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本編
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「あぁ~…日本行きの飛行機があんなに遠くに飛んでる」
空港からも日本からも遠い異国で、空高く飛んで行く飛行機を見上げ、独り言を呟く。
予定通りなら、俺はあの飛行機に乗って特別ボーナスと美しく美味しい和食が待つ日本に向かっていた。
「はぁ…俺、どうなっちゃうんだろ」
俺は西条伊織。22歳のエンジニアだ。
世間では大学在籍の年齢だけど、俺はアメリカで飛び級して19歳で早々にお仕事人間になった。
実家が事業をしている関係上、俺の技術と知識は役立つらしく今回も駆り出されたけど、仕事に行った先がマズかった。
…いや、そこにいた王子様がマズかったんだな…
「あの、もう一度お願いします」
「ああ、おまえは私の専属講師兼秘書についてもらう。だから帰国は許可しない」
革張りの豪華な椅子に、腹が立つほど長い脚を組んで尊大な態度でものを言う男。石油を始めとし、地下資源の豊富さで裕福と有名なサウディン国の第三王子イルファン・イシュディード・サウディン。長ったらしい名前は、これでも略称なんだとか。復唱が面倒でいつも「殿下」で済ませているが、今はそれどころではない。
「イシュディード殿下、先日も申し上げました通り、私は殿下に指南させて頂けるほどの技量など持ち合わせておりません。私は一企業の社員でしかありませんので、秘書などもっと…」
俺が言い終わる前に、王子サマは凛とした王族らしい威厳やら何やらを思わせる物言いでカットインしてきた。
「その若さで世界でトップクラスの大学で博士号を取り首席卒業し、各国に支社を持つ企業の一員として実績を持ったおまえ以外に誰がいる。私はコケの生えた、使えん知識はいらん。実践で使える知識と技術を持った、おまえが適任だろう」
自分の言いたい事だけ言って、俺が反論する前に部屋から放り出されてしまった。
「なんてこったい…。明日には帰れるハズだったのに…」
そもそも、俺が来たのは父さんの代理及び、バカ高いハード・ソフト一式をお買い上げになった道楽国王に商品のご説明に来ただけだ。
ここの国王は父親の親友(若い頃、留学中に意気投合したとか)で、いまだに親交が続いてるそうな。そんなこんなで、ただの一般人が王宮に滞在するなんていう破格の扱いを受ける中、イシュディード殿下とは晩餐会で初めて顔を合わせた。
まだ17歳だとは思えないほどの長身と、鍛えているのであろう事が容易に分かる引き締まった体と肩や胸部の厚み。さらに目を引くのは、エキゾチックな美貌。
なんと表現したらいいのか、繊細で端正な造りというのが率直な感想だ。そして、生まれ持った王族オーラをビシバシ放っていたため、近寄り難い印象だった。
しかし、あの機械を使うのが彼だと判明したので、今後のビジネスでも良い関係になれるよう、俺は懇切丁寧に扱い方を説明した。
プロ仕様のハードだったが、あっという間に理解して扱い始めたのには驚いた。多岐にわたり英才教育を受けている王族である彼の専門分野がこれであるのだから、彼にとっては当然なのだろう。
あっという間とは言ったが、説明には数日を要した。俺の説明やレクチャーが悪いわけではない。もちろんそんなことがあるわけないだろっ。
殿下に説明する時間が、あまりにも少なすぎたからだ。何といっても殿下は忙しい身で、起床から就寝までのほとんどの時間に予定を持っていた。
第三王子であり、それなりのポストに就くことが決まっている彼は、成人する18歳までにあらゆる教育を受けなければならない。その成人の日が間もないので、さらに忙しいのだと、レクチャーの合間にボヤいていた。
王子のボヤきというのはなかなか聞けるものではない。しかも、それまで17歳とは思えないほど大人びた彼の、年相応な口調や表情をその時に初めて見て、ふと可愛らしいところもあるのだと笑ってしまった。
