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トリミングフィエスタ
大胆は代名詞ですけど⋯⋯ねえ
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「みんな苦戦しているけど希少な仔なの?」
「いや、そんな事ないよ。牧羊犬としてオルンでは超メジャー」
「え? じゃあ、何でこんなにみんな苦戦しているの?」
「あ! そこね。牧羊犬として飼っているから、ペットとして出回る事が滅多にないんだよ。めちゃくちゃ優秀な牧羊犬を、わざわざ手放す人はいないからね。ペットとして出回ると相当な高値で取引されるうえに、こいつは、坂をのぼったり下ったりしてないとストレスを溜めちゃうっていう変な習性を持っているんだって。だから、飼う方も広い庭に坂を作れる程の金持ちとか、しょっちゅう山歩き出来る道楽家じゃないと、ペットとして飼えないんだよ⋯⋯ってアウロさんが言っていた」
「また、アウロさん!? フィリシアは見た事あるんだよね」
フィリシアは暑そうにしているオルンドールを撫でながら、少し自信なさげに答えてくれました。
「うん。でも、二回だけ。カミオさんの所で一回、ハルさんの所で一回」
「今日でたった三回⋯⋯凄いのを課題に出して来たね」
「性格悪いんだよ。あそこの三人」
フィリシアは顔をしかめながら、広場の特等席に設けられた審査員席を顎で指しました。
三人ともギルドの方です。
犬人のジョブさん。かなり年齢は高そうです。白い顎髭を撫でながら、真剣な眼差しを向けています。柔らかな表情から温厚な方だと感じましたが、フィリシアが言うみたく意地悪な方なのでしょうか? そうは見えないけど。
ハモンさんはかなり派手な女性です。年齢もそれなりにいっていそうですが、真っ赤に染め上げた背中まで届く長い髪と派手なメイク。ここぞとばかりに散りばめた装飾品で身を包み、弱冠の年齢不詳感がありますね。にこやかに微笑んでいらっしゃいますが、フィリシアの言葉のあとだと、何だか不敵な笑みにも見えてしまいますよ。
狼人のモーラさん。ぼさぼさの髪に少し丸みを帯びる体形⋯⋯って何か知っている感じがします? 何でしたっけ? テーブルの上に片肘を付いて、つまらなさそうに舞台を見つめています。やる気は⋯⋯なさそうです。
「よし! もういいかな。エレナ、ハサミと櫛の水気を良く拭いておいて」
「はい!」
フィリシアが勢い良く火山石の織布を外し、私はバケツの水に漬けていたハサミと櫛の水分をしっかりと拭きとっていきます。そういえば何でわざわざ油を落したのかな? あとで聞いてみよう。
「「「砂時計の残りが、半分を切った! ヤヤが調髪に入っていく! これは速い! さすがドワーフ! 見事なハサミ捌きで、眼前のオルンドールが刈られていっているぞ!!」」」
ええ! いつの間に!!
人の数に物言わせて、一気に毛を絞り上げたみたいですね。
ヤヤさんのハサミに合わせて、毛がどんどんと下に落ちて行っています。凄い勢いで刈り上がっていますよ。
カミオさんはカミオさんで、凄い勢いで絞り上げています。何かこう力強さが凄いです。毛から流れ落ちる水の量が尋常じゃないですよ。
他の人達はどうでしょう?
苦戦していますね。未だに洗髪にたどり着けない人もチラホラいます。
あ、カミオさんも調髪に入りました。
「ふふん♪ ふ~ふん♪」
また、鼻歌まじりです。他人事ながら心配になってしまいます。大丈夫でしょうか?
と言っている間もフィリシアのハサミは動いていませんでした。
いろいろな角度から作業台のオルンドールを覗き込んでいます。
フィリシアの瞳は爛々と輝き、口元は少し笑っているようにも見えます。
「「「おーっと! ここで【オルファステイム】のヤヤが調髪を終えたぁ!! ここで王者を抜き去る!! 王者のハサミは未だ動かず! どうした?! 王者!」」」
本当にどうしたの? フィリシア?!
声を掛けようかどうしようか、凄く迷います。もう喉のここまで声は出掛かっているのですが、『まぁ、見てなって』と言ったフィリシアの不敵な口元を思い出し、言葉を飲み込みました。
「「「さぁ、ヤヤは整毛に入っていきました!! 一足早く最後の仕上げに入る!!」」」
もう、向こうは終盤も終盤、仕上げに入りました。ど、ど、ど、どうするの?
声に出す訳にもいかず、私の視線は泳ぎっぱなしです。
鼻歌まじりのカミオさんを筆頭に、ほとんどの人が調髪に入りました。
見切りでハサミを入れちゃっている方も結構いらっしゃいますが⋯⋯そういう時間って事ですよね。
「さてと」
フィリシアは顔上げ、辺りを見渡しました。【オルファステイム】の様子を見ると、いやらしく口端を上げて見せました。
「ハハ、やっちゃったね」
体を大きく伸ばし、ゆったりとした動きでハサミを二度、三度、カシュカシュと動かして見せるとバサっと大きく大胆にカットしていきます。切り取れた髪の束が、ボサっと下に落ちて行く様に私は思わず、目を見張ってしまいました。パラパラと落ちて行く他の方々と随分と様子が違うのですが、大胆過ぎませんか?
