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それは、何気ない毎日に
しおりを挟むあの人が、気になる。
朝の電車にいる、あの人が。
僕が乗る駅より前の何処かで乗って来ているのであろう、貴女。
スマホの画面か、車窓の何処かをじっと見ては、時々ふいっと此方を見て・・・これは僕の願望か。
だって、僕は何時も貴女の視界に入るように立っているから。
いつから、貴女がこの場にいるのに気が付きました。
・・・年上であろう貴女。この時間に私服で電車に乗る、大学生か社会人であろう貴女。
・・・社会人にしても、カジュアルすぎる服装は、制服のある仕事をしているのだろうか。
何も目立つ事は無いのに、不意に視線を奪われたのは、何故なのか。僕にはわからないけれど。
貴女に気付いてから、電車に乗る時は貴女を探し、不審者にならない様に視界の端っこに貴女を必死で捉えて。貴女がいつもの駅で降りる時、背を向けた瞬間からドアがしまって電車がホームを離れるまで、やっと僕は貴女を両目の視界いっぱいに見る事が出来るんです。
今の時代には珍しい地毛の黒髪と、ほんのりと化粧をしているっぽい、制服ではないから同年代ではないと判る、大学生だろうか・・・社会人なら幼いと思う顔。
疲れた感じも擦れた雰囲気も、年上っぽい雰囲気を一切感じないその人は、ただただふんわりとした空気を纏って、朝の忙しなくて騒がしい場にそっと立っている。
何故こんなに気になって、どうして貴女を目で追ってしまうのか。
自分の想いと考えをはっきりさせる為に、レポートに書き連ねてみれば、それはあの人へ宛てた手紙の様で。
折り畳んで、学生服のズボンに仕舞ったそれをどうするかなんて、考えてもいなかったはずなのに。
あの日、下車するためにすれ違った貴女の、ポケットとスマホに空いた隙間にそれを滑り込ませた僕は、ヤバイ人間になってしまったかの様な動悸と、昂揚感と・・・後悔を覚えた。
何故そんな事をしたのだろうか。
・・・自分の事を、自分の想いを知って欲しかったのか。
あの、折り畳んだ僕の気持ちは、貴女の目にどう映るのだろうか。
イタズラと思われるか、気持ち悪いと思う・・・だろう。いつの間にか、紙切れが上着のポケットに入っていて、取り留めもない内容の、手紙の様な、差出人も宛名も無かったら。
・・・ああ、気味が悪いだろう。
あの人は、あれを見ただろうか。それとも、開く事もなく・・・捨てただろうか。
その、取り留めもない考えは。
朝の貴女の、貴女が初めて僕の視線を真っ直ぐ見返して、その手がポケットをそっと押さえた。
それで、貴女があれを読み、僕の物だと気付いているって、解りました。
その時の、僕の心に沸き上がった気持ちを、表現するのは難しいです。
嬉しくて、驚いて、初めて反らされなかった視線を掴みたくて。
どう思われたのか、気になる。怖がられた?気持ち悪いって思われた?
こちらに向けられた、戸惑いと何か言いたげな視線は、少なくとも犯罪者を見るような目ではなかった、と思う・・・思いたい。
それから・・・僕に、気付いてくれた。
もしかして、貴方も僕に気付いていたのだろうか、と。
そんな、期待すら抱いてしまう。そんな一瞬でした。
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