上 下
93 / 117
2章

93 シグル王国侵入編①突然の来訪者

しおりを挟む
コレクト・スターが開店して1週間経過した。まだ忙しいが大分落ち着き、当初の計画どおり子供達だけで2班交代制で営業できるようになった。また同じ時期に商業ギルドで無料配布した卵焼き、あんこ、色ガラス、プラスチック、洗剤、スポンジのレシピは爆発的に広まり、錬金術の需要が高まり錬金術の研究も盛んになされている。お米に関しては教えてほしいといわれたがオオエド大陸との交易の問題があるため現在は保留している。



 本日、翔、聖、ミゼルは冒険者ギルドへ向かうために街中を歩いている。他のメンバーは他の用事があるため別行動中である。街中には様々な看板が溢れていた。『今ブームの色ガラス食器おいてるよ』『ここだけの限定ヌイグルミ販売中』『プロが作る卵焼き一回食べてみて』など。



 翔達は冒険者ギルドに着くと早速掲示板を見に行った。そこでいくつかの放置されているクエストを選びカウンターに向かった。カウンターではリリィが受付をしておりこちらに気づき手を振ってくる。



「こんにちは、リリィさん」



「こんにちわ、翔さん、聖さん、ミゼルさん。クエストの受注ですか?」



「うん。これお願い。あと他に何かクエストある?」



 翔が数枚紙をわたすとリリィは確認した後奥の部屋に入って行った。10秒後、リリィは別の紙を持って翔達に見せた。翔達が確認すると難易度の割には報酬が少ないクエストだった。



 ギルドでは実力のある冒険者にはギルドから直接クエストを頼むことがある。そのクエストは基本高難易度だが報酬は別格のものとなっている。



 また逆に冒険者の方から特定のクエストがあれば教えてほしいと頼む時がある。翔達の場合は後者だがすこし内容が違う。普通ならある素材が入るクエストや難易度が高いクエストを頼むが翔達の場合、他の冒険者が受けない利益の少ないクエストを選んでもらっている。理由はお金を稼ぐためにクエストを受けているわけではなくボランティア目的で受けているからだ。



「そういえば知ってます?シグル王国の事?」



「何?」



リリィは雑談がてら気になること話してくれた。



「最近シグル王国では鉄や薬品の輸入が多いんですよ。戦争の準備をしてるのではないかって噂なんですよ。ただ火薬もたくさん集めてるんですよ。戦争では爆弾を持ち運ぶことは無いんですが」





 近くの森の中、翔達はクエストを消化していた。最後のスケルトンを倒したミゼルは翔に声を掛ける。翔が先ほどから考え込んでいることが気になったのである。



「さっきの事が気になるの?」



「ああ、もし俺の予想通りなら大変なことが起こるし、シグル王国を止めなくちゃいけなくなる」



 翔の言葉はさらに続く。



「薬品はいいけど鉄、火薬を大量に集めてるということは、優斗から地球で使われたある兵器の情報が流れたかもしれない。信じたくはないけど」



 翔の言葉に聖はある武器を思い浮かべる。



「!まさか、銃の量産体制ができてるの?」



 翔はうなずきで返す。ミゼルは銃と聞いてもピンと来なかった。



「銃って魔法銃の事、それならそこまで心配しなくて大丈夫じゃない?」



 ヴィジョンには魔法銃という武器がある。魔法銃は筒状の砲から魔力を弾として打ち出す遠距離武器である。対策としては魔法攻撃と同じで、魔力耐性の高い防具や体全体を魔力で纏えばダメージを減らすことができる。



 ミゼルの疑問に翔は首を振って否定し説明を続ける。



「銃は火薬を使って魔法弾の代わりに丸い鉄の球を打ち出す武器で、地球で生み出された武器なんだ。弾の速さは弓や魔法より早く、一番の利点は兵士や冒険者じゃなくても簡単に誰にでも使える事。地球でこの武器が使用された戦争では一方的な蹂躙が行われたから僕らは相談して銃の事は伝えないようにしてたはずなんだけど・・」



 そう。地球でも銃を用いた戦争はひどいことが起こった。翔達も詳しい作り方は知らないが『火薬で鉄の球を打ち出す』ぐらいの知識があり、便利な力、魔法があるためもしかすると再現してしまうかもしれないので銃の情報は伝えないように決めていたんだが。



バーン、ドーン



 と遠くで戦闘音が聞こえた。翔達は気になり魔力探知を広める。すると覚えがある魔力反応を感じた。そして翔達は急いで駆け付けた。





 灰色のローブを着た少女はメルトホルンへ向かうため森の中を走る。ときおり【サーチ】や後ろを振り返りつつ先を急ぐ。しかしメルトホルンまでもう少しというところで特徴的な仮面をかぶった黒いローブの集団に追いつかれる。その少女も魔法で応戦するが、進行方向にも黒いローブの集団が現れ囲まれてしまった。



(そんな、ここまで来たのにもう終わりなの。ごめんなさい、優斗、みんな)



 と膝をつきあきらめかけた時、周囲を結界が覆いその少女の下に3人の冒険者が現れた。その中の一人聖はその少女に声を掛ける。



「大丈夫、アイネ?」







 翔はその集団を発見した時、瞬時に結界を発動。灰色のローブを着た人物の下に降り立った。そして聖は灰色のローブを着た人物シグル王国伯爵家の一人娘アイネに話しかける。アイネの姿をよく見れば袖や裾はほつれており、泥などで汚れていた。体中にも小さな傷がついておりここまで必死に走ってきたのがわかる。アイネを聖に任せ翔とミゼルは動き出す。



 黒いローブの集団は翔達の登場に驚いたが、直ちに撃退しようと魔法を打ち出そうとする。30秒後、黒いフードの男たちは全員地面に倒されていた。その瞬間黒いフードの男たちは突然苦しみだし息を引き取った。【鑑定】で確認するとどうやら眠る以外で気を失うと死ぬ呪いが掛けられていたようだ。



「アイネさんは?」



 翔がアイネを支えている聖に様子を聞くと聖はアイネの状態について答える。



「安心して気を失ったみたい。シグル王国から不眠不休で来てたみたいね」



「これは何かあったと思った方がいいね。今から自宅に送るから聖はそのまま様子を見といて、ミゼルは皆を集めて、俺はクエストの報告だけしてくる」



 何かが起きようとしている。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...