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初冒険と橙色の躊躇
白い花弁と橙色の黄昏
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ど、ど、ど、どうしましょう!!!
頭から血の気は引いて行き、全身から冷たい汗が噴き出します。
パニックを起こす事すら忘れて、頭の中はまた真っ白になっていました。
「「⋯⋯グルゥゥゥゥゥ」」
グラバーは今まで見せなかった低い唸りを上げています。アントンは何度となく地面をバチンと叩き威嚇を見せました。
兎と虎の鋭いやる気。腕の中の小さな犬もブフブフといきっています。
あなたがやる気だしてどうするのよ。
そのみんなの姿は、私の頭を少しだけ冷やしてくれました。
キョロキョロと穴を探します。どこか手薄になっている所が無い物か⋯⋯。
前方に目をむけると、奥に控える赤い帽子を被るゴブリンの姿。首にも何か飾りらしき物をぶら下げ、手には私がさっき投げ捨てた木の棒を手にしていました。
何ですかあのゴブリン?? 何、ちょっとおしゃれなんてしちゃっているのですか。
ジリジリと囲む円は確実に縮まって来ています。
私の視線は泳ぎ、打開策は相変わらず宙ぶらりんです。
逃げ出せる穴を求めます⋯⋯。
諦めちゃダメ。
アントンもグラバーもガブもちゃんと家に帰してあげなきゃ。
と、とりあえず鞭。
当てにならない鞭を握り締め、ジリジリと迫るゴブリンに対峙します。
じわじわと縮まるゴブリンの包囲網に、背中にじわっと冷たい汗が噴き出して行きました。
赤い帽子のゴブリンの背後で草葉が大きく揺れます。それはまるで一陣の突風。
刹那、赤い帽子と共にゴブリンの首が吹き飛びました。
こ、今度は、な、なんですかぁー!!
叫びたいし、泣きたいし、次から次へともうなんでしょう!?
吹き荒れる突風が次々にゴブリンの首を刎ね飛ばして行きます。それはほんの一瞬の出来事。仲間が次々に朽ちて行く様に、ゴブリンの動きが一瞬固まりました。
「アントン! グラバー! ゴー!」
私は背後を指差し、鞭で地面を叩きます。呼応する兎と虎は、鋭い飛び出しを見せ、この隙を見逃しません。私はふたりが作ってくれた道へとガブと共に飛び込みます。
それは兎と虎が作る真っ直ぐに伸びる血溜まりの道。
「ハァ! ハァ! ハァ⋯⋯」
心臓が悲鳴を上げます。小さな犬を抱く腕に力を込めます。
後ろから追って来ているのか、いないのか、確認する余裕などありません。ただ、ひたすらに両の足を動かして行きました。
もつれる足。肺が爆発しそうなほど激しく呼吸を繰り返します。
もう⋯⋯無理⋯⋯。
私はガブを抱いたまま膝から崩れ落ちました。
激しく肩を上下させながら、ゆっくりと後ろを振り返ります。
そこにゴブリンの姿はありませんでした。
私はここでやっと安堵が出来ました。アントンとグラバーも私の姿に足を止め、後ろの気配を確認しています。アントンとグラバーの弛緩した空気に、後ろから追う者はいないのだと再確認出来ました。
「⋯⋯はぁ~逃げきれた⋯⋯かな」
乱れた呼吸と、激しく脈打つ心臓を落ち着かせて行きます。
うな垂れている私の腕からガブはピョンと飛び降り、草葉の影へと消えてしまいました。
「ちょ、ちょっと!! ガブ!!!」
追おうとしても、体は言う事を聞いてくれません。
ゆっくりと立ち上がり、後を必死に追いますが、私の動きは緩慢そのものです。
「ガブ! もう何やっているの、帰ってらっしゃい⋯⋯」