他の方々を見る限り、様子を見ながら少しずつ刈って行くのが基本ですよね⋯⋯大丈夫? ですよね?
「いや、そんな事ないよ。牧羊犬としてオルンでは超メジャー」
「え? じゃあ、何でこんなにみんな苦戦しているの?」
「あ! そこね。牧羊犬として飼っているから、ペットとして出回る事が滅多にないんだよ。めちゃくちゃ優秀な牧羊犬を、わざわざ手放す人はいないからね。ペットとして出回ると相当な高値で取引されるうえに、こいつは、坂をのぼったり下ったりしてないとストレスを溜めちゃうっていう変な習性を持っているんだって。だから、飼う方も広い庭に坂を作れる程の金持ちとか、しょっちゅう山歩き出来る道楽家じゃないと、ペットとして飼えないんだよ⋯⋯ってアウロさんが言っていた」
「また、アウロさん!? フィリシアは見た事あるんだよね」
フィリシアは暑そうにしているオルンドールを撫でながら、少し自信なさげに答えてくれました。
「うん。でも、二回だけ。カミオさんの所で一回、ハルさんの所で一回」
「今日でたった三回⋯⋯凄いのを課題に出して来たね」
「性格悪いんだよ。あそこの三人」
フィリシアは顔をしかめながら、広場の特等席に設けられた審査員席を顎で指しました。
三人ともギルドの方です。
犬人のジョブさん。かなり年齢は高そうです。白い顎髭を撫でながら、真剣な眼差しを向けています。柔らかな表情から温厚な方だと感じましたが、フィリシアが言うみたく意地悪な方なのでしょうか? そうは見えないけど。
ハモンさんはかなり派手な女性です。年齢もそれなりにいっていそうですが、真っ赤に染め上げた背中まで届く長い髪と派手なメイク。ここぞとばかりに散りばめた装飾品で身を包み、弱冠の年齢不詳感がありますね。にこやかに微笑んでいらっしゃいますが、フィリシアの言葉のあとだと、何だか不敵な笑みにも見えてしまいますよ。
狼人のモーラさん。ぼさぼさの髪に少し丸みを帯びる体形⋯⋯って何か知っている感じがします? 何でしたっけ? テーブルの上に片肘を付いて、つまらなさそうに舞台を見つめています。やる気は⋯⋯なさそうです。
「よし! もういいかな。エレナ、ハサミと櫛の水気を良く拭いておいて」
「はい!」
フィリシアが勢い良く火山石の織布を外し、私はバケツの水に漬けていたハサミと櫛の水分をしっかりと拭きとっていきます。そういえば何でわざわざ油を落したのかな? あとで聞いてみよう。
「「「砂時計の残りが、半分を切った! ヤヤが調髪に入っていく! これは速い! さすがドワーフ! 見事なハサミ捌きで、眼前のオルンドールが刈られていっているぞ!!」」」
ええ! いつの間に!!
人の数に物言わせて、一気に毛を絞り上げたみたいですね。
ヤヤさんのハサミに合わせて、毛がどんどんと下に落ちて行っています。凄い勢いで刈り上がっていますよ。
カミオさんはカミオさんで、凄い勢いで絞り上げています。何かこう力強さが凄いです。毛から流れ落ちる水の量が尋常じゃないですよ。
他の人達はどうでしょう?
苦戦していますね。未だに洗髪にたどり着けない人もチラホラいます。
あ、カミオさんも調髪に入りました。
「ふふん♪ ふ~ふん♪」
また、鼻歌まじりです。他人事ながら心配になってしまいます。大丈夫でしょうか?
と言っている間もフィリシアのハサミは動いていませんでした。
いろいろな角度から作業台のオルンドールを覗き込んでいます。
フィリシアの瞳は爛々と輝き、口元は少し笑っているようにも見えます。
「「「おーっと! ここで【オルファステイム】のヤヤが調髪を終えたぁ!! ここで王者を抜き去る!! 王者のハサミは未だ動かず! どうした?! 王者!」」」
本当にどうしたの? フィリシア?!
声を掛けようかどうしようか、凄く迷います。もう喉のここまで声は出掛かっているのですが、『まぁ、見てなって』と言ったフィリシアの不敵な口元を思い出し、言葉を飲み込みました。
「「「さぁ、ヤヤは整毛に入っていきました!! 一足早く最後の仕上げに入る!!」」」
もう、向こうは終盤も終盤、仕上げに入りました。ど、ど、ど、どうするの?
声に出す訳にもいかず、私の視線は泳ぎっぱなしです。
鼻歌まじりのカミオさんを筆頭に、ほとんどの人が調髪に入りました。
見切りでハサミを入れちゃっている方も結構いらっしゃいますが⋯⋯そういう時間って事ですよね。
「さてと」
フィリシアは顔上げ、辺りを見渡しました。【オルファステイム】の様子を見ると、いやらしく口端を上げて見せました。
「ハハ、やっちゃったね」
体を大きく伸ばし、ゆったりとした動きでハサミを二度、三度、カシュカシュと動かして見せるとバサっと大きく大胆にカットしていきます。切り取れた髪の束が、ボサっと下に落ちて行く様に私は思わず、目を見張ってしまいました。パラパラと落ちて行く他の方々と随分と様子が違うのですが、大胆過ぎませんか?
他の方々を見る限り、様子を見ながら少しずつ刈って行くのが基本ですよね⋯⋯大丈夫? ですよね?
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