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ブライダルハネムーン

ブライダルハネムーン 8―4

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軽く空腹を満たす筈が、愛情と甘さとイルファンの色気に身も心もいっぱいです。
ご馳走さまでした・・・っ!


ゆっくりと身支度を整えてから、もう当然の様にイルファンに姫抱っこされて連れて行かれたのは、まだ記憶に新しい庭園だった。
昨日の・・・コトを思い出しそうになっちゃうけど、既に煽られている躰はすぐに反応してしまいそうで、慌てて庭園の風景に目を向ける。

夕方に近い、日が傾き掛けた夕方の庭園は、昨日の昼間の光に照らされた庭園とは違った雰囲気で。オレンジ色に照らされた草花や泉も、優しい光にゆったりと揺れている。
昨日は無かったけど、今はあちこちにランプが置かれていて、暗くなったら幻想的な庭になるんだろうなぁって思っていると、イルファンはすたすたと四阿の方に歩いていく。

「えっ?うわぁ・・・すごい、今日はここで食事にするんだ」

「ああ、特別な場所でと云ったであろう?」

四阿には、ソファーとテーブルセットが置かれていて、テーブルには懐石コースのミニ版という様な、品数は多いけど量は少なめで丁度良い量の料理が並んでいて、和菓子とフルーツの盛られた皿が一際大きく見える。

料理に釘付けの俺に、くすくすと笑うイルファンは、そっと俺をソファーに座らせてからぴったりと横に座る。何時もなら、ずっと膝に乗せて降ろしてくれないのに・・・って不思議に思いながらすぐ横にいる彼の顔を見ると、ちょっと不満そうにも見える唇が、ゆっくりと俺の唇に降ってきた。“ちゅぅ”って可愛い音を立てて、そっと離れて、また触れてそっと離れる。目を開けば、きらきらな美貌が夕日に淡く照らされたイルファン旦那さまかお

「伊織の故国の料理は、箸で行儀良く食す物なのだろう?食べたい物を、ゆっくりと味わうには・・・この方が良いと思ってな・・・今は、こうして並んで大人しくしておくが、食事が終わればまた私の元に取り戻すぞ?」

「・・・はい」

ゆっくりと食事をさせてくれるのは有り難いけど、取り戻すって・・・ソファーから?こんなにぴったりくっついているんだから、もうっ・・・

俺は“いただきます”をして箸を取ると、綺麗に盛り付けられた料理を一つ、イルファンの口に運ぶ。少し不満そうに細められていた翠色の瞳が、嬉しそうに開かれていそいそと綺麗な唇が、俺の差し出す箸の先に寄せられる。
整った美貌が、嬉しそうにもぐもぐする様子は、少し幼く見えて可愛い。

「美味しい?」

こちらまで嬉しくなって、俺が作ったのでもないのに思わず聞いてみる。
ふわりとその美貌から優しい笑みを向けられて、不意打ちなそれに思わずときめいちゃうのは、いつもの事だ。

「ああ、こうして伊織の手ずから食べさせてもらう料理は、それだけで格別だ。次は私の番だな」



こうして、結局お互いに食べさせ合って食事を終えた。膝かソファーかの違いだけで、食べさせ合いっこは同じ・・・あ、ごちそう様と同時にイルファンの膝の上に乗せれ戻されました。


デザートは、イルファンの膝の上で。“伊織が私から離れて寂しかった”と、デザートとキスが交互に唇に運ばれて来て・・・もうどっちが甘いのか分からないくらい・・・ものすごく甘い食後、だった。
その甘さを薄める為のお茶は、危うく口移しされそうで・・・いろんなイミで溺れるかと思ったよ・・・っ・!


食事が終わった頃には夕日はすっかり沈んで、あちこちに置かれたランプが夜の庭園を照らして、すごく綺麗だった。俺を抱いて庭園を見せてくれているイルファンが、四阿から少し離れた所でくるっと振り返る。

「うん?・・・うわぁぁぁ~~!」

「・・・美しいであろう?四阿は、夜もなかなかに良い場所なのだ」

昼間の四阿と、夜に光で浮かび上がる四阿が、こんなに違って見えるなんて思わなかった。これは、今この場所にいる俺とイルファンだけの夜景・・・なんて贅沢。
どんなって・・・う~ん、四阿の絹の天蓋がゆらゆらして、中のたくさんのランプの光が・・・う~ん・・・ごめん。俺には詩的な才能も文才も無いみたいだ。これをどう表現していいか分かんない。あ、スマホ!写真撮りたい!後でまた庭園に出たいし、その時に持って来よう。

俺が、また後で写真撮りに庭園に出たいとイルファンに言ったら、ものすごく良い笑顔で“勿論だ”!と返してくれた。
何であんなに楽しそうな・・・嬉しそう?・・・う~ん・・ちょっと違う気がするけど、何かあるのかな?

その後も、ゆっくり庭園を散歩して泉の水の由来(イルファンのご先祖が見つけたオアシスの源泉なんだって!)とか、庭園の始まりはこの土地に根付く植物を研究していた場所だったとか、この国の始まりに関わる物が本宮ここにはたくさんあるんだって知った。

まだまだ、この国について学ばなければいけない事が多いんだなって思っていると、イルファンは“気負う事は少しも無いぞ?伊織は私の執務に多く関わり、これからは公務にも関わっていくのだから、その都度に必要な事を学んで行けば良いのだ。私が居る、分からぬ事があれば直ぐに私に聞けば良いであろう?”って、額をこつんと当てて優しく伝えてくれる。

俺の考えている事、本当に分かるみたいなイルファンにどきどきさせられる事が多いけど、こういう時は本当に救われる。それに、丸々甘やかすのではなくて、ちゃんと学びたいっていう、以前から伝えてきている俺の気持ちを尊重した答えをくれるんだ。
勿論、これまでもそうして来てくれていたけど、伴侶としてイルファンの隣に立ち続ける為に、これまで以上に俺の努力と精進が必要だ。



ゆっくりと歩いていたイルファンが、急に立ち止まった。ん?って思って前を見て気付いた。ここは庭園じゃない。

「あれ?・・・」

「伊織、随分考え込んでいたが・・・庭園から戻ったのにも気付いていなかったのか?」

俺が心の中で決意を新たにしている間に、いつの間にか浴室の扉の前に着いていたのが不思議で仕方ない。

俺、どれだけぼんやりしていたんだ?


イルファンが、いつも通りに器用に扉を開けて浴室へ進む。

「うわぁ・・こっちも綺麗だ・・・最終日仕様?」

「まあ、そうだな。伊織が希めば、毎日でも良かったが・・・湯浴みをする時、大概は伊織は可愛らしく気をやって・・・」

わっぁぁぁぁ!!また、そういうコトを言っちゃだめ!
俺が、俺の恥ずかし過ぎる記憶の無い部分のコトを、綺麗な唇から語りそうなイルファンのそれを焦って塞ぐ。
はいはいっ・・・そうです・・・大体は意識が無いか朦朧としてる時に、イルファンが清めてくれていましたっ!
正気でここに来た時は、大体、あっと、あの、ここでせっくすして、結局気を失って、イルファンに全部してもらってました・・・
何回かは、意識があるままで上がったコトもある、よ?

