これに呼び名をつけるなら

ありと

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それは、日常になるのかそれとも。。。

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「お早うございます」

「あ、おはよう」


今日も挨拶をして、隣に立つあの子・・・天宮くんを見上げる。今日も眩しい位に良い笑顔の彼は、分かり易すぎる程に嬉しそうで・・・少し照れた様な表情かおで言う。

「えっと・・里奈りなさん、今日は逢えて良かったです。僕、昨日・・・」

そう、高校生とは思えない・・・あ、そうでもないか。・・・いっそ高校生らしいストレートな言葉をさらっと言うと、昨日の朝の電車でぼんやりして、乗り過ごしてしまったと、失敗談を笑いながら話す彼を見る。
忙しない朝の電車の中で、なんだかホンワリとした時間を過ごすなんて、全然思ってもみなかった。




私が自分勝手さの自己嫌悪に浸ったあの日の翌日はまた早出勤で。あの駅に着いてドアが開いて、私の隣に立った“あの子”もとい“天宮 奏くん”・・・天宮くんは、にこりと笑って言った。

「お早うございます、天宮 奏17歳です。あまみやは天空の天に神宮の宮、そうは奏でるっていう字を書きます」

「・・・っっ・・お早うございます・・・っっ」

吹き出して大笑いするのを耐えた、ぎりぎりだったけど。
何だか・・・もう可笑しい。
朝の挨拶と自己紹介(?)が一繋がりで来た。なんて斬新な、ゴリ押しなんだろう。

もう、いいや。ぐちゃぐちゃ考えたって、もう仕方無いし。週に何回か電車で会って、挨拶する事くらい、悪い事なんてないじゃない。
こっそりポケットに手紙を入れられる方が、ヤバいでしょ。

「っふふ・・・はい、天宮 奏くんね。・・・天宮くん。私は後藤ごとう 里奈りなと云います」

私が自分の名前を名乗った瞬間の、彼の顔は今も忘れられない。
何を言われたのか分からないって顔の次に、驚いたって言わんばかりに目が真ん丸になって、ぱぁって笑顔が全開の嬉しそうな顔になった。

それから、開いた口からは、ちょっと図々しい科白が飛び出して、ちょっと驚いた。

「ごとう、りなさん・・・ですか。ごと・・んや、えっと・・・りなさん。里奈さん、おはようございます」

・・・いきなり名前?若い子って、そういうものなの?・・・まあ、名前で呼ぶくらい別にダメではないけど。



そんなやりとりのあった後から、朝の電車で会った時は私が降りる駅まで雑談をする様になった。
天宮くんの話を聞いて、私が少し話して、降りる駅でバイバイするっていうだけの事。
・・・ただ、ちょくちょく彼の口から飛び出す青春あおはるか?っぽい言葉に、ちょっと・・・本当に少しだけ、動揺するけれど。



つい最近こうやって話し始めて、もう12月も半分が過ぎて、もう少ししたら・・・

「今、試験期間中なんです。これが終われば冬休みに・・・ああ、休みか。えっと、里奈さんは、年末はいつまでお仕事ですか?」

「私は年末年始とか、あまり関係ない職種だから。いつも通りのシフトで、年明けに正月休みの代休をもらう感じ」

私が社会人で、彼よりも8歳上だと話したときの驚愕!と言わんばかりの顔が、本当に可笑しかった。
どうやらギリ10代か、20そこそこと思っていたみたいで。まぁ、確かに実年齢よりは若く見られる方だけど。
20で就職してから、毎日結構大変な目に合いながら仕事をしているのに、それっぽい雰囲気や大人の風格が出ないのはなんでだろう?

「あ・・・そうなんですか。クリスマスとか正月も、仕事、なんですね・・・そっか・・」

「・・・?」

なんなの?その憐れむような、嬉しそうな、微妙な顔。若い子は良いよね、お休みに楽しい予定がいっぱいよね。
どうせ、私は仕事があっても無くてもプライベートの予定は変わりませんよ?何か?

ほんわりの時間に、今日はうじっとした考えをしながら、降りる駅に着いた。

「じゃあ、今日も頑張ってね」

「あ、はい。里奈さんも。また・・・」

そう云って、電車を降りる。ちらりと振り返れば、こちらを見る彼がひらひらと手を振って
いて。

この時間の出勤日の朝は、いつもこうして電車の時間を過ごすようになっていた。




・・・いつ、気が済むのか分からない、いつか、気が済むあの子と私の、この時間がいつまで続くのか。


私は、自分が何を待っているのか分からないまま、あの手紙は今もバッグの底に沈めたまま、今日もあの子に手を振り返した。






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