ガブは足を止め、私を見上げていました。その傍らには、白い小さな花が可愛らしく咲き誇っています。ラーサさんから借りているサンプルと照らし合わせ、ガブに向けて微笑んで見せました。
これはまた、怒るに怒れないやつですね。
「よしよし。エライわね、良く見つけたね」
私がガブの体をこれでもかというくらい撫で回すと、フンフンと鼻息荒く自慢げな素振りを見せ、私を見上げていました。
◇◇◇◇
ヴィトリアの外れも外れに出来たばかりの集合住宅。青年はコツコツと静かな足取りで、階段を上って行く。子供達は笑顔で手を振り合い、明日の再会を約束して家路につく声をあげていた。あちらこちらから聞こえるその声を聴きながら、青年は静かに玄関の扉を開く。
「帰っタ」
「おかえりなさイ。カズナ」
眉目秀麗なスマートな出で立ちを見せるふたりの兎人。並ぶふたりの美しさは、一枚絵のごとく不思議な非現実感を漂わせていた。
カズナは居間のテーブルへと静かに腰を下ろし、一日の疲れが充実した物だったのか、満足気な表情を見せていく。
「今日、赤帽の群れに襲われていたハーフ猫を助けタ」
「あラ、いい事をしましたネ」
「兎と白虎を連れていタ」
「白虎? それってもしかしテ⋯⋯」
「あア、ハルの知り合いかも知れン」
「もしそうなラ、少しはお返しが出来たかも知れませんネ」
「あア」
「でモ、違っていたとしてモ、森で困っている人がいたら助けるのが私たチ。久しぶりに兎人らしい事が出来ましたネ」
「あア、そうだナ」
カズナはそれだけ言い、窓の外へと視線を移した。夕焼けが部屋の中へ長い影を落とす。
逆光のふたりの影が居間へと長く伸びていた。
カズナの向かいにマナルも静かに腰を下ろし、外を見つめるカズナの姿にクスリと笑って見せた。
「照れる事はないじゃなイ」
「別に照れてなんかいなイ」
「フフフ、まぁいいカ」
マナルもそう言って、カズナと共に窓の外に見える夕焼けを見つめていった。
静かな時間が流れて行く。夕焼けがふたりを橙色に照らしていた。
頭から血の気は引いて行き、全身から冷たい汗が噴き出します。
パニックを起こす事すら忘れて、頭の中はまた真っ白になっていました。
「「⋯⋯グルゥゥゥゥゥ」」
グラバーは今まで見せなかった低い唸りを上げています。アントンは何度となく地面をバチンと叩き威嚇を見せました。
兎と虎の鋭いやる気。腕の中の小さな犬もブフブフといきっています。
あなたがやる気だしてどうするのよ。
そのみんなの姿は、私の頭を少しだけ冷やしてくれました。
キョロキョロと穴を探します。どこか手薄になっている所が無い物か⋯⋯。
前方に目をむけると、奥に控える赤い帽子を被るゴブリンの姿。首にも何か飾りらしき物をぶら下げ、手には私がさっき投げ捨てた木の棒を手にしていました。
何ですかあのゴブリン?? 何、ちょっとおしゃれなんてしちゃっているのですか。
ジリジリと囲む円は確実に縮まって来ています。
私の視線は泳ぎ、打開策は相変わらず宙ぶらりんです。
逃げ出せる穴を求めます⋯⋯。
諦めちゃダメ。
アントンもグラバーもガブもちゃんと家に帰してあげなきゃ。
と、とりあえず鞭。
当てにならない鞭を握り締め、ジリジリと迫るゴブリンに対峙します。
じわじわと縮まるゴブリンの包囲網に、背中にじわっと冷たい汗が噴き出して行きました。
赤い帽子のゴブリンの背後で草葉が大きく揺れます。それはまるで一陣の突風。
刹那、赤い帽子と共にゴブリンの首が吹き飛びました。
こ、今度は、な、なんですかぁー!!
叫びたいし、泣きたいし、次から次へともうなんでしょう!?