きっと赤くなっている熱い顔をイルファンの胸に伏せて、恥ずかしい事実に堪える。頭の上から、くくっ・・って笑う声が聞こえるけど、今はもういいもん。
・・・そういえば、奥の宮ここに来てからイルファンがよく声を出して笑っているんだ。王都の王宮では、少し頬を緩めるくらいで。声を出して笑うなんて、1日にあるかないかくらいだ。
だって、イルファンが少し微笑んだだけで”天変地異の前触れか?!”って王宮で騒ぎになるくらいなんだよ?
俺の前ではよく微笑んでるから、そんな騒ぎになっているなんてつい最近まで知らなかったけど。

浴室の前室のソファーで、俺の服を当たり前のように脱がせてくれる、イルファンの手際は本当に上手すぎて、脱がされるのは恥ずかしいのに快適で困る。
自分の脱衣はささっと脱ぎ捨てるみたいに終わらせると、ソファーに座る俺を抱き上げて浴室に入る。

浴室の明かりは少しだけ、控えられているみたいだ。
浴槽の湯には、小さなバラが浮かんでいてサイドのタイルの上には、氷が満たされたサーバーがあって何か飲み物が準備されている。
浴槽のバラの香りが、淡く優しく香っていて・・・とても、ロマンティック、だぞ?

・・・ここで、する、の、かな・・?
イヤじゃないんだ、えっと、今日が最終日だし、こんなに良い雰囲気だし、きっとすっごく気持ちよ・・っ・・じゃなくて!
ほら、庭園の写真撮りたいし、えっと、まだイルファンと、もう少しいちゃいちゃいていたいし、それからっ・・・

浴室のムーディーさに、俺が一人でわたわたしていると、また頭の上から“くくっ”て笑い声が聞こえた。

「・・・その様に緊張せずとも、湯殿ここでは最後まで可愛がるつもりは無いぞ?・・多分、な。・・伊織・・その様に可愛らしい顔をされては、私の自制など無いにも等しく理性も溶けてしまうが?」

最初はからかう様に、途中から困った様に言うイルファンの、その翠色の瞳の中に揺らめく熱さに、俺の方の理性が蕩けちゃいそうなんだけど・・・っ・・


それでもイルファンは優しく丁寧に俺を清めてくれて・・・バラが香り立つ浴槽でゆっくりと冷たいシャンパン(あ、こっちもバラの花弁が浮かんでいて美味しかった)をゆっくり飲む頃には、俺の理性は“もう蕩けちゃってもいいや”ってくらいに、溶けちゃってた。

ーーだって、だって・・・いつもは涼しい翠色の瞳の中に熱を滾らせているのに、触れる肌も今も俺の腰に・・・熱くて硬い、イルファンの欲望の証を感じるのに。
俺だって、俺の躰も同じように熱を上げているのに気付いているハズなのに、触れる手は優しく甘くて・・・優しいだけなんだ。

“早く、もっと触って”って焦れる俺をあやすような手に、その瞳を見上げれば、ちょっと意地悪な色が見えるような・・・?

すっと眇められた瞳から“ここでは困るのだろう?”って聞こえてきそうだ。
むぅぅぅっ・・!いつもなら、そんなのお構い無しで俺をその気にさせるくせに・・・っ。

イルファンが意地悪するなら、俺だってイジワルしてやるっ!ってシャンパンを一口、でイルファンの首に腕を廻してぐいっと引き寄せて・・・

「・・・んんっ・・・は、ぁ・・」

「!!・・・んっ・・ふっ・・伊織・・甘い、な」

大胆に舌をイルファンの唇に忍ばせて、口移しにシャンパンを彼に渡す。こくんと飲み込んだのが分かって、ちゃんと出来たと、ほっとして今さら恥ずかしさが込み上げて来て、堪らないけど、よしとする。
だって・・・完全に素面だったら、絶対に出来ないけど、アルコールが入った今なら、何とか出来たから!

イルファンは、驚いたとばかりに翠色の瞳を見開いて。シャンパンに濡れた俺の唇をぺろりと舐めると、ちゅっと可愛いキスをくれる。
そして、“我慢も忍耐も限界があるのだぞ?”と囁くと、俺を抱き上げて浴室の扉に向かう。



・・・俺、勝ったっ!!・・・けど、何か入浴中より危険度イルファンの色気が増した気が・・・するような・・?


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