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04.公爵令嬢フランソワーヌ
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「ごきげんよう、第二王子殿下」
「こんにちは、フランソワーヌ嬢」
初の顔合わせとして、こちらの要望で王城の庭園のガゼボで当事者同士のお茶会を開かせてもらった。もちろん、側には侍女や護衛も控えている。彼女はきれいな微笑を浮かべているが、なぜかこの場にいるカリウスに戸惑っているのが見て取れた。
「今日は顔合わせの記念に、花束を用意させてもらった。ぜひ受け取ってほしい」
その言葉を合図に、カリウスが捧げ持っていた花束をフランソワーヌ嬢の前へと置いた。
「ありがとう、カリウス。これだけのために呼び出してすまなかった。戻ってていいぞ」
カリウスは丁寧に一礼し、その場を辞した。フランソワーヌ嬢は微動だにせず、花束を見つめていた。
「お茶の前に、よかったら一緒にバラ園を散策しませんか?」
「あ――はい」
夢から醒めたように顔を上げたフランソワーヌ嬢は、差し出された手を取った。しばらく歩いて、周囲に話が聞かれない場所へと誘導する。護衛も気を利かせて、距離を置いてくれている。
「今回の話が調わなかった場合、貴方にはまた新たな婚約者が用意されるだけ、と聞いた」
「その通りでございます」
「さて。一つ確認したいのだが、貴方とカリウスは想い合っている。間違いないね?」
「い、いえ、そのようなことは」
ゆったりと歩を勧めながら、フランソワーヌ嬢に言葉をかけると、彼女は慌てて否定の言葉を口にした。
「そのまま。微笑は絶やさずに聞いて。仲の良さを演出しててもらえるかな」
聡いと評判の公爵令嬢は、素直にその言葉に従ってくれた。微笑みは絶やさないながらも、その瞳は不安に揺れている。
「今のカリウスは侯爵家の次男。優秀な嫡男もいて、家を継げる可能性は低い。本人からは爵位を継げたとしても侯爵家の持つ子爵位くらい、だと。その点は知っているかな?」
「――はい」
「だから、貴女に本心が聞きたい。もちろん、不敬には問わない。苦難の道を選ぶことになってもカリウスとの未来を望むのか、もしくは安穏とした未来のどちらを選ぶ?」
「わ、わたくしは……」
さすがに動揺したのか、わずかに彼女の呼吸が乱れたようだ。
「叶うならば、どんな苦難な道でも彼との未来を――カリウスと、ともに」
「それが偽りでないのなら、手を貸そう」
歩みを止め、フランソワーヌ嬢に向き合う。
「まず、貴女には『第二王子の婚約者』になってもらいたい」
フランソワーヌ嬢は大きく目を見開いたが、公爵令嬢の矜持として、彼女の微笑は全く崩れなかった。
「更に理不尽だと思えるかもしれないが、今後数年、王族の婚約者として相応しい振る舞いをお願いする――しかる後、第二王子の心変わりにより、この婚約はこちらから破棄させてもらう」
彼女の両手を握り、心なし距離を詰める。
傍から見れば、第二王子がご令嬢に大切な告白でもしているように見えるに違いない。
「王族からの婚約、そして、勝手な婚約破棄。貴女は同情されるだろうが、それでも令嬢としての評判は落ちてしまう」
フランソワーヌ嬢は年頃の令嬢としては致命的な瑕疵をかぶってしまう。
婚約破棄された女性には、よい結婚の話は来なくなる。だからこそ、そこに爵位が低くてもカリウスが漬け込む余地が出て来る。多少不自然な流れに見えようとも、王族がこんなバカげたことをしでかすとは思いもしないはずだ。
これこそが、真の狙い。
彼女もまた、その答えにたどり着いたようだった。
「でも殿下……なぜ、殿下がそこまで」
「なぜ、か。そうだな」
周囲で揺れる花をぐるりと見まわす。
汚い権力闘争や、差別などない穏やかな空間。
「罪滅ぼし、かもね」
「え、なんと?」
ポツリと呟いた言葉は小さすぎて、風にさらわれてフランソワーヌ嬢の耳には届かなかったようだ。戸惑いの表情で、こちらをうかがう彼女に、笑顔を返す。
「先ほどの花束。バラ、カスミソウ、ガーベラ。それらが何を意味しているか、わかる?」
「……あなたを愛しています。永遠の愛、そして希望」
「それらはカリウスからの偽りない気持ちだよ。この計画は大切な友人、いや、友人たちのため、って理由じゃ納得できないかな?」
フランソワーヌ嬢の瞳が潤んだのがわかった。
しかし、彼女は気丈にも大輪のバラにも負けない笑みを浮かべ、決意を秘めた表情でうなづいてくれた。
