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坂門

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アックスピーク

招かれざる客との攻防ですよ

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「ちょ、ちょっと待って下さい。売りものではありませんのでお引き取り下さい」
「お待ちのお客さんに迷惑ですので、お引き取り下さい」

 モモさんとラーサさんの必死の言葉も、おじさん達の耳には届いていないようです。
 フィリシアといえば、口泡を飛ばすおじさんに我関せず。頭の後ろで手を組んで、目の前のおじさんから視線を外していました。

「おい、そこのハーフ! 金に糸目はつけん! 譲ってくれ!」

 お腹の突き出たおじさんの、ご指名を受けてしまいました。やれやれと嘆息したい所ですが、先日のギルドのお姉さんの姿を思い出します。あの張り付いた商業微笑ビジネススマイル。口端を上げ、瞳は死んだ魚のように生気を消す。
 あの姿を思い出し、口元に感情の無い薄い笑顔を作って行きました。
 しかし、さすがお姉さん達はプロですね。あの瞳は一朝一夕には出来ません。生気の無い瞳は私には高いハードルでした。仕方ないので、口元に笑み、目はやる気の無い感じで目の前のおじさんに対峙してみます。

「大変申し訳ございません。稀少種の為、お譲りする事はありませんのでお引き取り下さい」

 抑揚は少し大仰に。感情は殺して。
 どうでしょう?

「お前じゃ、話にならん! 上の者を呼べ! 上を!」

 やっぱりダメでしたね。あの技はギルドのお姉さんの経験の成せる技でした。
 
 バンッ!!!
 
 激しく机を叩く音に、私達はヤレヤレと天を仰ぎます。後ろから聞こえた打突音に、諦めに似た嘆息を零して行きました。

「いい加減にしろ! まともに育てる気も無いヤツに売るかっ! 商売の邪魔だ! 帰れ! 帰れ!」

 はい。ハルさんの堪忍袋の緒が切れました。私達的には、ハルさんは耐えたと思いますよ。もっと早くキレるかと思っていましたからね。
 ただこうなると止めるのもひと苦労です。売り言葉に買い言葉の応酬が始まります。

「な、なんだと! 客に向かってなんだ! その態度は!」
「そうだ! 私達を何だと思っているんだ!」

 ピキっとハルさんの血管の切れる音が聞こえた気がしました。

「客?? お前らはただの邪魔者って言うんだよ! それ以外何だってんだ! サッサと帰りやがれ!!」
「無礼な半端者め! 二度と来るか!」

 あ⋯⋯それ言っちゃダメなやつ⋯⋯。

「何だとぉおお!! いい度胸だぁっ!! サッサと表出ろ!!!」
「ハルさん! ストップ! ストップ! ストップ!」
「止めるぞ!」

 モモさんの声を合図に鼻息治まらないハルさんをみんなで押さえにかかります。ズルズルと私達は引きずられ、ハルさんはおじさん達に迫って行きます。

「ほら、あなた達帰って! 帰って! 押さえるの大変なんだって!!」

 フィリシアの叫びに、おじさん達は顔見合わせフンと鼻を鳴らし、店を出て行きました。

「野郎⋯⋯」

 不遜な態度にハルさんは、更にヒートアップしていきます。私達を引きずりながら、おじさん達を追って行こうと本気です。

「ハルさん! もういいでしょう! ストップ、ストップーー!!」

 モモさんの必死の叫びもハルさんの進撃は止まる事をしません。今更ながら、凄い力ですね。ドワーフの血とは言え、綺麗な顔をされているのに凄い力⋯⋯なんて思っている余裕はありません。

「ちょっと! 本当にストップストップ!」
「どうされたのですか?」

 引きずられる私達にデルクスさんが目を剥いていました。【オルファステイム】の皆さんがお帰りの様です。

「ほら! ハルさん! デルクスさん達が帰るよ!」
「あ?! デルクス!? 帰るって?!」
「そうそう」

 ハルさんの進撃が唐突に止まりました。私達は肩で息をしながら、膝から崩れ落ちてしまいます。
 いやぁ、もう、ホントに大変だったのですよ。
 ハルさんは急激に頭が冷えた様子で、険しかった表情も幾分和らいでいました。

「どうされたのですか? いったい⋯⋯」

 肩で息をする私達を、デルクスさんは不思議そうに見つめていました。

「それが⋯⋯厄介な客が押し寄せて⋯⋯ハルさんがヒートアップして⋯⋯」
「そして、今ここって感じ」

 モモさんとラーサさんの言葉におおよその理解は出来た様子で、デルクスさんはいつもの笑顔で頷いて見せました。

「僕らが言えた義理ではないですけど、情報の回りが早いですね。あ! イスタバールの権力者、ネルソン家には気を付けて下さい。イスタバールまで情報が回らなければいいのですが⋯⋯。どこからか情報を仕入れる可能性はあると考えて良いかも知れません。稀少種の収拾が趣味なのですが、育てる気は無く、剝製にするのが目的で金に糸目はつけません。場合によっては、なりふり構わず汚い手を使ってくる人間です。大丈夫かと思いますが、頭の片隅にでも置いておいて下さい」

 どこか少し浮かれていた私達に、デルクスさんの言葉はピリっと緊張を与えます。ハルさんも頭が切り替わった様で、顎に手を置きデルクスさんの言葉に何か逡巡していました。
 私達はハルさんのその冷静な姿を見つめ、緊張をまた少し高めて行きます。
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