋯⋯いやいや、キノさん、なかなか似合っているぞ」
キルロが親指を立てて見せると、納得したかのように首を振って見せる。なんだか上機嫌だ。
「キノ、もう一息頑張って。麻酔」
ハルヲが首筋に緑色に光る指先を滑らせた。
「これで終わり」
人差し指ほどのハンコを当てると、バチンと音がして首筋に『Ha―553』と印字されていた。
「この数字が登録番号か?」
「そうよ。これでキノと外歩けるわね。もう巻き付けて歩かなくても大丈夫よ」
今度はハルヲがいい笑顔で親指を立てて見せた。
「別の巻き付けたわけじゃないんだけどな⋯⋯まぁ、いいや。サンキュー、サンキュー助かったよ。じゃ!」
「ちょっと待ったぁ!! キルロ様、今回の登録料7万ミルドとなります。お支払いの程、宜しくお願い致します」
「へ?」
ハルヲはにこやかに手の平を差し出していた。キルロは鳴らない口笛で無かった事にしようと白を切る。
「おい、こら。手数料はおまけしたやった純粋な登録料だけだぞ、払え! ここまでしてやったんだ、私にひれ伏せ!」
「どういう事だよ!?」
とは言ってもここまでして貰って、逃げ出す事は出来るわけもなし。
はぁー。
今日のハイミスリルに羽が生えて飛んで行ってしまった。
◇◇◇◇
キノは楽しそうに街中を進んで行く。キルロは7万ミルドの衝撃に足取りは重かった。
白蛇自体が珍しいのにそれを調教しているのだから、すれ違う人達の驚く顔や好奇の目に晒されるのは予想の範疇。
とは言えだよな⋯⋯。
元来、目立つ事は極力避けて来た身としては、突き刺さる街中の視線は痛い、痛い。
いつもの帰り道が長くこんなに長く感じるなんて。
キルロはベッドのドサっと体を投げ出し、大きく伸びをした。
「あっぁぁ~疲れたぁ~」
採取に行って追いかけられて、白蛇と出会って⋯⋯なんと盛沢山な一日。もっと穏やかな一日になる予定だったんだが⋯⋯。
体の疲れと気疲れから、微睡はいつの間にか深い眠りへと変わっていた。
◇◇
「う~ん⋯⋯」
何かが足先を突っついていた。窓辺から光が差し込み、すっかりと朝を迎えている。
寝ぼけ眼で足先をみると、ぼんやりと浮かぶ大きな白蛇の姿に思わず叫びそうになった。
そうだ、キノだ。
大の苦手だったものが一日二日でそうそう治るものじゃない。衝撃的な朝の目覚め⋯⋯というにはお日様かなり高い所まで上がっていた。
ぐきゅるるうぅぅ⋯⋯。
キルロのお腹が鳴ると昨日の夜から何も食べていない事に気づいた。
腹減ったな。
狭い台所で、簡単なご飯の準備を始めた。残り物のスープにパンと干し肉とフルーツ。
あ! しまった。何あげればいいのか聞くのを忘れた。足元でこちらを見上げているキノに苦笑いを浮かべた。
とりあえず水だよな。皿に水を入れ、テーブルの足元に置くと赤い舌で器用に飲み始めた。その様子を眺めながら、スープを口に運んで行く。
何喰うのかな? 虫とかネズミ? 用意するの大変かな? あ! 干し肉なら大丈夫か。
「ほら、キノ、肉だ、肉。うまいぞ」
足元のキノに干し肉を晒すも、興味も示さなかった。仕方なく自身の口へ運ぶとキノも隣の椅子の上によじ登り、キルロの食べる姿を熱心に見つめる。
「何だ? 食わないんじゃないのか?」
キルロはもう一度干し肉を、キノの目の前に差し出すとパクっと食らいつき一気に食べていった。
「おお。うまいか。んじゃ、もっとやるか。食え、食え」
皿の上にあった干し肉をすべてキノ前に置き、自分はパンをもそもそと食べ始めた。
キノは干し肉を咥えながら、キルロの様子を見つめる。
パク。
キノがいきなりキルロの手にあったパンに食らいつき飲み込んでしまった。
「ぇ? ええええええー! パン食っていいんだっけ?」
軽いパニック状態。
キノを抱え、店を飛び出した。行き先はただひとつ、いつも頼りにするあそこ。
「ハルヲ! ハルヲーー! ハルヲ!!」
大声で調教店の店長の名を叫びながら、裏口に飛び込んだ。
「お?!」
キルロの姿にハルヲは一瞬顔をしかめたが、何かひとり納得して手の平を差し出した。
ハルヲの差し出す手の平を見つめ、キルロは一瞬固まると、そっとその手の平に自らの手を重ねた。重なり合うふたり手と手。互いの温もりが重なり合い、視線が重なり合った。ハルヲの顔は見る見る紅潮して行く⋯⋯。
「ちっがーう! 何さらすんじゃあー!」
「いってええー!!」
キルロの腿裏に見事な蹴りが決まった。ドワーフの血が力強い蹴りを見せる。
キノを抱え悶える事しか出来ないキルロは涙を浮かべ、不条理を訴えった。
「何すんだよ! もう少し手加減しろ!」
「うっさい! 7万持ってきたんだろ、早く出せ!」
「あ、いや⋯⋯。そっちじゃないっす」
「ああ!?」
ハルヲの顔がさらに険しくなっていく。
「待って、待って。ちょっと緊急事態⋯⋯キノがパンを食べちゃってさ、大丈夫かな?」
「えっ?! キノあなた、パン食べちゃったの?」
これにはハルヲも少しばかり驚いた顔を見せ、困惑を見せた。キノの体に触れ異常を探していく。
「うーん。今、これといった異常は見られないわね」
「そっか。良かった」
「しかし、あんたパン食べただけで、すっ飛んで来るなんてどれだけ親バカなのよ」
不敵な笑みでハルヲに言われ、かなり気恥ずかしい。
「まぁ、いいんじゃない。大切に育てるのはいい事だしね。なんかあったら、またいらっしゃい」
「うん、助かる。サンキュー。よし! キノ帰るぞ」
ハルヲの笑みに見送られ、ふたりは調教店をあとにした。
これは早々に7万返さないとなぁ。厳しいけど頑張らないとだ。
あ、恩も返したいが、返し方が思いつかないなぁ。
まぁ、恩はゆっくりと返して行くか。
「あ! 干し肉買って帰らないと。キノ屋台寄ってから帰るぞ」
ふたり街の中心街へと歩いて行った。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる