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番外 ※ 時間軸はランダムです。結婚後の話もあります。
イルファンの脳内記録 6
しおりを挟む「イルファンっ、俺の格好、大丈夫かな、どうしたら良いかな?俺、何をしたら良い?」
ーーー私の目の前に、天使がいる。
天から落ちて来たのだろう、泣き出さんばかりに瞳を潤ませながら、助けを求める天使がいる。
その可愛らしさたるや、ふんわりと周囲が耀く程の・・・これが“尊い”というのだろう。この存在を腕の中から離すなど・・・助けてやりたいが天に還す事は、私の死を意味するのと同義だ。ああ、その漆黒の瞳を私だけに向けてくれるのなら、私はどの様な事でもーーー
・・・いや、これは天使じゃない、私の伴侶だ。
今日の私の伊織はサウディン王族の正装を纏い、左手の薬指には私との婚姻の証を、右の手首には私の唯一の伴侶である、正妃の証を身に付けている。
・・・どこもかしこも完璧に可愛らしいぞ。
伊織は私の傍に居れば良いのだ。挨拶も、素晴らしい出来であったのだ。そのまま、皆に聞かせてやれば良い。
本日、伊織は第三王子妃として初めての公務に挑む事になる。
婚姻の儀を思い出す、王族の正装。あの時の様に艶やかではないが、今日の装いも甲乙つけがたい程に素晴らしい。
その長衣には私の紋章と御印の花、王族の印があしらわれており、シルク地に翠とブラウンゴールドを基調とした装いだ。
対して私は、漆黒に王家の紋章と私の紋章をあしらった長衣を纏っている。
互いの色を纏うのは、半身と共に在り一対であると表すものであり、私と伊織が一対であるという事だ。
この伊織の、あまりの可愛らしさと美しさに、天から落ちてきた御使いかと見紛うのは致し方あるまい。
私の伊織は、普段の執務ではスーツを着用している。しなやかな細身の躰をストイックな雰囲気の衣に包まれた彼は、それは凛々しく堪らなく可愛らしいのだ。
スーツ姿の伊織も、とても良いのだが。今日のこの姿は・・・素晴らしく可愛らしく、可愛らしく美しく、ああ・・・どうにも上手く表現出来ない。
伊織を包み纏う物の全てが、私の伴侶だと知らしめる・・・私の唯一の存在であると、その姿が示しているからであろうか。
欲深いと云わざるをえない程の独占欲が満たされ、庇護欲をかき立てられ・・・何より愛おしくて堪らないのだ。
この伊織を他の者・・・有象無象の目に晒すなど、とても耐えられぬが。公務に伴わなければ、私が、王家が伊織を認めていないと誤解を生みかねないのだ。そんな事は断じて許さぬし、不名誉を大切な伊織に受けさせるなど有ってはならぬ。
しかし、伊織を不用意に他者に見せるのは、安全面や警備・・・いや、私が許容出来ぬ。子どもだと云われようと、嫌なものは嫌なのだ。
婚約者であった頃、王宮外の公務に同伴した伊織に見惚れたり不埒な視線を向ける者共のあまりの多さ、そしてあからさまに接触を謀る者まで・・・
即座に、SPで伊織を囲い隠す事態となった。
・・・私は出来れば伊織を公務に、宮外に出したくないのだ。
伊織は可愛らしく、魅力的であるのだが・・・当の本人が全く理解しておらぬ故、あまりにも無防備で誰にでも優しく公平に関わるものだから、勘違いする者が出てくる。
婚姻後、私が伊織を公務に伴わせるのをしぶり、父王も可愛い義息子が危険な目に遭う事を厭う為、彼が公に出る事は見送られていた。
しかし、王族として認知されなければならぬのも事実であるし、公に披露目もせねばならない。
それ故、私の新たな事業の立ち上げに際して父王が激励とも、伊織のお披露目ともとれるパーティーを主催された。
不敬だが、有難いとも迷惑とも云える。
しかし、王宮内の公務であれば警備面はある程度の信頼性が見込めるし、伊織を王宮外に出すよりはまだ幾分かましだ。
招待した者たちは、私が選出した仕事相手や貴族であるし、事前に不埒な輩は排除済みだ。
本日は父王と母上がお出座しになり、第一王子の名代の側近と第5・6王子が臨席する。警備は・・・うむ、配置や配属人員を見る限りでは万全に近いだろう。
その様な中、父王のお言葉が終わり私が伊織を伴い挨拶をする時刻となった。
伊織は先程から酷く緊張しており、可哀想でもあり可愛くもあり・・・庇護欲がそそられる事この上無い。
・・・それにしても、父王のお言葉の最中にも関わらず、此方に視線を向ける不敬な者の、なんと多い事か。
その視線の先には、緊張した面持ちでぷるぷると微かに震えて、私の手をぎゅっと握りながら潤む瞳で私に助けを求める、私の天使が。
・・・伊織は、本当に可愛すぎるのだ。
不躾であったり、舐めるように見る目であったり、不埒な視線や呆けたような目で見つめる者共の顔は確と覚えた。勿論、名や身分も把握している。
今後、王家が主催する伊織が出席せねばならぬ式典などに、あの者達が出席する事は決して無い。そして今後、伊織を垣間見る事すら許さぬ。徹底的に、伊織の周囲から排除する。
私は心の狭い・・・狭量な男ではないのだぞ?
