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 第五章 ダイヤの瑕と生命の瑕  

Ⅰ 聞こえない声

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「こ、こんにちは……えっと……」
「こんにちは。お嬢さん(マドモアゼル)」
「探したわ。サンジェルマン」
「さんじぇるまん? 女の人だよ?」
「その名前は捨てたのですよ。ミリアム。そちらは罪の子。初めまして、以後お見知りおきを、アイリス」
「は、はじめまして……えっと、なんて呼んだら……」
「今はサンジュリアですわ」
「『聖ジュリア』語源をユリアとするのですね。今度はカエサルを謀ると?」
「ふふふ。さぁて。その存在なき今、翻弄するは誰ぞ?」
「興味がありません。それに私も今はマリアですよ。ユリア」
「思うままに」
「要件を伝えても?」
「それこそ、思うままに」
「虹の女神について」
「あら。それはまた興味深い議題で……」 

 ✾

「よんせんねんきょう?」
「えぇ。その異名の通り四千年生きたと言われる、四千年卿サンジェルマン。その人にあと24時間くらいで、時間軸が重なる刻が来るわ。ニゲル月57日ね」
「じ、じく……ニゲル……57日だから……えっと……うーん……」
「ふふ。アイリスはやっぱり花(か)月(げつ)が苦手ね」
「花月、むずかしいんだもん」
「しょうがないわ。私たち錬金術師にしか必要ないもの」
「どうして?」
「正確な時期を認識する必要がないの。錬金術師は、精製や占星術において日付、時間の経過が重要になってくるけれど。人は別。作物、気候、寒暖、乾潤、太陽、昼夜の長さ。それこそ花ね。それらで季節を見るの」
「うん」
「だから、その日、目覚めれば分かるのよ。例えば『今日はじっとりしているから、パンのお水を少し減らしましょ』っていう感じかしら」
「ふーん。こまらないの?」
「あなたもあまり困ってないでしょう? 生きていくにはそれで十分。いきすぎた願いを持たず、今を生きる者は足るを知るわ」
「そっかー」
「えぇ。でもね、真(しん)理(り)を望む私たちは理解しないといけないの。ニゲルはどんなお花か覚えてる?」
「うん。昔、クリスマスローズって言われてたやつだよね」
「えぇ。それを覚えているのなら1月から3月。といえば分かるわね」
「えっと、1ヶ月が30日」
「そうね」
「57日目だから、2月の17日目……? あれ?」
「ふふ。57から30を引くと?」
「あ。27だ」
「そうそう。だから?」
「2月の27日目。にしむくおさむらいさんは?」
「よくお勉強してるわね。偉いわ。ただそれはもう廃れた習慣。ひと月は平均して30日でいいの」
「ふーん。なら、ニゲル月57日は新年から57日目だ」
「えぇ。他の月は覚えてる?」
「えっと。一花月は、90日。はじめから言っていい? とちゅうからだとわかんない」
「えぇ」
「ニゲル、イリス、ヘリアンタス、カメリア」
「それぞれのお花は?」
「ニゲル。クリスマスローズ」
「正解」
「イリス。あやめ、しょうぶ、かきつばた。私の花月!」
「えぇ。そうね」
「ヘリアンタス。ひまわりの花月」
「太陽神の季節ね」
「カメリア。サザンカだね」
「えぇ。ひとつにして全。全にしてひとつ椿と混同されることも多かったわ」
「でもでも、みんなお花の名前は言わないよね」
「あえて説明するなら、例えば、アヤメ。ショウブ、カキツバタ。きちんと見れば見分けがつくけれど。そもそも見分ける必要もないのよ。この時代の人間は、細分化や分析を嫌う。それはつまり差別の始まりだから。ありのままにすべての人は同等で同一。そのように生きることを楽しんでいるのがトロイアル世界線における人々。それはまるで智恵の実を食べる前のイブのように、ただ楽園で生きるのよ」
「ううう……わかんない……」
「それでいいの。アイリス。たくさん勉強しましょうね」
「うううううー」
「ふふふ。ほらほらいいこいいこー」
『あたしもー』
「だめ! お母さんは私の!」
『ちがうー、あたしもいいこいいこしてー、ままー』
「あら」
「え」
『なにー』
「だ、だれぇ!?」
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