上 下
12 / 169
本編

12

しおりを挟む
「イオリ、先日の話したい事というのは?」

ここは、王様がくれたという別宮だ。別荘をぽんとくれるあたりが何とも言えないが、普通の別荘では警備の問題などもあり、そうそう気が休まらないだろうからという配慮から出来た特殊な建物だと思う。
ここは王宮の敷地内にある独立した別宮で、室内どころか建物内にも警備兵を置かない。王宮の中では珍しい場所だ。
王様は、他国への留学などの経験から、プライベートやプライバシーが精神衛生上とても重要であることや、従者が四六時中ついている王族だからこそ、こういう場所が必要であると考えたそうだ。

祝賀会の後すぐにこちらに移ってくると、会えなかった時間を埋めるかのように唇を奪われた。
俺は成人の儀式の凛々しくて格好の良い王子(惚れた欲目じゃなく、本当にカッコ良かったんだ)を見た後からずっと会えなかった寂しさを忘れさせてくれる深いキスに夢中になってしまい、今は王子にもたれ掛かって座っているのがやっとの状態だ。

今は話すどころではない。くらくらする頭に酸素を送りながら、熱い顔や体を落ち着けるので精一杯だ。

「・・・イオリ?」

返事が出来ない俺の顔を覗き込んで、まだ熱の残る目を優しく細めた。腕の力を少し緩め、髪をすくように撫でてくれる。
キスはいろいろ大変だけど、こうやって俺が落ち着くのを待っている時のスキンシップはすごく気持ち良くて好きだ。優しく触れられていると、不思議と落ち着く。けど、もっとたくさん触れて欲しいという気持ちも湧いてしまうのが、ちょっとフクザツなとこなんだよね。
今みたいな状況で、たくさん触れられたら、きっといろいろ暴走してしまうと思う、お互いに・・・


・・・なんだか今日の王子はいつもとちょっと違う。二人でいる時の、可愛い顔を見せないからだろうか・・・
それでいて、いつもの尊大さのない落ち着いた大人な殿下の顔。自分の本心を抑える表情を全く見せないでいて、すごく優しい。

成人の儀を終えると本当に大人になるなんて事ないはずなのに、なんだろう。
その答えを探そうとじいっと”殿下”の顔を見つめていると、ふいっと目を逸らしたかと思ったらそのまま唇を奪われてしまった。・・・やっぱり王子だ。

でも、軽く何度も推し当てるくらいのキスにしてくれるのは、まださっきのキスの余韻が治まらない俺を落ち着けるためのキスで。じゃれあうような触れ合いに、まだ残る熱さと緊張を解されてしまった俺はまだオコサマかもしれない。



それから俺は、このところ思っていた事を話し始めた。

「ええと、まずこの前の、王子が俺に自分を嫌いになったのかって言われた時にこれじゃいけないと思ったんです。嫌ではなくて、むしろ逆です。だから困るんです・・・」

「どういう事か?逆とは」

静かに問いながら、ゆっくりと髪を撫でてくれる。俺は王子の腕に囲われたままで、なんだかすごく甘やかされている状況に、年上なのにと思うことすら忘れて、促されるままに答える。
今は素直に、恥ずかしくても照れても誤魔化したりしないという当初の意気込みが嘘のように、ただ王子への想いに心がさらけ出されていく。

「俺は、いつでも王子とキスしたい・・・です。でも、俺、その後はその、ふらふらになっちゃいますよね?だから、イヤって言ってしまうんです」

俺を抱き締める王子の体がぴくりと動く。けれど、優しく撫でてくれる腕に甘えてそのまま続ける。

「でも、ダメって言った後、王子はいつも悲しそうな子をするから。俺の気持ちをきちんと伝えなくてはと思っていたけど、恥ずかしくてなかなか言えなくて・・・」

あぁ~恥ずかしくて王子の顔が見られないっ!俺はぎゅっと王子にしがみついて逃げ出したい程の羞恥心に耐える。
王子は黙って聞いていてくれているけど、抱き締める腕の力が少し強くなった。

「王子が俺を大切にしてくれているんだって、すごく解るんです。すごく嬉しくて、俺。それを感じる度に、俺も好きだって思います・・・!!」

そう言った瞬間、急に王子の両腕が俺を強く抱き締め、彼の鼓動が俺よりも早くなっているのに気づいた。驚いて顔を上げようとすると、俺の髪に頬を押し当てるように更に抱き寄せられ阻まれる。

「もっと、教えてくれるか?まだ話してくれるなら、聞かせてくれ。全部、知りたい・・・」

何かを堪える様な、掠れた声で囁かれる。耳に当たる王子の吐息と初めて聞く艶っぽい掠れ声に、背を何かがぞくりと走る。

「キスをされると俺、もっと王子に触れたくなって、触れて欲しいと思うようになって。どうなってしまうのか怖くて、でも王子は優しくて、年上なのに、俺。」

どんどん早く大きくなる鼓動は、俺の鼓動なのか彼の鼓動なのかわからない。 その鼓動のまま言いつのってしまったけど、ちゃんと言えたかな。心の中のごちゃごちゃの想い言葉に出せば、王子が好きで全部が欲しいという意味で、抱いて欲しいと言っているのと同じだ。言っちゃったけど、もう本当にどうしよう。恥ずかしすぎるし、はしたないし重すぎるし・・・

