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第2章 黒船来航

10 黒船襲来後の明倫館

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  ペリーが浦賀沖を去って数か月後、萩でも黒船来航について取り沙汰されるようになり、晋作が通う明倫館でも若い子弟達が盛んに黒船やペリーのことを話題として取り上げていた。
「わしの聞いた話ではぺルリは身の丈七尺以上もある熊みたいな大男のようじゃ!」
 明倫館の手習所にて、作間門十郎が晋作を含む他の子弟達を相手に興奮しながら語った。この手習所では、晋作の他多くの子弟が在籍して四書五経を日々学んでいた。
「それにぺルリは肌が白く、鼻も天狗のように長いと耳にしておる!」
 門十郎は得意げに言うと手に持っていたペルリの似顔絵をひらひらさせ、晋作含む他の子弟達はそれを感心した様子で眺めている。
「それは誠なのか? もしペルリがそねーな化け物なら、幕府は如何にしてこれを成敗したのじゃ?」
 門十郎の話を聞いていた子弟の一人である唐沢栄三郎が興味津々に尋ねた。
「いんや、幕府はペルリの圧力に屈して国書を受け取ったと江戸におる父上からの文に記されちょった! どうやらペルリは千石船よりもはるかに大きい船を何艘も率いて江戸にやってきたみたいなんじゃ!」
 門十郎はますます興奮した様子で栄三郎の質問に答える。
「幕府の役人は存外腰抜けじゃの。異人なぞ叩き斬ってやればよかったのじゃ!」
 栄三郎同様、門十郎の話を聞いていた子弟の深津新九郎が憤慨した様子で言うと続けて、
「お前もそう思うじゃろう? 高杉」
 と言って隣にいる晋作に話を振った。
「ん? ああ! 深津のゆうちょる通りじゃのう」
 突然話を振られたためか、驚いた様子で晋作が言う。
「その様子じゃと今の話をちゃんと聞いちょらんかったな! 全くお前は武術のことしか頭にないんか?」 
 新九郎は呆れた様子で晋作に言った。
「いんや、別にそねーな訳ではないっちゃ。わしも今回の黒船騒ぎには非常に興味をそそられちょる。できることなら直接江戸に行って黒船やペルリを見てみたいくらいじゃ!」
 晋作は新九郎に対し半ばムキになって反論する。
「それはすまんかった。てっきし今回の黒船騒ぎには関心ないものと誤解しちょった」
 新九郎は慌てて晋作に謝ると続けて、
「じゃが江戸に行くには藩からのお許しがでないことにはどうにもならんちゃ。こねーな時に萩から動く術がないのはまっこと悔しいのう」
 と言って肩を落とし落胆すると、晋作や門十郎、栄三郎などの子弟達もそれに同調して一気に熱が冷めた。


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