普段から、伊織をただ憧れの目で見たり、崇拝する視線は許容している。王宮の職員や私の侍従達が、伊織を拝む(何故、拝んでいるのかは知らぬが)事は許しているし、敬意を持って接する者は伊織と関わる事を許しているのだからな。子や孫の様に可愛がる、年長者についても・・・まあ、許している。
「伊織、あまり可愛らしい顔を私以外に見せてはならん。今日は何時もに増して、美しく・・・愛らしいのだ。その様に、私が理性を保つ自信が無くなる程の可愛らしい貌をしては・・・ダメであろう?」
「つっ・・・~~~ん、もうっ・・!じゃあ、どんな顔してたらいいんだよっ・・・」
本当に困りきった表情の伊織は、これもまた堪らなく可愛らしいが、これ以上は泣かせるか怒らせてしまいそうだ。
私は一番分かりやすい例を挙げ、伊織を落ち着かせ、歩を進めるつもりで言う。
「ああ、ディーノの様な無表情を手本にすれば良い。あのくらいでなければ・・・伊織は可愛らしすぎて、この様に愛らしい表情と姿を見れば、不埒な想いを抱く者がわいて出そうだからな」
「・・・えっ?!・・んん、今はディーノさんになりきるんだ」
伊織が眉間に力を入れたのを見て、私は挨拶の為に伊織をエスコートして父王の隣へ進む。
チラリと伊織を見れば、眉間と頬にディーノを意識しているのが分かって、思わず笑いが込み上げてくるがここは辛抱せねばな。
王座の側に立ち、伊織と共に手を挙げて平伏に応える。一斉に顔を挙げた皆が伊織に注目し、それに気付いた伊織は・・・気付いたからこそであろう、毅然と前を見て・・・そしてにこりと笑ったのだ。それはそれは可愛らしいのに、凛とした美しい笑みで。
・・・そんな気丈な振る舞いをしながら、繋いだ手が緊張で冷たく震えてなんとも心許なくて。
その手を強く握ってやる事しか出来ぬ自分が歯痒いが、これは伊織が越えねばならぬモノなのだ。私はそんな伊織の頑張りを最良の結果に繋げる義務が・・・いや、それが出来ねばならぬ。
私の口上が終われば、伊織の王子妃としての挨拶となる。
最後まで、何があろうとも私が支えるから・・・伊織、私の隣で務め上げて欲しい。
そして、あちらこちらから向けられている、不埒な視線は今、たった今すぐに排除する。伊織を護るのは、私の役目で役得でもあるのだ。
そのひとつの視線を辿り、その者へ私から確と視線を送ってやれば・・・ふんっ・・・顔色が青いぞ?気分が優れぬのなら、早々に王宮を辞するが良い。
次の者は・・・ふむ、お前も顔色が優れんな?帰って構わぬ。・・・伊織をいやらしい目で見る者共は、去るがよい。
さあ、伊織。私が守ってやるから、安心して務めを果たすのだぞ?
・・・これが終われば、今日は伊織の疲労が癒えるまで、私に伊織の全ての事を任せ、甘えて欲しい。
朝の、あの可愛らしい願いも、必ず実行する。・・・私は、もっとたくさん、甘えて欲しいくらいなのだ。
伊織を私が出来得る全てで、可愛がり甘やかし・・・可愛らしく蕩ける伊織をこの腕の中で、私の全てで愛したい。
ーー“イルファン、俺、頑張るから。だから、終わったら、ぎゅってして?・・・あと、キス、も・・ね?”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
勿論、絶対にするに決まってます(*´∀`)
むしろ、イルファンにはご褒美です(≧∇≦)
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