吹き荒れる突風が次々にゴブリンの首を刎ね飛ばして行きます。それはほんの一瞬の出来事。仲間が次々に朽ちて行く様に、ゴブリンの動きが一瞬固まりました。
「アントン! グラバー! ゴー!」
私は背後を指差し、鞭で地面を叩きます。呼応する兎と虎は、鋭い飛び出しを見せ、この隙を見逃しません。私はふたりが作ってくれた道へとガブと共に飛び込みます。
それは兎と虎が作る真っ直ぐに伸びる血溜まりの道。
「ハァ! ハァ! ハァ⋯⋯」
心臓が悲鳴を上げます。小さな犬を抱く腕に力を込めます。
後ろから追って来ているのか、いないのか、確認する余裕などありません。ただ、ひたすらに両の足を動かして行きました。
もつれる足。肺が爆発しそうなほど激しく呼吸を繰り返します。
もう⋯⋯無理⋯⋯。
私はガブを抱いたまま膝から崩れ落ちました。
激しく肩を上下させながら、ゆっくりと後ろを振り返ります。
そこにゴブリンの姿はありませんでした。
私はここでやっと安堵が出来ました。アントンとグラバーも私の姿に足を止め、後ろの気配を確認しています。アントンとグラバーの弛緩した空気に、後ろから追う者はいないのだと再確認出来ました。
「⋯⋯はぁ~逃げきれた⋯⋯かな」
乱れた呼吸と、激しく脈打つ心臓を落ち着かせて行きます。
うな垂れている私の腕からガブはピョンと飛び降り、草葉の影へと消えてしまいました。
「ちょ、ちょっと!! ガブ!!!」
追おうとしても、体は言う事を聞いてくれません。
ゆっくりと立ち上がり、後を必死に追いますが、私の動きは緩慢そのものです。
「ガブ! もう何やっているの、帰ってらっしゃい⋯⋯」
ガブは足を止め、私を見上げていました。その傍らには、白い小さな花が可愛らしく咲き誇っています。ラーサさんから借りているサンプルと照らし合わせ、ガブに向けて微笑んで見せました。
これはまた、怒るに怒れないやつですね。
「よしよし。エライわね、良く見つけたね」
私がガブの体をこれでもかというくらい撫で回すと、フンフンと鼻息荒く自慢げな素振りを見せ、私を見上げていました。
◇◇◇◇
ヴィトリアの外れも外れに出来たばかりの集合住宅。青年はコツコツと静かな足取りで、階段を上って行く。子供達は笑顔で手を振り合い、明日の再会を約束して家路につく声をあげていた。あちらこちらから聞こえるその声を聴きながら、青年は静かに玄関の扉を開く。
「帰っタ」
「おかえりなさイ。カズナ」
眉目秀麗なスマートな出で立ちを見せるふたりの兎人。並ぶふたりの美しさは、一枚絵のごとく不思議な非現実感を漂わせていた。
カズナは居間のテーブルへと静かに腰を下ろし、一日の疲れが充実した物だったのか、満足気な表情を見せていく。
「今日、赤帽の群れに襲われていたハーフ猫を助けタ」
「あラ、いい事をしましたネ」
「兎と白虎を連れていタ」
「白虎? それってもしかしテ⋯⋯」
「あア、ハルの知り合いかも知れン」
「もしそうなラ、少しはお返しが出来たかも知れませんネ」
「あア」
「でモ、違っていたとしてモ、森で困っている人がいたら助けるのが私たチ。久しぶりに兎人らしい事が出来ましたネ」
「あア、そうだナ」
カズナはそれだけ言い、窓の外へと視線を移した。夕焼けが部屋の中へ長い影を落とす。
逆光のふたりの影が居間へと長く伸びていた。
カズナの向かいにマナルも静かに腰を下ろし、外を見つめるカズナの姿にクスリと笑って見せた。
「照れる事はないじゃなイ」
「別に照れてなんかいなイ」
「フフフ、まぁいいカ」
マナルもそう言って、カズナと共に窓の外に見える夕焼けを見つめていった。
静かな時間が流れて行く。夕焼けがふたりを橙色に照らしていた。
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