そんな無礼にも、はにかんだ笑顔を浮かべていた彼が、急に言い出した事が発端だった。
空港からも日本からも遠い異国で、空高く飛んで行く飛行機を見上げ、独り言を呟く。
予定通りなら、俺はあの飛行機に乗って特別ボーナスと美しく美味しい和食が待つ日本に向かっていた。
「はぁ…俺、どうなっちゃうんだろ」
俺は西条伊織。22歳のエンジニアだ。
世間では大学在籍の年齢だけど、俺はアメリカで飛び級して19歳で早々にお仕事人間になった。
実家が事業をしている関係上、俺の技術と知識は役立つらしく今回も駆り出されたけど、仕事に行った先がマズかった。
…いや、そこにいた王子様がマズかったんだな…
「あの、もう一度お願いします」
「ああ、おまえは私の専属講師兼秘書についてもらう。だから帰国は許可しない」
革張りの豪華な椅子に、腹が立つほど長い脚を組んで尊大な態度でものを言う男。石油を始めとし、地下資源の豊富さで裕福と有名なサウディン国の第三王子イルファン・イシュディード・サウディン。長ったらしい名前は、これでも略称なんだとか。復唱が面倒でいつも「殿下」で済ませているが、今はそれどころではない。
「イシュディード殿下、先日も申し上げました通り、私は殿下に指南させて頂けるほどの技量など持ち合わせておりません。私は一企業の社員でしかありませんので、秘書などもっと…」
俺が言い終わる前に、王子サマは凛とした王族らしい威厳やら何やらを思わせる物言いでカットインしてきた。
「その若さで世界でトップクラスの大学で博士号を取り首席卒業し、各国に支社を持つ企業の一員として実績を持ったおまえ以外に誰がいる。私はコケの生えた、使えん知識はいらん。実践で使える知識と技術を持った、おまえが適任だろう」
自分の言いたい事だけ言って、俺が反論する前に部屋から放り出されてしまった。
「なんてこったい…。明日には帰れるハズだったのに…」
そもそも、俺が来たのは父さんの代理及び、バカ高いハード・ソフト一式をお買い上げになった道楽国王に商品のご説明に来ただけだ。
ここの国王は父親の親友(若い頃、留学中に意気投合したとか)で、いまだに親交が続いてるそうな。そんなこんなで、ただの一般人が王宮に滞在するなんていう破格の扱いを受ける中、イシュディード殿下とは晩餐会で初めて顔を合わせた。
まだ17歳だとは思えないほどの長身と、鍛えているのであろう事が容易に分かる引き締まった体と肩や胸部の厚み。さらに目を引くのは、エキゾチックな美貌。
なんと表現したらいいのか、繊細で端正な造りというのが率直な感想だ。そして、生まれ持った王族オーラをビシバシ放っていたため、近寄り難い印象だった。
しかし、あの機械を使うのが彼だと判明したので、今後のビジネスでも良い関係になれるよう、俺は懇切丁寧に扱い方を説明した。
プロ仕様のハードだったが、あっという間に理解して扱い始めたのには驚いた。多岐にわたり英才教育を受けている王族である彼の専門分野がこれであるのだから、彼にとっては当然なのだろう。
あっという間とは言ったが、説明には数日を要した。俺の説明やレクチャーが悪いわけではない。もちろんそんなことがあるわけないだろっ。
殿下に説明する時間が、あまりにも少なすぎたからだ。何といっても殿下は忙しい身で、起床から就寝までのほとんどの時間に予定を持っていた。
第三王子であり、それなりのポストに就くことが決まっている彼は、成人する18歳までにあらゆる教育を受けなければならない。その成人の日が間もないので、さらに忙しいのだと、レクチャーの合間にボヤいていた。
王子のボヤきというのはなかなか聞けるものではない。しかも、それまで17歳とは思えないほど大人びた彼の、年相応な口調や表情をその時に初めて見て、ふと可愛らしいところもあるのだと笑ってしまった。
そんな無礼にも、はにかんだ笑顔を浮かべていた彼が、急に言い出した事が発端だった。
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