「・・・!!それは、本当に?」

掠れた声が熱っぽく囁く。

「はい」

俺の声が小さく答える。

「私は、イオリに触れても良いのか?」

こくりと頷き、是と伝える。
あぁ、と感に堪えないというような吐息と共に、王子がゆっくりと覆い被さり、ふわりとそれまで座っていたソファーの柔らかさを背中に感じる。
そして、真上から真剣な、熱情の籠る視線に意識を絡め取られる。

「良いのか?私は優しくしてやれないかもしれない。また、イオリを泣かせるかもしれない・・・。私は・・・私こそ、触れたかった、ずっと。どれだけ抑えてきたと思っている・・・?」

最後の言葉は、俺の唇に直接落とされた。いつもは軽く合わせてから、ゆっくりと深くなるのだけれど、最初から深く口づけ、すぐに情熱的なキスに変わる。

本当はこのまま、どうにかなってしまいたい。でも、王子はこの3日間を儀式と式典の為に、ほぼ休み無く動いていた。だから、休ませてあげなければいけないんだ。キスに溺れながら、なんとか目を開くと王子の目の下には明らかな疲労が見て取れる。

「・・・んっ・・・ふっ・・んんっ!!」

俺が思い出して焦っていると、王子の熱い手が服の裾からもぐりこんできた。このままだとストップがかけられなくなってしまう。
焦った俺は、何とかキスから逃れ、王子に抱きついて叫んだ。

「でも、今はダメですっ!これがダメなんじゃなくて、王子が!!」

怪訝そうに俺の目を見つめる、王子の熱っぽい少しうるんだ目にクラクラしながら俺は言った。

「王子はすごくお疲れのはずです。だから今は、ゆっくり休んで下さい」

「嫌だ。疲れてなどいない。やっとイオリに触れられるのに、休んでなどいられるか」

目の下にクマをかっているのに何を言っているんだ。美形の美貌は隈ごときでは損なわれないけど。
~ああ、俺がいけなかった。先に休ませるべきだったのに。ホントにダメな年上でごめん。

「王子、あの・・・」

俺が言いかけた時、不意に王子が言った。

「イオリ、先ほどからなぜ私を王子と呼んでいる?これまでは殿下と呼ばれていたと思うが」

あ、俺は今そう呼んでいたっけ?俺の中で使い分けされていたのだが、混乱していたから出てしまったのかもしれない。うっかりしていたなぁ、仕方ない。

「では、その話をします。だから聞きながら休んで下さい。私は一緒にいますから、殿下の目が覚めたて食事をきちんと取ってから、にしましょう?」

顔が熱い。でも俺の精一杯の誘い文句にちょっと・・・かなり困った顔をした王子は、ふっとイタズラっぽい表情を浮かべると俺を抱いたまま起き上がると、そのまま俺を横抱き(いわゆるお姫様抱っこだ)して、スタスタと歩きだした。

「あああの、どこにっていうか、降ろしてください~」

俺の方が身長も体格も(悔しくなんてないっ)小さいとは言っても、男を抱えれば重いハズっていうか、軽くパニックに陥る。そんな俺に構わず、器用に肘でドアを開けて入った部屋は主寝室だと分かる豪奢な寝室だった。
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッドに俺ごと乗り上げると、そのまま横たわってぎゅっと抱き締められる。
ただ、わたわたと焦る俺に優しい目を向けて言う。

「イオリの言う通りに休む事にする。一緒にいてくれるのだろう?なら、イオリも一緒に休め」

そう言って、ふぅっと息を吐く。
休んでくれるのなら、この恥ずかしい状況も甘受するしかない。自分が絶対のオレサマ王子が、自分の主張を曲げて譲歩してくれるのが、何だかくすぐったい。

「分かりました。お休みなさい、王子・・・あ」

まただ、と王子が俺を見る。

「さあ、話を聞かせる約束だ。」

静かに目を閉じて話を促す王子に、俺も目を閉じて話し始める。

「いつからか、自分の中で殿下の事を考える時に・・・」
「それで、無表情で無愛想な完璧な殿下と、俺に見せてくれる17歳の素直な可愛い王子がいて、そうやって呼び分けていました。あ、我儘な時とか俺に意地悪していた時は王子でしたよ?」

それから・・・と思いつくままに話している内に、いつのまにか俺も眠ってしまっていた。

「・・・どっちの時も俺の好きな、大好きな人で・・・」

あまりにも心地よくて、あっという間に意識は溶けていった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...