異世界チェンジリング

ainsel

文字の大きさ
上 下
24 / 51
case of チェルシー

24.気にしたら負け

しおりを挟む
 それにしても、連日お姉さまと二人きり、個室でランチを取ろうなんて。
 いい度胸をしてるわね、リーファイ・ザグデン。
 不埒なことしたら、社会的に抹殺してやるわ。

 鼻息も荒く、今日も今日とてわたしは盗聴に余念はない。引き続き天気もいいので、昨日と同じ木陰で、お姉さま特製おにぎり弁当を広げていた。

『リーファイ様さえよろしければ、私が料理を作りに行きましょうか?』

 って、お姉さまあああぁぁぁ?!
 それ、我が家の、いや、貴族としてバレてはいけない事実ぅ!!

「ぶこふっ!!」

 飲みかけの味噌汁が器官に入った。
 激しく咽るわたしの背中を、フューリーが小さな手でさすってくれる。
 ありがたい、ありがたいが、あまり意味がない。



「こんばんは、ヤンさん」
「あれ、お嬢。子供は寝てないといけない時間ですよ?」

 夜遅く、お父さまを尋ねて来たヤンさんを玄関先で捕まえた。
 フューリーのおかげで、ヤンさんが公爵様からの私信を届けに来たことはわかってる。ついでに、その内容も。

「この前の、美味しいマグロのお礼を言いたくて」
「気に入っていただけたんなら、坊ちゃんも贈った甲斐があるというもんです」
「ねぇ、ヤンさん。リーファイ様は、お姉さまの事、どう思ってらっしゃるのかしら?」
「い、いきなりどうしたんです?」

 強面が、面食らったような表情を浮かべた。
 あら、そういうお顔だと、本当にお年相応に見えるのね。
 ヤンさんは割と表情豊かで読みやすい。

「もしかしたら、リーファイ様にお姉さまを取られちゃうかと思って……」
「ああ。そういうことですか」

 眉を下げ、うるうると瞳を潤ませて祈るように両手を合わせると、あきらかにホッとしたような顔をされた。ヤンさんがわたしの目線に合わせるように、ひざを落とした。

「坊なら、決して不誠実なことをすることはないですし、お嬢のことも蔑ろにはしません。このヤンが誓いますよ」

 でも、あの公爵様の血を引いてるから、もしかすると執着半端ねぇかも、と首をひねっているヤンさんの姿には、若干の不安を感じさせられた。

「ま、なるようになると思います。もう夜も遅い。おやすみなさい、お嬢」

 ぽん、と本当に何気なく、頭に大きな手を置かれ、わたしはぽかんとヤンさんを見上げていた。

「あ、こういうのって、貴族のお嬢にするのはダメでしたね?すんませんっ、えらく不調法なことしでかして!」
「待って!!」

 慌ててひっこめられた手を、わたしはとっさにつかんでいた。

「大丈夫よ。頭を撫でられるのなんてずいぶん久しぶりだから、びっくりしただけ」
「申し訳ない」
「そう思うなら、もう一回、ちゃんと撫でてくださる?」

 そう強請ると、今度は怖々と頭に手を置かれ、壊れ物を扱うかのように優しく撫でられた。大きくてあったかい手から伝わる体温に、なんだかひどく泣きたくなった。

「お嬢もまた、変わったご令嬢ですねぇ」
「ええ。いい、これは二人だけの秘密ね?」

 ニッコリと微笑みかけると、右ほおの引き連れた傷のせいでちょっぴりぎこちなく、ヤンさんも笑い返してくれた。
 ふくふくとした柔い自分のほっぺたが熱くなった気がするのは、気のせいだろう。



「チェルの好みって変わってるね」
「何ですって?!」

 ベッドに入ったところで、フューリーが目と鼻の先を浮遊しながらそう言った。

「ずいぶん年の差あると思わない?」

 十歳以上か――
 でも、精神年齢的にはわたしの方が上なのよね。

 内心、そんな想像をしてしまった自分を否定するように、慌てて頭を振った。

「わたしにはそんな資格ないもの」
「ふーん」 
「何よ、何が言いたいの?」
「べっつに~」

 フューリーは頭の後ろで手を組み、不満そうに鼻を鳴らした。

「自分から幸せを否定するのが滑稽でね。何のために新しい生をもらったのかなぁ、って思って」
「うるさいっ!!」

 思いっきり投げつけた枕は、するりとかわされた。

「はいはい。今日のとこは退散させてもらうね~」

 精霊とは物理法則を無視した存在。
 フューリーの姿がパッと消えて、その気配も部屋からなくなった。

「なによ……わかってるわよ、バカ」

 今の「わたし」はいろんな感情で雁字搦めだ。
 ずるくて卑怯で面倒で厄介、それが「わたし」。

 その日は、眠れぬ夜を過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...