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第13章 晋作の婚姻

7 晋作と雅

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 利助が文之輔と運命的な出会いを果たしていたころ、高杉家では晋作と雅の婚礼の儀が執り行われていた。
 朝五つ時半(午前九時)に、晋作と小忠太、叔父の南杢之助が井上家を訪れて挨拶をし、続いて今度は井上家から、権之介とその弟の清兵衛が高杉家を訪ねて挨拶をした後に、両家の親類が三人ずつ加わり結納が交わされた。
 夕方ごろになると、花嫁の雅が権之介の妻である久に連れられて高杉家に登場し、夜になって晋作と雅の婚礼が執り行われた。
 やがて婚礼の儀が終わりを迎えると、晋作は新妻の雅と共に、居間にて初夜を過ごすこととなった。
「お、お初にお目にかかります。わ、私が井上平右衛門の次女、雅であります。至らぬところは多々ございますが、旦那様の妻にふさわしい女子になるべく精進致しますので、何卒、何卒よろしくお願い申し上げまする」
 初めての床入りで緊張していたのか、雅はつっかえつっかえになりながら晋作に自己紹介をすると、晋作は軽く笑いながら、
「お雅は大分緊張しちょるようじゃのう」
 と言って、
「わしが高杉小忠太の嫡男、高杉晋作じゃ。明倫館の書生で、まだ何のお役にも就いちょらんが、いずれは洞春公以来の名門高杉家の主となる男じゃ。よろしく頼む」
 と自己紹介すると、まじまじと雅の顔を見つめた。
「な、何でございましょうか? 何か私の顔についちょりますか?」
 晋作が何故自身の顔をじっと見ているのか、理解できない雅は驚き困惑している。
「やはり萩城下一の美人じゃと噂されちょるだけあって、大層な美人じゃのう、お雅。江戸の吉原や品川でも、お雅ほど美人にお目にかかったことは一度としてないっちゃ」
 昌平坂学問所に遊学していた折に、暇を見つけては吉原や品川の遊女と遊んでいたことを思い出しながら、晋作はうんうんと頷いている。
「私はそねー美人では御座いませんよ! この広い天下には私より美しい女子がようけおるけぇ、旦那様の買い被りであります!」
 晋作に褒められたことに動揺した雅は、顔を真っ赤にしながらそれを否定した。
「そうかそうか、おめぇは慎み深い女子じゃな。高杉家の女子たるもの、こねーでなくてはいけんな」
 雅が自身の褒め言葉を否定したことで、晋作は益々この新妻に感心している。
「わしはいずれ父の跡をついで高杉家の主となり、この家と高杉の血筋を守りぬかねばならぬ。おめぇは次期高杉家当主たるわしの子を産み、わしのことを、いんや高杉の家を支えられるだけの充分な器量をもった女子になってもらわねばならぬ。まだ高杉家に来たばかりで慣れぬことも多いじゃろうが、そこんところだけはくれぐれも忘れないでくれろ」
 晋作が雅に高杉家の女子たらねばならんことを教え諭すと、雅は畏まりながら、
「もちろんであります。少しでも早く旦那様の妻に、高杉の女子になれるよう努力いたしますけぇ、どうかどうかお見捨て無きよう、よろしくお願い申し上げまする」
 と改めて晋作の妻にふさわしい女子になることを誓った。
 
  
 
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