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第8章 江戸へ
9 晋作、江戸へ遊学す
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周布との会見を終えた数日後、晋作の江戸遊学は藩により正式に認められ、その報告をすべく晋作は松下村塾の塾舎にいる寅次郎を訪ねた。
「先生が周布様にわしを紹介してくれたお陰で江戸へ遊学する望みが叶いました! 先生には何とお礼を申し上げたらええでしょうかのう!」
晋作は江戸遊学が正式に決まってうれしさ一杯であった。
「私にお礼などする必要はありませんよ、高杉君。前にもゆうたと思うが、私はあくまできっかけを与えたにすぎません。周布様を説諭して江戸遊学を成し遂げたのは、ひとえに君自身の力によるものです」
寅次郎は素っ気ない態度を装おうとしたがうれしい気持ちを隠しきることができず、
「じゃけぇ君には今ここで久坂君と同じように祝いの言葉を贈りたいと思うちょる! 江戸へ行く前にしっかりと心に刻みんさい!」
と言って祝いの言葉を述べ始める。
「君がかつて我が村塾に入塾してきたとき、私は常に久坂君と君を比較してきました。それは君が久坂君と比べられることにより、一念発起して学問にも真剣に取り組むようになって欲しかったからであります。そして私の望んだとおり、君は学問にも真面目に取り組むようになり、いつしか久坂君と肩を並べるまでに成長しました。このまま君の識がどんどん進んでゆけば、ゆくゆくは私以上の傑物となるじゃろう」
寅次郎の祝いの言葉はまだ続く。
「今幕府が勅に違って条約を結び、天下の勢いはかつて無いほどに変動しているのであります。我が藩も幕府から畿内の地に属する兵庫を警衛するよう命じられ、そして慶親公とご家老の益田様が将軍の謀を良しとせず、幕府に書を奉ってこれを諌めようとしちょります。このご時世において君が為すべきことは、江戸へ遊学して様々な見識を学ぶことであります。久坂君の才と君の識があればどねーなことだって成し遂げられるのであります」
寅次郎の祝いの言葉の締めに入った。
「江戸へ行きんさい、高杉君。江戸には久坂君はもちろん、栄太郎や亀太郎、桂君もおるけぇ、供に切磋琢磨してその識を磨き、ゆくゆくはこの神州の盾となる志士となりんさい。私の言いたいことは以上じゃ」
寅次郎が祝いの言葉を述べ終えると、晋作は何かを決心したような表情で力強く頷くのであった。
この二日後、晋作は山県半蔵や村塾の門下生の一人である斎藤栄三らと供に萩を出立し、混迷する江戸へと旅立っていった。
「先生が周布様にわしを紹介してくれたお陰で江戸へ遊学する望みが叶いました! 先生には何とお礼を申し上げたらええでしょうかのう!」
晋作は江戸遊学が正式に決まってうれしさ一杯であった。
「私にお礼などする必要はありませんよ、高杉君。前にもゆうたと思うが、私はあくまできっかけを与えたにすぎません。周布様を説諭して江戸遊学を成し遂げたのは、ひとえに君自身の力によるものです」
寅次郎は素っ気ない態度を装おうとしたがうれしい気持ちを隠しきることができず、
「じゃけぇ君には今ここで久坂君と同じように祝いの言葉を贈りたいと思うちょる! 江戸へ行く前にしっかりと心に刻みんさい!」
と言って祝いの言葉を述べ始める。
「君がかつて我が村塾に入塾してきたとき、私は常に久坂君と君を比較してきました。それは君が久坂君と比べられることにより、一念発起して学問にも真剣に取り組むようになって欲しかったからであります。そして私の望んだとおり、君は学問にも真面目に取り組むようになり、いつしか久坂君と肩を並べるまでに成長しました。このまま君の識がどんどん進んでゆけば、ゆくゆくは私以上の傑物となるじゃろう」
寅次郎の祝いの言葉はまだ続く。
「今幕府が勅に違って条約を結び、天下の勢いはかつて無いほどに変動しているのであります。我が藩も幕府から畿内の地に属する兵庫を警衛するよう命じられ、そして慶親公とご家老の益田様が将軍の謀を良しとせず、幕府に書を奉ってこれを諌めようとしちょります。このご時世において君が為すべきことは、江戸へ遊学して様々な見識を学ぶことであります。久坂君の才と君の識があればどねーなことだって成し遂げられるのであります」
寅次郎の祝いの言葉の締めに入った。
「江戸へ行きんさい、高杉君。江戸には久坂君はもちろん、栄太郎や亀太郎、桂君もおるけぇ、供に切磋琢磨してその識を磨き、ゆくゆくはこの神州の盾となる志士となりんさい。私の言いたいことは以上じゃ」
寅次郎が祝いの言葉を述べ終えると、晋作は何かを決心したような表情で力強く頷くのであった。
この二日後、晋作は山県半蔵や村塾の門下生の一人である斎藤栄三らと供に萩を出立し、混迷する江戸へと旅立っていった。
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