4 / 5
眠らない国
第4話 ポルカとピリカ
しおりを挟むそれから少しして、森の奥に漂っていた光の玉が、その姿を現した。
8人ほどの、妖精族の集団だ。死んでしまった少女と同じように、睡蓮の花びらのような羽根が背中から生えていて、それを規則正しく羽ばたかせて宙に浮いている。
それぞれ髪の色は様々で、皆そろって肌を淡く発光させ、手には剣や弓を持っていた。
彼らは最初、ルカとクラリスの姿を見つけると警戒し、周囲に散らばって2人を囲むようにしていたのだが、ルカが魔女のいで立ちをしているのを見ると途端に警戒を解き、近づいてきた。
「この雨は、魔女様が?」
澄んだ、鈴の音のような声だ。
8人の中の先頭にいた妖精族の男が、1つ前に出てきて聞いてくる。
白い、神官服のような衣で身を包んだ、誠実そうな青年だ。
「うん、そうだよ」
ルカは悩みの1つも見せることなく、そう言った。
「感謝します」
青年は、両手を胸の前で組み、頭を下げる。
それに倣うようにして、背後にいる7人の妖精族も、頭を下げた。
彼は、静かにクラリスの方を見る。そして彼女が抱く少女を見て「あぁ」と声を漏らした。
クラリスは何も言うことなく、青年にゆっくりと近づく。そうして、彼に彼女を預けた。
「ピリカ……くそ、間に合わなかったのか」
と、悔しそうに唇をかみしめて言う。小さく震えているのが見て取れた。
淡く光る彼らの周りだけ、雨粒がゆっくりと落ちていくような、そんな時間の流れの中。
クラリスは、彼らに事のいきさつを伝えた。
森の上を飛んでいたら、彼女が森から逃げてきたこと。
その時、すでに手遅れであったこと。
せめてもと、傷をいやしたこと。
雨を降らせたこと。
誤解のないように、自分たちが知る範囲のすべてのことを、クラリスが丁寧に伝える。
「そうでしたか、妹は、あなたの腕の中で死んだのですね」
青年は、こらえきれずに涙を流しながら「1人で、誰にも知られずに死んだのではないのなら、少しは、救われました」と、震える声でそう言った。
周りにいた妖精族たちも、ゆっくりと近づいてきて、眠ったように死んでいる彼女を見ると、今一度両手を組んで目をつむった。
「彼女に、妖精神の加護があらんことを」
青年がそういうと、彼女の体がぼんやりと輝く。その輝きは徐々に光を増していき、そして溶けるように少女の形を崩した。
細かな光の粉のようになった彼女は、煙が空に昇るように、きらきらと煌めきながら、曇天に登っていく。
そして、光が差した。
彼女が登って行ったところから、雲が避け、日の光が差し込んだのだ。
「申し遅れました。私は妖精神アリステラの司祭、ポルカといいます」
差し込む光に照らされながら、彼は深々とまた礼をして、言葉をつづけた。
「あなた方がピリカを、私の妹を見つけていただかなければ、私は、彼女を妖精神の元へすら、送ってあげることができませんでした」
彼は言葉をかみしめるように、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で、言う。
「それに、あの憎き“妖精狩り”共が放った炎をも消してくださり、感謝の念しかございません。本当に、ありがとうございました」
「助けてあげられなくて、ごめんね」
ルカがそういうと、ポルカはすぐさま首を振り「魔女様が謝ることは何もありません。全て、やつらが悪いのです」と、憎々しげに言葉を紡ぐ。
「妖精狩り、でしたか。その方々はいったい……っと、申し訳ございません」
クラリスが言いかけて言葉を止めると、彼女は一歩後ろに下がって体についた水滴を払い、姿勢を正して言葉をつづけた。
「彼女は旅魔女のルカ。私はお供をしております、魔導機械のクラリスと申します」
「よろしくねー」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
人魔戦争。
それは魔人と人族の戦争。
その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。
勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。
それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。
勇者は終戦後、すぐに国を建国。
そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。
それから25年後。
1人の子供が異世界に降り立つ。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる