これに呼び名をつけるなら

ありと

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それは、突然か必然か

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「おはようございます」

「・・・?・・・っ?!え・・あ、はい・・・おはよう、ございます・・・」


ついさっき、これでお終いと区切った筈で。それは、そんな朝には当たり前の一言で、あっさりと終えなくなった。



私の今日のポジションは、車両の端っこのつり革の前で。何故か落ち着けない自分自身に、いつも通りを装う為にスマホでネットニュースを読んで。その駅に着いても、そのままスマホの画面から目を離さないで、じっと自分の降りる駅に着くのを待っていた。
そんな、いつも通りのフリをした私の隣から、こちらに声が掛けられた。
これまで、この電車で知り合いに会った事はないし、聞き覚えのない声だし。自分に向かったものではないと、そのままスマホを見ていると、また挨拶が聞こえる。

何とは無しに隣を見て、びっくりを通り越して絶句した。

ーーーそんな状況に、自分がすごく驚いた顔をしているだろうと分かるとか、どこかで冷静でいられたのが不思議だーーー

私の隣には、私の顔を真っ直ぐに見て何を思ってか、うっすらと笑顔を浮かべた、あの子が立っていた。


・・・こんなに近くから初めて顔を見て、初めて声を聞いて、初めて言葉を交わした。



何で、私は、この子と挨拶をしているんだろう。

衝撃とも突発的とも云える状況に混乱と疑問と、いろいろな感情や考えでぐるぐるしている私の隣には、その原因がサラリと何くわぬ顔で立っている。

あの挨拶の後、そのまま私の横に立ったは、そのまま窓の外を見ていた。私はぐるぐるしたまま、何も頭に入らないネットニュースをただ目に映していて。

いつもの朝の、いつもの車両の、大体いつもの場所で、いつも通りに立ったまま、結構な混乱と困惑に揺られて、いつもの駅に着いた。
何も言わずに降りて良いのか・・・って、当たり前だし。そもそも、何か言う必要があるのだろうか。て云うか、何でこんな状況に??

とにかく、この状況から離れたい私は、内心の混乱を外に出さないように、何事もない様に装って、いつものように開き掛けるドアへ足を向けた。

その瞬間。

「じゃあ、また」

そう、彼の声が私に掛けられた。咄嗟に、顔ごと視線を向けてしまえば、驚いた表情に少しの笑顔を混ぜた様な、何とも不思議な顔の男の子がいて。

・・・何で、そう口から出たのか、今でもその時も分からないけど。



「はい、また」





そうして、バッグの底に仕舞われた、あの子の手紙はそのままで。
私の心の中は、驚きと疑問と混乱と・・・少しの浮わついた何かをごちゃ混ぜにしたまま、必死に平常心を取り戻そうと躍起になっていたけど。


お終いにする筈だった何かが、形を変えて始まってしまったのかもしれないと気付いたのは、次にまたいつもの電車で隣から掛けられた、あの子の朝の挨拶の瞬間の事だった。



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