これに呼び名をつけるなら

ありと

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それは・・・手紙、だったみたいで

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そう・・・文字が並んだ新しい手紙それを、またバッグの底に滑り込ませた。



八折りのレポート用紙には、また取り留めもない誰かの・・・あの子の想いが、前より少しだけ丁寧に見える字で綴られていた。


またポケットに忍び込んだ、それ自体には驚かなかったけど。私の手とスマホの間に、すごく自然でさりげなく差し込んだ手腕には驚いた。

・・・犯罪臭を感じる、妙な才能に目覚めない事を願う・・・


困惑したし、混乱したし、驚きはしたけど。気持ち悪いとか、怖いとかは思わなかった。
不思議なくらい、誰の物かが予想出来たから。


ただ、朝に同じ電車の同じ車両に乗り合わせるだけの。稀に一瞬視線が合うだけの。何の接点も関わりもない、名前も何も知らないのに。

・・・何で気付いたのか、すんなりと受け入れているのか。

何もはっきりしないけど、それを読みながら自分の気持ちを探るのは、少し新鮮で懐かしい気さえする。自分の気持ちが自分で良く分からないなんて・・・思春期の女子みたい、なんて気持ち悪い事を考える。

そんな事を思いながら、ちょっと笑った自分に、この訳の解らない状態を楽しんでいるらしい事に気がついた。そんな自分自身に、ちょっと引く。

私・・・ちょっと正気に戻ろうよ。

何でまた、あの紙を開いて読んでしまったのか。すぐに捨てもせずバッグにしまって、前のあれも捨てずにいるのか。
あの子が書いた、これが私に宛てた手紙ものだと解ったところで、一体それをどうしろって、読んでしまった知ってしまったそれをどうしようとしているんだか。

これに返事を書こうとか、何かリアクションをしようなんて思っていないのは、はっきりしている。それなのに、手紙あれを受け取って、内容を読んで、それを受け入れてしまっている。
どんなつもりで、これを差し出してきているのかも、解らない。ただ、“知って欲しい”あの子のエゴと、“有り得ない状況を楽しんでいる”私のエゴが、あるだけ・・・?

悪戯や、悪ふざけでしているのでは・・・ないと思う。


“もしかして、貴方も僕に気付いていたのだろうか、と。
そんな、期待すら抱いてしまう。そんな一瞬でした”


そう、締め括られていた。自分に気付いてくれたと期待した、と。
期待して、どうするんだろう・・・?
学生同士なら、“一目惚れして声かけてお友達からの、付き合っちゃう”みたいな一連のお決まりパターンだろうけど。

私は社会人で、年上の・・・随分若く見られてるみたいだけど・・・一回り近く年上って知ったら、どうだろう・・・そんな事を考えても意味ない。だって、意味ないでしょうよ。



“気付いて欲しい・知って欲しい”だけなら、あの子の目的はこれで達成されている。具体的な何かは書かれていない、気になって気付いて欲しいだけ、だ。それなら、もうこれ以上の何かはないはずだ、うん、そうに決まってる。


明日、いつもの電車のいつもの車両で、いつもと同じようにしていればいい。
それで、あの2枚は駅のゴミ箱にさよならして、不思議な件はおしまいにしよう。





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