back beat 2 ~Colors~

テネシ

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~Colors~ (シーン1~3)

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シーン1
仙台市街地 南町通り付近 昼間
休日らしくそこまで人通りはない
20代過ぎの男性が母親に手を引かれて歩いている奇妙な光景
2人は横断歩道を渡っている
母親は急ぎ足で渡ろうとしているが、男性の方はマイペースで歩いている
母親は若い頃は美しかったであろう外見でどことなく夜の仕事をしていたような雰囲気がある
男性は真面目な中学生や高校生が親に買い与えられたようなどこにでもあるデニムパンツにチェックのシャツ、ノーブランドのスニーカー
手を引かれてビルの中に入っていく

タイトル挿入
「Back Beat2 ~Colors~」

シーン2
レッスンスタジオ 昼間 (オーディション会場)
スタジオの奥には長テーブルが置かれている
テーブルの前には三脚に備え付けられたデジタルカメラ
そのテーブルには荏原とチーフマネージャーが席に着いている
スタジオ入り口付近にパイプ椅子があり、それに座っている先程の親子
荏原は立ち上がり親子の方へ歩いていく
荏原「エントリーシートは記入されましたか?」
母親「はい、終わりました。」
荏原「では、こちらにどうぞ」
親子をカメラの前方の床にバミってある場所へ案内する
席に座る荏原
チーフ「ではオーディションを始めます。…えー吉岡さんですね?」
母親「はい、吉岡拓真と申します。」
首を傾げたり、シャツの裾を叩いたり、何かを呟いたり落ち着きがない拓真
チーフ「拓真君は何になりたくてうちのオーディションを受けましたか?」
拓真「………。」
拓真は何も答えず白昼夢を見ているように自分の世界の何かを見ているよう
母親「拓真は絵や写真等が好きでいつも見ています。」
チーフ「…そうですか…。拓真君はどんな絵や写真が好きですか?」
母親「拓真は動物や風景の絵が…」
チーフ「お母さん、私は拓真君に聞いているんです。拓真君に答えさせて下さい。」
母親「拓真はコミュニケーションを取るのが苦手で…。」
チーフ「うーん、人と話せない子がこういう場所でレッスンやデビューを目指すのは難しいんじゃないですか?」
荏原はやれやれまた始まったという表情でチーフを見ている
母親「拓真の父親がこのままではいけないから、こういった所でコミュニケーションを取る訓練をした方が良いとの勧めもありまして、本日オーディションを受けに来た次第です。」
チーフ「とは言ってもここは訓練校じゃないからねぇ…。」
荏原「拓ちゃんは何の動物好きなの?」
笑顔で話しかける荏原
拓真「…うーん、猫さんやワンコが好き…。」
緊張しているようだが、何とか質問に答えようと一生懸命考えてる拓真
荏原「そっかぁ、オレもワンコ好きだよ。それにね、海を見に行ったりして写真を撮るのも好きなんだ…下手くそだけどね」
変わらぬ笑顔で語りかけ続ける荏原
拓真「海は青!青…青。」
興奮して青と連呼する拓真
荏原「拓ちゃんは青好きなんだね。」
拓真「うん、青好き。青い人も好き。緑の人と青の人が好き。」
荏原「青の人?」
拓真「そうだよ、あなたも青の人。ずっと青かった。」
荏原「昨日飲みすぎたかな…。チーフ、オレ顔色悪いですか?」
母親「拓真は人に色がついてるって言うんです。」
荏原「へぇー…じゃあ、オレは青の色してるんですね?」
母親「私は拓真にはオーラのようなものが見えているんだと理解していました。」
荏原「青のオーラを身に纏う男…オレ超カッケー笑」
母親「音楽にも色がついてるって言います。」
チーフは胡散臭げに拓真と母親を見ている
チーフ「わかりました。ではオーディションの結果は後日メールか電話にてお知らせ致します。連絡がなかった時はご縁がなかったということで…。」
母親は手を引き拓真を立ち上がらせて
母親「今日はお時間を作って頂きましてありがとうございました。宜しくお願い致します。」
拓真は相変わらず自分の世界で自分の見える風景を見ているよう
荏原「拓ちゃん!そのおじさんは何色なの?」
拓真は言いずらそうにしながら
拓真「き…き黄色…おじさんは黄色…」
チーフ「おじさんって…。」
荏原「黄色ですって!良かったですね、明るい色で!拓ちゃん黄色は好きなの?」
拓真言いずらそうに
拓真「き、き、黄色は緊張する…黄色は怖い…怖い。」
荏原「そうなんだ…。」
母親「行きましょう、拓真。」
一礼してスタジオを後にする二人
荏原「拓ちゃん、合格するといいね!」
バイバイと手を振る荏原

シーン3
プロダクションの事務所内 夜
チーフと荏原が背中合わせに座ってい
それぞれのデスクとイスがあり、ノートパソコン等が置いてある
荏原は台本等を読んでいる
チーフのスマートフォンが鳴り、誰かと会話している、目上の人の様だ
チーフ「はい、はい、かしこまりました。それはもちろんです。わかりました、荏原先生のクラスに入って頂きます。もちろん私も合格だと思っていました。はい、ではまたはい、失礼致します。」
スマートフォンを切り、じろりと荏原を一瞥して
チーフ「先日の拓真君いたよね?」
荏原「あぁ…あのオーラの子ですよね?」
チーフ「社長にオーディションの内容の動画を送ったんだけどさ…合格にしてあげなさいって。」
荏原「へぇー、思ったより社長は理解がある人なのかな…。」
チーフ「あれが合格なんて…ここは絵画教室でもなんでもなく芸能プロダクションなのに…レッスン生として受け入れるって…。」
荏原「でもそういう芸術に興味があるってことはいい事じゃないですか…演技だって音楽だって芸術ですよ。共通する何かがあるかもしれないし。」
チーフ「でも…。」
荏原「…偏見ですか?」
チーフ「いや、そういうわけじゃないんだよ。」
荏原「人と違う感覚を持っているって大事なことですよ。拓ちゃんだけでなく、他のレッスン生達にだって良い影響があるかもしれないし…。」
チーフ「荏原先生のクラスにって社長は言ってたけど、ちゃんとレッスン出来ますか?他の生徒達に迷惑をかけずに。」
荏原「いつもと同じメニューをやります。」
チーフ「大丈夫なんですか?」
荏原「………でも、社長が自ら合格にしろって連絡よこすなんて…まさか…社長の愛人の子どもなのでは?」
チーフ「それはないでしょー。いくらなんでも…でも電話よこしてまでって初めてなんだよなぁ…。」
荏原は呑気にチーフの肩を叩いて
荏原「じゃあ、私は帰ります!お疲れ様でした!」
チーフ「…あぁ、お疲れ様でした。」
チーフは自動ドアから出ていく荏原の後ろ姿を見つめて
チーフ「全く呑気なもんだよ……オレも終わらせて帰ろっ。」
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