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第12章 師の最期

7 晋作、萩へ帰国す

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 安政六(一八五九)年十月。
 小忠太の意向を受けた藩の重役達の命令で、晋作は十七日の早朝に江戸へ出立して萩へ帰ることとなった。
 晋作は藩から萩への帰国命令が出されるとすぐにその事を寅次郎に知らせ、そして野口之布など学問所の学友達に別れの挨拶をした。
 出立日に近い十五日、萩へ帰るための荷造りをしていた晋作は途中手をとめて、十日ほど前に届いた寅次郎からの文を読み直していた。
「此度金弐圓御届け下され、御厚配御察し申し上げ候……」
 寅次郎からの文の冒頭部分には、これまでずっと牢名主達に渡すための金子を届け続けてくれたことのお礼や、七月以降に行われた尋問で奉行達に大したことを聞かれることもなく穏やかに終わったこと、晋作の萩への帰国が急に決まったことを残念に思う内容などが記されていた。
「小生落着未だ知るべからず。然れども多分又ヶ帰国ならんと人々申し候。然らば老兄へ一事御相談申したき事あり。右に付き小生身上落着までは、老兄御再遊御見合せ下さるべく候。帰国出来候はば国にて拝面すべし。若しまた他家預に共相成り候はば、老兄などへご相談申す事之無く候。追放になれば大いに妙策あり。遠島なれば小林・鮎沢等の事周旋仕たる人あり、その手継ぎあれば苦心に及ばず。万一首を取られ候はば、天下好男児亦妙たり……」
 一時は死を覚悟していた寅次郎であったが、その後の尋問が穏やかに終わったためか、すっかり気を緩めており、また萩に帰る日が来ることも夢ではないとまで思うようになっていた。
 自身の将来を楽視視した内容の文を読んだ晋作もうれしい気持ちになって、
「江戸で先生とこねーにして文のやり取りができなくなるんはまっこと残念じゃが、とりあえず先生が斬首にならずに済みそうでよかった。それにこの文を読む限りでは、先生が萩に帰国することも夢ではないやもしれん。もし先生が萩に戻ってきよったら、また村塾で先生の講義を受けたり討論したりしたいものじゃのう……」
 と思わず独り言を呟いてしまった。
「さてあともう一息で荷造りも終わるけぇ、早う終わらせて寝るとしようかのう。しかし江戸に来てからのこの一年は、長いようでまっこと短い一年であった……」
 どこか寂しげな表情をしながら晋作は荷造りを再開する。


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