こうして、第二王子と公爵令嬢の婚約話が調った。
「こんにちは、フランソワーヌ嬢」
初の顔合わせとして、こちらの要望で王城の庭園のガゼボで当事者同士のお茶会を開かせてもらった。もちろん、側には侍女や護衛も控えている。彼女はきれいな微笑を浮かべているが、なぜかこの場にいるカリウスに戸惑っているのが見て取れた。
「今日は顔合わせの記念に、花束を用意させてもらった。ぜひ受け取ってほしい」
その言葉を合図に、カリウスが捧げ持っていた花束をフランソワーヌ嬢の前へと置いた。
「ありがとう、カリウス。これだけのために呼び出してすまなかった。戻ってていいぞ」
カリウスは丁寧に一礼し、その場を辞した。フランソワーヌ嬢は微動だにせず、花束を見つめていた。
「お茶の前に、よかったら一緒にバラ園を散策しませんか?」
「あ――はい」
夢から醒めたように顔を上げたフランソワーヌ嬢は、差し出された手を取った。しばらく歩いて、周囲に話が聞かれない場所へと誘導する。護衛も気を利かせて、距離を置いてくれている。
「今回の話が調わなかった場合、貴方にはまた新たな婚約者が用意されるだけ、と聞いた」
「その通りでございます」
「さて。一つ確認したいのだが、貴方とカリウスは想い合っている。間違いないね?」
「い、いえ、そのようなことは」
ゆったりと歩を勧めながら、フランソワーヌ嬢に言葉をかけると、彼女は慌てて否定の言葉を口にした。
「そのまま。微笑は絶やさずに聞いて。仲の良さを演出しててもらえるかな」
聡いと評判の公爵令嬢は、素直にその言葉に従ってくれた。微笑みは絶やさないながらも、その瞳は不安に揺れている。
「今のカリウスは侯爵家の次男。優秀な嫡男もいて、家を継げる可能性は低い。本人からは爵位を継げたとしても侯爵家の持つ子爵位くらい、だと。その点は知っているかな?」
「――はい」
「だから、貴女に本心が聞きたい。もちろん、不敬には問わない。苦難の道を選ぶことになってもカリウスとの未来を望むのか、もしくは安穏とした未来のどちらを選ぶ?」
「わ、わたくしは……」
さすがに動揺したのか、わずかに彼女の呼吸が乱れたようだ。
「叶うならば、どんな苦難な道でも彼との未来を――カリウスと、ともに」
「それが偽りでないのなら、手を貸そう」
歩みを止め、フランソワーヌ嬢に向き合う。
「まず、貴女には『第二王子の婚約者』になってもらいたい」
フランソワーヌ嬢は大きく目を見開いたが、公爵令嬢の矜持として、彼女の微笑は全く崩れなかった。
「更に理不尽だと思えるかもしれないが、今後数年、王族の婚約者として相応しい振る舞いをお願いする――しかる後、第二王子の心変わりにより、この婚約はこちらから破棄させてもらう」
彼女の両手を握り、心なし距離を詰める。
傍から見れば、第二王子がご令嬢に大切な告白でもしているように見えるに違いない。
「王族からの婚約、そして、勝手な婚約破棄。貴女は同情されるだろうが、それでも令嬢としての評判は落ちてしまう」
フランソワーヌ嬢は年頃の令嬢としては致命的な瑕疵をかぶってしまう。
婚約破棄された女性には、よい結婚の話は来なくなる。だからこそ、そこに爵位が低くてもカリウスが漬け込む余地が出て来る。多少不自然な流れに見えようとも、王族がこんなバカげたことをしでかすとは思いもしないはずだ。
これこそが、真の狙い。
彼女もまた、その答えにたどり着いたようだった。
「でも殿下……なぜ、殿下がそこまで」
「なぜ、か。そうだな」
周囲で揺れる花をぐるりと見まわす。
汚い権力闘争や、差別などない穏やかな空間。
「罪滅ぼし、かもね」
「え、なんと?」
ポツリと呟いた言葉は小さすぎて、風にさらわれてフランソワーヌ嬢の耳には届かなかったようだ。戸惑いの表情で、こちらをうかがう彼女に、笑顔を返す。
「先ほどの花束。バラ、カスミソウ、ガーベラ。それらが何を意味しているか、わかる?」
「……あなたを愛しています。永遠の愛、そして希望」
「それらはカリウスからの偽りない気持ちだよ。この計画は大切な友人、いや、友人たちのため、って理由じゃ納得できないかな?」
フランソワーヌ嬢の瞳が潤んだのがわかった。
しかし、彼女は気丈にも大輪のバラにも負けない笑みを浮かべ、決意を秘めた表情でうなづいてくれた。
こうして、第二王子と公爵令嬢の婚約話が調った。
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