幕末群狼伝~時代を駆け抜けた若き長州侍たち

KASPIAN

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第2章 黒船来航

1 異国に思いを馳せる少年

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 年が明けて、嘉永六(一八五三)年。
 晋作は秀三郎と呉服町の茶屋の縁台で団子を食べていた。
 呉服町は萩の中で最もにぎやかな商業町で、多くの商店が立ち並び、日々商人達の活気で溢れてかえっていた。
 またこの町は萩城内の侍たちの需要も日々満たしていた関係上、晋作や秀三郎もよくこの町に足を運んでは筆や硯などを購入したり、茶屋で一服したりしていた。
「知っちょるか? 晋作!」
 秀三郎は目を輝かせながら言った。
「清よりもさらにずっと西にあるエゲレスという国には、風がなくても石炭を燃やして動く蒸気船や、蒸気船同様石炭を動力に一日に何十里も陸の上を移動できる鉄の乗り物があるみたいなんじゃ!」
 秀三郎は未知の世界に思いを馳せ、わくわく興奮しながら晋作に語る。兄の玄機に勧められて『海国兵談』を読んで以来、秀三郎はすっかり海外に関する書物の虜となっていた。
「ああ、知っちょるよ」
 何か他に考え事でもしていたのか、晋作はうわの空な様子で団子を食べながら答えた。
「その話を聞くんはこれで五度目じゃからな」
「おお、そうじゃったか! ならエゲレス人は肌が白く熊みたいに大きくて、何か血のように赤い飲み物を飲むことを好んで、全身鴉のような黒い服を身にまとって……」
 秀三郎はその後もエゲレスについて晋作に熱く語るも、当の晋作は心ここにあらずな様子でいた。
「わしの話を聞いちょるのか? 晋作!」
 相変わらずうわの空な様子の晋作に対して秀三郎は憤慨している。
「最近話しかけてもうわの空なことが多いが何かあったんか?」
「ああ。わしの家に次生まれてくる子が男か女かが気になって気になって仕方がなくてのう」
 晋作はどこか気の抜けたような感じで秀三郎の質問に答えた。
「そうじゃった、すっかり忘れておった……確か近日中に生まれる予定じゃったな?」 
 エゲレスの熱からすっかり冷めた秀三郎は、以前晋作から新しく生まれてくる子について聞いていたのを思い出し、申し訳なさそうにしている。
「そうじゃ。母上が屋敷から離れた母屋に入ってもう二週間ばかり経つけぇ、もうそろそろのはずじゃ」
 晋作は期待と不安が入り混じったような様子で答えた。
「もし生まれてくるなら弟がええのう! もう妹は二人おるからな」
「全くじゃ、晋作の家は男兄弟がおらんからのう。それに下に弟ができれば将来剣術の稽古相手にもなるけぇいろいろ重宝するじゃろ」
 秀三郎がお茶をすすりながら言う。
「まあ何がともあれ無事生まれてくることが一番なんじゃけどな!」
 晋作は微笑みながら言うと、串に残っていた団子を食べつくして一気にお茶を飲み干した。

 
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